翌朝、ハジメ達はオルクス大迷宮の正面入口がある広場に集合していた。
その入口はRPGのダンジョンにありがちな薄暗い陰気なそれではなく、博物館の入場ゲートの様な整備された物であり、制服を着た受付嬢らしき存在がいる窓口まであった。
どうやら日本における登山計画書の様にステータスプレートをチェックし、出入りを記録するとの事。
とはいえ日本のそれみたいに対象者が行方不明になった時の捜索に役立てる訳では無く、死者・行方不明者を正確に把握する為、戦争を控え多大な死者を出さない様、注意を喚起するのが目的であろう。
他にも七大迷宮と言う危険地帯でありながらその特性故に人気が高いオルクス大迷宮、殊に浅い階層は魔石等の良い稼ぎ場所として人も集まりやすく、嘗ては命知らずな輩がノリで挑んで命を落としたり、犯罪の拠点とする人間が多く存在したりで不穏な空気が漂っていたらしく、魔人族が何時襲い掛かって来るか分からないのにそんな内憂を抱えていられるかと思った王国が冒険者ギルドと協力して設立した経緯から、現地の警察的な役割も担っている様だ。
尚、ゲート脇の窓口では素材の売買もしている様で迷宮に潜る者等の金回り関係で重宝しており、事実その周囲では露店等も所狭しと並び立っており、それはまるでお祭りの様である。
そんな広場の喧騒を他所にハジメ達はメルド達騎士団の後を追う様に迷宮へと入って行った。
------------
お祭り騒ぎ全開だった広場とは打って変わって、迷宮の中は静寂に包まれていた。
縦横5メートル以上はありそうな通路は明かりを持っていないにも関わらず薄ぼんやりと発光しており、松明や光を発する魔法具が無くてもある程度の視認性は保証されている。
どうやら緑光石なる特殊な鉱物が多数埋まっているので光源が尽きる事無く冒険者の視界を確保してくれているそうだ、このオルクス大迷宮はその緑光石の鉱脈を掘って作られたらしい。
そんな作られた経緯はさておき、一行は其々のパーティごとに集まり、隊列を組みながら騎士団の先導に従ってぞろぞろと進む、すると暫くの時を経てドーム状の広間に出た。
その気配を察知したのだろう、辺りを見回していた一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出て来た。
「よし、まずは光輝達からだ、他は後ろで待機!交代で前に出て貰うから準備はしておけ!あれはラットマンという魔物、すばしっこいが大した敵じゃない。冷静に行け!」
その正体はラットマンという魔物、見た目はその名の通り二足歩行のネズミ、と此処まで書くと某夢の国のマスコットキャラクターを思い起こさせるがあんなファンシーな姿じゃない、リアルなネズミがそのまま直立し、尚且つ上半身が筋肉モリモリマッチョマンの変態チックな姿だった、ご丁寧に筋肉の発達した部分だけ毛が生えていない、見ろやこの筋肉!と言いたげである。
その異様な姿に、出撃している天之河達の顔が引きつるが実戦で唖然としている場合じゃないと切り替え、前線の天之河と坂上が迎撃態勢をとり、後方の鈴と恵里が詠唱を開始した。
まずは天之河、純白に輝くバスタードソード型のアーティファクト『聖剣』を振るい、その光を浴びて動きが鈍っていたラットマンを纏めて葬り去る。
次に坂上、衝撃波を放つ事の出来る籠手等のアーティファクトを身に着け、元は空手部に所属していた為か堂に入った構えから正確無比な打撃で一体の打ち漏らしなく確実に仕留める。
前に立つ男子2人が守っていたのでラットマンの襲撃に晒される事無く己の仕事を遂行できた女子2人は詠唱を完成させ、魔法を放つ。
「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ『螺炎』」」
螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるかの如く巻き込み燃やし尽くしていく。
「キィィィッ」というネズミらしい悲鳴を上げながらラットマンは細かい灰と変わり果てた後には、広間にいた敵は全滅していた。
「あぁ、うん、良くやったぞ!次はお前達にもやって貰うからな、気を緩めるなよ!」
初めての実戦とは思えない戦いぶりに、大したことないと言っていたラットマン相手とはいえ圧勝と言って良い戦果に苦笑いしながらも褒めつつ、気を抜かない様に注意し、
「それとな、今回は訓練だから良いが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」
細かい灰になるまで焼き尽くした後衛の2人を、魔石等の換金出来る素材すらも焼き尽くしてしまった鈴達を窘めたメルド団長、2人もやり過ぎた自覚があったのか思わず恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「よし、次はハジメ達だ」
先程のラットマンを天之河達が事も無げに退け、再び歩みを進める一行は再び先程の様な広間に辿り着き、やはり先程の様にラットマンの大群が登場、今度はハジメ達が出撃する事となった。
その指示に従って迎撃態勢をとるハジメ達、その中で後衛である香織と幸利が取り出した物に、待機しているクラスメートの中から驚いた様な声が上がった。
「あ、あれは銃!?」
「銃?あの、アーティファクトらしき物の事か?」
そう、幸利と香織が取り出したのは銃、いわゆるリボルバーに分類される5発装填の大型拳銃だ。
このファンタジーな世界で見るとは思わなかった物の姿に驚きの声が上がる中、それを見た事の無いメルド達騎士団の面々は、何なんだあれはといった様子だ。
そんな疑問の声に応えるかの様に2人がそれを構え、前線でラットマン達へと飛び掛からんとするハジメ達に当たらぬ様に気を付けながら引き金を引いた次の瞬間、火薬が爆発した音と共に12.7mm口径の銃口から弾丸が発射、それは寸分の狂い無くラットマンの眉間に直撃、其処から夥しい量の血を始めとした液体が流れながら標的が崩れ落ちていった。
このトータスには存在しえない武器の力に、それを用いた香織達の一挙手一投足に騎士団の面々を含めて驚きを隠せない一行、だが驚くのはまだ早かった。
「ふっはっせいっとぅっ」
幸利と香織が後方で援護射撃をし、雫がハジメのお手製らしい日本刀を駆使して一太刀で切り伏せ、優花がこれまたハジメのお手製らしいカランビットナイフを駆使しての多種多様な攻撃でラットマン達を切り刻む中、ハジメは持ち前のスピードを活かしてラットマンの一群の中を縦横無尽に駆け抜けながら、すれ違いざまに頭部へと触れていく、その直後、一匹の例外なくまるで糸の切れた操り人形の如く倒れていく。
先程の天之河達や、今回の雫達も圧倒と言えば圧倒ではあるが、ハジメの場合は瞬きしたらもう終わっていたと言っても過言じゃない程の秒殺、しかも魔石等の素材を消し飛ばす事無く必要最小限の殺傷で仕留めた合理的な戦果となった。
「ハジメ、今のは、一体?」
その実戦が初めてとは思えない異様な戦果に疑問を抱くのも当然だろう。
騎士団の面々にとって見た事の無いアーティファクトらしき物や、どうやったか分からないハジメの手際が良すぎる攻撃、それがどの様な物か、メルドが代表してハジメに尋ねた。
「どの事についてでしょうか?グローサ*1?それとも、僕の戦い方ですか?」
「どっちもだ。グローサって名前なのか、その銃とか言うアーティファクト?も当然気にはなるが、お前はどうやってラットマン達を殺した?幾らお前達が俺達とは比べ物にならない才を有した存在で、ラットマンが大したこと無い魔物だとはいえ、手で触れただけで倒せる程度の雑魚でも無い筈だが…」
「何処から説明しましょうか…
ではまず香織達が使っていたアーティファクト、グローサについてですね。あれは僕達の世界で銃と呼ばれる武器で、魔力を用いていないので厳密にはアーティファクトではありません。簡単に言えばクロスボウの弓に当たる部分を爆発に、矢を金属の球に置き換えた物です。威力はまあ今示した通りです。次に僕がどうやってラットマンを倒したかですが一言で言えば、ラットマンの体内にある金属で内部から串刺しにしました」
「体内にある金属を?」
「ええ。血液を始めとした体液や骨、生き物を構成する組織には金属が含まれています。僕はそういった金属に錬成で干渉し、それで刃物を形成、内部組織をズタズタにしました。特に頭にはズタズタにされた瞬間死ぬ組織が広範囲に存在しますから、其処を突いた事でラットマン達が一発で絶命、崩れ落ちたという訳です」
「え、えげつない戦い方だな、お前…
訓練初日に話してくれた、鋼の錬金術師だったか、その物語に出て来る錬成師の戦い方もそうだが、そちらの世界での錬成師は凄まじい強さだな。今説明してくれた銃も恐らくお前が作った物だろう?これはもう錬成師を生産職だと、単なる鍛冶屋だと馬鹿には出来ないな。いやはや、改めて勉強になったよ」
その問いに対するハジメの答え、それは百戦錬磨のメルドですら考えもしなかった物だった。
合理的ではあるがエグい発想に誰もが(香織達ですらも)、背筋が凍る様な恐怖を感じた一方、今まで錬成師をありふれた生産職だと、戦う力を持たない非戦闘職だと、只の鍛冶屋だとしか思っていなかった騎士団の面々は錬成師の有用性を、通説に囚われず物事の本質を見る事の大切さを思い知り、同時にそれが出来、結果を示して見せられるハジメの戦士としての強さを評し、勇者である天之河をも上回る重大戦力だと見る様になったとか。
そんな一幕もあったが後は問題なくパーティを交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下っていく…