「黙って見聞きしていれば言いたい放題やりたい放題しやがって!ミレディちゃんが本気でぶちのめしてやるから覚悟しなぁ!」
オスカー・オルクスの手記からして人間だった筈のミレディ・ライセンが何故ゴーレムになっているのか、彼女達が『反逆者』の烙印を押されてから数百年経った今でも何故生きているのか等々、目前のゴーレムがミレディの名を名乗った為に聞きたい事が山ほど出来たハジメ達。
が、どうやら話からして大迷宮に入ってから今に至るまでを全て見聞きしていた様で、それはつまりハジメ達がISの機能を使って罠の数々を楽々スルーしていたのも、シアがミレディの事をボロクソに罵倒していたのも、彼女の煽り文を掲載していた看板に自前の煽り返しメッセージを落書きしていたのも、似顔絵を物凄く不ッ細工に描いていたのも全て見聞きしていたという訳であり、さっきの中の人に因んだボケによる挨拶妨害も相まってマジギレし、怒りのままに襲い掛かって来ていたのでそれを聞くのは戦闘後になりそうである。
さて、此処ライセン大迷宮はその特性上『魔法が使えない状況下であらゆる攻撃への対応力を磨く』事が攻略の上で要求される七大迷宮の1つだが、その『あらゆる』攻撃には何も直接ダメージを与える類の物ばかりじゃない、状態異常を付加する蠍型の魔物がうじゃうじゃいる他、随所に設置された物理的トラップと無秩序な構造、入口の看板に書かれていたそれなんてほんの小手調べだと言わんばかりのウザいメッセージ、そして一定時間経過と共に内部構造が大いに変化してしまう絡繰りによって挑戦者を身体的・精神的に甚振って来る設計になっているのだ。
然しながらハジメ達はISの機能によってそれらを尽くスルーし、たった数時間という異様なハイペースで攻略した為に想定を大いに狂わせた挙げ句、シアがそれを嘲笑うかの様な落書きを至る所に書きなぐっていたのを目の当たりにした事でミレディの怒りは溜まりに溜まって、そして挨拶をメタいボケで遮られ続けた事で爆発、本来なら支援に回る事となっている、前の部屋にいる無数の騎士甲冑が動けないのも構わず真正面から突っ込んで来たのだ。
そんな、本来ならハジメ達を陥らせようとしていたミレディが逆に陥ってしまった憤怒と憎悪に駆られての突撃、それをガチガチの重武装(重量的な意味では全然重くないが)と理路整然とした戦術、そしてオルクス大迷宮という地獄を乗り越えた自信、といった文字通りパーフェクトストライク状態なハジメ達が対処する事など赤子の手を捻るかの如く容易だった。
「ふっ!」
「あぐっ!?アザンチウム鉱石の装甲がこんな簡単に!?」
アザンチウム鉱石、それはこのトータスにおいて最も硬いと言われている鉱石、例え薄膜を張る程度であろうとそれを用いた装甲はいかなる攻撃をも跳ね返すとされている強固さを誇るそうだ。
然し錬成師であるハジメに言わせれば、どれだけ硬かろうと何の対魔法的な処置も施していない金属装甲なんてどれも一緒、錬成の技能を極端な迄に戦闘面で昇華させた彼の、その効果を付加させたアヴグストの腕の一振りに耐えられる筈も無く、その身にどでかい傷を作り上げた。
だが、ミレディにとって脅威となるのはハジメが搭乗するアヴグストだけじゃない。
「喰らいなさい!」
「んなぁ!?」
まずは雫、幾ら切れ味が凄まじくても自分の十数倍もの大きさを誇るミレディ相手には掠り傷程度にしかならないと判断してリェーズヴィエをしまった彼女が代わりに取り出したのは、ヴィントレスと同じ時期にハジメが開発した銃火器の1つで、これまた同じ銃弾を使うボルトアクション式大型対物ライフル『ヴァイクロップス*1』、ボーク・スミェルチ弾を使う物では最も長い銃身に物言わせた強烈な電磁加速に乗せて放たれた弾の速さは秒速34km、乾燥した空気中での音速の大体百倍という無茶苦茶なスピードで雫がドギュゥゥゥゥン!という轟音と共に放ったボーク・スミェルチ弾はミレディの身体に決して小さくない空洞を作り上げた。
「どぉらっしゃぁぁぁぁい!」
「あがぁ!?」
次にシア、ヴァイクロップスに持ち替えた雫とは違いピサニエ・セドモイを持ったままだった彼女だが、魔力変換によって大幅に強化された身体能力で突き出された剛撃、及び直撃の瞬間に発射されたパイルによる二重の打撃に、大きさで10倍以上もの差があるミレディをも吹っ飛ばし、装甲をひしゃげさせる。
「汚物は消毒だぁぁぁぁ!」
「あぁっちゃぁぁぁぁ!?」
続いて優花、パリャーシを手にして行った彼女の攻撃はやはりと言うべきか火炎放射、元々適性のあった炎魔法に、3万オーバーという桁違いなスペックに物言わせた魔力をつぎ込んで放ったそれは太陽の表面温度すらも凌駕する業火と化し、ミレディの身を容易に溶かしていく。
「乱れ撃つぜ!てね」
「あばばばばば!?」
香織はスプィーシカを其々の手に一丁ずつ持ち、ロックオン・ストラトスの決め台詞を口にしながら、一行の中で最も高い魔力に物言わせた高出力ビームを乱射、何かしらの行動をしようとするミレディの、動かそうとしていた部分に次々と風穴を空け、その行動を妨害していく。
「ファイア!」
「うぼぁ!?」
そしてユエは優花達を真似てか、腰に纏っているクルィロから火炎放射やビーム等を放ち、ミレディに少なくないダメージを与えていく。
大迷宮の中では流石にクルィロを用いた遠隔操作攻撃は行えないものの、自らの身に着けての砲撃は問題なく行えるのだ。
こうしてアヴグストと互角な大きさのミレディ相手に圧倒的優位で戦いを進めるハジメ達、その末に、
「ダークネスフィンガー!」
「ひでぶぅぅぅぅぅぅ!?」
ハジメが大量の魔力を送り込んだ事で異様な光を放つ様になったアヴグストの右手をミレディの胴体に突き出し、アザンチウム鉱石製装甲の強固さによる抵抗も何のそのと言わんばかりに貫いて見せた。
胴体を大きく貫かれたミレディは、どうやら機関部を根こそぎやられた影響か、断末魔の悲鳴をあげた後はぱたりと動かなくなった。
「やりましたね、皆さん!ライセン大迷宮攻略ですぅ!」
「どうやらそうみたいね、終始拍子抜けする難易度だったけど…」
「まあ良いじゃないの雫、神代魔法を早く得られるのに越した事は無いんだから」
「…ん。皆お疲れ」
「ハジメ君!お疲れ様、凄い格好良かったよ!」
「ありがとう、香織。皆もお疲れ様」
ミレディの撃破を、ライセン大迷宮の攻略を確認し、互いに喜び合い、苦労(?)を称え合うハジメ達。
雫の言う通りオルクス大迷宮とは比べ物にならない程簡単ではあったがそれはハジメが開発したISの力あってこそであり彼ら以外の挑戦者にとってもそうなる訳じゃない、七大迷宮の一角を攻略したのには間違いないのだ。
だが、
「あのぉ、良い雰囲気で悪いんだけどぉ、そろそろヤバいんで、ちょっと良いかなぁ?」
そんな彼らを呼び掛ける、ついさっきまで聞いていた声。
その声が聞こえた方向へと香織達が振り向くと其処には、胴体を貫かれたと共に消失した筈の眼の光が何時の間にか戻っていたミレディの姿があった。
まだ終わっていなかったのかと咄嗟に身構える彼女達だったが、一方でハジメはその声を聞いても何の行動もする事無く平然としていた。
それもその筈、
「皆、大丈夫だよ。どうやら僕達に伝えたいメッセージがあって、その為になけなしの力を喋る為だけに使っているに過ぎない。持って数分って所かな?」
「そうそう、彼の言う通りだよぉ。試練はクリアとなっているから安心して」
ミレディにはもう戦う力は残されておらず、残り少ない生命力を喋る為だけに費やしているに過ぎないのだから。
「で、何ですか話したい事って?死して尚KYとか、残念さで髄一の解放者だと伝えてやりましょうか?」
「ちょ、止めてよ何その地味な嫌がらせ。じわじわ来そうな所が凄く嫌らしいんだけど」
攻略の喜びに浸っていた所に水を差された事で苛立っていたのか、シアが物凄く効果的な嫌がらせをしようとしているのを聞いて怯むミレディだが、
「ああ、安心して。お前達解放者が果たせなかった邪神エヒトルジュエ討伐の悲願は、僕達が代わりに果たす。ガンダムやISはその為に作り上げた物だから」
「そうだったんだ、なら話は早い。どうやらオーちゃんの住処で事の子細を聞いたみたいだね。分かっているとは思うけどあのクソ野郎とその眷属共は本当に嫌な奴らでさ、嫌らしい事ばかりしてくるんだよね。だから少しでも慣れて欲しかったんだけど、まさか尽く潰されるとはね」
ハジメの決意を聞き、その土台となったのがオスカー・オルクスの住処で知らされたこの世界の真相であろうと察知したミレディが話を始めた。
その口調は大迷宮の何処までも嫌らしい作りや看板等に書かれたウザい文等から垣間見える捻くれた性格とは無縁の、誠実さや真面目さが感じられる物だった。
恐らくはエヒトルジュエの言動に惑わされぬ様、訓練を付けさせる為の物だったのかもしれない、尤もハジメ達には何の意味も無かったが…
「そのクソ野郎ことエヒトルジュエを討つ為に神代魔法が必要な事は言うまでも無いよね。それを得られる他の大迷宮の場所を教えて欲しいな。失伝していて殆ど分からないし、オスカー・オルクスもその辺の説明をしてくれなかったからさ」
「ああ、そうなんだ…そっか、迷宮の場所が分からなくなる程…本来なら最後に攻略すべきオーちゃんの迷宮を真っ先に攻略しちゃう程…長い時が経ったんだね…うん、場所、場所はね…」
そのエヒトルジュエを倒す為に神代魔法は必要だが、それを得る為に訪れ、攻略すべき七大迷宮の場所は失伝してしまっており、現在その場所を正確に把握出来るのはオルクス大迷宮を含めてもたった4つ(その内ハルツィナ樹海の大迷宮は先に他4つの大迷宮を攻略する必要がある)、此処ライセン大迷宮も世間的には「ひょっとしたらあるかも」程度にしか知られておらず、残り2つに至っては何処にあるのか全く分からない、それを聞いたミレディがさらりと衝撃的な事実を口にしながらも、残る七大迷宮の場所を語っていく。
「以上だよ…頑張ってね」
「任せてよ、エヒトルジュエは必ず討伐する。何故なら僕が、僕達が」
「「「「「「ガンダムだから」」」」」」
「ふふ、何それ意味わかんない…だけど安心したよ、ありがとね…さて、時間の…様だね…君達のこれからが…自由な意志の下に…あらん事を…」
それを受け、改めてエヒトルジュエ討伐の決意を表明するハジメ達、その姿に安心したのか、安らかな様子でミレディは話を終わらせ、淡い光となって天へと消えて行った。