エヒトルジュエが住まう神域にて始まったハジメ一行が乗るヴァスターガンダムの軍勢と、エヒトルジュエとその眷属の魂が宿ったネオ・ジオングの軍勢の決戦、その戦況は互角と言えるものだった。
エヒトルジュエ側はネオ・ジオングが持つ大量の武装を用いた圧倒的火力、サイコシャード発生器を起動させる事で生み出される疑似的なサイコ・フィールドを展開しての防御を活かした組織的な布陣でヴァスターガンダムを追い詰めんとする。
対するハジメ一行は今までの死闘で培われて来た直感と一瞬の判断力、その感覚速度について行ける機構を組み込まれたヴァスターガンダムの機動力を駆使して掻い潜り、どうしても避け切れぬ物は「
だがマルチプルカノンの一撃を以てしてもサイコ・フィールドの壁を打ち破るには何かが足りない様子、一方でネオ・ジオングの圧倒的火力を以てしてもヴァスターガンダムを捉える事は出来ていない、互いに機体へのダメージが全く無いという意味では正に互角の状況であった。
こんな状況に入ると、それに歯噛みする存在は現れるもの、その動揺によって隙が生まれて急展開を迎えると言うのは物語では良くあるパターン、なのだが、歯噛みしていたのはハジメ達ではない、
――な、何故だ!?何故イレギュラー達を圧倒出来ない!?至高の『器』を得た筈の我らが、何故!?
エヒトルジュエの方だった。
エヒトルジュエにとってハジメという存在は、召喚した当初から己の思惑に反した展開にし続ける目障り極まりない輩であった。
永遠の命を得たが故の退屈を紛らわすべくトータスを盤面、其処に住まう生命を駒としたゲームと称して、種族間の終わりなき戦争を誘発し、今なお続けさせんと眷属を介して干渉しているのだが、その人間勢力側のテコ入れとして天之河達を勇者として異世界から召喚した際、そのうちの1人をありふれた天職にパッとしないステータス、ショボい技能しか持っていないハズレキャラに仕立て上げ、他の召喚メンバーや現地住民から爪弾きにされる様を見て愉しもうと思いついた。
そのハズレキャラポジションを担う存在として目を付けたのが、強制召喚した者の過半数から蛇蝎の如く嫌われていたハジメで、そんな彼にエヒトルジュエはトータスにおいてありふれた職業である錬成師を天職にし、ステータスはトータスの人間族平均クラス、技能も錬成師なら誰もが持っている物しか与えなかった。
ところがハジメのハズレキャラ振りが明るみになる筈のステータスプレート配布の場で、思わぬ事態が発生した。
天職こそ錬成師だったのだが、ステータスは人間族平均どころか勇者である天之河をも総合値で上回り、特に耐久と敏捷は人間族最強と称されたメルドのそれをレベル1の段階で迫る程、技能も錬成や精錬、言語理解の他に与えた覚えのない戦闘系のものを8つも習得しているという状態だったのだ。
いきなり出鼻を挫かれはしたが、それでも強過ぎるなら強過ぎるで爪弾きにさせる余地はあると考え直したエヒトルジュエだが、ハジメが異世界から連れて来た者の過半数から嫌われているのは天之河からの敵意と中村の裏工作という外的要因による物、一方で残る半数近くの者から慕われている事を調べもしなかった為にその目論見は潰え、結果として爪弾きどころかハイリヒ王国の中枢からは「ありふれた職業の考え付かなかった可能性を見出した開拓者」として勇者をも凌ぐ有望株となった。
その後ハジメが、嘗て己に牙を剥こうとした『反逆者』の1人が作り上げた大迷宮の1つで、実戦訓練で入ったオルクス大迷宮の奈落の底へ落ちて行ったと聞いて溜飲を下げそうになったが、その際に天之河の幼馴染である香織と雫も一緒に落ちた事、ハジメが落ちる要因となった檜山達小悪党組が、ハジメの親友である幸利によってこっそり捕えられリリアーナに突き出された末、ハイリヒ王国はおろか聖教関係者が檜山達を勝手に異端者認定した事、その下手人である幸利がその後トータスの住人はおろか己にも牙を剥かんと出奔した事を知り、死して尚己の思い通りにならないハジメの存在に、その影響の大きさに歯噛みしつつも、此処で余計な手を加えては状況を悪化させかねないと一先ず静観する事にした。
転機となったのはそれから2ヶ月半くらい後、オルクス大迷宮の奈落の底へ転落して死んだ筈のハジメ達が、突如としてライセン大峡谷に現れたのだ。
今まで己の愉しみを尽くぶち壊して来た目障り極まりない輩の気配は嫌でも覚えてしまう、例え姿形が変わろうと気配までは間違え様が無い、また此方の愉しみを潰す気かと憤ったが、新たに加わった仲間の姿を目の当たりにした瞬間、その怒りは吹っ飛んだ。
三百年位前に己の新たなる『器』として目を付けていた吸血鬼族の姫アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタールが、肉体を乗っ取ろうと画策したものの彼女の叔父の妨害によって阻まれてそのまま行方知れずとなっていた少女が、ユエという新たな名を得てハジメ達と共にエヒトルジュエが見張るトータスに再び現れたのだ。
己の『器』として三百年もの間追い求めていた存在が今やっと現れた事でハジメに対する敵意を「こうして『器』を連れて来たのだ、今までの無礼は許してやろう」と如何にも偉そうな感じで水に流し、どうユエの肉体を我が物とするか画策しながら舐め回す様にその身を眺めていたエヒトルジュエ、だが、
――刻むよ?
ハジメに睨み付けられたその瞬間、直前まで抱いていたハジメへの敵意も不満も、ユエの肉体を手に入れられるとの歓喜も、何もかもが吹っ飛んだ。
――こ、殺される!
オルクス大迷宮攻略の折に得た派生技能Xラウンダーの力も上乗せされて放たれた殺気、それはこのトータスにおいて絶対的強者である筈のエヒトルジュエがハジメに殺されるというイメージを、死など無縁の神的な存在と化した筈のエヒトルジュエに死の恐怖を植え付けた。
何百年、何千年もの間無縁だった死の恐怖に囚われる事となったこの時の出来事を切っ掛けに、エヒトルジュエのハジメに対する認識は「此方の思惑に反し続ける目障りな輩」から「何が何でも排除すべき脅威」と化した。
幸いこの時点でハジメ達が習得した神代魔法は生成魔法1つのみ、概念魔法の習得とそれを活かして自分の住まう神域へ転移するまでに十分な時間がある、その間に眷属達を介してこの世界の住人や天之河ら異世界から呼び出した者達を洗脳し、ハジメ一行を異端者に認定して公然と排除出来る環境を整えねばと動き出した。
こうして始まった、教会所属のシスターとしてハイリヒ王国王都に潜入していた眷属ノイントによる洗脳工作、最初は王国中枢内におけるハジメ達への評価が前述の通り高かった事、何よりハジメ達は死んだと思われていた事から梃子摺りはしたものの概ね達成、後は国王エリヒドや重臣達による会議の場でハジメ達が異端者に認定されるのを待つのみ、その筈だった。
だがその会議の場で想定外の事件が勃発してしまう。
ハジメへの想いが一際大きい事、王族とはいえ年若い姫という立場から国政に対する影響力が其処までじゃ無かった事から、洗脳対象から外していたリリアーナがハジメ達の異端者認定を阻止する為にクーデターを決行、その直前にハジメから護身用として手渡されていた兵器の力もあって難なく成し遂げられ、エリヒドら重臣は、洗脳を施した面々は悉く殺されてしまう。
その異常事態を察知し、邪魔者となったリリアーナを処すべくノイントが直ぐに襲撃するも返り討ち、ステータスはノイントの1%にも満たない筈のリリアーナが大した苦戦をする事無くノイントを殺害した光景を目の当たりにしたエヒトルジュエは、もう形振り構っていられないと眷属の大量投入を決行、今の時点で打てる最高の手を此処で実行する事にした。
だがその最高の手はハジメ達によって打ち砕かれてしまう、数万にも及ぶ大軍でハジメ達を迎え撃った眷属達、神山に控えるイシュタルら聖教関係者からのサポートもあるという万全の態勢だったのだが、ハジメ達が投入した11機ものヴァスターガンダムとストリボーグによって瞬殺、そのまま聖教関係者は皆殺しにされ、神山は占領されてしまう。
結果としてエヒトルジュエは眷属の大半を失ったばかりか、人間族のテリトリーへの干渉を行う上での拠点である神山をハジメ達に奪われた挙げ句、人間族の殆どから信仰されていた今迄から一転「真なるエヒトからその座を簒奪した偽神」のレッテルを貼られてしまう事になった、これはつまり、人間族への干渉は事実上不可能となったという事である。
だがエヒトルジュエにとってそんな事は問題ではない、それよりもヴァスターガンダムによって眷属の大軍が瞬殺された光景を目の当たりにした事で、ハジメが自分に向けた殺気がXラウンダーによるハッタリでは、それによって植え付けられた自分がハジメによって殺されるイメージが誇大妄想では無かった事を思い知らされたのが大き過ぎる問題となった。
このままではヤバい、現状のままではハジメ達に勝てる可能性は無い、いずれ概念魔法の習得に至り神域に乗り込んだハジメ達によって成す術なく殺されてしまうと、死の恐怖に駆られたエヒトルジュエはハジメ達に、ヴァスターガンダムに対抗しうる術を必死になって探した。
そして見つけ出したのだ、ヴァスターガンダムに対抗出来る術どころか、ユエなんぞ比較にもならない程自分に相応しい『器』となり得る物を、それも自分のだけでなく眷属の分まで揃えられると来たものだからエヒトルジュエは何の躊躇もなくそれ――ネオ・ジオングに飛びついた。
発見した異世界――宇宙世紀の世界において改良が済んでいたシナンジュとネオ・ジオング、及び『袖付き』の手が入っていないシナンジュ・スタインとⅡネオ・ジオングをお得意の召喚魔法で強奪し、シナンジュのサイコフレームへ己の魂を、シナンジュ・スタインのサイコフレームに眷属の魂を定着させる事で己の、眷属の新たなる肉体として見せただけでは留まらず、その後の調査で宇宙世紀の世界が他に数十、数百もの平行世界が存在すると分かり、其々の世界にあるシナンジュ・スタインとⅡネオ・ジオングを強奪しては眷属の身体に、強奪しては以下略、といった感じで戦力を増やしていった。
その最中にハジメ達が最後の大迷宮に挑んでいるという情報を聞き付けたエヒトルジュエは、それによってストリボーグが手薄になっているのに目を付け、そのクルーを人質にとる事で時間稼ぎを画策、残りの殆どの眷属をガーランドに送り込み、ストリボーグへと向かわせた。
魔人族が信仰する神アルヴの、魔人族の国ガーランドを統治する魔王の正体が実は、ユエの叔父ディンリードの躯を乗っ取ったエヒトルジュエの眷属である事から出来た奇襲策だったが、それを察知したメルドの、メルドが搭乗するマルトゥの決死の特攻によってそれは防がれ、それを知ったハジメ達による報復で魔人族は根こそぎ捕縛、程なく神域への侵攻を始めたので20機位で調達を打ち切る事に。
だがエヒトルジュエに、ネオ・ジオングと言う新しい『器』を得たエヒトルジュエとってそれはもう些末な問題でしかなくなっていた、打ち切らざるを得なくなったとはいえそれでも数で言えばハジメ達の倍以上のMS・MA、そのどれもが宇宙世紀の映像作品においてラスボスとなったネオ・ジオングとⅡネオ・ジオング、その圧倒的性能でハジメ達を始末した後に調達を再開、いずれハジメ達のいた世界は勿論、宇宙世紀等の未知なる世界をもネオ・ジオングの大軍で蹂躙、我が物として見せる、とつい最近まで死の恐怖に怯えていたのが嘘だった様に尊大な様を取り戻し、意識は既にハジメ達を倒した後に向いていた。
が、いざ戦いが始まると神言詠唱――名乗りと共に命令を下す事でそれを強制出来る正に『神』の言葉と言って良いエヒトルジュエの切り札の1つが、ハジメの概念魔法を応用した疑似的な神言詠唱によって封じられ、倍以上の数と質に物言わせた組織的な攻撃を仕掛けながら1機も倒せず互角の勝負に持ち込まれている状態、苛立ちを隠せないのは仕方の無い事であろう。
「MSの性能の違いが、戦力の決定的差ではない!」
そしてそんなエヒトルジュエの苛立ちを見抜けないハジメではない、目ざとく察知して言い放った。
「貴様が我が物としているネオ・ジオングの本来のパイロットであるフル・フロンタルやⅡネオ・ジオングの本来のパイロットであるゾルタン・アッカネン、彼らがその再来たらんと宿命づけられた元である人物、シャア・アズナブルの言葉だ!そのシャア・アズナブルはおろかフル・フロンタルやゾルタン・アッカネンにも劣る貴様らがネオ・ジオングを、シナンジュを十全に扱える訳もない!こうして貴様らの半分にも満たないMSで対峙する僕達を圧倒出来ないのがその証拠だ!」
――黙れ、黙れェェェェ!
どんなニワカであろうとガンダムファンなら知らぬ者はいないと言って良いMSパイロットであるシャア・アズナブルが乗るザクと、シャアの生涯に渡る因縁の存在となるアムロ・レイが乗るガンダムとの初めての戦闘においてシャアが発した言葉をエヒトルジュエに、その眷属に対して言い放ったハジメ、実際、今の戦況を見ればエヒトルジュエ達がシナンジュを、ネオ・ジオングをまともに扱えていないと誰もが思うだろう。
然しながらその言葉はエヒトルジュエの動揺を誘うには十分すぎる威力があり、
この決戦を終わらせる一手となった。