「これはどうやら、もう一度此処に来ないといけないみたいだね。何かの条件を満たした上で」
香織達に少女を連れて出て行って貰い、サソリらしき魔物をたった一人で秒殺したハジメはその後、少女の封印に関わる物を見つけるべく、何もない様に見える部屋の探索を続けていたが、その結果は芳しくなかった。
こう言うとそれにまつわる物が無かったのかと思われそうだが決してそんな訳ではなく、寧ろそれが存在する事自体は判明したのだが、今のハジメではそれを手に入れる事は叶わないと判明したのだ。
部屋を覆う様々な石、その中の少女が封印されていた場所にあった物を何時もの如く錬成を駆使して変形させた上で退かした所、床の部分に何かしらの紋様が刻まれているのを見つけた。
調べてみるとその向こう側は空洞となっており、恐らく其処に少女を封印した訳を知る事が出来る証拠がある、と此処までは当たりを付けたハジメだが、如何せんその空洞を暴く事までは出来なかったのだ。
何か強固な封印で保護されているのか、穴を掘っても、銃撃で風穴を空けようとしても、錬成でこじ開けようとしても弾かれてしまい、中にある物を取り出す事は出来なかった。
「仕方ない、このサソリモドキを手に入れただけでも良しとしよう。殻はシュタル鉱石だし、肉もかなり強力な物、これ程有用な奴は無い」
彼女に関係する重要な手がかりを目前にして諦めなければならない現状に渋い顔をしながらも、此処での出来事は決して無駄じゃなかったと切り替え、サソリらしき魔物が持つ素材の有用性に感嘆の声をあげながら解体するハジメ。
特に目を引いたのはシュタル鉱石、今までハジメが目にした鉱石とは一線を画す特性を有した鉱石だ。
その特性と言うのは何と魔力との親和性であり、魔力を込めれば込めるだけ硬度を増すのである。
今までハジメが目にした鉱石と言えばほぼ、多種多様な金属元素を有していたり、炸薬等の素材に成り得る化合物を含んでいたり等の違いしか無かったので精錬、それも指定した元素だけを取り出す派生技能、特定抽出を駆使してバラバラにした上で使用していたハジメだったが、鉱石その物に特殊な力が宿っている物は神結晶以来である、その特性を損なわない為に特定抽出は見送り、鉱石その物のままで活かすにはどんな使い方があるか。
新兵器に関する様々なアイデアを浮かばせながら、ハジメは部屋を後にした。
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「…そういえば、名前、なに?」
先に部屋を後にしていた香織達と合流し、次の階層に向けての準備を開始したハジメ達だったが、少女からそう尋ねられた事で、まだ彼女と自己紹介すらしていなかったなと苦笑いしながら応じた。
「ハジメだよ。南雲ハジメ」
「香織です。白崎香織」
「優花。園部優花」
「雫よ。八重樫雫。貴方は?」
ハジメ達の名前を「ハジメ、香織、優花、雫、ハジメ、香織、優花、雫」と、さも大事な物を内に刻み込む様に繰り返し呟き、自らも名乗ろうとしたが、思い直したように、
「…名前、付けて」
「え?付けてってどういう事?まさか、忘れた?」
そうハジメ達にお願いした。
そのお願いに、何百年という長い年月も幽閉されていたのだから忘れてしまったのではと聞いたハジメだったがそうでは無いのか、少女はふるふると首を振り、訳を話した。
「もう、前の名前はいらない。
…ハジメ達の付けた名前が良い」
(さて、どうした物かな。このまま彼女の叔父がどういう意図で彼女を封印したのか、その一端すらも知らせないまま今までの名を、その名で過ごした過去を捨てさせて良い物かどうか。とはいえ、確たる証拠も『あるかも知れない』というあやふやな状態で思い留まるとは考えられない、それ程あの部屋での長い長い監禁は彼女にとってトラウマになっている。叔父の話をしようとした途端、聞きたくないとか言いそうだ。或いはそれも思惑に入れているのかもしれない、過去に対するトラウマを植え付ける事で、救出した存在との新たなる人生を歩ませんとする、ね。なら、乗ってあげましょうか)
「分かったよ。それじゃあ香織、雫、優花。彼女の名前を考えようか」
「そうだね」
「ええ」
「了解」
その理由にハジメは何処か渋い表情を見せたが、今その訳を言った所で聞き入れられる筈も無いかと諦め、願いを聞き入れる事にした。
実際、少女の叔父がどういう意図で彼女を幽閉したのかに関するハジメの推論など、あの場の状況証拠に基づいた物でしか無く、それを確定づけるかも知れない物証も開かずの箱にあり、とあっては信ぴょう性に欠けるのだ。
「クッキーなんてどうかな?」
「お菓子じゃないのよ、香織。それよりトールってどうかしら?」
「何処のメイドやっているドラゴンよ、雫。ガレスなんて良いんじゃない?」
「優花、なんで裏切りモンに頭スコーンと割られる後輩騎士やねん。そうだ、メイリンとか良くない?」
「何で中国が出て来るのかな、ハジメ君?ん、中国?中国…」
こうして香織達も交えて少女の新たなる名前を決める話し合いは始まったのだが、皆してメタ要素満載且つ、色々とアレなネーミングである。
香織の案は壮絶な未来を招きかねないし、雫の案は採用されたが最後チョロイン化するのが確定的に明らか、優花の案ははっきり言って縁起でも無いし、ハジメの案はスピンオフで描かれた姿から生み出されたとしか思えない。
が、その中でハジメが提案した名前に何かインスピレーションを得たのか、香織がぶつぶつと呟き、
「…ユエ。
ユエなんてどう?」
「中国語で月を意味する言葉、ユエ、か。良いね。雫達はどうかな?」
「月、確かに彼女にぴったりね」
「良いじゃない、そしたら今日からあの子の名はユエね!」
新たなる名前の案を提示、これはハジメ達からも、
「ねぇ、ユエでどうかな?」
「ユエ?
ユエ…ユエ…
んっ。今日からユエ。ありがとう」
少女からも好評だった為採用となった。
それから一行は少女――ユエと共に、引き続き準備をしながらお互いの事を話し合った。
その中で、このオルクス大迷宮の最深部には反逆者が住まう場所がある事、其処から地上へと出るルートがあるかも知れないとの情報を得て、ハジメ達が俄然やる気になったのは言うまでもない。
「…ハジメ達、どうして此処にいる?」
そんな中、ふとユエがそう質問した。
それも当然と言えば当然だろう、此処はオルクス大迷宮の奈落、その底の更に奥深く、正真正銘の魔境である、魔物以外の生き物が生きていられる場所では無いからだ。
他にも疑問を言い出したらキリがない、何故人間族の筈なのに魔力を直接操れるのか、何故固有魔法らしき魔法を複数も扱えるのか、何故魔物の肉を食して平気なのか、ハジメ達が使っている武器は一体何なのか、というか根本的にハジメ達は人間なのか。
そんなユエの疑問にハジメ達は律義に答えていく、元来人当たりの良い(ハジメは中学時代の一件で避けられてはいるが)4人である、何だかんだ言いながらもユエを突っぱねる事など出来ないのだ。
ハジメ達が愛子や幸利、他のクラスメートと共にこのトータスに召喚された事から始まり、故郷の兵器を基に現在使用している武器を開発した事、召喚前から香織達の存在故に諍いが絶えなかった事、ベヒモスとの戦いの最中クラスメートの誰かに裏切られた事が切っ掛けとなって奈落に落ちた事、ある意味で命の源となったヴァーダ(に保存されている神結晶)の事、生きて脱出する為に魔物を食した事で身体が変化した事、地上に残してしまった幸利や愛子に対する心配事をつらつらと話していると、何時の間にかユエの方からグスッと鼻を啜る様な音が聞こえ出した。
「わ、ちょ、あの」
「え、だ、大丈夫?」
「い、いきなりどうしたの?」
「な、何で急に泣くのよ?」
「…ぐす…皆…辛い…私も…辛い…」
どうやら泣いていた様だ、それに慌てたハジメ達に己の想いを口にするユエ、どうやらハジメ達に降りかかった不幸が余りにも辛い物だと、彼らの為に泣いていたのである。
「あはは、ありがとう。まあでも、過ぎてしまった事はしょうがないって今では割り切っているよ。今はそんな些事に拘るより、生き残る術を磨く事、此処から脱出する事、故郷に帰る事、それに全力を注がないと」
「「「うんうん」」」
そんなユエに驚きながらも何処か嬉しかったのか、礼を言いつつユエの頭を撫でて慰めながらそう話すハジメ、すんすんと鼻を鳴らしながらも撫でられるのが気持ちいのか猫の如く目を細めつつ話を聞いていたユエだったが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応した。
「…帰るの?」
「元の世界に?まあそれは、帰りたいよ。色々変わっちゃったけど、故郷に、家に、あの日常に、帰りたいさ…」
「…そう」
素直に故郷への想いを口にするハジメの言葉を聞き、顔を俯かせたユエ。
「…私にはもう、帰る場所、無い…」
「…あー、そっか」
そうポツリと呟いたのを聞いたハジメは、撫でている手とは反対側の手で己の頭をカリカリと掻いた。
ユエはまた自分の居場所を、新たな名前を付けてくれたハジメ達の側という居場所を失う事を恐れ、その未来を想像して悲しみに暮れているのかも知れない、と感じたハジメの口から、自然とこんな問い掛けが出た。
「なら、ユエも一緒に来る?」
「え?」
「僕の、僕達の故郷にさ。勿論、飛び越えなきゃいけない問題は山ほどある。魔力が無い人間だけの世界だからユエの力は大っぴらに振るえないし、向こうの世界出身じゃないから無国籍として扱われるだろうし、何より此処トータスとは文化も国民性も何もかも違うから窮屈な生活を、強いられているんだ!ってなり得るけど。まあ、ユエが望むなら、だけどね」
「良いの?」
「ああ。僕達の世界に来て、家族になろうよ」
ハジメにしてみれば純粋にユエの身を案じての提案であって他意は無かった、家族になろうよ発言も見ず知らずの家に行くより自分がいる南雲家で引き取った方が何かと安心だろうし、裕福な家だから1人増えた所でどうと言う事は無い程度の意味でしかなかったのだが、
「ハジメ、大好き!」
「え゛」
ユエにとってそれは、己が恋心を対物ライフルでぶち抜くが如き殺し文句、変化に乏しかった筈の彼女の表情が一転、ふわりと花が咲いた様な笑みを浮かべながら抱き着き、自らの想いの丈をぶつけた。
ユエからの愛の告白に、今更ながら自分の発言が彼女をオトすのには十分過ぎた事に気づき「あはは…」と苦笑いを浮かべるしかなかったハジメだったが、そんな彼に香織達は呆れ顔だった。
「ハジメ。アンタはイタリアの伊達男でも目指しているの?」
「いやガンプラ使うてのナンパとかしてへんわ!」
「ハジメ君。別にハーレムを作る事も、新しい恋人をつくる事も良いよ、既に私達3人がいて、愛ちゃんやリリィも加わるかも知れない中で今更だし、私達の事も、その新しい恋人も見捨てたりはしないと信じているから。でも息を吸う様に女の子を誑し込むのはどうかな?かな?」
「息を吸う様にって何でやねん!?僕はギャルゲーの主人公かいな!?」
「しかも相手は年端も行かない女の子じゃない、流石にそれは」
「いやこんななりでも300越えとるで!」
「…マナー違反」
「あ、いや、その、えーと…
すいませんでした」
やっぱりプレイボーイじゃないか!と言わんばかりの恋人達による非難に関西弁でツッコむハジメだったが其処でユエの実年齢に触れるというタブーを犯してしまい、非難の意を込めたジト目で睨まれた事で降参となった。
因みに話し合いの中で出て来たネーミングですが、
クッキー…クッキー・グリフォン(機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ)
トール(小林さんちのメイドラゴン)
ガレス(Fate/GrandOrder)
メイリン…紅美鈴(東方キャノンボール)
全てユエの担当声優である桑原由気さんが担当したキャラ、つまり中の人ネタですw