兎丼
「黒炭。暫しの間、綾小路・
「分かりやした!」
黒炭の名前の改名。
小娘の本名は黒炭・
黒炭家の末裔であるオロチと同じ姓を持つ。名は花菱。元々(はなびし)と呼ばれるもので唐花に部類される。奈良時代に中国地方から伝わって来たもので、平安時代には公家の調度品の紋章として好まれた。
黒炭の姓を持つ花菱は、今後のストーリー展開において重要な存在になる可能性が高いため今暫くの間は、『綾小路・茶々良』と名乗らせることにする。茶々良の意味は特にないが、『茶々』は豊臣秀吉の妻、浅井三姉妹の長女の名から来ている。根気の強い三女の
「それとオレも後で姓を変える。その時は茶々良にも同じく変えてもらう」
多々良も姓を変える予定だ。
綾小路の末裔であるためそこまで変える必要はないのだが、後々のワノ国騒動で上手い具合に世界政府にはミスリードしてもらわなければならない。多々良という名のブランドを高めるためにも変えることは必須だろう。それに、多々良がこれからやることによりある人が敵に回る。その布石としても姓の変更は得策といえよう。
「分かったやす!」
元気な返事。
子供特有のハキハキとした声で返す。多々良の悪い笑みを浮かべるのではなく、元気いっぱいの笑みだ。
「いい返事だ。それとここでの用事が済んだらとっととこの国から出るからな」
「…………外の国でやすか?」
「ああ。この地は後数日でオロチの国へ化すからな」
ワノ国は鎖国国家であるため外に出ることは御法度だ。そのため外の世界を知る者自体が少ないため、世代を重なることで茶々良のように外の世界を知らない者が出てくる。
だが、ここで多々良は違和感を覚える。何故今、直ぐに反応しなかったのか。見聞色の覇気でも同様に感じ取れた。一見疑問を浮かべている小娘なのだが、普段からの印象により即答しない茶々良に警戒が生まれる。まだ会ってから2日しか経っていないため全ての一面を見ることはできないが、今の反応は少し気になった。まるで、外の世界を知っており、ついこの前まで、ワノ国にいなかったような雰囲気。確証はないのだが、何故初対面の相手に黒炭と名乗っていたのか少々疑問に残る。これらの観点において、覇気の才能についても訳ありと考えた方が無難であろう。
「茶々良は嘘つかないタチか?」
「つかないやす。嘘は泥棒の始まりやす」
一生懸命否定する茶々良。目は真剣そのもので、多々良の視線を直視する。何かを訴えていそうな趣きだ。
「そうか。別に嘘をついても咎めたりはせんよ。オレはよく嘘をつくからな。相手が信用できないなら尚更だ。嘘は好きな時に自由につくもんだ。そんで自分の立ち位置を明確にできればラッキーってな」
嘘は泥棒の始まりというが、この世の平和とは嘘から始まるもの。戦争をする上で最も重要になって来るものは相手にどれだけ欺瞞情報を送れるか。嘘で翻弄し相手の組織内に混乱を生み出せば、自ずと内部から崩壊する。仮にそうならなくても疑心暗鬼になり、統率が取れてなければ報復する者も出現するだろう。その結果士気が下がり戦争は有利になる。だが、どんな戦争でも必ず終わるものだ。停戦というものがある。これは両国の協議の上で決定する、一時的な平和である。互いの嘘とエゴがぶつかり戦略的に平和になった、いわば戦争の準備期間。コミーの跳梁跋扈が偶然一致した、嘘を嘘で貫き通した結果と言えるもの。
つまり何が言いたいのか。世の中は嘘で溢れている。自らがこの世界を自由に生き謳歌するならば嘘は必須項目であり、友達や家族を守るにしても嘘で作られた偽りの信頼を勝ち取る必要がある。多々良はこの世界に来る以前から日常的に嘘を使う人間。その方が物事を簡潔に合理的に進めることができる。過程よりも結果。結果的に自分が勝っていれば、自ずと自由に謳歌する権限が手に入る。人の不幸を踏み台に自分が幸せなひと時を過ごせることは、この上ない美味なもの。嘘とは自分が物事に対して、楽するための道具なのだ。
「茶々良も嘘をつけ。オレにガンガンつけ」
「…でも」
「気にするな。だが、それで納得しないならルールを決めよう」
「ルール?」
「そうルール。オレと茶々良の間に設ける決まり事だ。
『1、互いの詮索を禁止とする。』
『2、互いに決して裏切らない。』
『3、報連相を守ること。』
『4、親子の関係であること。』
以上がオレ達のルールだ」
ルールの内容は至極単純。
お互いに味方であること。もっとルールを提示しても良いのだが、絶対に守らなければならない四原則の方が、効果
「詮索を禁止?」
「そうだ。オレと茶々良の過去を互いに訊かないことだ。茶々良も何かしらの訳ありがあると思うが、オレにも他人に知られたくない過去がある。これが1つ目のルールだ」
「分かりやした」
1、互いの詮索をしない。
これは小娘の過去について大きい。最初の自己紹介の時、黒炭と名乗ると同時に、覇気の扱いにも不自然ながら慣れていた節があった。当初は才能という大まかな形として捉えていたが、見れば見るうちにその扱いは不気味なものとなった。無意識に使う分には良いのだが、道中走る際、足に覇気を集中し効率よく足を運んでいた。これは覇気としての知識がないとできないもので、才能で片付けることができない。
次に不自然なほどに上品な着物を着ていたことだろうか。南天模様はこの際置いといて、下地の良いその着物は地に堕ちた黒炭家が着れるものではない。それに花の都へ向かう道中、茶々良は自分で帯を結んでいた。基本2人でやるのを1人でやるあたり上手い人だなと思うが、結び方のレベルが想像を超えていた。半幅帯でやるのは略式として分かるのだが、帯枕を使わないお太鼓は手慣れており、名古屋まで行かずとも完成度が高いそれは、子供という枠を超えていた。まるで大人が子供の姿を借りた妖怪のようなもの。子供でも飲み込みが早い天才でも片付けられることが、ギリギリないことはないのだから、多々良にとって異様なものとさせていた。
他にも数多の理由があるが省くとしよう。
「裏切りやすか?」
「オレ達は味方同士だ。互いに傷つけ合うことはせず、当然殺し合いも禁止だ。これは先程の詮索よりも重要なことだ。これは絶対厳守のルールとして心に刻んでおけ」
「……!?」
「物理的に刺すんじゃねぇからな。冗談はそれぐらいにしとけ」
2、互いに決して裏切らない。
これは互いに敵対しないこと。仮に敵対したとしても互いに不利益が発生しないことを指す。茶々良は黒炭の末裔であるため、場合によって敵対する可能性が出てくる。今後の予定としてはオロチ側に寄りつつも、オロチ陣営が有利に働くことはしない。多々良はゆくゆくは第三の戦力として君臨するつもりであり、親交を深めつつも裏では暗躍するというスタンスを取るつもり。故に茶々良がオロチ側についた際、多々良と敵対関係になるため、それを避けるためにも今回のルールに提示する。
だが前文はただの前置きで本音ではない。裏切り、つまりは多々良をターゲットにしたスパイ或いは暗殺者。これが主な理由である。今のワノ国は光月おでんや赤鞘九人男がいるとはいえ、疲弊しカイドウに負けた戦争犯罪人。オロチの国乗っ取りが順調に進行し、百獣海賊団という強力なバックをつけた状態。この混乱している隙をついて、世界政府がのそのそと暗躍しないわけがない。既にワノ国の市民としても紛れ込ませた子供の諜報人ないし、子供の姿を借りた諜報人が茶々良にあたり、接触をスムーズにするために黒炭という姓を名乗ったのでないだろうか。世界政府なら多々良のことを策士として考えている節があるため、このような回りくどい方法をやりかねないため油断ができない。
「報連相?」
「報告、連絡、相談の略だ。情報を共有し、時には分からないことをオレに訊く。自分で永遠に悩むのではなく、一度頼るという選択肢を身につけることも、大人の階段を登る上で重要なことだ」
「分かりやした!」
3、報連相。報告、連絡、相談のことで社会人の基本だ。自分のするべきことの進捗状況を伝えたり、物事に対しての情報共有、自分だけでは判断に迷ったり解決できなかったりした場合には相談しアドバイスを貰う、といった集団行動をする上での決まりごと。これをルールとして厳格化する主な理由は上記の裏切り同様に、情報の欺瞞化を防ぐことが狙いだ。自分が入手した情報のすり合わせをしたり、情報の精度を飛躍するための調査を円滑に進める、いわば作戦を立案実行するための司令塔を簡略化しコミュニティを1つ作成する。2人とはいえ、情報の精度としては間違いなく伝達することができ、欺瞞であったとしても直ぐに対応できるようにする。
「もう、親子でやすが?」
「これは確認だ。互い詮索しない上でのルールを明確化、視覚化するための条件文のようなもの。現に茶々良はオレの娘なんだから、気にするな」
「はいやす!」
4、親子であること。
これは悪魔でも親子の関係である間、上記を守ることで暗躍してもいいというもの。嘘はこの世界を生き抜く上で必要不可欠であるが、身分というものは簡単に偽るのが難しい。故に手っ取り早い方法は血の繋がった家族としての設定。茶々良の元の姓である黒炭は問題があるため、偽名ついでに家族としてのは関係を深めても良いと思う。これは損得勘定のものではなく、単純にその方が多々良にとって良い方向に働くことで、娘を守るという大義名分を今後掲げることが可能となるからだ。
恋人関係も面白いと最初は思っていたのだが、流石に見た目上の都合により却下。ロリコンは受け入れるがロリコンというレッテルを貼られるのは多々良にとっても御免被りたい。それにルールとして明言する事で、余計な真似をされるリスク減らす効果もある。仮にスパイや暗殺者であることも考慮し、親子という名の手綱を結んでおくのも悪くない。
「何か質問あるか?」
「ないやす!」
「そうか。何かあったら好きに訊いてくれ」
大きな返事をあげ、分かったと意思表示を浮かべる茶々良。ルールを明確化し、嘘が自由になった今、どこか清々しいように見える。つい先程まで嘘を使うことに慣れ、多々良と接触してから極力本来の自分を隠し続けているような思わせぶりを見る限り、表裏があるのは確かであろう。
「今後も改めてよろしくやす!」
「ああ、よろしく」
再度挨拶をまじ交わす。茶々良のその浮かべる笑みは当初会った時のと違い、大人な雰囲気があった。無邪気さは未だにありながらも、事の考え方は大人のもの。多々良にとってはロリコンを満喫できないことに少しショックを受ける。少し落ち込む多々良を見て茶々良は微笑み、悪巧みが成功したような悪ガキの風潮があった。
だが、少し疑問が残る。何故よりによって接触する相手が多々良なのか。それだけがお蔵入り。
「私は黒炭花菱。私の高祖父は綾小路◇◇でやす」
また、ダラダラと書いてしまった。説明文長いな。夢中に書いて4500字。早くカイドウと戦いてー!次回、花の都!黒炭の小娘の名前決まったし、どんどん話を進めましょう。