【完結】機動戦士ガンダムRevolt   作:不知火新夜

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22話_ハルツィナ樹海

「それでは皆様、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと行先は樹海の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「うん。聞いた限りだと其処が本当の意味での大迷宮と関係がありそうだからね」

 

ライセン大峡谷の入り口に陣取っていたヘルシャー帝国の兵士達を皆殺しにし、脱出を果たしたハジメ達はそれから僅か数分でハルツィナ樹海と平原との境目に到着した。

と言っても大峡谷と樹海との間が隣近所と言っても良い程地理的に近いという訳では無い、寧ろシア達曰く徒歩で1日掛けて辿り着いた距離らしく、馬車等でも数時間は掛かる道のりである。

ではどうやってたった数分で辿り着いたかと言うと、それを聞いていたハジメが「そんなに時間かけていられない」とストリボーグの船体部分を宝物庫から取り出し、それに全員載せて全速力に近いスピードで航行したからである。

シルエット的には船に見えなくもないけど未来的過ぎて意味不明な外見や内装に戸惑う暇もなく、自分達が苦労の果てに一時的な避難場所とはいえ辿り着いた大峡谷と樹海までの道をまるでカップ麺を作るかの様な感覚で踏破して見せたストリボーグの高性能振りに、それを作って見せたハジメの開発手腕にハウリアの殆どが驚きを隠せなかったのは言うまでも無いが、カムだけは「聖教を潰すと、神を討伐すると言うのだからこれ位は出来て当たり前と言う事なのでしょうな」と予想していたと言わんばかりの様子だった、それを見て流石は族長、かなりの大物だとハジメは感心したとか。

ともあれ一歩足を踏み入れれば樹海の中、と言える場所まで来たハジメ達、樹海を名乗るだけあって外からは鬱蒼とした森にしか見えないが、中に入った瞬間から霧に覆われるらしい。

そんな特性を持つ場所であるハルツィナ樹海その物が大迷宮だと当初ハジメ達は思っていたが、先程までいたライセン大峡谷もそうだが大迷宮を名乗るなら相応に凶悪な魔獣が彷徨っている筈、亜人族が国まで作って平穏に暮らしていられる程安全な場所じゃない筈だ。

よって大峡谷と同じく此処自体が大迷宮では無いと判断、カムが話に挙げていた樹海の深部にあると言われる大樹『ウーア・アルト』が本当の意味での大迷宮と関わりがあると踏んだのである。

それを説明し、カムも応じると周囲に合図してハジメ達の周りを固めた。

 

「皆様、出来る限り気配は消して貰えますかな?大樹は神聖な場所とされておりますから余り近づく者はおりませんが、特別立ち入りを禁止されている訳でも無いので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかも知れません。我々はお尋ね者なので見つかると厄介です」

「勿論さ。僕達も隠密行動の類は可能だから大丈夫だよ」

 

ただそれで直ぐ出発という訳では無く、他の亜人族との遭遇を避ける為カムの要望に応じ、香織と優花はオルクス大迷宮で習得した気配遮断、ハジメと雫は元々持っていた隠業のスキルを駆使して気配を断ち、ユエも旅の中で培った方法で薄くしたのだが…

 

「ッ!?これはまた…

皆様、出来ればユエ殿位にして貰えますかな?」

「ん?…こんな感じかな」

「はい、OKです。先程のレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや全く、流石ですな!」

 

兎人族は身体スペックが低い分、聴覚による索敵能力や、気配を断つ隠密能力に秀でていた。

奈落で鍛え上げたユエと同等という達人級の隠密能力を有していたのだが、そんな彼らですらハジメ達の足元にも及ばない、平原等ではともかく樹海の中に入ってしまったら見失いかねない程だった。

そんな自分達の強みすら凌駕するハジメ達に苦笑いをしながら調整をお願いするカム、そんな彼らハウリア族の様子にユエは何処か自慢げに胸を張っていた一方、シアは何故か複雑そうな表情だった。

 

「それでは行きましょうか」

 

こうして紆余曲折はあったが、カムの号令と共に樹海へと足を踏み入れたハジメ達。

聞いていた通りと言うべきか、その中はやはり霧に包まれており、周りにいるハウリア族の面々を何とか見える程視界が塞がれた状態だったが、亜人族は樹海の中でも正確に現在地や方角を把握出来るらしく、迷いのない足取りで樹海への道を辿って行く。

その道中、樹海に住む魔物達に何度か襲われる事はあった、樹海に住む亜人族に見つかってはならないという都合上ハジメのXラウンダーによるプレッシャーで追い払う事は出来ないのでそれも致し方ない事ではある。

しかしそれもハジメ達の、サプレッサーを装着したグローサによる銃撃で難なく対処出来た。

回転式拳銃はその構造から燃焼ガスと共に発砲音が漏れてしまう関係で本来サプレッサーは意味を成さないのだが、ハジメの開発したグローサにはベルギーのナガン兄弟が開発、その後もロシアのトゥーラ造兵廠等で長らく生産されてきた回転式拳銃『ナガン・M1895』とよく似たガスシール構造を導入した為その欠点を克服、サプレッサーを装着する事の有用性が生まれたのである。

然も現在使用しているボーク・スミェルチ弾はレールガンの機能を使用しない場合は亜音速で発射される、これによってソニックブームが発生しないのでより消音性を高める事が出来、発砲した際にはカメラの作動音みたいな音しかならないのである、この状況で甲高い発砲音など鳴らせばどうなるか火を見るより明らかなので、導入して損は無かったなとハジメは思った。

こうして世間的には相当厄介とされる樹海の魔物も難なく対処し、大樹への道を滞りなく進んで行った一行ではあったが、樹海に入って数時間後、今までにない無数の、魔物のそれとは明らかに違う気配に囲まれてハジメ達は足を止めた。

数も殺気も、十分に訓練された軍人を思わせる連携も魔物のそれとはまるっきり異なるその気配、何かを掴んだのかカム達ハウリアは苦虫を噛み潰した様な表情となり、シアに至っては青ざめている、ハジメ達も懸念していた事態になってしまったかと何処か面倒そうな表情になっていた。

その正体は…

 

「お前達、何故人間といる!?種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を生やした虎人族と呼べば良いだろうか、筋骨隆々の亜人だった。

 

「あ、あの私達は…」

 

他の亜人族との遭遇という恐れていた事態になってしまった一行、その中でカムは額に冷や汗を流しながら弁明を試みようとするが、制止の声を上げた虎人族の男がシアを己の視界に捉える方が早かった。

 

「白い髪の兎人族だと?どうやら貴様らが報告のあったハウリア族か、亜人族の面汚し共め!長年同胞を騙し続け忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ、もはや弁明など聞く必要も無い!全員この場で処刑」

 

フェアベルゲンにおいて真っ先に処断すべき存在であるシアを、そのシアを長年匿って来たハウリア族だと知り、怒り心頭で攻撃命令を下そうとしたその瞬間だった。

ドパァン!という炸裂音が響き渡ると共に一条の閃光が号令を出そうとした男の頬を掠め背後の樹を抉り飛ばして樹海の奥へと消えた。

言うまでも無くハジメがグローサを、サプレッサーを外した状態で、レールガンの機能も用いて発射したのだ、然しながらそんな物は見た事無い彼らが凍り付くのも無理は無い、聞いた事無い炸裂音と反応する暇も与えぬ超速の攻撃、まともに食らったら命は無いという恐怖でその身は硬直してしまう。

だがハジメはそんな事情など知った事かと畳みかける、もうバレたんだし使っちゃっても問題ないよねと判断してXラウンダーの力を解放、強烈な威圧感を発して、一切の動きを封じた。

 

「はい、動かないでね。僕達は今の攻撃を一瞬の内に数十回行える、周囲を囲んでいる亜人族も全て把握しているよ。君達が今いる其処は、僕達の射程範囲内さ」

「な…」

 

詠唱等の予備動作が殆どなく、見た事も無い強烈な攻撃を連続で行え、その標的となり得る味方全員の場所を把握しているというハジメ、それがハッタリでは無い事を証明する様にとある方向へ、自らの腹心がいる場所へと銃口を向けるのを目の当たりにし、向けられた腹心が動揺するのを感じて驚きの声を上げるしかない虎人。

 

「僕達に、ハウリアの皆に刃向かうなら容赦しないよ。少なくとも契約が果される迄はハウリアの皆を守って見せる、そう僕は誓ったからね。ただの1人でも逃しはしない、皆揃って天国に送ってあげるよ?但し、この場を退くなら僕達も追いはしない。敵じゃないのに無闇矢鱈と殺す理由は無いし。さあどうするの?敵対して全員あの世行きか、大人しく退くか」

 

全滅か撤退か、2つに1つだと銃口を突きつけながら問うハジメ、それは決して脅しなんかじゃあないと言う事を虎人は感じ取った、それを実行できる力があるとも。

とはいえ易々と退く事は出来なかった、彼はフェアベルゲンの第二警備隊で隊長を務める身、フェアベルゲンと周辺の集落間での警備を行う第二警備隊を指揮する彼はこの仕事を、魔物や侵入者から同胞を守り抜く仕事を誇りに思い、不退転の覚悟で臨んでいるのだ、侵入者を前にあっさりと退くなど、例え自分や周囲にいる部下の命が掛かっているとしても出来なかったのである。

 

「…その前に1つ聞きたい、何が目的だ」

 

余りの威圧に喉を動かす筋肉まで硬直したのか、掠れそうになる声を必死に絞り出してハジメに尋ねる虎人、返答次第では此処を死地と定めて玉砕する積りだと言外に込めた質問だ。

 

「樹海の深部、大樹『ウーア・アルト』へ行きたい」

「大樹の下へ、だと?何のために?」

 

まさかハジメ達の目的が、神聖な物ではあっても重要な物ではない深部の大樹とは思わなかったか困惑し、思わず聞き返す虎人、亜人族にとって大樹は、極論すれば単なる観光名所という認識でしかないのだ。

 

「其処に真の大迷宮に繋がる鍵があると僕達は見ているんだ。僕達は七大迷宮攻略の為に旅をしている。ハウリアの皆はその1つの入り口があるだろう此処の案内をさせているんだよ」

「真の大迷宮?何を言っている、此処は七大迷宮の1つ、ハルツィナ樹海その物だ。一度踏み込んだが最後、亜人族でなければ決して進む事も帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「それはどうかな?」

「何?」

「七大迷宮は、貴方達亜人族が国を興して平穏に暮らせる様な場所じゃない。僕達は既に七大迷宮の1つ、真のオルクス大迷宮を攻略して見せたけど、魔物達は文字通りの化物だらけだったよ、この辺りの魔物なんざ指先1つで滅殺!出来る位にはね。それに…」

「それに、何だ?」

「大迷宮は『解放者』達が後世の人達に残した試練なんだよ。確か亜人族はこの樹海を迷う事無く歩けるんだよね、深部に存在する大樹へも。そんな簡単な事を試練にするかな?だから樹海自体が大迷宮というのは無理がある、精々『真の大迷宮を攻略する上でのチュートリアル』と言った所かな?」

 

それに対するハジメの返答は虎人にとって俄かには信じられない話だった。

自分達の先祖が人間族等からの迫害の末に辿り着き、様々な苦労を経てフェアベルゲンを建国してやっとの思いで安寧を手にしたこの樹海が『チュートリアル』扱い…

普段ならハジメの言葉を戯言と切って捨てたり、先祖の苦労を侮辱したとして激昂したりするだろうが、そんな虚言を態々ハジメが言う意味は無い、何故なら圧倒的優位なのはハジメ達の方、詭弁を弄する必要性など無い位にこの場を支配しているのだから、実際にその言葉は確信に満ちている。

よって大樹に向かう事が目的なのは本当だろう、ならば自分達の命を無意味に散らし、フェアベルゲンに対する敵意を煽るよりは、さっさと目的を果たさせて出て行って貰った方が良いが、だからと言って包囲していた筈の自分達を逆に支配する様な脅威を独断で野放しにする訳にも行かない、と虎人は一瞬の内に考え、こう提案した。

 

「…お前達が、国や同胞に危害を加えないのならば、大樹の下へ行く位なら構わないと、俺は判断する。

部下の命を無意味に散らす訳には行かないからな。だが一警備隊長の私如きが独断で下して良い判断では無い。本国に指示を仰ぐ。お前の話も長老方なら知っている方もおられるかも知れない。お前に、本当に含む所が無いと言うのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

幾ら自分達の命が掛かっているとはいえ、樹海に侵入した人間族を見逃しても良いんじゃないかと発言した隊長に動揺を隠せない部下達だったが、彼にとってはそれが自分に出来る最大限の譲歩だったのだろう、ハジメに睨みを飛ばして見逃す為の提案を受け入れる様要求する虎人。

その提案にハジメは理性的な判断が出来ると、長年の迫害に晒され続けたにも関わらず感情に振り回される事無く様々な要因を基に最適な決断が出来る存在だと感心した。

それを踏まえ提案を受け入れるか否か、彼らを殲滅するか、フェアベルゲンに包囲されるリスクを取ってでも提案を受け入れるかを考えた末、後者を取ることにした。

自分達の実力を踏まえれば包囲された所で何の問題も無く対処可能、厳しい様でも此方にはヴァスターガンダムがある、それよりも仮に大樹が大迷宮との関わりが無かった場合は別の入り口を探さねばならない、そうなった場合フェアベルゲンの許可があれば何かと都合がいいと思い、提案を受け入れる事にしたのだ。

 

「賢明な判断だね、分かったよ。今の言葉を曲解する事無く伝える事。良いね?」

「無論だ。ザム!聞こえていたな、長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

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