狙撃手・多々良   作:おべ

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釜茹での刑③

 

 

 

 

 

 多々良が手を振りながら大釜を離れ上座へ向かったところを見計らい、橋板に乗る家臣に話しかける。

 

 

 

「――はっきり言うぞ…ハァ…あいつらは今日…必ずおれを殺す」

 

 

「!!!」

 

 

「そんな…!でも本当に釜茹でに耐えきれば!多々良殿がおっしゃった通り…」

 

 

 

 おでんはそう口にした。おでんとてこの処刑の意味くらい分かっていることであろう。確かに裁量権をある程度認められた多々良が無罪まがいな発言をしたが、それはあくまで釜茹での刑の話し。無罪と言いながらも、解放するとしても、その後について多々良の口から語られていない。それにこの処刑の場を取り仕切っているのは多々良ではない。オロチだ。最終的な処遇を決めるのはオロチであり、この場においておでんの命運を左右させることが可能な立場にいる。ここでオロチを殺せば生き抜くために必要不可欠な条件が揃うがそれは皆無に等しい。オロチを守るのは横に君臨する百獣海賊団船長を務める百獣のカイドウ。ゴクゴクと喉を鳴らし無警戒のように見えるが、見聞色を大きく展開し何たりとも忍び込ませたりはさせない。おでんは分かっていた。これは積みだと。しかし、諦められない。自分が望む夢を叶えられるように――

 

 

 

「おれの代わりに''ワノ国''を''開国''して欲しい!!」

 

 

「あんたの夢なら、拙者達の夢でござる!」

 

 

「――よく言った!」

 

 

 

 家臣達に自らが願う夢を託す。

 ここで殺されることを確信しているおでんはワノ国のため、光月のため、次世代の者に任せることにする。自分が最大限にできる役目はここで最期まで抵抗し命尽きること。夢――意志は誰かに受け継がれる。それを信じおでんは最期の命令を跳ばす。開国して欲しいと。

 

 


 

 

――5秒

 

――4秒

 

――3秒

 

――2秒

 

――1秒

 

――カチッ!

 

 

「奇跡が起きたぁぁ!」

 

 

「釜茹での刑に耐え抜いた!!!」

 

 

 大歓声。

 声援を送る者、嫌味を言い罵倒する者。内容はバラバラであるが、驚愕という事実に疑う者はおらず三者三様に賞賛の言葉を投げかける。そしておでんは生き延びた。みんなそう思った。しかし――

 

 

――カチャ!!!

 

 

 銃を構える役人と百獣海賊団の船員。大釜の周りを包囲し逃がさまいとおでんに照準を合わせる。

 

 

 

「ムハハ…''銃殺の刑''に変えることを…1分前に思いついた。さらに一家皆殺し!」

 

 

「ガキみてぇな屁理屈を」

 

 

 

 口を大きく開き笑い叫ぶオロチ。屁理屈にも程がある幼稚の戯言を口にした。それに反応するのはアシュラ童子。青筋を立てて怒りを露わにする。

 

 

 

「お前もか…多々良」

 

 

 

 おでんに火縄銃を構える多々良。冷徹で物を見る瞳に染まっていた。

 

 

 

「そうだ。お前を殺すことがオレの任務だ」

 

 

「迷いなしか」

 

 

 本来の目的である、多々良自らがその手でかける。おでんを殺め、家臣を逃す、それが多々良の目的。

 

 

 

「悔いはない」

 

 

「そうか。なら、一つお願いがある。おれの家族を守ってくれんか!」

 

 

 

 自分が死ぬことを認めても罪のない家族に被害を及んで欲しくないおでん。一見自己中心と捉えられるが、家族を愛する現れだろう。

 

 

 

「ガキ2人ならいい。だが、トキは死ぬぞ。おでんとて分かっているはずだ。何が最善かを」

 

 

 

 そもそもの話し家族を守りたいのならもっと寄り添うべきだ。放任主義の父親が今頃になって守れというのだ。託すならばもっと戦意見せて欲しいのが多々良の本音。

 

 

 

「トキか。だが…おれは信じてるぞ」

 

 

「…ぁぁ」

 

 

 最期の別れ。最期の挨拶。最期の頼み。

 それが終わり、多々良は再度銃を構える。

 

 

 

「ガキ2人は絶対に守り抜く」

 

 

 

 それだけを言い残し、銃に覇気を込め出す。

 

 

 

〈梅重・火縄銃式〉

 

 

 

 覇王色の覇気を弾丸に流し込む。火薬にも同じく熱伝導の高い武装色と火薬同士が喧嘩できるよう意志の力、クーロン力擬きを流し込む。火薬の一粒一粒に藍色(あいいろ)がつき、クーロン力が働いたのか互いに引き寄せる力を生み出し、正八面体が作られる。これにより摩擦に生じた運動力により、連鎖的に粉塵爆発を行う。銃全体は武装色の覇気で完全防御策が講じられ、そっとやちょっとの内部爆発じゃ破損しないため、順次に火薬に殺気を齎らす覇王色の覇気を混ぜ込み、効率化を図る。

 

 

 

――プシュプシュプシュ

 

 

 

 火をつける。揺れる小さな火刻一刻と滑るように昇って行く。

 

 

 

「頼んだぞ!お前ら!」

 

 

 おでんは叫び上に乗る家臣達を手にしていた橋板もろとも放り投げる。

 

 

 

「''ワノ国''を開国せよ!!!」

 

 

 

 決死の覚悟。

 ただ一つ。自分が願う夢を未来のために口にした。

 

 

 

――タタッ!

 

 

 

 放り投げられ宙に浮いていた家臣達――赤鞘九人男らは地面に着地し、一斉に走り出す。

 

 

 

「走れェ!」

 

「九里へ!」

 

「振り返るな!」

 

 

 走る。

 光月おでんを置いて。だが、これはおでんからの最期の命令。おでんと運命を共にしたかったが、期待を裏切ることはできなかった。逆らいたかった。だが、1人抜けてしまったら、達成できぬかもしれない。そのため、おでんの夢を叶えるためにも、今はこの場から離れることだけを意識する。

 

 

 

「安心しろ。ここだけの話し家臣も死なせねぇ」

 

 

「なるほどな…ハァ…野望でもあるのか?」

 

 

「もうすぐ死ぬというのに冷静だな」

 

 

「いや…怖いさ。だがな…おれの魂は死なぬ。()()()の枷には絶対にならねぇ…ハァ」

 

 

 

 枷ね。

 どこまで読めているのだろうか。とはいえ、もう死ぬ身。訊いたところでつまらない答えが返って来るに違いない。家臣は助ける、いや見逃す。それが最善だから。原作同様に各々に行動に移すと予想しているため、多々良もそれに伴い、自分が描く野望、ビジョンに向けて暗躍すれば良い。

 

 

 

――カタカタカタ

 

 

 

 下駄の音。

 後ろから強い気配――カイドウ、それにオロチが笑みを浮かべながら近づいて来る。

 

 

 

「見事な死に様と、お前は語り継がれる」

 

 

「忘れてくれて構わねェ…ハァ」

 

 

「ババアの件は悪かったな。殺しておいた」

 

 

「真面目だな…せいぜい強くなれ…」

 

 

 

 

 見事な死に様か。

 多々良にこれができるだろうか。否、不可能であろう。多々良は自由に生きる海賊だ。だが、そこに仁義というものはなく、信頼は裏切りで勝ち取るもの。自由奔放では多々良とは跳梁跋扈の()()()()と云えよう。故に、多々良は踊れない。死に様を描くことができない。死ぬ覚悟がない。多々良とは死ぬ覚悟のない銃が扱えるミーハーに過ぎない。

 

 

 

「ハァ…おれは…」

 

 

 

 笑み。

 死ぬ男の顔ではない。傷だらけになりながらも苦しい顔を一切見せず、希望に染まった瞳を浮かべる。覚悟を決め、何よりも歯を出しニヤつく。

 

 

 

――シュシュウウウゥゥゥ

 

 

 

 

 火が刻々と引火して行く。だが、ジュワジュワと火の波の唸りが小さい。光月おでんは最期まで抵抗する。

 

 

 

 

 

「''一献の''」

 

 

「''酒のお伽きになればよし''」

 

 

「''煮えて''」

 

 

「''なんぼのォ〜''」

 

 

 

 

 

――パァァァン!!!

 

 

 

 

 

 

「「「''おでんに(そうろう)''」」」

 

 

 

 

 

 

 弾丸は覇気のない乾いた肖像画に小さな爪痕を残す。

 

 

 

 光月おでんは笑みを浮かべ息を引き取る。

 

 

 

――ベベンッ!

 

 

 

 

 

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