ミレディが去っていった直後、壁の一角が光を放ち出した事に気が付いたハジメ達、アヴグストを宝物庫に回収しつつその場所に向かうと、まるで自動ドアの如く退かれ、奥へと続く白い光沢のある壁で出来た通路が現れた。
そのまま通路を進み、部屋らしき空間へと辿り着いた彼らを出迎えたのは、
「やっほー、さっき振り!ミレディちゃんだよ!」
『ズコー!』
ちっこい(といってもさっきと比べてだが)ミレディだった。
さっきしんみりとした感じで別れた存在と直ぐに再会するというまさかの状況に、さっきまでの真面目な感じとは打って変わってのチャラい出迎えに香織達は勿論、近未来予知でその生存を、生きている理由を察したハジメですらも新喜劇みたくズッコケた。
「え、ちょ、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気で不味」
「…死ね」
「死んで下さい」
「ミレディ死すべし慈悲は無いってね」
「アイェェェェ!て何やらせんのよ雫」
「ごちゃごちゃ五月蠅いよ、全くさぁ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんなミレディに、人を感傷に浸らせておいてそれは無いんじゃないか、こっちの気持ちを弄びやがってと言わんばかりに香織達はマジギレし、人間らしい体躯に乳白色のローブを纏い、ニコちゃんマークの仮面を付けたちっこいミレディへと襲い掛かり、何か言っているのを聞く事無く袋叩きにし出した。
そんな光景をハジメは「なーむー、ナームと同じ中の人なだけに」とメタ発言も絡めた親父ギャグを口にしながら合掌しつつ、部屋の中を観察し出した。
通路のそれと同じ素材が使われているのか、辺り一面乳白色の壁で覆われた部屋には中央の床に刻まれた魔法陣以外何も無く、唯一あるとすれば奥の空間へと繋がっているであろう扉のみ、其処は恐らくミレディの住処らしき部屋だろう。
となれば此処の管理をしているミレディを働かせるしかない、その結論に至ったハジメは香織達に一時停止する様言いつつ、ミレディ
「皆、ちょっとで良いからステイね。さてミレディ・ライセン、これ以上香織達からフルボッコにされたく無ければ、さっさとお前が管理しているだろう神代魔法と攻略の証を渡して貰おうかな?」
「あのぉ、言動が完全に悪役だと気付いて」
「皆、殺っちゃって良いよ」
「了解であります、直ぐに渡すであります!だからストォォォォップ!これ以上は本当に壊れちゃう!」
ハジメから要求を突き付けられて尚もふざけようとしたミレディだったがハジメが瞬時にゴーサインを出そうとした為に本気で命の危機を感じたのか、即座に魔法陣を起動させ始めた。
それを受けて魔法陣の中に入るハジメ達、今回は試練をクリアした事をミレディ本人が知っている為か、オルクス大迷宮の時みたいに記憶を探るプロセスは無く、いきなり神代魔法の知識及び使い方を脳に刷り込んで来た。
ハジメ達5人は経験済みだった為にほぼ無反応だった一方、シアが初めてだったが故に身体をビクリと跳ねさせる事数秒で、神代魔法の習得は完了した。
「重力魔法って所かな。あのブロックが落ちて来るのはそういう事だね」
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね、と言いたい所だけど君とウサギちゃん、そしておっぱい筋肉ちゃんは適性無いねぇ、もうびっくりするレベルで無いね!」
ミレディの言う通り、ハジメとシア、そして雫は重力魔法の知識等を刻まれてもそれを使いこなせる気がしなかった、ハジメ以外の4人が生成魔法を上手く使えないのと同じく、適性が無いって事だろう。
「まあ体重の増減位なら使えるんじゃないかな。其処の黒一点君は生成魔法を使いこなしているんだから、それで何とかしなよ。後の皆は適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせる様になるよ」
これまたミレディの言う通り、3人の場合は精々MS搭乗時にその重量を軽減して運動性能を高める位しか使い道がないだろう。
一方で香織と優花、ユエの3人は適性十分との事で、修練を積めばミレディが見せた様な、周囲の物質を遠隔操作する事も、ハジメのメルキューレやユエのクルィロ等の専用装備無しで出来るだろう。
その使い道を考える一行に、ミレディはこれもまた要求に入っていた攻略の証たる、上下の楕円を一本の杭が貫くデザインが刻まれた指輪を渡しつつ、此方はエヒトルジュエ討伐という使命を受け継ぐハジメ達への餞別なのか、大量の鉱石類を虚空から出現させた、恐らく宝物庫から取り出したのだろう。
「こんな大量の鉱石までありがとうね。これで攻略の証は2つ。で、此処から出るにはどうするのかな?」
「あ、帰るの?もうちょいゆっくりすれば良いのにさ、長旅でお疲れでしょ?」
「香織達の好きな様にお前をボコさせて良いなら居るけど?」
「すいませんやっぱ帰って下さい」
まさか鉱石類までプレゼントされるとは思わなかったのか礼を言いつつ、此処から脱出すべくその術を尋ねるハジメ、それを引き留めようとしたミレディだったが、ボコり足りなかったのか身構えた香織達の姿を見て態度を一転、これまた宝物庫から人が普通に入れそうなカプセルらしき物を6つ出現させた。
「それじゃあ皆、まずはこれに入って」
『これに入って?』
「次に蓋閉めて」
『蓋閉めて?』
「あれ、これひょっとして!?」
そのカプセルに、ミレディの指示通り入り、蓋を閉めるハジメ達だったが、作業を終えた直後に近未来予知で何か良からぬ光景を目の当たりにしたハジメが脱出方法を察知して狼狽えるも、もう遅い。
「それじゃあクソ野郎討伐の旅、行ってらっしゃい!」
「こういうオチぃぃぃぃぃぃ!?」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
何時の間にか天井付近まで移動したミレディが、其処にぶら下がっていた紐を引っ張る、するとガコン!という音と共に四方の壁から鉄砲水の如く水が流れ込み、同時に魔法陣を中心に蟻地獄の様に床が沈んだ末に中央にぽっかりと穴が開いた。
白い部屋、大量の水、下にぽっかりと空いた穴、此処から導き出される結論は…トイレで流すかの如き激流である。
既にカプセルの中に閉じ込められたハジメ達に状況を脱する術など無く、彼らはそのまま大量の水と共に流されて行った。
------------
激流に流される事数分、いや十数分と言った所だろうか、ドバァン!という音と共に何処か泉らしき場所から大量の水と共に噴出した6個のカプセル。
カプセルに入っていた為かずぶ濡れになる事も、溺れる事も無かったが水の勢いで激しくシェイクされ、時に水路の壁にぶつかった事による衝撃が走る中を耐えるのに精いっぱいだったハジメ達は、徹夜で大迷宮を攻略した事の疲れも相まってかヘロヘロな様子で、カプセルから脱出した。
「何なんあの脱出方法、明らかに(ピー)やないかい、シアが(ピー)塗れの似顔絵書いた事への意趣返しかいな…」
「酷い目に遭った…」
「ふざけんじゃないわよあの青汁の原料みたいな名前のサイヤ人め、何時か絶対に破壊してやるわ…」
「予め両腕もいどいた方が良かったかしらね…」
「うぅ、皆、大丈夫…?」
「…」
だがシアの様子が明らかにおかしい、疲労困憊なのは他のメンバーと一緒だが、あんな方法で脱出させたミレディへの悪態をつく事はおろか一言も発する事無く、顔を青くし、口を必死で抑え込んでいた。
そして、
「あ、す、すいません、ちょっと失礼しま
オ゛ウ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!」
決壊した。
「吐いたァァァァ!?」
「…これがゲロイン」
「というかオヴェェェェって、弁天堂が今度出す新型ゲーム機じゃないんだから」
「雫ちゃん、ツッコむ所其処なの?」
激流下りに伴うカプセルの激しい回転運動によって大いに揺さぶられたシアの三半規管は限界を迎え、激しい乗り物酔いに襲われていたのである、カプセルから脱出し、泉の岸にたどり着いた所で限界となり、消化が終わっていなかったであろう夕飯もろとも吐き出した。
まさかの状況に驚きを隠せない一行、雫に至っては疲労も相まってか物凄くズレたツッコミを入れていて、逆に香織からツッコまれていた。
一方のハジメは持ち前の優しさもあってか即座に対応、
「大丈夫、シア?ほら、口濯いで」
「は、はい…」
吐瀉物に塗れていたシアの口周りを洗いつつ、口内を濯ぐ様勧め、シアも口中が気持ち悪い感覚だった為か素直に応じた。
「うぅ、ぐすっ、み、見ないで下さいハジメさん、見ないでぇ…」
「まあ、その、気にしないでよシア、あんな激流を下って来たんだから吐き気も催すよ。ほら、シアの中の人だってレギュラー出演していた番組の企画でセンブリ茶を飲んだ時、余りの不味さに吐き出した*1事があったんだから」
「な、何のフォローですか、ハジメさん、うぅ…」
一連の対応で落ち着いたのか、今更ながら自らの想い人であるハジメの前で嘔吐するという女として絶対見られたくない姿を晒した挙げ句、その彼に対応させていた事を思い知り、滂沱の涙を流すシア。
ウサミミもペタリと垂れ下がってしまっている辺り、彼女の心が如何に傷ついたかは火を見るより明らかだろう、ハジメもそんな彼女を気遣い、フォローした。
内容が思いっきりメタ発言なのに加えて、全然フォローになっていなかったのでシアが泣き止む事は無かったが。
その後、抱きしめる等して慰めた事でシアが漸く泣き止んだのを受けて現在地が何処かを調べ、ブルックの街からそれ程離れていない地点にいる事を把握、一先ず休憩する為に街へと向かう事にしたハジメ達だった。