「ウォロロロロロロ!多々良やるのか?」
多々良は大釜の目の前に聳え立つ。今も煮えたぎる黄金色の油の入った大釜の淵に近づき、その上に腰を下ろす。
「何をしている!」
執行人の役人がその奇妙な行動をする多々良の肩をがっちり捕まえる。その顔は余計なことをするなと、さっさとこの場から失せろと目が訴えている。
「何って?足湯だが」
多々良は
「アァァァ!アツツツチィィィ…アァァァ…」
顔面は溶けはしないものの、綺麗な狐色を浮かべる。目は零れ落ちるように、コロンと飛び出し口の中の舌はコトコトと脂が焼き揺れる。旨そうな香ばしい匂いがあたりを充満し、やがてそれは上座に座るオロチやカイドウの所にも辿り着く。オロチは嫌な顔を浮かべているが、カイドウは面白いのかケラケラと酒を煽りながら笑う。
800℃以上もある油が体を巡りやがて千鳥足をしだし、力顔面突きつけ死ぬ瞬間の空気が押し出す音――断末魔を叫ぼうとした。しかし――
――パーン!
その歌唱はあるもので掻き消された。手に握っていた火縄銃でその役人の脳天に風穴を開ける。命令機関を失った大火傷の役人は糸が切れたかのように、地へ崩れ落ちる。ヒュゥゥという風の音とズクズクと煮えたぎる油の音のみ。民衆と役人は唖然し言葉を失っていた。ちなみに、上座の2人は笑い堪えている。
「貴様!使えるのか!?」
縁の下の力持ちと評される光月おでんが多々良を睨みつけながら疑問を投げかける。使えるか、大方覇気――流桜と言いたいのだろう。だが、今は民衆の目の前。公に力を教えるなど愚か者がすること。その点に関しておでんはそれに当てはまらない。大方ちょっとマシの馬鹿といったところだろう。
「使える。使えるからどうした?お前は見てきたんだろ?外の海で………確か、
「貴様…」
橋板を担ぐおでんは眉間に皺を寄せ怒りを露わにする。だが、殴り込むことはしない。なぜなら、今やめれば上に陣取る9人の家臣を
「何故知っていると言いたげのようだな。教えてやっても
「………」
「ダメだ!多々良!裁量権があるからって好き勝手にはさせ……」
「ウォロロロロロロ!オロチっ、黙っとれぇ!」
白吉っちゃんの件で多々良が提案したのは時間の短縮。それにおでんは目を丸くし、オロチは罵倒を挙げる。それにカイドウは含みの笑みでオロチを止める。
「何が狙いだ?」
多々良の狙い。
それは至極単純。おでんの人生を殺すこと。多々良の提示したメリットとは、要はさっさとおでんを殺せるということ。多々良が思う概念として、たかだか数分変更したところでおでんの死は変わらない。責任感の塊である赤鞘の侍衆に加え、怠そうに愚痴を零す民衆のためにも、この公開処刑は速やかに終わらせることが建設的。オロチの趣味は今一つ理解できないが、印象操作に加え、バレた時の脅しとしての見せしめは効果
「カイドウの許可が下りた。20分短縮としよう」
「多々良を取り押さえろ!」
10分ではなく20分の短縮。
それにカチンっと怒りを露わにするオロチ。役人に武力行使を仰ぐ。だが――
チュン!チュン!チュン!
――指銃。
指の先に力を集約させ、弾丸のような速さで相手を撃ち込む一本
――バタバタ
鼓動が途絶えた役人衆は手を伸ばしながらも地に伏せる。
「オロチ…少し黙ってろ」
オロチの怒りを踏み躙るように黙らせる二本角――カイドウ。逆らう者は何たりと許さんと周りを威圧する。
「オロチは馬鹿だな。ひぐらしの力がなきゃゴミ屑以下か。いや、行動力は買うが」
はっきり言って多々良はオロチなど眼中にない。別に今後のために行動を起こしても良いのだが、態々オロチの尻拭いをする気は全くといいほど起きないもの。現にオロチを毛嫌いしカイドウ同様力で畏怖を与える。
「約束は約束だ。何故知っているか、それは至ってシンプル。オレがその船に乗っていたからだ!」
「何!?」
「オレは今から4年前まで白ひげの船に乗っていた。おでんが知らないのも当然。ニューゲートにマルコとしか交流がなかったもんでね」
「…」
「だが、噂くらいは耳にしているはずだ。銃を操る
「貴殿が…あの…」
「そうだ。ゼロ番隊ぐらいは耳にしているだろ」
「ッ!?」
「オレはその隊長だ。新世界でも五本の指に入る狙撃手の名手のな」
昔のことを懐かしく思いながらおでんに説明する。多々良が白ひげ海賊団に入ってた頃、極力おでんを始め、ジャズやビスタ、その他古参メンバーとは避けるようにしていた。ビジョンを描く上で白ひげ海賊団は邪魔な障害となり得る。排除するためにも、潜入はするも出来る範囲で関係を持たないようにした。別に関係を持って情報を抜き取っても良いのだが、そこで態々原作連中から嫌味を買われても困る。ゼロ番隊という謎めいたパワーワードで畏という畏怖に対する心を掌握できれば、トントン拍子で崩壊へ導いていくことだろう。
「おでん、あと10分の辛抱だ。そうすれば、おでんは無罪。この暑苦しい釜茹でから解放できるやろ」
「多々良殿、かたじけない」
「多々良!!!貴様も死刑だ!!!」
「短気な将軍だな」
多々良がおでんを無罪と言ったことで、ついにオロチの堪忍袋が切れる。別に多々良は無罪と言って、庇ったつもりはないのだが、何を勘違いしたのか、多々良は役人により取り押さえる。銃や刀で首や心臓、鳩尾、頭部と急所箇所に当たるように置く。
「カイドウ〜助けて〜」
「ウォロロロロロロ!オメェ今日で何回目だ!?」
「ニヤニヤしないで助けて」
カイドウに助けを求めるも虚しく、1人で多々良を見世物にして酒を楽しんでいる。その横にこちらを射抜くかのような猛攻な視線を向け、逃しまいと決心している様子。それにちょっとやりすぎたなと反省する多々良。
「オロチ怒るなって」
「貴様!!!」
「役人は死んでねって。ちょっとばかし意識が飛んだだけやから」
高速で手刀をし全員の意識が絶つ。それに過剰に反応するオロチ。これをきっかけに何かと文句を突き付けられることを多々良はまだ知らない。
「殺したければ殺せばいい。だが、これだけは忠告しておく。目先の事に囚われるな。お前の目的はオレの死ではなく、復讐にあるのだろ?なら、お門違いにも華々しい」
別に殺そうが生かしまいが多々良には関係ないこと。危険を感じれば逃げるだろうし、居心地が良ければ居続けるだろう。多々良は都合のいい人間だ。利用できるものは最後まで利用し尽くす。使えないと判断すれば捨てる。自分に利益が発生することなら、裏切るし、都合が悪ければ殺す。多々良は自由な海賊だ。仁義などとうの昔に捨てたもの。多々良は暗黙の掟を近い未来破ることになる。
「屁理屈を並べよって。後悔させてやる!こっちにはカイドウがおるんや」
「そう申しているが、カイドウはどうするんだ?」
「闘っても良いぞぉぉぉ!」
「そこは拒否れ。辺り一帯が更地に化すぞ」
ガチな話でこの場でカイドウと多々良が衝突すればオロチが夢見る復讐は出来ない等しい。甚大な被害を被り釜茹での刑を執行している場合ではない。それを見越しての発言なのであれば咎めることはないのだが、もし苛つくというくだらない理由でイチャモンをつけるならば、オロチが掲げる計画は失敗に終わる。別に暴れても多々良の目的は完遂するため、カイドウと闘っても良い。
「それは駄目に決まっている!」
「なら、今回はオロチの気まぐれでなしだね」
「ウォロロロロ!!そうだな」
一々叫び出しオロチにイライラするが今は放置。それよりも、光月おでん並びに家臣九人の釜茹での刑が重要だ。オロチは何故か眼中に多々良しか映ってないようだが、本来の目的は復讐。その前座となるのが今回の公開処刑。やることをポンポン変えるオロチは好きではないが、その前座を果たすためにも、多々良は行動に移さなければならない。そして、決心する。多々良はこれから――
――すまねぇ親父。掟を破らせてもらうわ
あと、10分