酔い冷め始めた青龍の姿に化した百獣のカイドウ。優雅な鱗が夜空の星々に応えるように反射し幻想的模様を浮かばせる。蛇のような長い胴体に黒紫のギザギザとした鋭いオーラが胴体から尻尾にかけて包み込むように伸びて行く。
武装色の覇気。
覇気の基礎とも言える肉体能力の向上は世界屈指レベルで、持ち前の強靭な肉体と何でも屈しない不屈の精神力も合わせ、通常の生半可な攻撃では傷すらつかない。全ての筋肉が発達しそれを支えるための骨や神経器官も丈夫であり、勿論のこと関節を狙った攻撃も無意味。筋肉を守るための皮膚は丈夫でしなやかであるため、柔軟な対応を可能としている。
青龍は脅威。
頭部から尻尾までを埋め尽くす分厚い鱗はそこらの武器では歯が立たない。武装色の覇気で纏っていたとしても、練度の差で圧倒的に上回り、ダメージを与えないどころか攻撃に使用した武器にヒビが入り最悪砕け散るだろう。
だが、つい先日ダメージを与えた者がいた。鱗のない腹を二本の銘刀で十字に袈裟斬り。流れる太い覇気を纏った『
天をも切り落とし、地獄の底まで切り伏せる、豊穣への貢物は
とはいえ、斬られたとは言っても部位の中でも肉質の柔らかな部分。痛むが戦闘に支障はないためカイドウは気にしない。それにこれも憎くはあるが思い出の1つとして数えられるだろう。一々こんなことで気にするよな器の小さい男ではないのだ。
「さて、殺し合いを始めるとしよう」
先程まで穏やかな覇気の流れが急速的に活発的になる。血管の一つ一つが加速しそれについていくように心臓の鼓動も上昇して行く。そこに覇王色の覇気、王の血筋に類似したオーラが血管や神経細胞、消化器官を鋼でコーティングするように包み込み、次第に極度に上がった心拍数にも慣れ始める。血管の急速化が進むことにより熱気が上がりそれを冷やすための水分が徐々にのちに滝のように湧き出す。
武装色の覇気を全体に纏わせる。最初からやっていたことだが、再度覆うことで何層もの厚さを生むことに成功する。下にいる銃使いは10層以上にコーティングされており、質では負ける可能性があるが、長期戦にもつれ込んだ時こちらが有利になるであろう。相手はたかが人間だ。そのためカイドウの足元に敵わない。これは、何も侮っているわけではない。カイドウは勘でそう思っているからである。
――ゴゴゴゴ
口を開き全身に広がるのエネルギー体を収束させる。赤紫色に輝いていた鱗から色が抜け、背中の脊髄に当たる部分を通るように、身体の隅々から紫色をした影が頭部めがけて蠢く。それに伴い濃密な覇気――覇王色のオーラが口の中に順調に蓄積される高熱の球体を包み込むように覆われて行く。
――ロックオン
狙いを定める。
敵はキングと共にいる銃使い。新世界の海で充分に通用するであろう力を苦手な見聞色からもビンビンと感じ取れる。それだけに武装色に長けているのであろう。身体の筋肉構成は非力ではあるが、雰囲気からして数多の苦難の道を歩んでいることが分かる。前の船での経験則を元にした勘ではあるが船長が言うには、オメェの考えは毎回筋が通っているという。なら、それに従うまでであろう。
銃使いから武装色や見聞色の他に覇王色の覇気を感じことができる。直接殺気や気迫に乗せて気絶を煽ったりはしていないが、先程の衝突の際微力ながら感じることができた。酔っ払っていたためあまりはっきりと覚えてはないが、あの眩い覇気は十中八九覇王色の衝突と言える。
「何人もいらねぇんだよ」
カイドウの口癖。
覇王色を持つ者は本物の強者で充分。ミーハー達が持っているとどこか胸糞悪い。金獅子のシキはこれを利用するらしいが、カイドウにとって目障りであり、即刻排除したい。と言っても覇王色の覇気を持つ者は100万人に1人。世界人口が1億ならば単純計算で100人いるのだから、いても不思議ではないが、理論で納得するカイドウではない。
百戦錬磨。
銃使いはミーハーの空気に染まっていない。四皇に引けを取らない度胸と精神が備わっている。そう考えれば別に問題ないのかもしれないが、自分と同じ土俵にいるというのが癪に触る。だが、同じ土俵に立つことによりこの持て余している暇な、いつも酒で無駄にしている時間を有効的に活用できるのだから、有意義な時間の使い方ができるであろう。ミーハー対するイライラと己の抱える欲望に矛盾は発生しているが、それを否定する者はいない。なぜなら、百獣のカイドウは強いからだ。世界屈指の強さを持ち、通り名に負けない力、戦力を保有しているのだから。本物の力を前にお咎める者な存在しない。この世は力が全てだからだ。
「おれの全てをここに」
考えるのをやめ意識を下にいる銃使いへ向ける。他に回していた見聞色を全てこちらに狙いを定める銃使いに合わせいつでも発射できる体制を整える。あとは撃つのみだ。覇気を極限状態まで引き上げ最大級の攻撃を与えられるようあの船以来の本気を出す。身体全体から搾り尽くした覇気の他に、己に眠る真の力を時覚ますよう、自分の心に話しかける。
カイドウが抱える1つの記憶。
それはある日自分が自分じゃなくなったような不思議な体験。
『北へ進め。汝が望むのならば北へ進め』
これが最後の記憶。最後にかけられた言葉。これを意味するものとはいったい。カイドウは未だに出せないでいる。あの日かけられた言葉は今でも胸の淵に刻まれている。当時でも今の自分でも分からないが、何か重要なことであると本能が言っている。
その後意識を途絶える。いつ何時どれくらいの間目を閉じていたのかは不明だが、意識が浮上するように覚醒した頃にはある船の甲板にいた。その船は無人だった。大声をあげても返事を返す者はいなかった。だが、不思議なことにこの船は昔見覚えがあるもの。カイドウは上に掲げている旗に目をやる。そこに描かれていたのは、9つの丸と二本の劔。中央に
懐かしいというものはない。
この船は5歳のガキだった頃、生まれて初めて殺された場所だから。
――月星海賊団
――ゴゴゴゴ
「ウォロロロロロロ!!!」
灼熱の光線が星空の下流れ星の如く輝いた。
誤字報告
ジッキンゲン男爵様ありがとうございます。