【完結】機動戦士ガンダムRevolt   作:不知火新夜

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17話_真の歴史

その住居は岩壁の素材もあってか大理石の家を思わせる物で、三階建てらしき建物内は上まで吹き抜けになっており、天井から突き出た台座に灯った温かみのある光球が全体を照らしていた。

まずは一階、床に敷き詰められた柔らかな絨毯に暖炉とソファが設けられたリビング、キッチンやトイレ等の水回りと『家』に最低限必要と言える部屋を発見したが、長年放置されたと推測される割には手入れが行き届いていた、ゴーレムか何かが担っているのだろうか。

その奥に行くと再び外に出たが、其処には大きな円状の穴があり、淵にはライオンらしき動物の彫刻が鎮座しており、隣に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むとその口から温水が吹き出し、穴の中を温水で満たした、ライオンの像が口から温水を吐くのはこの世界でもお約束らしい。

 

「露天風呂みたいだね、これ。お風呂なんて凡そ一ヶ月振りだよ」

 

オルクス大迷宮の最深部であり、本物の空が広がっている訳じゃない為厳密には違うが、それは正に露天風呂だった、日本人であるハジメにとってこれ程欲した物は無いと言っても過言じゃない。

 

「後で一緒に入ろうよ、ハジメ君」

「良いよ、恋人同士だし。でも改めて言うけど、本番はまだ駄目だよ。愛子を仲間外れにしたくない」

「お願い先っぽだけ、先っぽだけだから…」

「ユエは何でそのネタ知ってんのよ?」

「絶対後で先っぽだけって言ったのに…となる展開ね」

 

それは香織達も同じだ、此処の調査が終わり次第風呂に入ろうと誘ったのは言うまでも無い。

その誘いに、絶対風呂に入るだけでは終わらないなと感づいたハジメが釘を刺したのも言うまでも無い。

その自制を求めるハジメの言葉は付き合い始めた当初から聞いていたのか、香織と雫、優花が納得していた一方でユエがどうしてもヤリたそうにしていたのも、言うまでも無い。

それはさておき、二階に上がって探索を再開すると其処には書斎や工房らしき部屋があった。

ところが書斎にある棚、工房の中にある扉らしき物には封印が施されておりそれを開ける術は無く、ハジメの錬成による強引なこじ開けも弾かれてしまったので一旦諦め、探索を続ける事に。

そして三階、此処は階段の向こう側にある一部屋だけの様で、扉を開くと其処には、直径7,8m程の巨大で尚且つ緻密に刻まれた魔法陣が床の中央に刻まれていた一方、その向こう側に置かれた豪奢な椅子には、既に骨と化した骸が豪華なローブを羽織り、俯いた体勢で座っていた。

既に白骨化しているあたり死後相当な年月を経ているのだろうが、その割に薄汚れた印象も、不衛生な印象も感じられず、お化け屋敷で良く見掛けるオブジェと言われても違和感はない、恐らくは建物全体の管理を担うゴーレムらしき存在が手入れしている為だろう。

それにしても何故此処で、とハジメは目前の骸について考えていた、見た所この場所で目当ての存在を待つ内に果てたと言うしかない構図、明らかにこの魔法陣に入れと言っている様である。

 

「…怪しい、どうする?」

 

そんな何かある事が確定的に明らかなこの魔法陣にさっさと乗り込む存在はそういない、ユエも怪しさ満載なこの部屋の光景に疑問を抱き、ハジメに指示を仰いだ。

そう、X()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ハジメに。

 

「…どうやら反逆者の1人が、何かを僕達に伝えようとしているらしい。

罠らしき反応も無い様だから大丈夫だと思う」

 

それに対するハジメの言葉を受け、魔法陣へと足を踏み入れんとする香織達の姿に、自らの一言だけで躊躇なく足を踏み入れようと出来る程Xラウンダーによる近未来視は信頼を得たと言って良い光景に満更でもない様子だったが、何時までも感慨に耽っている場合ではない。

 

「「「「「せーの!」」」」」

 

一斉に掛け声を発して魔法陣へと踏み出した5人、そのまま中央まで入り込んだその瞬間、純白の光が爆ぜ、部屋を真っ白く染め上げた。

余りの眩しさに思わず目を閉じたハジメ達だったが、直後に何かが頭の中に侵入した様に感じ、それと同時に奈落に落ちてからの事がまるで走馬灯の様に駆け巡った。

視界を潰す白い光と、記憶を覗き込む様な感覚に翻弄される5人だったがやがてそれが治まったように感じられ、それを受けて目を開けた彼らの目の前には、黒い衣服に身を包み、骸が着用しているローブとそっくりな物を羽織った青年が立っていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか…

メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。

…我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

突如現れた青年――オスカーからの注意喚起を受けて始まった話は、ハジメ達が聖教教会で教わり、自主学習の際に調べた歴史や、ユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

昔々、神代と呼ばれた時代から少し経った時の事、世界は争いで満たされ、人間族と魔人族、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。

争う理由は領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、最も多いのは『神敵』だから。

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、其々の種族、国がそれぞれに神を祭っており、その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

だがそんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた、それが当時『解放者』と呼ばれた集団である。

彼らには共通する繋がりがあった、それは神代から続く神の直系の子孫であったという事。

その為か解放者のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

何と神々、いや、あらゆる神の正体であるたった1柱の神は、人々を駒とした遊戯の一環で戦争を促していたのである。

解放者のリーダーは、その神――エヒトルジュエが裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てている事に耐えられなくなり、志を同じくするものを集め『神域』と呼ばれる、エヒトルジュエがいると言われている場所を突き止めた。

こうして解放者のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神に、エヒトルジュエに戦いを挑んだが、その目論見は戦う前に破綻してしまう。

何とエヒトルジュエは人々を巧みに操り、解放者達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした『反逆者』のレッテルを貼られた解放者達は討たれて行き、最後まで残ったのは中心の七人だけだった。

世界を、守るべき人々を敵に回した事実に直面した彼等は、もはや自分達ではエヒトルジュエを討つ事は出来ないと判断し、バラバラに散らばって、大陸の果てに迷宮を創り潜伏する事にしたのだ。

試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、何時の日かエヒトルジュエの遊戯を終わらせる者が現れる事を願って。

 

「君が何者で何の目的で此処に辿り着いたのかは分からない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何の為に立ち上がったのか…

君に私の力を授ける。どの様に使うも君の自由だ。だが、出来れば悪しき心を満たす為には振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらん事を」

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑みながらそう締め括ると共に、記録映像はスっと消えた。

同時に、ハジメ達の脳裏に何かが侵入して来る。

ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいた為と理解出来たので大人しく耐えた。

 

「皆。僕は解放者達の意志を継いで、神を、エヒトルジュエを討とうと思う」

 

魔法を会得する為の処置による痛みも治まって少し経ったその時、ハジメはそう話し始めた。

その内容は、解放者達の意志を継ぐ決意表明だった。

 

「恐らくエヒトルジュエはこの世界に飽きて、新たなる楽しみを得ようと、別の世界に生きる僕達を無理矢理召喚したのだと思う。そして僕達に関する一件がひと段落したら、今度は僕達が住まう世界を第二のトータスにすべく介入するだろう」

「多分、というか絶対にするわよそれ。聞いた感じの性格だと」

「それを行える力があると分かった以上、やらなきゃ損だと言わんばかりに実行するわね」

「うん。だけどそんな事を許しては地球にいた頃にあった僕達の、周りの人達の尊い日常は無惨に引き裂かれてしまう。たった1人の、遊び感覚で。そんな事はさせない。僕は僕達の世界を、大切な人を、今ある日常を守る為に戦う。神を、エヒトルジュエを討つ!」

「うん、ハジメ君!私達も戦うよ、ハジメ君達との、大切な人達との日常を、世界を守る為に!」

「ん!」

 

とはいえその理由は此処トータスの、この世界の人々の為かというとそうでは無く、あくまで元いた世界の、大切な人達の、嘗て当たり前の様にあった日常を守る為。

この世界に対する思い入れなど余りない(精々リリアーナ関係だけ)という、解放者達にとって「ちょっとそれは…」と言いたくなる様な心持ちではあるが、此処にそれを咎める存在はいない。

ハジメと同じ世界から召喚された香織も、雫も、優花も、この世界での事など嘗ての名と共に捨て去ったユエも、自らの恋人を始めとした大切な人を、日常を、元居た世界を守る為にと賛同した。

 

「とはいえ、今のまま挑むのは厳しいと思う。今まで順調と言えなくもない戦いだったけど、それはこのトータス基準での話。それを支配するエヒトルジュエ相手となれば力不足感は否めないね。そもそも解放者達はエヒトルジュエと戦ってすらいない、その前に人々の手によって追い詰められたから。どれ程の力を有しているかの基準が無い」

「あー、問題は其処だね。エヒトルジュエに挑む以上、トータスの人々からの干渉は避けられない」

「場合によってはクラスメートの皆も其処に入るかも知れないわね」

「光輝とかは勇んで止めようとするわね、ハジメに刃を向けたりとかして」

「…なら、どうする?」

 

然しながらエヒトルジュエを倒すと言う確固たる決意だけで神殺しを達成出来る程世の中は甘くない、それが出来るなら解放者達がやってのけている筈だ。

エヒトルジュエに戦いを挑む上での様々な困難が上がり、改めて討つべき敵の強大さを実感した香織達だったが、

 

「其処は抜かりないさ。エヒトルジュエに、奴が保有しているであろう魔物等の戦力に対抗する為の術は考えてあるよ。それがこれさ!」

「「「「こ、これは…!」」」」

 

それに対抗すべくハジメが考案していた『術』を書き記した資料を目にした彼女達は、その強烈さに驚きの表情を露わにした…




次回、やっとタイトル通りの展開になる…かも。

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