――パーン!
漆黒の弾丸。
通常の弾とは違い、表面が禍々しいオーラによりコーティングされている。
その正体は覇気。
意志の力で誰にでも備わり秘めている力。
武装色の覇気。
見えない鎧を身に纏う感覚に近く、武器にも同じく纏わせることができる。3つの覇気の中で汎用性高く、使いこなすことで戦況を大きく変えることが可能。
そんな不可思議な力により覆われているその弾丸は通常とは違い、格段に威力や貫通力、耐久値が上昇している。当たったら間違いなく即死レベル。覇気を纏っていたとしても最悪、死。運が良くても気絶は免れないだろう。
「相変わらずだよい」
朝練をあらかた終わらせ、相棒の調子を確認するために試し射ちをしていると、後ろからパイナップル顔をした、マルコが溜息交じりに話しかけてくる。その表情はどこ疲れたような、諦めきったかのような苦労人を感じさせる。
「マルコか。おはよう。オメェも朝早いなぁ」
――パーン!
多々良はマルコを視認すると、また弾をリロードし、試し射ちを再開する。マルコはその行動を見て面倒だなと思ってしまう。あからさまに距離を開けられ、適度なやりとりで済まされているこの現状に。
多々良にとってマルコはただの隣人であり、極力自分から関わろうとはしない。嫌いというわけではなく、今は友好よりも敵対した方が今後の布石に成り得る可能性があるからだ。明確性ではなく主に曖昧な関係を。
今は大航海時代より少し前。
世界の海がまだ静けさに包まれ夜明けの朝の段階。ここで友好関係を築いた場合、白ひげ海賊団との交流が活発になってしまう。その結果敵対することが難しく穏便に物事を進めなくなる。
だが、裏切った時のこちらのメリットが大きいのは事実。ニューゲートは今は最強であるが、老いには勝てない。白ひげ海賊団の戦力として柱的存在になり有れば、抜けた時の反動は計り知れない。原作では、ティーチ、サッチ、エース、ニューゲートと言ったトップや柱軸がいなくなるのだ。精神的ダメージは免れない。白ひげ海賊団とはこの世界に君臨する皇帝にはなり得るが、世界を混乱へと導く起爆剤にもなり得る。上手く扱うことで膨大な利益を齎らすと1人多々良は腹の中で考えていた。
「おはよい。多々良」
「オメェも大変だな。朝の修行か?」
「チゲェよい。親父からお前の教育係を頼まれているから…って、知ってるだろうよい」
「オレは息子になった覚えはないが?」
「船に乗る、イコール、息子だとよい。といってもいつものことだがなぁ」――はぁ〜
「大変だね。ニューゲートの悪いとこか?」
「そこは良いところって…否定はできないよい」
「まぁ別にいいが。一瞬とはいえお世話になる身だ。少しの我が儘くらい受けてやろう」
「助かるよい」
多々良とマルコは極稀にこのような交流をしたりする。利益のためではなく、自分のコミュニティのために。繋がりすぎるのも良くないとは自覚はしているが、有事あった際組織よりも個人の方が面倒ごとを回避しやすい。それらを考慮して軽い日常会話だが、話しのキャッチボールは船に乗った時から続いしている。
だが、話すのはマルコだけに留めている。基本多々良はこの船に乗船した時から無口キャラを演出している。無駄な会話は一方的に切ることもしばしばあり、それ見た他の船員から冷たい奴と認識されている。人と関わろうとしない奴が抜けた時、誰にも覚えられることはないに等しい。人の脳は印象ある無しで記憶の変化に違いが生じることが研究で判明している。人はコミュニケーションを取る生き物だ。それに反する者には興味がなくなり、それ以上に関わろうとはしない。所詮人間の脳は嫌なことは忘れようとし、嬉しかったことは保存して今後の活力という都合の良いメモリに過ぎない。
「それにしてももう5年かよい」
マルコが呟く。
5年とは多々良が乗船している期間を表す。本来の目的はシャボンディ諸島までの予定だったのだが、ニューゲートはそこへ行かず、
行き先を尋ねなかった多々良にも非があり、当然それを渋々受け入れ従う他なかった。
だが、ニューゲートを責めるつもりは毛頭ない。多々良は元々暇を持て余し、適当に猛者が集まるであろうシャボンディ諸島を行き先に決めていただけであって、行き先は違えど未来の世界最強の船に乗るということは、今後の布石になる可能性がある。極力避けたいというのが、多々良の行動マニュアルではあるが、大航海時代手前の少しの期間なら問題ない。直前であった場合、他の勢力から何やら勘付かれそうであるが、今はその時ではない。現に今はマルコとニューゲートとしか交流がなく、ぼっちキャラという船の中でカースト最下位に位置している。
「あぁ。もうそれくらいか。何だかんだあって色々世話になったな」
「いいよい。多々良がいたおかげで若い衆が死なずに済んだ。ありがとうよい」
「ただ敵を殺したに過ぎん。守るつもりは毛頭なかったぞ」
「それでもだ。お礼をさせてくれよい。それに親父も喜んでる。多々良は立派なこの船の一員だ」
「息子になったつもりはねぇがな。ニューゲートにも言っておいてくれ」
「善処するよい。まぁ期待はしないでくれ」
「分かってるさ」
多々良は船に乗っている間、四六時中修行をしていたわけではない。白ひげ海賊団が敵船に襲撃された時、後方支援として味方のサポートをしていた。主に足を撃ち抜き、そこを味方が叩くという戦法で。景気がてらにヘッドショットをかましたりしたが、大方味方の船員に花を持たせるために、攻撃サポートに留めておいた。これがゲームならアシストポイントを大量にゲットしているだろう。
「んじゃまたな」
そう言い、マルコは朝の見回りのために船の中に戻って行く。日々のルーティンにかしたこのやりとりを終え。
「――マルコ!」
それを止める。突然、呼ばれたことに驚いたマルコはどうしたものかと、振り返り多々良の様子を伺う。普段の穏やかな多々良とは違い真剣な表情をしていたために耳を傾ける。
「ニューゲートに後で行くと伝えてくれ」
「――降りるのか?」
「あぁ」
「そうかよい」
そう言いマルコは今度こそこの場から立ち去る。肩の荷が下りたかのような面影を残していたが、どこか寂しそうな複雑な気持ちがその背中から感じられた。
「さて、行くか」
決断。
そろそろ決断しなければならない。修行していたとはいえ、5年も浪費してしまった。確かに
幹部よりも古参。
多々良は幹部という地位にはあまり興味を示さないが、古参というものには惹かれる。これは嘗てゲームプレイヤーだったことに影響されていることで、新規で強いプレイヤーよりも、弱いが経験でカバーできるプレイヤーを好むという理由に由来する。なんぼ強くても、経験値という時間の強さを蓄えた古参は今後の展開に大きく響き、最強だけを取り柄にする者には負けないポテンシャルが秘められている。個々の強さよりも協力の強さを重視する。パーティープレーの基本だ。
多々良がこれからやること。
それは『特になし』だ。最終目標まで計画は粗方進めていくつもりだが、それに関する過程はかなり大雑把である。だが行き当たりばったりというわけではなく、どのようなルートで行けば、自分の利益に繋がるかを考慮して、実行に移している。
「懸賞金を上げるか」
多々良は飢えている。
この世界に来てからそこまで活発に動いていないため、承認欲求を得たい多々良はこれから表舞台で暴れたいと意気込んでいる。懸賞金を上げ目立ちたいと。
だが、理性で本能を止めようとする。今動いた場合、今までの作戦に御破算を招く恐れがあるため、無闇に暴れることが許されない。それに何故この船に5年もの長い期間乗っていたのか。それは噂を流すのにちょうど良い機関であったからだ。あまり目立つ行動は自分の首を絞めるだけだが、白ひげ海賊団というピースメインを重きに置いている海賊団ならば、その噂を第三者を通して安全に流すことができると考えたからだ。
市民に流した場合、信用という観点から世界政府の耳に直結しやすい。それよりもだったら横流しがしやすい海賊の方が欺瞞を含めて伝わりやすいと考えたからだ。嘘が混じれば真実に、 真実を問いただせば嘘にもなり得る。情報戦というビジョンのおいて、噂とは有効価値が極めて高く、収束が難しい厄介な伝染病になり変われる。
他にも様々な理由で白ひげ海賊団に身を置いていたが、そろそろ潮時だろう。別れの挨拶のため、ニューゲートの自室へ足を運ぶ。