教え子達を始め、沢山の人達が集まっている中で、再会した想い人(教え子の1人)に抱き着くという色々とヤバい事を仕出かし、正気に戻った際にそれがどういう事かを思い知り顔を真っ赤にし、頭から湯気を出し、目をぐるぐると回し「あうあうあうあうあう…」と壊れたステレオの如き音声しか口にしなくなるという色々と故障した状態に陥ってしまった愛子(抱き着いた際にちゃっかり恋人繋ぎした手は握ったまま)は後で如何にかするとして、立ち話もあれだからと淳史達の勧めでVIP席に案内されたハジメ達。
「オルクス大迷宮のあの橋から落ちた後、どうしたんだ?」
「話し出せば徹夜になる程長くなるけど、一言で言うなら生き抜く為にハジメ達と力合わせて超頑張ったって所かしらね」
「何で皆して髪の毛が白っぽいの?優花っちに至ってはピンク髪だし」
「誰が淫乱ピンクよ、誰が。まあ苦労に苦労を重ねたらこうもなるでしょ普通」
「それエヴァンゲリオンに出て来るプラグスーツだよな?何でそんなの着ているんだ?」
「ああ、これ?ハジメ君のオーダーメイドなの、着心地良いし動きやすいよ。まあ周りからの視線は凄いけど」
「其処の女の子達は誰だよ?まあ想像は付くけど」
「僕の彼女。旅する中で出会って色々あって付き合う事になりました」
「…ユエ。ハジメの女」
「初めまして、ハジメさんの学友の皆さん。シア・ハウリアと申します。ハジメさんの女ですぅ」
「異世界に来てもプレイボーイ振りは相変わらずってか。まあ南雲だからあり得るか」
その場で自分達の分を注文しつつ、クラスメート達から投げかけられた怒涛の質問に対応していた。
学校関係者の大半が憎悪や畏怖等の悪感情をハジメに向ける中、香織達を除けば本当に数少ない好意的な感情を向けて来る(面と向かっての交流は避けられるが)存在である淳史達の存在はハジメ達も知っており、ハジメが愛子を意識する切っ掛けとなった『とある教え』も相まってか邪険にする事無く応対していた。
尤も今現在もクラスメート達と離れて旅を続けている最大の理由を、教会所属の神殿騎士を始め聖教信者だらけなこの場で言う訳にも行かず、端折りに端折った物となったが。
淳史達もこの場では言えない事があるのだと感じ取ったのか「後でちゃんと話せよ?」と言いたげな視線を向けるだけで特に追求しなかった。
尚、件の神殿騎士達だが、愛子と仲睦まじい様子を見せつけたハジメに嫉妬したのか、席に座ろうとした彼に突っかかろうとして、強大な威圧を叩きつけられた事で全員が卒倒し、滞在してる部屋へと運ばれている。
「で、そっちの方は…何かあったみたいだね、僕達が転落してから」
「あ、ああ。実はな…」
それはさておき、何処か悄然とした淳史達の様子から何事か起こったのを見抜いたハジメが話を振り、それを受けて淳史が、ハジメ達がオルクス大迷宮の奈落へと転落してから起こった事を話した。
要約するとこうだ。
ハジメ達が奈落へ落ちたのと同日、ハジメ達と同じパーティだった幸利と、
ただでさえハジメ達4人が事故死するというショッキングな出来事でクラスメート達の心が大きすぎるダメージを受けた所に、新たに5人が忽然と姿を消すという緊急事態、とても訓練を続けられる状況では無いとメルドは判断、5つあるパーティのうち2つのパーティがメンバー全員いなくなった以上は国王や教会に報告を入れる必要もあって、一行は王国へと戻った。
帰還を果たしハジメ達の死亡及び、幸利や小悪党組の行方不明が伝えられた時、誰も彼もが愕然とし、ハジメ達が転落する少し前に彼へと襲い掛かった炎についての追及が始まり、直ぐにそれが行方不明になった檜山達による犯行だと断定され、彼らはこの件の追及から逃れる為に行方を眩ませたとして異端者認定されたのだ。
一方の幸利は、自分以外のパーティメンバーが死亡した事で一際ショックが大きかった為、発狂して遁走したとして捜索の為に騎士団が派遣され、現在も各地を探し回っているが未だに見つかっていない。
「この件で天之河の奴は、檜山達は潔白だと、魔人族に攫われたとグダグダ抜かしてやがったがな…」
と、天之河が相変わらずな言動で檜山達の無罪を主張していた事を思い出した淳史が呆れた様子を見せるが、此処で何処か複雑そうな表情のハジメが意外な事を口にした。
「いや、皆。檜山達が行方を眩ませた件に関しては天之河の言う通りかも知れないよ?」
「なっ南雲!?お前、アイツらを庇う気かよ!?お前の事を散々目の敵にしていたアイツらを!?」
「別にアイツらを庇う積りは無いよ、実際僕に襲い掛かったあの炎は檜山か、アイツの取り巻きが仕掛けた物だと見ているし」
「じゃ、じゃあ何で…」
といっても、檜山達は無罪だとする天之河の主張を信じたという訳では無いが。
檜山達は攫われたとする天之河の主張に賛同したハジメ、それに驚愕する淳史達に対し、その訳を説明した。
「あの炎が檜山達の仕業だとして、じゃあ何でアイツらは追及を恐れて逃走する、なんて選択肢を選ぶのかな?自分達の首を絞めるだけでメリットが無い事は明白なのに?」
『え?』
「僕に襲い掛かったあの炎が檜山達による物だと疑われたとして、もし僕が檜山の立場だったら逃げたりせず、天之河を通して潔白を主張するね。思い込みが激しい一方で基本的に性善説を信ずる天之河なら無碍にはしない筈だよ、実際に前例があるし。保身の為なら頭の回るアイツの事だ、同じ行動を取るに違いない。だから檜山達は攫われたと僕は思うよ」
説明するハジメの脳裏には、王都で訓練していた時に起こった檜山達による襲撃事件があった。
あの時はハジメが事も無げに檜山達を退けた上、幸利に渡していたカメラで撮影された写真を証拠としてリリアーナに提出、彼女を通じて告発したのだが、天之河が横槍を入れた事でそれは(表向きは)取り下げられてしまったのだ。
それを踏まえれば、例えあの犯行を疑われたとしても天之河に潔白を主張すれば、それを聞き入れた天之河がそれを方々に伝え、お咎め無しにしようとするだろう、実際に潔白を主張しているのだから。
逆にその追及から逃れる為に行方を眩ませるのは下策中の下策、如何にも自分達がやりましたと言っている様な物だ、彼らがそれを仕出かす動機は十分(以前からのいざこざは勿論、当日は罠による被害を未然に防ぐ為とはいえハジメが檜山を銃撃した)、何かあった時に真っ先に疑われるのは自分達なのであり、実際に教会にとっての、神にとっての敵と認定されてしまったのだから。
少しでも考えればわかる様な事を檜山達が考え付かない筈が無いとの推理から、ハジメは檜山達が攫われたとする天之河の主張に賛同したのだ。
「尤も、攫ったのが魔人族だとは限らないけどね…」
訳を聞いて成る程と思った淳史達の耳には、ハジメがポツリと呟いた意味深な言葉が届く事は無かった。
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「そうですか、この世界を支配する邪神エヒトルジュエを倒す為に…」
「うん。エヒトルジュエを討伐しなければ次に狙われるのは僕達の世界、此処でやらなきゃ僕達の日常がやられるんだ。だから僕は、僕達はエヒトルジュエを討つ。その為に旅を続けているんだ」
食事を終え、自分達が宿泊する部屋へと戻ったハジメ達、暫くして正気に戻った愛子に自分達が皆と離れて旅を続ける理由を、エヒトルジュエ討伐という最終目的を、その根拠であるオスカー・オルクスの住処で聞いたこの世界の真実を明かした。
尚、先にその話を聞いた淳史達は、エヒトルジュエのクズ振りに改めてマジギレした一方、その討伐の為にMS等の兵器を開発しつつも、神代魔法等の力や一緒に戦えるであろう『仲間』を求めて旅を続けているというハジメ達を見て、考え込む様な表情をしながら各々の部屋へ帰って行ったのは余談だ。
「今回此処に来たのは、表向きには北の山脈地帯へ行ったきり行方知れずとなった冒険者の捜索依頼を受けて、となっているけど、それは序でみたいな物でね、本当は愛子に会いたくて、此処に愛子がいると聞いて来たのさ」
「は、ハジメ君!?そ、それって」
「僕は愛子を先生として尊敬しているし、1人の女性として愛している。逆に言えばエヒトルジュエ及び奴の眷属にとって、愛子は人質として格好の的という事に…あれ?
おーい、愛子?あらら、また壊れちゃったっぽい?」
「あうあうあうあうあう…」
「…壊れて当然、シアだったらバカ面晒しまくっている」
「いやバカ面って何ですかユエさん」
その際、此処ウルの町に来た理由を明かしたハジメだったが、まるで口説き落とすかの様なその文言に愛子が再び故障した状態に陥ったのは言うまでもない。
と、そんな中、
『来られよ』
「ん?」
「どうしたの、ハジメ君?」
「何か今、何処かから声が…」
「声?聞こえなかったわよ、ハジメの気のせいじゃない?」
「いや、気のせいにしては随分とはっきりした声音だったよ、何処ぞのモッピーに似た声が」
「モッピーに似た声って…」
ハジメの耳に、妙齢の女性らしき声音の、然し年寄り臭い口調で誰かを呼び掛ける声が聞こえたのだ。
いや、耳にというのは語弊があるかも知れない、実際この場にいる香織達には一切聞こえておらず、誰もがハジメの気のせいでは無いか?と思ったのだから。
『この光を見た者よ、北の山々へと来られよ』
「やっぱり聞こえる。この光を見た者、か。外に何かあるのかな?」
「ハジメ?」
「ハジメさん?」
だがもう1度その声が聞こえた、今度はより具体的な内容の呼び掛けだったので気のせいではないとハジメは確信し、その呼び掛けにおいて目印となるであろう光の存在を知った彼は部屋の外を確認した。
すると、
『今、北の山々にて只ならぬ物が蠢いておる。この光を見た者は来られよ、妾と共にこの物を鎮めるのじゃ。これを鎮めねば、近い内に大いなる災いが起こるであろう』
「また聞こえた。光が放たれると共に聞こえて来た、いや、僕の脳裏に直接響き渡ったこの声…
成る程、向こうがそれを理解しているかは兎も角、光に脳量子が乗っかり、遠方へ己の思考を届けられる様になったという訳か。それなら僕以外誰もこの声が聞こえなかった事の説明が付く。脳量子は
「しゅ、しゅごいです…」
明日向かう予定だった北の山脈地帯から光が放たれ、その直後ハジメの脳裏に三度その声が聞こえて来たのだ。
状況から自分にだけその声が聞こえる理由を理解したハジメ、それが分かれば話は早いと言わんばかりに行動を開始した。
「香織、スプィーシカ貸して。一丁で良いから」
「うん、ハジメ君」
香織からスプィーシカを借り、北の山脈地帯、そのちょっと上に狙いを定めながら己の魔力をスプィーシカに流し込む。
そう、声の主がそうした様に自らもスプィーシカのビームに自らから発する脳量子を乗せて発射、向こうに返事を送ろうとしているのである。
とは言えハジメは光魔法の適性を持っていない、よって馬での移動で片道一日と言われる程の距離がある山脈地帯までビームを届けさせるとなると相当の魔力が求められるが、其処をハジメはXラウンダーによる近未来予知を駆使して最適な魔力量を算定、ビームを発射した。
『了解したよ、明朝そちらに向かう』
という己の返答を含有した脳量子を乗せて。