「私の仲間も助けて下さい!」
「…ゑ?」
まさかの要望に、シアからの図々し過ぎるお願いに一瞬唖然としたハジメ。
だがお願いするシアも必死なのが顔から伝わったのでその図々しさをツッコむ気にはならず、かといっていきなりそう言われても『どう助ければ』良いのか分からないので説明を求めた。
「一先ず訳を聞かせて欲しいな。それが分からない事には対応のし様が無い」
「あ、はい。実は…」
ハジメに促されて訳を話し始めたシア、纏めるとこうだ。
シア達ハウリアを名乗る兎人族達はハルツィナ樹海内にある亜人の国『フェアベルゲン』の一角に数百人規模の集落を作り、身体的なスペックの低さと温厚で優しい性格、集落全体を家族として扱う仲間同士の絆の深さからか集落内はおろか他の亜人族とも争いを起こす事無く穏やかに暮らしていた。
そんなハウリア族にある日、異常を抱えた女の子――シアが生まれた。
前話でも言った通り兎人族の髪色は基本的に黒や濃紺であるにも関わらず生まれつき青みがかった白髪であった事、亜人族が持たない筈の魔力を持っていた事、それを直接操る術を会得していた事、そして特有の固有魔法を有していた事、兎人族はおろか亜人族全体でもあり得ない特徴を持ってシアは生まれたのである。
勿論、亜人族として異様な特徴を有するシアが生まれた事に一族は大いに困惑し、対応に苦慮した。
此処でシアにとって幸運だったのは、生を受けたのが亜人族でも飛びぬけて家族の情が深いハウリア族だった事、彼女を捨てるという選択肢を選ぶ事は無かったのだから。
だがフェアベルゲンにその存在が明るみになれば確実に処刑される。
亜人族はその魔力を持たないという特徴から人間族からは「神から見放された獣もどき」と差別され、魔人族からも雑魚扱いされる等して酷い迫害を受けて来た歴史があり、魔力を持たないが故の戦闘手段の乏しさから魔物も他種族以上に脅威と感じているのだ、魔力を有する生物への忌避は、敵意はもう凄まじいの一言、それを樹海内で見つけ次第直ちに殲滅するべしと法で定められている程だ。
よってハウリア族はシアの存在を隠し、十六年もの間ひっそりと育てて来たが、先日とうとう彼女の存在がバレてしまい、フェアベルゲンに捕まる前にと一族ごと樹海を出たのだ。
だが夜逃げ同然で樹海を後にした彼らに行く宛など無い、一先ずは北の山脈地帯を目指す事にした、其処なら山の幸があるから当分は生きていける、未開の地だがヘルシャー帝国やら奴隷商人やらに捕まって奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ、との考えからだ。
だが其処でシアの固有魔法――彼女曰く「未来が視える」魔法によって、巡回か訓練かは分からないが中隊規模で活動していた、その帝国の兵士達に遭遇する未来が視えた事で方針変更を余儀なくされる。
次に決めた目的地は南に広がるライセン大峡谷、凶悪な魔物こそうじゃうじゃといるが魔法が使えない以上は帝国兵も追って来ようとはしない筈、其処でほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのだ、凶悪な魔物に襲われるのが先か、帝国兵がいなくなるのが先かの賭けに出たのである。
運悪く峡谷に辿り着く前に帝国兵に見つかりはしてしまったが、目論見通り追いつかれる前に峡谷へ逃げ込む事に成功、したは良いのだが此処で予想外の事態が発生、何と帝国兵は撤退する素振りを全く見せず、一個小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入り口に陣取り、脱出しようとするのを狙い撃つ構えを見せているのだ。
文字通り前門の
「絶体絶命のピンチ、という所で貴方が来てくれた事で助かりました。私が視た未来は一先ず現実の物となったという事です。ですが未だ仲間は、家族は全滅の危機に晒されています。どうか、どうか家族を、ハウリア族を助けて下さい!」
「事情は把握したよ。でもちょっとパーティの皆と相談させて貰っても良いかな?僕の独断で決めて良い規模の話じゃない」
「は、はい、分かりました」
一連の話を聞いたハジメ、彼自身は直ぐにでもハウリア族を助けに行きたかったが流石にシアを咄嗟に助けた時とは訳が違う、香織達の意見も聞かねばならないと、一旦シアから離れ、遅ればせながらやって来た
「…という事なんだよ」
「ハジメ、幾ら何でもアンタ考え無しに首突っ込み過ぎよ。アタシ達にはエヒトルジュエ討伐という果たさねばならない目的がある、厄介事に一々介入していたらそれが長引くのよ」
「そうだよハジメ君、その間にエヒトルジュエが私達の世界への干渉を本格化したら…」
「それは、そうだよね。けど…」
案の定、彼女達、というより優花と香織の反応はハジメの咄嗟の行動を含めた諫言だった。
軽率な事をしたという自覚はあったのか、優花と香織の言い分も理解出来るからか反論の言葉は無かったが、それでも助けに行きたいという気持ちを抑えられないのか、口をもごもごさせていた。
そもそもエヒトルジュエを討伐する際トータスの為としなかったのは、この世界への思い入れが余りないのもそうだが、最大の理由は聖教の下でエヒトルジュエに信仰を誓う大半の人間族と、そのエヒトルジュエによって召喚された自分達を含め人間族全体を敵とみなし、問答無用で襲撃するであろう魔人族の存在だ。
自分達の目的関連でイチャモンを付けるだろう連中だらけな世界など知った事か、朽ち果てるなら勝手に朽ち果ててしまえというスタンスからトータスを見捨てる積り満々なハジメだが、例外も存在する。
1つは言うまでも無くリリアーナ個人だが、もう1つは魔力を持たなかった為、エヒトルジュエに見放されたと人間族から差別され、魔人族からは雑魚扱いされ、長い間迫害を受け続けて来た亜人族だ。
お互いエヒトルジュエによって運命を弄ばれた果てに命の危機に晒される者同士、そんな同族意識からか、ハジメはどうしてもシアを、ハウリア族を救いたいという思いが沸き上がり、優花と香織の諫言にも首を縦に振る事が出来ないでいた。
だがそんな彼に、思わぬ存在が援護した。
「…私は助けるべきだと思う」
「ユエ?」
「…樹海の案内に丁度いい」
「あーそっか、でもねぇ…」
ユエだ。
ハルツィナ樹海は 常時霧に包まれているのもあってか土地勘に優れた亜人族でも無ければ必ず迷うと言われている、ISを纏っているハジメ達も霧の中でどこ迄の探索が出来るかは未知数なので、確実に探索可能な亜人族のガイドがあるのは心強いし、それを助けたお礼とすれば進んでやってくれるだろう、拘束して道を無理矢理聞き出すよりも余程良いとユエはハウリア族を助けた場合のメリットを話す。
だがそんなメリットが霞むほどシアは、ハウリア族は問題が山積みである、香織達は尚も難色を示した。
そんな中、
「「「「雫(ちゃん)?」」」」
「ふぇ!?え、な、何!?」
ただ1人何も喋っていなかった雫を不審に思ったハジメ達が声を掛けると、驚きの声をあげながら弾かれたように飛び退いた、どうやら『何か』に熱中する余り話を聞いていなかった様だ。
一方でその視線は態勢を崩してもある一点から殆ど動いていない、その方向に目を向けると其処にあったのは…
「「「ああ、成る程」」」
「ん?」
シアのウサミミだった。
説明しよう、雫は地球にいた頃はその容貌と剣術の腕前、冷静沈着で思慮深い性格からか所謂『格好良い』お姉様キャラで通っているがそれは表向きの姿、その実態は可愛い物に目が無い、一般的な年頃の少女なのだ。
殊にその性格と、それに起因する苦労人体質の反動か所謂ファンシー物が人一倍好きで、自宅には多数の可愛い系ぬいぐるみが置いてあるのだ。
そんな雫がふわふわモフモフなシアのウサミミを目の当たりにしたらどうなるかは言うまでもない。
「分かったよ、ハジメ君。ハウリア族の皆を助けに行こ」
「此処で見捨てたら雫がどうなるか考えたくも無いしね」
「あ、あはは、ありがとう、香織、優花。ユエもフォローありがとうね」
「…ん」
という事でハウリア族の皆を助ける事が決定、全く話を聞いていない所為でまるで意味が分からんぞ!と言いたげな雫を無理矢理連れて行きながらシアの元へ向かった。
「という訳で今から君の家族を助けに向かうよ。道案内お願いね、シア」
「あ、ありがとうございます!お礼に私の身体を好きに」
「なんでやねん!僕彼女5人おるからいらんわそんなん!」
「えぇ!?」
彼女にハウリア族を救出する事を伝えるとシアは心の底から喜び、お礼と称して自らの身体を差し出そうとするが既に香織、雫、優花、ユエ(それと正式には付き合っていないが愛子)という5人、皆が皆とびっきりの美女と美少女な恋人達がいるハジメは即座に断った。
が、諦めきれないシアは此処で言ってはいけない事を言ってしまった。
「で、でも!胸ならそちらの方々相手でも勝ってます!そっちの金髪の女の子に至ってはぺったんこじゃないですか!」
『ぺったんこじゃないですか』『ぺったんこじゃないですか』『ぺったんこじゃないですか』…
峡谷に木霊する、
尚、ユエの名誉の為に言って置くが彼女は決して『ぺったんこ』では無い、寧ろ小柄な体躯の割には育っているレベルである、ただ此処にいる女性5人の中では飛びぬけて小さいだけ、他が巨乳や爆乳しかいないだけなのであり、断じてライセン大峡谷の如き絶壁ではない。
それはさておき、地雷を踏んでしまった事を今更ながら思い知り、震えるシア、そのウサミミに囁く様なユエの声がやけに明瞭に響いた。
「…お祈りは済ませた?」
「…あ、謝ったら許してくれたり」
「…」
「死にたくなぁい!死にたくなぁい!」
「『嵐帝』」
「アッー!?」
「おまけ」
「あばばばばばばばばばばばばば!?」
命乞いの声も空しく、ユエが魔法によって発生させたであろう竜巻に巻き上げられ、天に打ち上げられるシア、だがそれだけでは怒りが収まらないのか、手にした巨大な銃――ハジメが新たに開発した銃火器の1つで、グローサ等と同じ銃弾を使うベルト給弾式重機関銃『ヴィントレス*1』の銃口をシアに向け、フルオート連射を行った。
幾ら身体能力に優れた吸血鬼族と言えど自らの体躯よりも大きく重い銃を扱うのは容易ではない、そもそもユエは魔力関連が大いに優れている一方で身体能力面は低い水準、そんな彼女が幾らレールガンの機能を発揮させていないにしても巨大かつ高重量の重機関銃を手持ちで、然もフルオートで射撃出来るのかと普通は思うだろうが、ユエはPIC等のISに搭載された機能の恩恵もあって難なく使いこなし、一発の無駄も無くシアに銃弾の嵐を叩き込んだ。
一応補足しておくが、今回シア相手に打ち込まれたのは非殺傷性の弾丸であるので、死ぬことは無い。