「どこまで逃げるつもりだ」
大地を駆け抜けもうそろそろ海軍が駐屯するエリアに差し掛かる頃、黒く染まった剣を握り締める男、レイリーが呟く。先程の強力な銃弾を撃った後から、敵の動きはなく、暫しの間、距離を開け持久戦に持ち込もうとする節がある。覇気を使いきり体力がない可能性もあるが、それはこの戦闘においてのプランであり、敵を油断させる罠かもしれない。それらを踏まえこちらは慢心的な考えを捨て、いかに攻略するか、勝利への道をイメージし、行動に移さなければならない。一気に詰めて襲撃する方法もあるが、敵は狙撃手で奇襲攻撃は有効ではないと推測できる。つまり今は我慢し、敵と離れ過ぎない距離を維持し続けることが重要と判断し、今に至る。
「それにしても先程の弾丸はヤバかったな。馬鹿正直に正面で食らっていたら、今頃腕が飛んでいたぞ」
苦笑いを浮かべながら、先程の弾丸のことを思い浮かべる。覇王色を持っていたことにも驚いていたが、武装色の練度の高さと射撃の腕に驚愕する。武装色を乗せた弾丸を扱う場合、力が喧嘩しないよう、銃を覇気で覆うのだが、機能面において、銃の性能が少し下がる。狙撃手にとってはミリ単位の誤差は致命的なもので、1キロ先を狙った場合、メートル単位で弾丸の軌道が変化する。それを修正して打つのは通常ではほぼ不可能に近く、ベテランでも難しい荒技だ。また、覇気には調子というものが存在しており、日に日によっては口径が大きくなったり、小さくなったりと打ち出す弾丸の回転数が変化してしまう。そのため、覇気を扱う狙撃手は銃の扱いに細心の注意を払う。
だが、多々良が扱うそれは他とはあまりにも異なる。射撃能力が高い上に通常よりも倍の武装色を纏っていても、正確にレイリーを狙い撃ちしたのだ。本来は愚策な行為であり、新世界の狙撃手はこれをどのような理由であれ、やることは少ない。厳密にはやる者もいるが、それは誤差を調整できる接近戦闘、中距離戦闘の場合に限定されており、長距離での使用は自分の居場所を教えるだけの愚かな行為とされている。多々良はその掟を破り、狙撃手のタブーとされている、長距離時の覇気強化を実行しているのだ。
「いや、今更か。ニューゲートが拾ってきたんだ。新世界で通用する狙撃手なら出来ても不思議ではない」
改めて思う。
元々多々良はニューゲートの船、''白ひげ海賊団''にいたのだ。無名とはいえ、ニューゲートに認めた存在ならば詮索は無用であろう。それであの強さを説明することはできないが、多々良を証明するものは全て戦闘に限ったことではない。情報収集の高さに、こちらを見通すかのような冷たい視線。だが、どこかで楽しみたいと思わせる、その行動はどこかシャクヤクに似ている節がある。これは個人的な意見であり、そうじゃないかもしれないが、いつもと違うあの楽しそう表情を見れば、何か共通点があっても不思議じゃない。
「まずは追いかけることだけに専念しよう」
まずは敵、多々良だけに集中する。
狙いは分からないが海軍エリアへ向かってることは確か。おそらく海軍や世界政府を巻き込もうとしているのだろう。あわよくば、本部に連絡し大将クラスを引っ張りだし、乱戦を狙っているのかもしれない。
「いや、こちらから行方を晦ますのもありか」
長期戦になるのはこの状況下において必然。敵の狙いがレイリーなら、その本人が消えた場合、敵はどのように行動に移すのか。決まっている。奇襲を狙うための潜伏と予想し、自らも姿を消し、いつ来るか分からない襲撃に備えることだろう。その時の精神状態はとても苦な状態で、ジュワジュワと内側から攻撃する、外道魔法のようなもの。精神が病めば、自動的に体力も削れていくため、この作戦は有効だと思われる。
だが、懸念もある。姿を消したことにより撤退したと思われた時だ。それはそれで決着がつかないこの戦いが強制的に終了できるが、少々後味が悪い。せっかくの獲物だ。殺すつもりはないが暇つぶしとしてはいい的だ。ロジャーの船でも楽しめたが、いきなり隠居するのも、未だに燃焼してないレイリーにとってあまりの好む所ではない。ここはある程度どでかい戦闘で内に溜まっているものを吐き出したいのだ。海軍と厄介するつもりは毛頭ないが、この戦闘を楽しめればそれでいい。レイリーはそんなくだらないことを思い浮かべながら、これからのことを考える。
「ブワッハッハッハッ!ロジャーの次はレイリーか。腕がなるわい」
肩に手を当てぐるぐると回し準備運動する者、モンキー・D・ガープ。甲板の上で、部下の報告に耳を傾けながら、シャボンディ諸島を目指す。
「ボガード!あとどれくらいで着く?」
「えぇーと、今全速力で向かっているためあと2日ほどかと」
「2日もか!?もっと、ビュンビュンって行かねえのか?」
「勘弁してください。これでも頑張っている方ですよ。それが嫌なら泳いで行かれます?」
「え〜わし、濡れるのやだ」
「はぁ〜、なら大人しくしてください」
「分かった。大人しくする」
ガープに振り回される苦労人第2号、ボガード。
グレーのスーツに帽子は目元を伏せるように深く被る。腰元には日本刀があり、抜刀術を得意とする剣士。
「それにしても、全くセンゴクの奴は。わしを行かせるとは。そうは思わんか、ボガード」
「センゴク元帥から勝手に向かわれたと聞いておりますが」
「えぇん?」
「いえ、ガープ中将殿が自主的に仕事を引き受けたと聞いております」
「そうじゃ。全く、こき使いおって」
「それは…」
「無理するな。現にわしは戦いたくでムズムズしてだけじゃ。ブワッハッハッハッ」
「ハハハハハ。それは楽しみですね」
形だけでも笑みを浮かべるボガード。自由奔放な海軍の英雄をコントロールするのは神技で、今のボガードでは原作のように完全に操ることはできない。まだ、入ってから日が浅いということもあるが、それ以上にガープの自由度の高さに白旗を上げていた。
「まぁ〜大丈夫だ。レイリーとはいえ策士。長期戦に持っていくかもしれんのう」
「それはないと思いますが」
「敵はレイリーと拮抗できるほどの強さを保有しているんじゃ。短期決戦よりも経験で勝る方を選ぶと思うのう」
「海賊王の右腕。シルバーズ・レイリーは覇王色の持ち手です。力でねじ伏せるのが有効かと」
「馬鹿いえ。レイリーは覇王色を持っているとはいえ、ロジャーほど自由奔放ではない。頭のいいレイリーのことだ。何か策を巡らせてもおかしくないわい」
自分のことは棚に上げロジャーを馬鹿にするガープ。その光景を見ていた多く船員はボガード含め――あんたもだよ!っと心の中で叫んでいた。声に出すことはないが、多くの者が共通認識を抱く。
「それは否定しません。ですが、相手は海賊。一般市民に危害を加えないという保障はどこにもありませんからね」
「レイリーは小さい男じゃないわい。うん?分かっとる。わしかビュンっと行って、スパァアっと終わらせんだから心配するではない!」
「よろしく頼みますよ」
ボガードは本当に大丈夫なのだろうか、と心配しながらも海軍の英雄の言葉を信じることにする。最初から自分勝手で訪れているため、戦闘に関しては問題ないが、派手に暴れた後の後片付けを思い浮かべ、胃がキリキリと痛める。
「ブワッハッハッハッ!心配するな!わしがチャチャっと任務遂行するからのう」
ガープは自信満々に叫んだ。
だが、どこにも心配できない要素はなく、他の海兵もボガード同様に顔をしかめる。元々あった天竜人の護衛をすっぽかしてここにいるのだ。その自由奔放具合にボガードは素直に笑えない。
「ブワッハッハッハッ!」
1人、無駄に元気な海兵が高笑う。
「それにレイリーとやり合う多々良も――」
――覇王色の使い手かもしれんからのう
bebeちゃん様 ありがとうございます。