ユエが幽閉されていた部屋での出来事を経て再び探索を開始したハジメ達は、今までと比べても早いペースでオルクス大迷宮を下へ下へと下っていた。
進む度に強力な魔物が出現するこの迷宮において、其処までの攻略スピードを叩き出せた要因は何かと聞かれたら、やはりあの部屋で得たものであると彼らは即座に答えるだろう。
そう、
まずはユエ、魔力量こそ香織に及ばないが、詠唱はおろか陣を刻む事すら必要なくあらゆる属性の最上級魔法を即座に発動出来るその火力は、ハジメが開発した兵器で身を固めた彼らと比べてもそん色なく、自らの叔父によって封印される程の凄い力と説明した通りの実力を如何なく発揮していた。
尤も其処までの魔法を乱発すると直ぐに魔力が枯渇してしまう(然もこの状態で受けた傷は、自らの力では治らないとの事)上、身体能力の低さから接近戦が苦手というハンデこそあるものの、魔力に関しては吸血鬼であるからか血を吸う事によって回復出来るらしく、主にハジメの血(恋愛感情もあるが、本人曰く「何種類もの野菜と肉を煮詰めた熟成スープの様な味」だった為らしい)を吸う事で弾切れの心配なくその火力を振るえる様になった。
一方でハジメ達も負けてはいない、今までに使用していた兵器は勿論の事、手に入れたシュタル鉱石を使って新たに、ハジメが背負っている大容量バックパックの形をした兵器『メルキューレ*1』を開発した。
普段はバックパックとしてハジメの背を守る以外の働きをしないが、魔力を流し込む事で液状化し、Fate/Zeroに登場した
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こうしてユエを仲間にしてから2週間足らず、ハジメ達が奈落へと落ちてから通算で一ヶ月近く、彼らは次の階層で記念すべき百階目にあたる所まで辿り着いており、その下り階段が目前にある地点で装備の確認及び補充に当たっていた。
「皆…いつもより慎重…」
「うん。次で僕達が落ちて来た所から百階層目だからね」
「私達があの部屋から落ちた時点で、推定で六十五階層辺りに辿り着いていたから、今更だけど四十階層を超えた時点であの場所が、地表と繋がっている迷宮の続きという可能性は無いと思ったんだよね」
「きっと落ちて来た先のあの階層こそがオルクス大迷宮の新たなスタートだと思うわ。となれば…」
「次こそこの大迷宮の最深部、アタシ達が目指す反逆者の住処って事になるわ。そうだと決まっている訳じゃないけど、一般に認識されている地表からの迷宮も百階層あると言われているから、念の為ね」
身体能力が低い為にハジメが開発した武器の殆どを『ただの物理兵器』としてしか使えず、だったら最上級魔法をぶちかました方が効果的だという事で弾丸等の消費が無かった為、補充する物が無く暇なユエが、ハジメ達が入念に準備する様子を見て抱いた疑問に対し、彼らはそう答えた。
あと少し、確たる情報こそ無いがハジメ達にはその確信があった、とはいえゴールを目前に望みが絶たれるなんて展開は自分達の様にダンジョンを探索する物語では勿論、現実でも数多くの場面で起こって来た事、此処までに兵器の扱いや近接格闘、固有魔法等々、持てる力に相当磨きを掛けた彼らであってもそれがあり得る位この迷宮は恐ろしいのである、準備してもし過ぎる事は無いと入念に行っていた。
そうこうしている内に準備を終えたハジメ達は満を持して最下層であろう下階へと続く階段を下って行った。
「案の定って奴かな」
「だね、ハジメ君」
「如何にもな空間ね」
「あの先が、あの扉の先が…」
「反逆者の住処…!」
その階層は、直径5m、螺旋模様と木の蔓が巻き付いた様な彫刻が彫られた無数の、規則正しく並べられた柱によって支えられた高さ30m位の広大な空間だった。
その柱に、ハジメ達が侵入したのを感知したのか手前から順に灯る明かり、地面も整備されているのか平らで綺麗なもの、200m以上先の向かい側には美しい彫刻が彫られた巨大な扉が道を塞いでいるという明らかに人工的な、荘厳さを感じられる場所である。
自分達の推測が当たっていた事を認識しつつ、この先は不味いと本能が警鐘を鳴らすのを感じ取ったハジメ達だが、進まなければ脱出など叶わないとそれを排除し、覚悟を決めて扉へと進んで行く。
そして最後の柱を通り過ぎようとしたその時、
「皆、どうやらラスボスのお出ましみたいだよ。構えて!」
「ん!」
「分かったよ、ハジメ君!」
「ええ、ハジメ!」
「さて、蛇が出るか鬼が出るか、はたまた猛獣が出るか!」
Xラウンダーの力によって、強大な存在と会敵する未来を見たハジメが指示を飛ばし、それを受けて香織と優花は最上級魔法を発動する為の陣を刻み、その必要が無いユエは己の右手を目前に突き出して強力な魔法攻撃を行う構えを見せる一方、ハジメは背負っていたメルキューレをロケットランチャー型に変形させて前方に砲口を向け、雫はヴィーフリの銃口を同じく前方に向けた。
そんなハジメ達を他所に、扉と彼らとの間に30m程の巨大さを誇り、赤黒く輝き、心臓の如くドクドクと脈打つ様に音を響かせる魔法陣が出現、弾けるように光を放ち、それによって召喚されたであろう魔物が姿を現す――
「出鼻を挫かれるとは思わないのかな!」
「『天灼』!」
「汚物は消毒だぁぁぁぁぁ!」
「スターライトブレイカー!」
「食らいなさい!」
瞬間、そんなの待っていられるかと言わんばかりにハジメ達の猛攻がその魔物へと襲い掛かった。
ユエの雷撃が、優花の火炎放射が、香織のレーザーが、雫のボーク・スミェルチ弾が、そしてハジメの荷電粒子砲が、標的が出現する瞬間を突いて襲い掛かる、此れまでも何度か実行され、結果を残した奇襲戦法が今回も迎撃体制の整わない魔物相手に牙を剥き、
「流石に、最初に見た光景は最上級魔法の嵐、なんて状況は想定していなかったのかな」
「随分呆気ないわねぇ、反逆者の住処を守るって豪語するならこういう状況も考えておきなさいよ」
「ここまで思い切った先手必殺はそうそう無いでしょ」
「…ハジメがいるから出来た、普通なら自殺行為」
恐らくは蛇の魔物だったのだろう、足の無い胴体から尻尾までの部分を残して塵に変えた。
上半身を消し飛ばしてしまえばどんなに強大な魔物であろうと無事である筈が無いと安堵したのか、そう話し合う香織達だったが、
「…ハジメ?」
「ハジメ君?」
唯1人ハジメだけは未だ警戒を解く事無く目前の、胴体から下だけとなった魔物を睨み付けていた。
「はっ!」
「は、ハジメ!?」
「ど、どうしたのよ急に!?」
かと思えば右手に魔力を集めつつ、自分の彼女達が驚くのを他所に魔物へ向かって猛ダッシュし、魔物の死体まであと少しの所で飛び越え、
「言ったでしょ、出鼻を挫かれるとは思わないのかなって」
ジャンプする同じタイミングで胴体部分の切り口から銀色の上半身が生えて来た魔物の頭部を掴み、そう呟きながら十八番である錬成を発動、やはりと言うべきか頭から尻尾に至るまでの体液に含まれる金属に干渉して神経系をズタボロにし、今度こそ討伐に成功した。
「ま、まさか新しい頭が生えて来るなんて…」
「先手必殺対策はバッチリって事だったのね…」
「ハジメがいなかったらと思うとゾッとするわ…」
「…ハジメは本当に凄い」
まさかあの状況から魔物が復活すると思わなかったのか、青ざめた表情で自分達の生死が間一髪だった事を思い知らされた香織達、一方でそれすらもXラウンダーによる近未来視で難なく対処して見せたハジメへの信頼感と慕情が強まりもしたのは言うまでも無いだろう。
その後、扉がまるで自動ドアの如く横開きされたのを見て、ハジメ達は魔物の骸を回収しつつその先へと向かって行った。
「此処が、反逆者の住処…」
「人工太陽か、此処までの物を作り上げるとはね」
「森林もあれば川もある、畑や家畜小屋まであるし、自給自足には最適な環境だね」
「あそこが実際の住居って訳ね。岩壁をそのまま加工した感じね」
「てか何で神殿というか、テラスと言うか、そんな所にデカいベッドがあるのよ…」
其処に広がっていたのは、隠れ家と言うにはかなり大規模且つ手の加え様が凄い光景だった。
真っ先に目についたのはハジメ曰く「人工太陽」と称した物体、天井に円錐状の物がぶら下がっており、その底面に煌々と輝く球体が浮いているのだが、蛍光灯の様な無機質さではなく、自然光の様な仄かな温かみを感じさせることから彼はそう称した。
次に注目すべきは部屋の奥にある壁の天井付近から噴き出す大量の水、それらは壁一面を流れる滝となり、川となって奥の洞窟へと流れていくのだが、地上の水源から繋がっている事を物語る様に魚も生息、更にそれを水源としているのか少し離れた所に畑やちょっとした森林もあり、空っぽではあるが家畜小屋もあった。
その反対側にはハジメ達の目的地である反逆者の住処であろう、岩壁を加工して作られた建造物があり、優花がツッコんだ様にパルテノン神殿を思わせるテラスタイプのベッドルームが併設されていた。
「じゃあ行こう、あそこに此処を脱出する術がある筈。だけど皆、決して油断しないで」
「うん、ハジメ君」
「ええ、ハジメ」
「勿論よ、ハジメ」
「ん、ハジメ」
此処に目的の為の術がある筈、そう確信したハジメ達は緩みかけた気を引き締めながら、建造物の探索を開始した。