19話_残念ウサギとの出会い
これまで何度と経験して来た魔法陣による転移、その光に視界が満たされた中で何となく空気が変わった、これまでの閉塞空間特有の澱んだそれとは明らかに違う、新鮮さを感じる様になった事にハジメ達は何処か頬が緩んだ。
やがて光が晴れ、それを感じ取ったハジメ達の視界に映ったのは、
「「「何でやねん…」」」
洞窟だった。
その残念極まりない状況にがっくりという擬音が聞こえて来そうな程落胆し、己の恋人みたく関西弁でツッコむ香織達、一方でユエはこうなる事を予想していたのか落ち込んだ様子は無かった。
「いや、ね?僕達が今までいた場所は嘗てオスカー・オルクスが隠れ家として使っていた場所、其処が簡単に発見される訳には行かないから、こうして転移先に洞窟を指定するって感じでワンクッション置くという理屈は分かるよ?オスカー含む解放者達は世間一般ではエヒトルジュエに、聖教教会に刃向かった『反逆者』扱い、その隠れ家が見つかったらどうなるかなんて火を見るよりも明らかだからね、うん。頭では分かっているんだよ、頭では。その上で言わせて貰って良いかなぁ…?」
それはハジメも同じ様で、己の推測を話始めたがその口調は、裏切られたと、納得いかないと言わんばかりに心なしか荒っぽくなっており、それを感じ取った香織達は彼が爆発寸前だと確信、一行の中で最も筋力に優れるなど近接戦闘に強い雫が何時でも彼を止められる様、真後ろにスタンバイしていた。
そして。
「何でまた洞窟やねん!?こちとら三ヶ月近く、ユエに関しては三百年以上もお天道様拝んでへんのやぞ、せやのにこないな湿気たトコに飛ばすとか舐めとんのかゴルァ!さっさと僕達を地上に出さんかいアホボケカスワレェ!」
「は、ハジメ、気持ちは分かるけど落ち着いて。こういう感じにしたオスカー・オルクスはもう亡くなった後なんだから」
怒りの余りヴィーフリを手に暴れまわろうとしたのを雫が羽交い絞めにして止めたが、それも構わず如何にもキレてますと言わんばかりの、関西のチンピラみたいな口調で抗議の声をあげていた。
が、雫の言う通り抗議すべき相手はとっくの昔にあの世へ行ってしまっている、何時までもキレている場合じゃないと切り替え、先を進む事にした。
洞窟内は真っ暗だったが夜目を取得していたハジメ達と、吸血鬼族である為かこういう環境に強いユエには何の問題も無く、道中に仕掛けられている幾つかのトラップや、封印が施された扉も、ハジメが嵌めている指輪が、宝物庫の母体である宝石が嵌め込まれた指輪が反応した事でひとりでに解除したので、警戒していたのが馬鹿らしく成る程滞りなく進む事が出来、
「ち、地上だ…」
「青い空、済んだ空気、本物の太陽…」
「帰って来たのね、私達…」
「長かった、長かったよぉ…」
「ん…」
歩く事数分位で感じ取った『外の』気配、人工的な物じゃない太陽の光、風の流れ、それを身に浴びたハジメ達はまるで示し合わせたかの様に同じタイミングで駆け出し、待望の地上へと出た。
先程ハジメが怒り狂った際に言った通り、ハジメ達は三ヶ月近く、ユエに至っては三百年以上もご無沙汰だった地上、其処へ出られた事を噛み締める様に呟き、
「ソロモンよ!」
「「「「「私は帰って来た!」」」」」
機動戦士ガンダム0083に登場する『ソロモンの悪夢』ことアナベル・ガトーの代表的な言葉を同時に叫んでいた。
尚、地球出身では無い筈のユエも一緒に叫んでいたが、前以て打ち合わせしていた訳ではない、その件で実は、ユエの前世は地球人だったんじゃないかという疑惑が浮上したが余談である。
とそんな彼ら、正確にはユエに対し、舐め回す様な視線が向けられたとハジメは感じ、
――刻むよ?
と、視線の主がいるであろう虚空を睨み付けながら、Xラウンダーの力を活かした強烈なプレッシャーを叩きつけてやった。
物理的なそれでは無いとはいえまさか攻撃されるとは思わなかったのか、或いはハジメがぶち込んだプレッシャーによるダメージが思いのほか強大だったのか、視線の主が慌てて逃げ去るかの様に、視線を感じなくなった。
「ん?」
「どうしたの、ハジメ君?」
「何か、殺気みたいな物を感じたけど…」
「ああ、ちょっとした野暮用だよ」
「随分と物騒な野暮用ね…」
どうやらハジメ以外は視線に気づかなかったのか、突如Xラウンダーの力を解放したハジメに驚きを見せた香織達、ハジメもそれを察し、態々不安を煽る事もないだろうとあやふやな返答をした。
それはさておき、現時点で自分達が何処にいるのか調べようとしたハジメ達だったが、自分達の、正確には自分達が身に纏っているISの表面に展開されている筈であるシールドバリアが全く機能していないのに気づいた事で、此処が何処か、自分達がどんな状況に置かれているのか把握した。
此処は西のグリューエン大砂漠と東のハルツィナ樹海の間まで、大陸を南北に分断する峡谷、大気中に少しでも漏れたら即座に分解され消失してしまう事から殆どの魔法が使えず、一方で断崖の底には強力な魔物が生息する、正にこの世の地獄、重罪人の処刑場、大地に深く刻まれた傷跡――ライセン大峡谷、ハジメ達はその谷底にある洞窟の入り口にいたのだ。
人間族や魔人族等、魔力を扱う者にとっては危険極まりない此処ライセン大峡谷、その影響はハジメ達も、彼らが身に着けている武装も例外ではない。
その高い性能から平時の移動用としても使われる事となったIS、装着者と『接続』する事で魔力を外部に漏らす事無くその性能を発揮できるため、基本的な機能は問題なく使えるのだが、その性質からどうしても魔力を外部に放出せざるを得ないシールドバリアやカスタム・ウィングまではどうしようもない、魔力が駄々洩れになるだけになってしまう以上シールドバリアの機能はOFFにするしか無く、ブースターからの魔力放出を開始した瞬間からそれが分解されてしまう為に満足な推力を得られないのだ。
「皆。気付いていると思うけど此処はライセン大峡谷の谷底みたいだね。どうやらシールドバリアは使えず、ブースターも本来の力を発揮出来ない状況、魔法も殆ど使えないと言って良いと思う。だけど本来の力を発揮出来ないだけで飛行その物は出来る、だから登ろうと思えば直ぐに登れるけど…
どうしよう?ライセン大峡谷と言えば七大迷宮があると考えられている場所、折角だから樹海側へ向けて探索しながら進んだ方が良いと思うけどどうかな?」
「…何故、樹海側?」
「ユエ、峡谷抜けていきなり砂漠横断とかそれなんて拷問?って話だよ?」
「幾ら私達にはISがあると言っても、ずっと同じ風景を見せられるのはね…」
「それに樹海側なら町にも近そうじゃない?確か樹海の近くにヘルシャー帝国っていう人間族の国があった筈よ」
「…確かに」
自分達が置かれている状況を把握したハジメからの提案、流石に雫が言う状況は避けたかったのか、或いは優花が言う通り町が近くにあるのを期待してか、反対する者はいなかった。
尚、そんな話し合いをしている彼らの隙を突いて魔物が襲い掛かって来そうな状況ではあるが、先程ハジメがXラウンダーの力で発した強烈な殺気に怖気づいたのか、1体の例外なく逃げ去った為、そんな事は無かった。
此処自体が七大迷宮という訳では無いと決めつけるかの如くハジメが話しているのも、直接向けられた訳ではない殺気程度で怖気づく様な魔物しかいない所が七大迷宮である筈が無いとの考えからだ。
方針が決まれば話は早い、善は急げと言わんばかりにカスタム・ウィングのブースターから魔力を放出、それが直ぐに分解される関係で自動車並みの速度までしか出せないながらも樹海へ向けての移動を開始、ハイパーセンサーによって広大化した視野を存分に活かして大迷宮への入り口を探しながら迷う事無く(真っすぐに伸びた地形なので迷い様が無いが)樹海側への道を進んで行く。
そんな最中、それ程遠くない場所から魔物らしき存在による咆哮が聞こえて来た、方向からして進路上にそれがいると思われ、凡そ30秒後に遭遇するだろう。
そのまま進むと案の定大型の魔物が現れた、見た感じティラノサウルスっぽい姿だが頭は2つ、所謂双頭の暴龍型魔物だ。
が、ハジメ達が注目したのはそっちでは無く、その足元でぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女の方だ。
その特徴からして兎人族と呼ばれる、亜人族の一種であろう少女、樹海に住んでいる筈の亜人族が何故ライセン大峡谷の谷底にいるのか、遺伝子的に黒や紺色の髪になるのが普通と言われている中で何故淡い水色の髪なのか、色々とツッコミどころはあったが、
「伏せて!」
「は、はい!」
その光景を目の当たりにしたハジメがどの様な行動を取るか、その答えは色んな意味で想像通りだった。
少女に指示を飛ばしながら宝物庫からカスチョールを取り出して魔物に砲口を向け、少女が指示通り地べたに伏せたのと同時にその引き金を引く。
『ガァァァァァ!?』
爆薬の他にも金属の矢を弾頭に沢山仕込む事で殺傷力を高めた『フレシェット弾』の直撃を受けた魔物は、爆発と共に放たれた無数の凶刃全てをその身で食らう事となり、断末魔の叫びをあげながら息絶えた。
「す、凄い…ダイヘドアを一撃で…」
ダイヘドアというらしい魔物がまさか瞬殺されるとは思いも寄らなかったのだろう、その叫びを聞いて後ろを振り向いた時には既にその死骸が転がっているという夢でも見ているんじゃないかという光景にただそう呟くしかなかった少女の元へハジメは近づき、
「大丈夫?ケガはない?」
「あ、はい、大丈夫です!助けて頂きありがとうございます!私は兎人族ハウリアの1人、シアと言います!」
少女に声を掛けたが、
「取り敢えず私の仲間も助けて下さい!」
「…ゑ?」
その少女――シアはかなり図々しく、図太かった。