ブルックの街を出てからハジメ達はISのブースターを吹かして、嘗て通ったライセン大峡谷の入り口に辿り着き、大気中に放出された魔力を分解する性質の為に侵入した瞬間から出力低下するも構う事無く、ハイパーセンサーを駆使して広範囲をサーチしながらも中々の速さで西へ西へと、目的地の1つであるグリューエン大砂漠の火山へ向けて進んで行く。
因みにそんなハジメ達に魔物達が如何にも狙って来そうなこの状況、幾ら空を飛んでいたとしても其処を住処とするハイベリア等の魔物からの襲撃が無いのかと突っ込まれそうだが、其処はやはりと言うべきかハジメがXラウンダーによる威圧で遠ざけていた為に襲われる事は無かった。
こうして街を出発してから半日、オルクス大迷宮から転移する魔法陣があった洞窟もとうの昔に通り過ぎ、かなりのハイペースで進みながらも見落としなく探索した成果は意外と早く現れた。
「は、ハジメさ~ん!皆さ~ん!大変ですぅ!一緒に来てくださ~い!」
とあるエリアを探索していたシアが何か人の手が加えられた痕跡を発見、慣れないISの操作に手間取りながらもそれを良く見ると其処は洞窟と言うには整い過ぎた広い空間で、その壁に看板と見られる明らかに人工的な物体を見つけたのである、これはきっと大迷宮と関わりのある物に違いないとシアは確信し、ハジメ達を呼び出して其処へと向かった。
その入口である、谷の壁面に巨大な一枚岩が凭れ掛かって出来た隙間を潜り、看板があった場所へと向くと確かに関わりがありそうな物ではあった、のだが、
『おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』
その看板には女の子らしき丸っこい文字の、何とも砕けた調子で来訪者を出迎える様な文章が刻まれていたのだ、ご丁寧に!や♪といった記号まで入れて。
「なぁにこれぇ…」
「何だろう、この、法隆寺だと頑なに言い張る小屋に掲げられていそうな看板は…」
「…ウザッ」
「!に♪、何でこんな友達に送る系のメールみたいな文章なのかしら…」
「ユエもそうだけど本当、何処からこういう情報仕入れているのよ…」
「ま、まあでも本当にあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」
本当に此処は大迷宮の入り口なのか?それが看板を見たシアを除く5人の一致した考えだった、それ程までにこのチャラ過ぎる看板のインパクトは大きかったのだ、絶対誰かの悪戯だ、という方面で。
然しながら既に入口だと確信していたシアを誰も否定しないのは、看板に書かれたミレディという名前、オスカー・オルクスの手記に書かれていた、解放者の1人のファーストネームと一致していたからだ。
ライセンの名は『反逆者』の1人として有名ではあるが、ファーストネームの方は知られていないと言ってもいい、故にどっかの馬鹿による悪戯の可能性は無く、大迷宮との繋がりがある可能性が高い証拠となっているのだ。
「…成る程、時代劇とかで良く見る回転扉になっているみたいだね」
「ハジメ?」
「もしかして、ハジメ君のX領域が?」
「相変わらず凄いですね、ハジメさんのXラウンダーでしたっけ?それによる未来予知は。私の立場は何処に…」
「ごく近い未来しか見えないさ。シアの固有魔法は一時間とか結構先の未来も見えるから卑下する事は無いよ」
「そうよシア、自信を持ちなさい」
「そもそも未来が見える時点でチートどころじゃないわよアンタら」
さて大迷宮へ行く為の手掛かりとなる場所こそ見つかったが其処からどう行けば良いのかを思案した一行だったが、今度はハジメがその力を発揮した。
ハジメのXラウンダーによる近未来予知によって、この空間内のとある窪みが忍者屋敷の仕掛け扉の如く、ぐるりと回転する様になっている事が判明したのである。
尚その際、足を踏み入れた瞬間に無数の矢が、全く光を反射しない様に漆黒で塗られた矢の雨が襲い掛かって来る事も判明し、こういう初見殺しは流石に大迷宮かとハジメが思ったのは余談である。
その光景に従って回転扉を開いて大迷宮へと足を踏み入れ、見ていた通り飛来して来た漆黒の矢を躱した一行、するとそんな彼らのドンピシャな対応に拍手を送るかの様…で無いのは後述する事柄によって分かるが、周囲の壁がぼんやりと光り出し、真っ暗だった迷宮内が僅かながら見える様になった。
ハジメ達が現在いる場所は十メートル四方の部屋、奥へと真っすぐに整備された通路が伸びており、部屋の中央には石板があるのだが、其処には看板の時と同じく丸っこい女の子文字で、
『ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?チビってたりして、ニヤニヤ』
『それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?…ぶふっ』
恐らく先程の矢を放って来る仕掛けに引っ掛かった冒険者を煽る為であろう文章が刻まれていた、ご丁寧に『ニヤニヤ』とか『ぶふっ』といった擬音の部分を強調して。
「うわぁ…」
「…本当にウザい」
「製作者の性根の悪さを物語っているかの様な石板ですね。仲間をやられた冒険者がこれを見たらくぁwせdrftgyふじこlpって感じで発狂する事間違いないですぅ」
「何でシアはそのネタを知っているのよ」
「ミレディ・ライセンは『解放者』云々抜きにこの世界の敵に認定しても良いんじゃないかな…」
「確かにそうね…」
初見殺しにも程がある罠で仲間を殺しておいてその光景を嘲笑していると言わんばかりの文言、これを作り上げたミレディ・ライセンの性根は腐りに腐っているに違いないと皆の認識が一致した瞬間だった。
「まぁ、こっちはハジメさんの近未来予知で軽く避けた所でこんな風に煽って来られても滑稽過ぎて草wですけどねぇ」
「…シア、草に草を生やしてはいけない」
「ユエも何で小説じゃなきゃ分からない所を指摘するのかしら…」
「いやだから何でシアもユエも草とか草を生やすとか知っているのよ?雫も其処スルーなの?」
「この世界の人達は地球の情報を受信する能力でもあったりして?」
「だとしたら実用性無さそうな方面しか受信してへんがな、何やねんその無駄な能力…」
然しながらそんな初見殺しを余裕で回避して見せたハジメ達が石板の文言を見てもただ「ウザい奴だ」と冷静に捉えるだけ、殊にシアは自分の力で回避した訳じゃないにも関わらず煽り返した挙げ句、石板の上に『避けられる事をまるで考えていないノータリンがオラついている図w』と落書きをしていた。
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何はともあれ探索開始となったライセン大迷宮。
大峡谷の底よりも魔力の分解作用が強力になった影響か、それまで自動車並の速度は出せていたISのブースターが、原付並みの速度が出せる程度まで出力が低下してしまうというアクシデントが発生、それはつまり魔力を用いた手段を「普通は」使えないのと同じと言ってもいいだろう、そう「普通は」。
然しながらハジメ達は普通ではない、彼らが身に着けているISは装着者と『接続』し、その魔力を機構内で運用する関係から、どうしても魔力を外部に放出せざるを得ないシールド・バリアやブースター以外はその影響を受けない。
流石にシールド・バリアが使えない=事実上の生身である為か不意打ち(尤もハジメと香織、雫と優花は耐久が5桁、シアは魔力変換でハジメ達と同等クラスまで底上げが出来、ユエも魔力が尽きない限りは不死身なので大した影響では無いが)には気を付けなければならないし、ブースターを吹かしても原付並みのスピードしか出せないのは不便だが、それを除けば問題なく全機能使えるし、領域下の兵器もその力を如何なく発揮出来る、新しく作って置いて正解だったとハジメが考えたのは言うまでも無い。
そういった機能を用いて広範囲を探索しながら原付並みの速さで空中を飛行している影響か、罠に引っ掛かる事は1度も無く、またどういう訳か魔物に遭遇する事はおろかその気配を感じる事すら無く、平穏無事に進んでいた。
…余りにも平穏過ぎて暇を持て余したシアが、手近な場所を見つけては落書きをする位に。
タイトルと思われる『多分(恐らく)(きっと)(ひょっとしたら)こんな顔』『元気ですか』『ドジったミレディの図』『発情期』といった文章の上に、物凄く不細工だったり嫌らしい表情だったりアホ面だったり吹き出物だらけだったり顎がしゃくれていたり(ピー)に塗れていたり物凄く適当な裸が書かれていたり…
そんな(シア曰く)ミレディ・ライセンの崩しに崩した似顔絵を適当な間隔で描いて行く様な暇がある程、探索は順調に進み、
「こうもあっさりと最深部に辿り着くのも何だか拍子抜けですね、此処本当に大迷宮なのでしょうか?」
「…ISを始めとした様々な武装をハジメが予め作り上げたから簡単に感じるだけ、普通はこうならない」
「だよね、入口の真下に如何にもヤバそうな液体が一杯なプールがあるし」
「事実上魔法が使えない性質を考えたら、空を飛んで移動するなんて想定していないでしょうね」
「そう考えると本当にハジメは凄いわよね、一体誰よありふれた職業の無能だとか言った奴」
「あはは、ありがとう。さて、如何にもな扉だけど流石にそう簡単には通してくれ無さそうだね」
探索開始から凡そ数時間後、迷宮の外は既に日付が変わっているんじゃないかと思われる時間になった頃、ハジメ達は最深部一歩手前と言わんばかりの部屋へと辿り着いた。
その部屋は長方形型の巨大な部屋で、両サイドの壁には無数の窪みがあり、騎士甲冑を纏い大剣や盾等の巨大な武具を纏う身長2メートル位の銅像がその窪みの中に立っていた。
部屋の一番奥には大きな階段があり、頂上にはひし形の黄色い水晶が設置された祭壇の様な場所と、その奥に設けられた荘厳な扉があった、恐らく祭壇で何かしらの作業を行えば開く仕組みなのだろう。
尚、その入口の前は香織がプールと表現した大穴が空いており、如何にも危険そうな煙を放つ液体で満たされていた、恐らくこれは罠の一種として設置されたのだろう。
ISを纏ったハジメ達にとって回避が容易なこの罠を踏まえると、今まで何事もなく探索を進められたのは、雫の言う通り魔法を使わずして空中を長時間飛行する事をミレディ・ライセンが想定していなかったからだと考えられる、であればシアの言う通り大迷宮とは思えない程簡単なのも説明が付く。
自分達の身を魔物と同等の存在に変えて尚攻略に1ヶ月近くを要したオルクス大迷宮の存在を踏まえればあっさり過ぎるライセン大迷宮の攻略、それを成し遂げた要因である自分が作った兵器の凄さに、それを生み出した自分への賞賛に何処か照れながらも応じたハジメだったが、何時までもそうしてはいられない。
きっと奥の祭壇周りに行こうとすれば周囲の騎士甲冑がゴーレムの如く動き出すというお約束展開が待っているんだろうなと考えながらもハジメ達は部屋へと足を踏み入れ、
「…やっぱりそうなるよね。雫とシアは前線でゴーレムを足止めして!優花は僕と一緒に雫達の援護を!香織とユエは先に祭壇の方へ行って!」
「分かったわ!」
「了解ですぅ!」
「任せなさい!」
「はい!」
「ん!」
中ほどまで進んだ所でやはりと言うべきか、何かが動き出したかの様な音と共に、大量の騎士甲冑が動き出した、その数は総勢50体。
その光景を近未来予知で把握したハジメは予め香織達に指示を飛ばし、ゴーレム達を迎撃すべく構えを取った…!
次回、いよいよヴァスターガンダム初陣の時…!