「は、ハジメ君、本当にこの格好じゃないといけないんですか…?」
「流石に恥ずかしいよね、ごめん愛子。でもISを、ガンダムを扱う上でスーツの着用は必要だからさ」
翌日の夜明け。
昨夜に北の山脈地帯から送信された脳量子をハジメが受信した事で、其処で大いなる災いを引き起こすだろう存在がある事を知った一行は、早急に山脈地帯へ向かわねば捜索依頼の成否にも関わってくると判断し、夜明けと共にウルの町を出る事にした。
ウィル・クデタ達が北の山脈地帯に調査へ入ったきり消息を絶ってからもう数日が経過、生存率が一気に下がる境目と言われる三日を過ぎた以上、生きている可能性は限りなく低いと考えるのが自然だが万が一という事もある、その万が一も昨日の脳量子通信によって知った『只ならぬ物』によって刈り取られてしまう危険性が高いし、遺品探しの上でも『只ならぬ物』の存在は厄介だ、早急に向かうべきであるとメンバー全員の意見が一致した。
その際、故障した状態に陥っていた愛子もその場にいて、会話の内容はちゃんと聞こえていた為か、その捜索任務に同行したいと言い出したのだ。
愛子の頭には、未だ行方知れずとなった幸利及び檜山達の存在があった。
行く先々で聞き込みを行う等八方手を尽くして情報を集めているが、未だにそれらしい人物を見かけたという情報すらないという厳しい状況であり、彼女達とは別に幸利の捜索を行う騎士団からも良い返事は未だに聞けていない。
だがそもそも住む人がいない北の山脈地帯に関しては、今後捜索しようかと淳史達が考えていた事、此処最近立ち寄る人もいない事から何の情報も集まっていないと思い当たり、この機会に乗じて、ハジメ達の捜索依頼を手伝いながら幸利達の捜索をと愛子は考えた。
ハジメ達と仲の良かった幸利は勿論の事、ハジメとの因縁深い檜山達とて愛子にとっては可愛い教え子、例え許されない事をしたとは言え生きている内はそれを償う事も出来る、その為にもまずは見つけ出して連れ戻さなければならないと彼女は決意していたが、もし山脈地帯に潜伏していたとしたらその『只ならぬ物』によって命が脅かされかねない、彼女もまた早く向かわなければと思っていたのである。
そんな彼女の姿にハジメは、一度決意を固めたら梃子でも動かない事を知っていたし、そんな彼女こそが自分の好きな畑山愛子という女性なのだからと、護身用としてヴァスターガンダム5号機『マイ*1』及びIS等の関連武装を渡した上で、それを装着した状態であれば付いて来て良いよと許可した。
愛子もそれを承諾して渡された各種武装を装着したは良いのだが、流石にプラグスーツ*2一丁という格好は流石に恥ずかしいのか、もじもじしながら疑問を投げかけたが、必要な物なので受け入れられる事は無かった。
何はともあれ各々準備を整えた一行、まずはチェックアウトを済ませようと部屋を後にすべく、扉を開けると、
「た、玉井君!?み、皆して一体何を!?」
「何、してんの…?」
其処に広がっていたのは、玉井達5人が扉の前でそれはそれは見事な土下座を披露しているという光景だった。
「頼む、南雲。俺達を連れて行って欲しい、お前達の旅に」
その内の1人、淳史が代表して顔をあげつつ自分達が土下座している訳を、要望を伝えた。
「玉井、仁村、相川、菅原、宮崎…
お前達は昨日の話をちゃんと聞いていたのかい?僕達の旅の最終目的はエヒトルジュエ討伐、その為にこの世界に点在する七大迷宮を攻略し、神代魔法を集めている。それは危険と一言で片づけられない程過酷な茨の道だよ。少なくとも、お前達の力では幾ら命があっても足りないよ」
「そうですよ、玉井君。正直な話、ハジメ君達にもそんな危ない橋を渡って欲しくないのが先生の気持ちです。然しそうしなければ私達の世界は、大事な日常は、大切な人達は邪神エヒトルジュエによって荒らされてしまう。誰かがやらなければならない、さもなくば自分達が危険にさらされてしまう。ハジメ君達にはエヒトルジュエ討伐を必ずや成し遂げると言う決意も、それが出来る圧倒的な力もあります、そんなハジメ君達を止める事は先生でも出来ません。だけど玉井君達までその『誰か』になる必要は無いんですよ?」
その要望の内容、及びそれを口にする淳史の様子から、愛子みたいに捜索任務に『のみ』同行するという訳では無く、ハジメ達の旅『その物』に加わりたいのだと捉えたハジメ達、勿論それに相応しい力には、自らが感じた限りでは程遠い淳史達を連れていく訳に行かないと考えたハジメと、ハジメ達に加えて淳史達に迄そんな危ない橋を渡らせるのは先生として看過出来ないと思った愛子が考え直すよう説得に当たったが、当人達の意志は固かった。
「そんなのは百も承知だ!大迷宮を潜り抜けたお前達と比べたら俺らなんてミジンコ程度の力しか無いかも知れない、そんな俺らがエヒトルジュエを討伐する『誰か』になる事は不可能かも知れない、お前達の旅に同行した所で足を引っ張るだけかも知れない!それでも、お前達の為に何か出来る事をしたいんだ!頼む、俺達もお前達の旅に付いて行かせて欲しい!」
「「「「「お願いします!」」」」」
そして今一度、全員揃って頭を下げた。
戦う姿を見ずとも淳史達には、ハジメ達の強さは自分達とは比べ物にならないとは分かっていた、そしてそれ程の強さを身に着けなければ七大迷宮の攻略など出来る筈が無い事も理解していた。
だがハジメ達からこの世界の真実等を聞いた今、ただ愛子と一緒にこの世界を、農地を耕して回るだけで良いのかと、自分達の命運をハジメ達に丸投げしておいて此方は戦乱の無い場所で安穏としていて良いのかと、弱さを理由に逃げるだけで良いのかと考える様になり、迷宮攻略及びエヒトルジュエ討伐に参加は出来なくても、せめて自分達の出来る事でハジメ達の手伝いがしたいと、それを間近で行いたいとの結論に至ったのだ。
嘗て淳史達はオルクス大迷宮においての実戦訓練で罠によってベヒモスらが住まう階層へと飛ばされた際、前線でモンスター達に立ち向かうハジメ達に対してただ脱出の為に後ろを付いていくだけで、その結果檜山達による凶行を阻止するどころか前以て気付く事も出来ず、彼らが奈落の底へ落ちていくのを見ているだけで、そんな事実から逃げる様に引き籠った挙句、愛子の護衛について今に至った。
もう後悔はしたくない、やれる事をせずに取り返しのつかない事態になるのは耐えられない、ハジメ達と再会し、そんな思いを抱く様になった淳史達は、これを機にやれる事をきっちりやろうと確固たる決意を固めたのだ。
そんな淳史達の決意を体現した土下座に、ハジメ達も説得の言葉を掛ける事が出来ず、特にハジメはその決然とした姿が、自分に告白して来たあの時のシアとダブって見えたのもあって、考えを改めた。
「そういえば、ストリボーグのクルーに相応しい人いないかな、と考えていた所なんだよね。ある程度機械や電子機器の類が扱える人材がね。僕達はガンダムパイロットとして有事の際にはストリボーグから離れなければならない、僕達が皆出払っている時にも運用可能な状態に出来れば後方戦力として心強い。丁度良いや、宜しくね、皆」
「「「「「はい!」」」」」
ハジメが提示したのは
こうして、淳史達5人は旅の一行に、ストリボーグのクルーとして加入する事となった。
因みに各メンバーの担当は、弓士である仁村明人が砲撃士、騎手である相川昇が操舵士、妙子と奈々がオペレーター、そして淳史が副艦長(艦長はハジメになっているので)となった。
尚、この編成について淳史が「これ何てプトレマイオス?」と必要最小限な人員配置にツッコミを入れ「いやこれは寧ろリヴァイアスじゃね?ユエさんとシアちゃん以外皆高校生だし、シアちゃんも俺らと1つ下だし」とガンダム
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「僕達はこれから山脈地帯に潜入し、地上から調査を行う。ストリボーグは空中からの調査を頼む。玉井、細かな現場判断はお前に任せる。頼んだよ、艦長さん」
『ああ、任せろ!』
『『『『了解!』』』』
その後、ストリボーグに乗り込んで北の山脈地帯へと出発した一行、僅か数分で辿り着いたのを確認したハジメは、香織達と共に右艦舷に設けられたハッチ前に移動、艦橋にて各々の持ち場に付いていた淳史達に指示を飛ばし、
『右舷艦ハッチ、開放します!』
「Dive!」
それを受けての妙子の艦内アナウンス、それと同時にハッチが開放されたのを受けてスカイダイブを敢行、ISの各種機能を活かして安全に、1つ目の山の麓に着陸した。
「此方地上部隊。目標地点に着陸成功。これより山内の捜索を行う」
『了解。でも気を付けろよ、お前の話だと山の中に物凄くヤベー奴がいるらしいじゃねぇか。お前達なら何とかなるかも知れねぇが、そのウィル・クデタだっけ、捜索対象は?そいつとか清水達とかはそうじゃないからな、慎重に、でも早急に、だな』
「勿論だよ。そっちも空中からの捜索に集中して。何か少しでも気になる事があったら欠かさず連絡を。良いね?」
『OK!』
皆が無事に着陸したのを受けてストリボーグにいる淳史達に連絡を取り、山脈地帯へ足を踏み入れたハジメ達、其処へ、
「其処の人間よ。お主が妾の呼び掛けに『直に』応えた者か?」
ハジメが昨夜聞いたそれと同じ声が、響き渡った。