表面的に大きく変わったカム達の姿に驚き錯乱していたシアを何とか宥め、本質的な気質に変わりは無かった事を示して安心させた一行、こういった紆余曲折はあったが訓練は滞りなく終わり、ハジメ達はカムやパル等数人(残りのハウリア族一同は集落を空ける訳にはいかない事から留守番となった)の案内に従い、大樹への道を進んでいた。
歩く事数分、一行は大樹に辿り着いたのだが、その姿を目の当たりにしたハジメ達は、
「なぁにこれぇ」
「枯れ、てる?」
「随分とミスマッチな光景ね」
「大樹周辺の土だけ養分が無くなったって事?」
「意味が分からない…」
驚きと疑問に包まれた。
大樹と言うのだからフェアベルゲンで見た木々をより巨大にした物を想像していたハジメ達だったが、実際はものの見事に枯れていたのである。
と言っても大きさに関しては大樹を名乗る通り巨大、幹の太さは直径50m位ありそうではあるのだが、周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているにも関わらず、この大樹だけがぽっかりと空いた穴の如く枯れ木になっているという光景に、ハジメ達の疑問は尽きなかった。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているとの事です。然し朽ちる事は無い。枯れた状態のまま変化する事無く、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と枯れながらも朽ちない大樹の姿から何時しか神聖視される様になったのです。尤もそれだけなので言ってしまえば観光名所の様な物ですが…」
そんな疑問に答えるかの様なカムの解説を聞き、成る程と思いながらも、ハジメ達は大樹の根元まで歩み寄る、其処にはアルフレリックが言っていた通りの石板があった。
「これは、オスカー・オルクスの住処にあった…」
「…ん、同じ文様」
「やっぱり此処は大迷宮と関係があるみたいだね」
「となればこの辺りに大迷宮と繋がる手がかりがある筈だけど…」
「どうすれば良いのかしらね?」
石板には七角形とその頂点の位置にある七つの文様が、オルクス大迷宮の最深部にある住処の扉にあった物と同じ物が刻まれていたのだ。
ハジメが確認の為に指輪を取り外し、文様を確認してみると、その1つと全く同じだった。
其処からやはりこの大樹が大迷宮の入り口だと確信したハジメ達だったが問題は此処からどうすれば大迷宮へ入る事が出来るのかである。
其処でハジメ達は手分けして大樹及びその周囲を探した所、
「ハジメ、これ見て」
「ん?どうしたの、ユエ?」
ユエが石板の裏側に何か窪みの様な物を発見した。
その窪みは、石板の表に刻まれた7つの文様、その丁度真後ろに開けられていた。
「もしかして…」
それを見て何か気付いたハジメが、オルクス大迷宮の文様に対応した窪みに指輪を嵌めてみると案の定と言うべきか反応を見せた。
石板が淡く輝き出し、暫く後にそれが晴れた後何か文字の様な物が浮かび上がったのである。
「『四つの証』?」
「『再生の力』?」
「『紡がれた絆の道標』?」
「『全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう』…」
「て事はまだ入れないって事なの?冗談じゃないわ、この十日間は何だったのよ…」
浮かび上がった文を読み上げると、どうやらまだ大迷宮に入る資格が無かった様だ、その事実に落胆するハジメ達だったが落ち込んでばかりもいられない、何が足りないのか考察を始めた。
「四つの証は言うまでも無く七大迷宮のうち、此処以外の少なくとも4つを攻略し、その証を手に入れる事だね」
「再生の力…再生…私?」
「いや違うと思うわよ、ユエ。貴方は解放者と面識ないでしょ、赤の他人を、それもいるかどうかすら分からない激レア技能持ちを指定するとは思えないわ」
「私の回復魔法も違うよね、となると再生の力を持った神代魔法を手に入れろって事じゃ無いかな。大樹が枯れているのもそれが関わっているのかも?」
「成る程、大樹を再生させた上で4つの攻略の証を使えば扉が開くって訳ね」
「残る紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか?亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに樹海の案内を亜人にして貰えるなんて例外中の例外ですし」
「そうだね、となれば残る5つのうち3つ以上の大迷宮を、再生の神代魔法を得られる場所を含めて攻略した上で此処に戻る、その方針で行くしかないね」
話し合いの末、他の大迷宮から攻略していくしか無いとの結論が出て、渋い表情をしながらもこの場を後にする事にした。
「皆。今聞いた通り僕達は先に他の大迷宮を攻略する事にした。よって一旦は此処でお別れとなる。とはいえ何れまた此処に来る事になるから、さよならは言わないよ。代わりに言おう、
行って来る、と!」
「ですね、ハジメさん!行ってきます、父様!皆さん!」
「指令!シアの事、頼みます!」
「行ってらっしゃい!ハジメ兄ちゃん、シア姉ちゃん、皆!」
こうしてハジメ達はシアを新たな仲間に迎え、カム達の見送りを背に、新たなる迷宮への旅を再開する事となった。
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「さて皆、次の目的地についてだけど、グリューエン大砂漠にある大火山へ向けて進みながらライセン大峡谷を探索しようと考えている」
「つ、序でみたいな感じでライセン大峡谷を渡るんですか…」
樹海を後にしたハジメ達、次なる目的地を何処にするかハジメが自らの考えを発表したのだが、その内容にシアの顔が引きつった。
現在公式に確認されている七大迷宮は、既にシア以外の全員が攻略したオルクス大迷宮と、入れず仕舞いとなったハルツィナ樹海を除けば、グリューエン大砂漠の大火山とシュネー雪原の氷雪洞窟の2つ、後あやふやではあるがライセン大峡谷にもあると言われている。
確実性を鑑みるなら次は確認されている2つのうちのどちらかにするべきではあるし、ハジメの方針もそれに則ってはいるのだが、あやふやな情報を基に、この世の地獄とも処刑場とも言われている場所を、一族が全滅するかもしれない危機に見舞われた場所を探し回りながら横断するという考えに、唯の街道をゴミ拾いのボランティアをしながら渡る的な発想に動揺を隠せなかった。
その動揺は不安へと繋がり、恐怖が沸き上がって来たシアだが、ハジメに抜かりはなかった。
「大丈夫だよ、シア。今の君なら、ユエ相手に勝利を拾った君なら谷底の魔物であろうと其処ら辺の雑魚と変わらないさ。ライセン大峡谷は放出された魔力を分解する場所、身体強化という形で内部処理するだけの君は何の影響も受けない、正に君の独壇場だよ?
頼りにしているよ、シア」
「はい、ハジメさん!大峡谷がナンボのモンじゃぁぁぁぁい!」
能力故の優位性を説き、満面の笑みで信頼している旨を伝えるハジメ、その笑顔に陥落していたシアにとって効果覿面だった。
興奮の余り鼻から血を流しながら、大峡谷にある迷宮攻略に向けて俄然やる気になったシア、
「うわぁ…」
「チョロウサギ」
「アンタも悪党ね…」
「…師として情けない」
「私も負けていられないわね、まだまだ私を越えさせはしないわ」
その様子にあきれ顔の香織とハジメ、殊にハジメはシアの様子を見てチョロインの烙印を押していたが、優花はそんなハジメのシアをいとも容易く
そんなハジメ達の一方、シアを指導していたユエは、シアとは打って変わって魔法特化である自分との相性の悪さに落ち込み、同じく指導していた雫はシアと同様近接戦闘向きであり魔力を大して放出しない自分との相性の良さを踏まえ、弟子にはまだ負けてられんと意気込んでいた。
「では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか?それともこのまま、近場の村か街に行きますか?」
「今日は街に寄る積りだよ。今後の為にも食料とか調味料関係は揃えたいし、それには素材を換金する必要があるからね。前に見た地図通りなら、確かあの方角に街があった筈だし」
それはさておき、興奮から覚めたシアがこの直ぐ後、言うなれば今日はどう行動するかを尋ねると、ハジメは一旦街に寄る事を伝えた。
料理面に明るい優花やその指導を受けている自分達がいる為に反逆者の住処やフェアベルゲンに滞在中は真面な料理にありつく事が出来はしたが、食料や調味料が尽きてしまえばまた魔物肉を食す生活を送らざるを得なくなってしまう、然も今度はシアも巻き込む事になってしまう、それを避ける為にも街に寄っての補充は欠かせない。
それ以外にも街で買い物なり宿泊なりするなら金銭がいる、その源である素材だけなら腐る程持っているので換金してお金にしておく必要があったのだ。
尤も、ライセン大峡谷にある大迷宮に入る前に、落ち着いた場所でやりたい事もあるのだが…
その方針を受け、ハジメ達はその街があるであろう方角へ向け、ISのカスタム・ウィングに装着されたブースターを全開にして急行した。
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「止まってくれ、ステータスプレートを。後、街に来た目的は?」
「食料の補給がメインだよ。旅の途中でね」
トータスの大空を爆速飛行する事数十分、ハジメの記憶通りに街に到着した一行、その入口にあたる門で門番らしき兵士に呼び止められた彼らは、その要求通りにステータスプレートを取り出しながらその質問に答える。
その答えにふーんと慣れた感じで相槌を打ちながら出されたステータスプレートを確認する門番、もし
「それで、其処の2人は…」
提示して来なかった2人にもステータスプレートを要求しかけて、その美貌に見惚れていた。
流石に自分の恋人をじろじろと見られるのは良い気がしないのか、ハジメがわざとらしく咳払いをしながら提示しなかった訳を話しだし、
「旅の道中で其処の子の分が失くなっちゃったみたいでね。そっちの兎人族の子は…分かるよね?」
「成る程、奴隷って訳ね。それにしても随分な綺麗所を手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか?アンタって意外と金持ち?」
ユエは紛失した為、シアは後述する格好もあってか奴隷だからという事で納得して貰った。
流石に旅の仲間であり恋人でもあるシアを奴隷扱いされるのは気分的に宜しくは無い、実際香織達は何処か渋い顔をしていたが、諸々の事情を鑑みると仕方のない事である。
どうやってシアを手にしたか興味が沸いた門番の質問に、ハジメは肩をすくめるだけで答えなかったが特に答えを求めていなかったのか、
「まあ良い。通って良いぞ」
「どうも。あ、そうだ。素材の換金場所は何処に?」
「ああ、それなら中央の道を真っすぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むならギルドで場所を聞け。簡単な街の地図をくれるから」
「随分と親切な。ありがとうね」
そのまま通してくれたばかりか、ハジメの質問にも素直に答えてくれた。
こうしてブルックと言う名前らしい街に入ったハジメ達、ホルアド程では無いにしても沢山の露店があり、気分を高揚させる騒がしさにあてられた彼らの気分を楽しくさせる中、ただ1人シアは街に入る前からぷるぷると震えてハジメを睨んでいた。
「あの、ハジメさん…」
「ん?どうしたの、シア?」
「この、プラグスーツ、ですか?デザイン的にもうちょっとマシな物あったんじゃないんですか!?この首のライン、どう見ても首輪じゃないですか!これの所為で奴隷と勘違いされたじゃないですか!ハジメさん、分かっていてこのデザインのプラグスーツを渡したんですね!うぅ、酷いですよぉ、私達、仲間で恋人じゃなかったんですかぁ」
先程門番に奴隷と勘違いされた挙句ハジメから訂正されなかった事で不機嫌なシア、その原因となったのが現在身に着けているプラグスーツのデザインである。
ISを身に纏う為のスーツが、ハジメの趣味が色濃く出た影響でプラグスーツになったのは以前も説明したが、そのデザインは其々別になっている。
香織が着用しているのは綾波レイのそれと思しき白をベースカラーとしたデザイン、雫が着用しているのは碇シンジのそれと思しき青と白をベースカラーとしたデザイン、優花が着用してるのは真希波・マリ・イラストリアスのそれと思しきピンクをベースカラーとしたデザイン、ユエが着用しているのは惣流・アスカ・ラングレーのそれと思しき赤をベースカラーとしたデザイン、そしてハジメが着用しているのは鈴原トウジのそれと思しき黒をベースカラーとしたデザインだ。
さて問題となっているシアのプラグスーツだが、デザインそのものは新劇場版Qに登場したアヤナミレイのそれと思しき黒をベースカラーとした物、ではあるのだが、首回りの赤いラインが他のメンバーが着用している物と比べて明らかに太くなっていて、奴隷用の首輪にしか見えなくなっているのである。
今更ながらハジメが意図的にこのデザインのプラグスーツを渡した事に気づき、旅の仲間であり恋人でもあると思っていたのに奴隷扱いを受けさせられたことがシアには相当ショックだったのである。
無論それは単なるデザインの違いでしかなく、シアのプラグスーツには奴隷用の首輪みたいな効力は持っていない、それはシアにも分かってはいるが…
ハジメも流石に悪いと思ったのか、謝罪しながらも訳を説明した。
「あー、その、ごめん…
でもさ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気らしい兎人族が普通に街を歩けると思う?ましてシアは亜人には珍しい髪色に加えて綺麗でスタイルも抜群。誰かの奴隷だと公言しておかないと皆から悪い意味で注目された挙句、人攫いが殺到するよ。そんな面倒臭い事態に…何くねくねしてんの?」
言い訳があるなら言って見ろやゴルァ!と言いたげに睨んでいたシアだったが、その訳を聞く内に照れた様に頬を赤らめながらイヤンイヤンと言いたげに身体をくねらせ始めた。
毎度の事ながら始まった愛の暴走振りに香織達が冷めた目を向けたのは言うまでも無い。
「も、もう、ハジメさん、こんな公衆の面前でいきなり何を言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんて、恥ずかしいでウボァー!?」
「「「調子に乗るな!」」」
調子に乗って話を盛った事で、香織、優花、ユエの3人から右ストレートを同時に食らったのも言うまでも無い。
「僕はシアの事を大事な仲間だと、大切な恋人だと思っている。そんな君を奴隷扱いするのは僕も心苦しいよ。だけどこの世界は君にとって生きづらい事この上ない世界だ、僕の奴隷として公言しておかないと真っ先に狙われる位には。
カムからも娘である君を託されたんだ、絶対に君を守り抜いて見せる。その為にも避けては通れない措置だという事、分かって欲しい」
「分かりました、ハジメさん!何なら奴隷は奴隷でもハジメさん専属の愛奴隷なんてどうですか?」
その後のハジメの説得の際にチョロイン振りを発揮、あっさり納得したのも、言うまでも無い。