「女の子?君は一体」
「「「すみません、間違えました」」」
「いや何でやねん!?何で見ちゃあかんモン見てもうた的な感じで閉めるん!?」
そう言って部屋を出るべく扉を閉めようとした香織達だったが、それに慌てたハジメが関西弁でツッコミを入れながら、香織と優花が閉めている側の扉を力ずくで押し留めた。
余談だが香織達のまさかの行動に、封印されていた少女も思わず引き留めようとしたが、ハジメが残る気満々で香織達を引き留めていた姿を見て僅かながら希望はあると安堵していたとか。
「だってこんな奈落の底から更に奥深くの場所に、厳重に封印されているんだよ、明らかにヤバいよ」
「それにこの部屋を見回した感じ、あの子が封印されている奴以外何も無さそうよ。脱出には役立ちそうにないんじゃない?」
「いや確かにそうだけどさ、せめてあの子の話くらいは聞いてあげても良いんじゃないかな?あの子からは敵意らしき物は感じられないと僕のX領域も囁いている、彼女から何かしら聞いて、それから判断しても遅くは無いよ」
「だけど…
はぁ、分かったわ。この迷宮自体が危険の宝庫、今更ね」
ハジメが必死こいて扉を押し留めるので香織達も扉を閉める作業を止め、作戦タイムとばかりに4人で話し合った結果、パーティのリーダーと言って良いハジメの提案が採用される事となった。
「君には色々聞かなきゃいけない事があるけど、まずは何故此処にそんな状態でいるか、それを聞かせてくれないかな?」
「私、先祖返りの吸血鬼、凄い力持ってる、だから国の皆の為に頑張った…
でもある日、家臣の皆、お前はもう必要ないって、おじ様、これからは自分が王だって、私、それでも良かった、でも私、凄い力あるから危険だって、殺せないから、封印するって、それで此処に…」
「家臣の為って、君は何処かの国の王族だったんだ。でも殺せないってどういう事?」
「勝手に治る。怪我しても直ぐに治る。首落とされてもその内に治る…」
「そ、それは凄まじいね。凄い力ってその事?」
「これもだけど、魔力、直接操れる、陣もいらない…」
(彼女の言っている事柄が本当なら、確かに野放しにする訳には行かなかったからというのは分かる。だけど彼女の叔父は本当に危険だからという理由だけで此処に封印したのかな?危険だからってだけで封印するならその上で地下深くに埋めれば済む話だ、こんな豪奢で、衛生的で、何かあると言わんばかりの雰囲気全開な部屋を建てる必要なんて無い。彼女も知らない真意があって、封印したのかも知れないね…)
少女をどうするかを決めるべく、彼女から事情を聞くハジメ、彼女曰く自らを捕える『封印』を施された切っ掛けである彼女の凄まじい力(本人談)に驚いたハジメだったが、同時に彼女を封印したという叔父の行動に疑問を抱いた。
ハジメが思う通り危険だからというのが封印する理由であれば、封印した彼女を地下深くへ生き埋めにしてしまえば済む話である、そうすれば仮にその封印を解く力の持ち主が現れたとしても彼女とその存在が出会う確率はぐっと低くなり、それ即ち彼女が解放されて再び自らの立場を脅かす可能性も減るという事である。
だが実際の措置は封印した彼女を豪奢にして衛生的、明らかに何かある雰囲気を発する部屋に幽閉した、ご丁寧にあの2体の巨人を門番みたく配置して。
幾ら余程の強者でもない限り辿り着けないであろうオルクス大迷宮の奈落、その更に奥深くであっても、如何にも見つけて下さいと言わんばかりの無駄に豪華な措置を、危険だからという理由だけで行うだろうか、これは寧ろ「この地へと辿り着き、門番共を蹴散らし、封印を解いた者にこそ彼女は相応しい。彼女が欲しくば数々の困難を乗り越えて見せよ!」という意図があったんじゃないかと考える方が自然だ。
「たすけて…」
とはいえ少女の叔父が本当はどんな意図で封印を施し、この部屋に幽閉したかなど、口ぶりからして彼女は知る由もない様子、折角やって来た現状を抜け出す機会をどうにか手にしようと懇願する。
その如何にも必死な表情を見たハジメは、決意を固めた。
「あっ」
「あの子を助けるって訳ね、全くお人よしなんだから。彼女の言っている事全てが本当の事だとは限らないのに」
「でも雫、あれこそがハジメじゃないの。私達が好きになったハジメは、ああいう奴でしょ?」
「優花ちゃんの言う通りだよ、雫ちゃん。様々な理不尽に直面しても、ハジメ君はハジメ君であり続けた。ハジメ君は、私達の恋人は、優しくも勇敢で、冷静沈着だけど熱い意志を持った、心の強い人だよ」
「確かにそうね。改めて惚れ直しちゃったわ」
少女を封印している立方体に手を置いたハジメの姿に、彼がどうする積りなのか気付いた4人を他所に、ハジメは右手に魔力を流し込み、錬成を開始した。
その手から纏雷を試した時の様に緑色の電流らしき魔力が迸り、立方体に迫るが、まるで迷宮の上下に存在する岩盤の如く、それに抵抗するかの如く弾こうとする。
が、
(何だ!?未来が『同時に沢山』見える!?分割思考か!?錬金術師は錬金術師でも、アトラスの錬金術師にでもなったのか僕は!?でもこれなら行ける、此処だ!)
「無駄な抵抗は止せ!僕には通じない!」
それを予めX領域の力を活かして見ていたハジメ、然もその際に不思議な事が起こった。
何と複数パターンの未来を映した様々なイメージが、同時に浮かんだのである。
まさかの展開に驚くも、それによって対処方法を見つけ出したハジメはそれを基に魔力を放出、イメージを基に封印の『綻び』に近い部分から錬成を行った。
するとイメージ通り、抵抗を物ともせずにハジメの魔力が立方体へと迫り、程なくしてカビの如く侵食して行き、それを食らった部分からドロリと溶け出すかの様に流れ落ちた。
少女を捕えていた枷が少しずつ解かれて行くと、まずは見た目の割には育っている胸部、次いで腰、両腕、太腿といった感じで一糸纏わぬ彼女のやせ衰えた裸体が露わになったが、数秒後の未来を見ていた為に少女が素っ裸である事を知ったハジメが彼女の素肌が露わになる前に立方体から視線を逸らしたのは余談である。
やがて多少の抵抗に伴う疲れこそあったものの特に何の滞りも無く封印は完全になくなり、少女の身体は全て解き放たれ、立ち上がる力が無いのかぺたりと女の子座りで座り込んだ。
「…ありがとう」
少女を解放した後、そっぽを向きながら神水を飲んでいたハジメだったがふと右足に何か巻き付いた様に感じ、その方へ向くとその正体は少女の身、彼の右足に抱き着きながら上目遣いで、震える声で小さくもはっきりとお礼を告げていた。
「礼には及ばないよ、僕が助けたいと思ったから助けただけだし。それより、さ」
そのお礼に対する照れか、それとも相変わらず全裸な彼女の姿を見ての気恥ずかしさか、顔を赤く染めながらそう返した。
ハジメとしては己が意の儘に行動しただけの積りだが少女にとってそれがどれだけ心強かったか、何せ封印を施された上でこの真っ暗闇だった部屋に、話からして彼女の種族と思われる吸血鬼族は数百年前に滅んだと文献にあったのだから大体それ程の長い期間幽閉されていたのだ、それも(叔父本人の真意は兎も角として)信頼していたであろう叔父に裏切られ、不死身の力の所為か命を絶つ事も発狂する事も許される事も無く。
それから漸く解放された少女の心情はいかばかりかと考えようとしたハジメだったが、彼女が全裸のままである事に気付いて、慌てて着用していた外套を脱いだ。
そんなハジメの様子に不思議そうな顔をした少女に、脱ぎたての外套を差し出しながらハジメは言った。
「と、とりあえずこれ着てよ。流石に素っ裸だと目を合わせられないし」
そう言われ、差し出された外套を反射的に受け取りながら自分を見下ろす少女、物凄く長い間封印されていた為に其処まで意識がいかなかったのか、今更ながら自分がすっぽんぽんで、大事な所とかが丸見えになっていたのに気づき、顔を真っ赤にしながらぽつりと呟いた。
「…エッチ」
「何でやねん、不可抗力やがな…」
Xラウンダーによる近未来視でも、肉眼による実像でも見てしまったのは確かである為、何を言おうと墓穴を掘りそうだったが、それでも思わずツッコまずにはいられなかったハジメを他所に、少女はいそいそと外套を羽織っていた、推定140cm位と小柄な少女には、173cmのハジメが着ていた外套は大きすぎる為、一生懸命に裾を折るという微笑ましい様を見せながら。
ところが、
「皆、今すぐ彼女を連れて此処を出て!何か来る!」
「!?わ、分かったわ!」
「着替えている所御免ね!」
「乱暴で悪いけど、急ぐわよ!」
「う、うん…!」
近未来視で見たか、或いは強大な気配を感じ取ったか、ハジメが血相を変えて香織達に指示を飛ばした。
その様子から只ならぬ物を感じ取った香織達も即座に応じ、着替えている真っ最中だった少女を抱えて部屋を後にした、その直後天井から、何か巨大な魔物らしき存在が先程まで少女が封印されていた場所へと降って来た。
体長にして5m程、四本もの長い腕には全て巨大な鋏を持ち、二本生えた尻尾の先端には鋭い針を備え、八本もの足をわしゃわしゃと動かした、分かりやすく言うならサソリっぽい姿の魔物が少女を逃さんと言わんばかりに地上へと、
「降り立つ迄の隙を突かれないとでも思ったの?甘いね」
降り立つ直前そう呟いたハジメがその頭を、魔力を込めた右手で触れ、最早十八番である魔法を発動、その頭から胴体に至るまでの体液に含まれる金属に干渉し、神経系をズタボロにした事で息絶えた。
「何だかただあの子を危険だから封印した、という意図とはかけ離れた仕掛けばっかりだね。今のサソリモドキだって干渉しているタイミングで出せば解放を阻止出来たのにそうしなかった。如何にも彼女を託せる存在を選別するかの様だ。此処にそれを裏付ける物がきっとある、探してみよう」
先程の巨人といい今のサソリみたいな魔物といい、何ともあんまりな展開続きな事を意に介さずそう呟いたハジメは、もう何も無い筈の部屋の中を引き続き探索する事にした。