「これより光月おでん並びにその家臣九名の''公開処刑''を執り行う!!!」
カイドウとの宴から早数日。
遂に光月おでんと赤鞘九人男の公開処刑が執り行われる。当初は発表から3日後だったのだが、カイドウは多々良との宴が思っていたより楽しかったようで酔い潰れた。それをオロチが知り、カイドウは大丈夫だと言ったが、心配性のオロチは万全の状態で臨んで欲しいという理由で日にちを2日ずらす運びとなった。
「結局カイドウに勝てなかったんだな。''バカ殿'''でも…」
「強さだけは本物だと思ってたのに…何だったんだ? あいつ…」
処刑を見に来た野次馬。
何も知らない民衆が口々に嫌味を零す。その内容は合っているし間違っている。その意見に否定しないものの真実を知らない民衆はオロチの操り人形と化しプロパカンダが根付いていることがよく伺える。多くの者が適当でありながらもおでんの非難する心は同じようで十人十色好き勝手に各々に愚痴を並べて行く。
――グズグズ
人間十人が余裕で入れる巨大な大釜には琥珀に輝く橙の茹る油。鼓動を揺らすかのようにグズグズと音を鳴らす。
「チャンスが欲しい!」
筋肉質で屈強な体格が特徴の偉丈夫、角帽の太いモミアゲ頭の精悍な侍――光月おでんがその熱い熱い大釜の熱気を前にして口を開く。
「おいさっさと入れ!――わあああ!?」
執行役を務める役人は足を滑らし運良く油のプールにダイブする。「助けて助けて」と助けを求めるもそれに応える者は誰一人とおらず、上座に陣取るカイドウとオロチは笑い、民衆はそれに言葉を失う中、役人は喉が焼ける断末魔を残して地面が崩れ落ちる。
「十人全員で釜に入る。もしお前たちの決めた時間耐えきった者がいたら解放してくれ!!!」
塵と化した役人をよそに、カイドウ及びオロチに生き延びるために嘆願する。主に家臣の九人のことを案じているものであり、自分のことは蚊帳の外。開国のためならば自分の死ですら恐れない。
「1時間だ!ウォロロロロロロ!耐えてみろ!」
「二言はないな?」
「無論!」
おでんからの嘆願をカイドウらは了承。1時間という条件付きとはいえ言質を取った光月おでんはおもむろにその大釜に足を踏み入れる。その一方野次馬の愚痴も些細に聞こえてくる。まるで他人事のそれは腐り切っており、己のエゴにしがみつく方浪人と化している。
――ジュアアア!!!
おでんから水分を掠め取る。足の裏、つま先からふくらはぎへ、膝から腰へありとあらゆる所から生力が吸い取られる。皮膚の焦げる匂いが立ち込み、筋肉と骨だけ自らの身体を支える。
「橋板に乗ってろお前ら!!!」
おでんに続き覚悟を決めた家臣が入ろうと試みたその時、おでんから橋板に乗れと命令して来た。従うほかない家臣九人は申し訳ない気持ちでその橋板にお邪魔し、それをおでんが両手と角帽モミアゲで担ぐ。
「油に浸かってねぇじゃねぇか!」
「ウォロロロロロロ!確かに10人釜に入ってやがる!くるしうねぇぞ!おでん!」
おでんの行動に怒りを露わにするオロチに屁理屈ながらもそれをやってのけるおでんに酒を煽るカイドウ。
「一瞬で終わると聞いたのに」
「意外とつまらねぇな」
血を吐き決死の覚悟で臨んでいるおでんに対してそれを咎める民衆。ケラケラと上座の2人と同じく笑い、胸糞悪い。おでんのことはどうでも良く、人の死に際を見たい、所詮は人の不幸を楽しみたい屑共の集まり。その人間性はたかが知れてる。
「だれがバカ殿だ!バカはお前達だ!」
バカ殿と発言した民衆の1人を押し倒し、刀を突きつけて大声を上げる。ここから彼女の独断場。オロチとおでんとの間はあったことを詳細に暴露して行く。オロチの目的、黒炭の過去、人攫いからの解放、裸踊りの件、多々に渡る真相を口にして行く。
「おでん様はずっとこの国を守り続けてたんだ!!!誰がバカ殿だ!?言ってみろ!!!」
演説が無事に終わる。その様子に民衆達の心は動きこの処刑に不信感を抱き始める。それに対してオロチやカイドウは笑いの種に「もう、遅いんだよ」と言いたげのようで、酒を煽る。
「''真実''など混乱を招くだけだしのぶ 「将軍に逆らった''バカ殿''が死ぬ」 それで皆理解し刑はやがて終わる」
「福ロク!」
サングラスをかけ頭部と福耳が異常に長い僧形姿の男――福ロクジュは、しのぶの腕を背後から取り押さえながら口ずさむ。
「覚悟の上で喋ったんだろうな」
「わたすはもう! 彼らと生死を共にした! おでん様の家臣だ! お前には従わない! 彼ららにもしものことがあれば 「光月」と共に死ぬ覚悟!」
多くの民衆が動揺する。その上福ロクの口は「それがどうした?」と言いたげ。もう時すでに遅し。チェックメイトを指し、あとは時間が過ぎればオロチの勝ちという構図が完成している状態。不敵な笑みを浮かる。
「オロチ将軍どうかこの処刑を取りやめてください!」
「お願いします!」
真相を知った民衆は口々に叫ぶ。やめてくれと。だが、その声は届かない。何故か、それは――
「グハッ!」
――叫んでいた者の鳩尾に矢が打たれた。心臓を撃ち、はたまた首を射抜かれる者、運悪く顔に直撃する者、謀叛的な声を挙げた者が三者三様外から飛んで来た矢に打たれ、バタバタと地に伏せる。気がつけば民衆を囲むようにカイドウの部下並びにオロチの部下がいる武器を手に集っていた。騒めく。おでんの奇行の理由を知り、今目にしている「長引いている処刑」こそが今ワノ国で唯一の希望なのだと。
「おでん様生きてください!」
「おでん様頑張って!」
罵声から声援へと変わる。先程まで非難の言葉から一変、励ましの言葉が四方八方から聞こえてくる。だが、扶助する気もない民衆はただただ口にし見守ることしか出来ない。カイドウやオロチ相手に挑む勇気すらない彼らにその声援は嫌味ととれる。
「かたじけない。頑張るぜ!」
そうでもなかった。嫌味に聞こえるそれを馬鹿正直に礼を言うおでん。どこか律儀であるが、それ故に多くの者を仲間にする、引き寄せる力があるのだろう。
「大昔…この国を海外かは閉ざしたのは…「光月家」だった!」
おでんの夢。
上に乗る家臣達に話し掛ける。光月家が鎖国に関与していることについて。巨大な力からワノ国を守ると。
「おれの代わりに「ワノ国」を''開国''して欲しい!」
おでんからのお願い。
最期まで我が儘なお願い。だが、それは真剣な話し。ワノ国は800年の時を超えて現れるある人物を待ち、それまでに開国したいのが本坊。
「タフだなぁ」
民衆からの声援、カイドウやオロチのケラケラとした笑い声、多くの者が騒ぎ立てているいる中、1人冷静にそれを見つめる者がいた。浅葱の羽織にラフな和服姿に羊羹を頬張る者――多々良。
「呑気やす」
その横に湯茶接待に手を染める柊模様の着物姿、白崎の頭巾に
「そう言うな。今日が最期なんだ。こんな民衆を見るのは」
哀れだなと目を細めながら呟く。
「そうでやすね。それでお父上、本当にやるんでやすか」
「既に確定事項だ。カイドウとオロチの許可も得ている」
今もなお油と格闘を見る繰り広げるおでんを見つめながら茶々良の問いに答える。その後重い腰を上げ、脇に置いてある火縄銃に手を取る。
「他人の銃を使うのでやすか?」
「ああ……手入れしてねぇからな」
「あ…またはぐらかしたやす」
多々良は気分的に自らが好む銃を使わないことにした。別に使い慣れた愛銃でも良かったのだが、赤鞘の侍衆に皮肉めいた事を伝えたいと思い、そこらに転がる火縄銃を手に取る。他にも理由がないと言えば嘘になるが、今はおでんを生かすか殺すかの判断を決めることに最善を尽くせば良い。彼奴を殺す覚悟はあれど、その代償として押しよる恐怖に対する覚悟はまだついてないのだから。
「行ってくる」
「御武運を」
多々良は最後の一口を口に運び、おでんがいる大釜へと向かう。
茶々良
誕生日 11月01日 (ダルメシアンと同じ)
多々良
元月星海賊団船長の実孫
黒炭 綾小路家の分家