翌朝、ストリボーグをかっ飛ばして宿場町ホルアドへとやって来たハジメ達。
昨日決定した旅の方針ではハイリヒ王国の王都、その背後に聳え立つ神山へ行く筈だったのにその南西方向に位置するホルアドへ何故来たのかというと、イルワからとある依頼を受けた為だ。
自分達の冒険者ランクが『金』になった事の事後承諾への賛同を、冒険者ギルド・ホルアド支部長に求める手紙である為か受けない訳にも行かずこうして遠回りを強いられる形となった訳だが、ストリボーグを飛ばせば神山まで一時間近くしか掛からないので大した問題では無い。
そういう事情からホルアドへと来て、冒険者ギルドを目指してメインストリートを歩く一行、その中でユエ、シア、ティオ、ミュウを除いた10人が、3カ月近く前に実戦訓練の為此処へ来た事の有る10人が懐かし気に目を細めていた。
そんなハジメ達の様子が気になったのか、ハジメに肩車して貰っているミュウが不思議そうな表情をし、おでこをぺちぺちと叩きながら尋ねた。
「パパ?お兄ちゃん?お姉ちゃん?どうしたの?」
「ん?あぁ、実を言うとパパ達ね、前にも此処に来た事があったんだよ。前に来たのは3カ月近く前なんだけど、もう何年も前の様な気がしてね。柄にもなく感慨に耽っていたよ」
『うんうん』
複雑そうな表情をしながらそう答えたハジメに、香織達残りの9人が全く以てその通りと言わんばかりに頷く。
事情をハジメ達から聞いているユエ達は此処へ来た事で
「思えば、此処から始まったんだよね。緊張と不安と決意を抱いて一晩過ごして、翌日には大迷宮に潜って…そして僕達は落とされた」
「それからハジメ君達と生き残る為に必死になって、魔物の肉を食べて人を辞めて、ユエと出会って…この世界の真実を知った」
「皆でエヒトルジュエを倒そうと決めて、その為の力としてハジメがヴァスターガンダムを作ってくれて…私達は決意を新たに地上へと帰って来た」
「シアとティオが一緒になって、清水も帰って来て、愛ちゃんもガンダムパイロットになって、玉井達もストリボーグのクルーとして加わって…それもこれも、全て此処での出来事がスタートだったのよね」
そんなユエ達の様子を知ってか知らずか、ある意味で運命の日と言うべきあの日からの事を思い出し、呟く10人。
ハジメ達奈落へ落ちた4人は、其処から地上へと脱出し、ハルツィナ樹海、ライセン大峡谷、フューレン、ウルの町と各地を渡った激動の日々を、
「俺もそうだったな。ハジメ達が死んだと思い込んで、憎悪の心が沸き上がって、ただ復讐の為に『力』を求め、罪も無い人達を殺し回って…危うくハジメすらも手にかけようとした」
1人取り残された幸利は憎悪の儘に力を求め、罪なき人々を殺し回った末にハジメすらも殺しかけた決して許されない所業を、
「俺達もだよ、一番頼りになる南雲達がいなくなっちまって、戦いって奴がどれだけ恐ろしい事か思い知らされて、怖くなって…愛ちゃんの護衛になるって名目で逃げ出した」
「それがこの前、生きて帰って来てくれてびっくりしたけど安心した、だけど帰って来る迄に南雲達がどれだけ必死こいていたか聞いて…俺達はとんだ腰抜けだと思い知らされた」
「南雲っち達からオスカー・オルクスの住処で聞いたこの世界の真実を聞いて、聖教の人達に騙されたと感じて…皆と一緒に帰りたいと、その為に南雲っち達と一緒に戦いたいと思った」
「南雲君達と比べれば月とすっぽんと言われてもおかしくない私達だけど、それでも少しでも出来る事を、南雲君達の役に立てる事をしたい、そう思ったら…いてもたってもいられなくなった」
「なんだかんだあったけど南雲が俺達の同行を受け入れてくれて、南雲達の足は絶対引っ張らないと決めて頑張った…本当、色々あったよなぁ」
淳史達5人はハジメ達の『死』を目の当たりにした事で抱いた恐怖から、愛子の護衛という名目で逃避しながらも、そのハジメ達との再会を機に再起を誓うまでの日々を。
「何か、随分としんみりしちゃったね。さて、さっさと手紙を届けて神山へ向かうよ。そろそろ、追われる身になる覚悟を決めないとね」
『はい!』
それによって何処かしんみりした雰囲気になったのを察したハジメが空気を入れ替えるかの様に呼び掛け、一行は再びギルドへの道を進んだ。
と、その道中で、
「あ。ミュウ、抱っこに切り替えても良いかな?」
「ふぇ?パパ、何で?」
「こわーいオジさん達が揃ってミュウを泣かせようとしているのが『見え』たから、ね?」
「わ、分かったの」
ハジメが何かを捉えたのか、肩車しているミュウに、抱っこに切り替える事を提案した。
ハジメの肩車が余程気に入っていたのかミュウが少なからず不満そうに聞くものの、その訳を聞いて慌て、伸ばされたハジメの腕に降りた。
そのままミュウを、視界をシャットアウトする形で抱きしめ、再びギルドへと歩くハジメの姿に、他のメンバーは揃って『親バカだ…』と思いながらその後を追ったのは言うまでも無い。
それはさておき何事も無くギルドへと辿り着いた一行、他の町とは違って金属で出来た扉の、重苦しい開閉音と共に入って行く。
扉が開くと共に広がる冒険者ギルド・ホルアド支部の光景、それはブルック支部みたいにほのぼのした中にも統制されたものや、フューレン支部みたいに理路整然としたものとは違う、正に荒くれ者達の巣窟と言うしかないものだった。
内部の作り自体は正面にカウンター、左手側に食事処がある、と他の支部と変わりないものの、酒類も提供されているのか、昼間から飲んだくれたおっさん達がたむろしていた。
何より特徴的なのが異様な姿を晒す壁や床、喧嘩等で破損したりそれを大雑把に修復したりした跡や、泥や何かの染みがあちこちに付着していて不衛生な印象を持つ。
そんな光景を裏付けるかの如く中にいる冒険者達も総じて目がギラギラしている、何しろ大迷宮へ挑む上での拠点として活用されているのだ、冒険者や傭兵といった、魔物等との戦闘を生業とする者達が大いなる気概を抱いて集まるのは当然と言えよう。
然しながら、それを差し引いても現在のギルドは妙にピリピリしている、歴戦の冒険者達をそんな殺伐とした様子にさせる何かが起きているのは明らかだ、そんな雰囲気に晒され続けてストレスが溜まっていたのか、ハジメ達が入って来た瞬間にその方向へ殺気を伴った視線を向けた。
とはいえそんな事情など知らないハジメ達にとっては理不尽に殺気を向けられたと感じるのも、それに対してふざけんな!と思うのも仕方ない事、殊にハジメは、予めXラウンダーによる近未来予知で見ていた為に対処出来たとは言えひょっとしたらそれでミュウに恐怖を味合わせてしまう所だったかも知れないと憤りを感じ、
――潰すよ?
Xラウンダーによる威圧を最大限開放し「ふざけたガキをぶちのめす」と言わんばかりに立ち上がろうとした冒険者達の行動を封じ込めた。
オール5桁のステータス、何十にも及ぶ技能という正に桁違いな実力を持ったハジメの威圧である、それはさっきまで睨んでいた冒険者達の殺気なぞ子供の癇癪としか思えない程の物、既にギルド建屋の破損を悪化させている程の影響を与えるそれの前には、未熟な冒険者の意識は即座に刈り取られ、実績充分な冒険者達ですら恐怖の余り身体がガタガタと震え、滝の様な汗を流して顔を青ざめさせ、意識と身体を必死に支える事しか出来なかった。
「ねぇ、今こっちを睨んだ人達全員さぁ」
『!』
そんな中で口を開いたハジメ、その声にビクリと震える、呼ばれた冒険者達、恐る恐ると言いたげに彼を見るその眼は、文字通り化物と対面した様な恐怖で染まっていた。
「面白い土下座をして貰おうか」
『ゑ?』
そんな事など知るか!と言わんばかりに要求という名の命令を下すハジメ、それはこの状況とイマイチ合致しない物、戸惑うのも無理は無かったが、ハジメは更に言葉を続けた。
「聞こえなかったのかなぁ?面白い、それこそ腹が捩れる位に笑える土下座をしろって言ったんだよ。謝罪の意志と、何このオジさんおもしろーいアピールだよ。お前達の所為で家の娘が怯えるかも知れなかったんだよ?僕が察知したから良いものの、トラウマになったら絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛って奴だよ?謝罪と賠償をそれこそしつこく要求するよ?ねぇ、
早くやれよ」
だったらそもそもこんな場所に幼い子供を連れて来るんじゃねぇ!と全力でツッコミたかった冒険者達だったが、化物級の相手にそんな事を言える筈も無く、そうこうしている内にハジメが再び威圧を強め、土下座と聞いた優花が
先程まで食べていた食事が乗っていた皿を頭にのせたり、ビックリ人間かと言わんばかりに足が背中を通して肩まで回ったり、床の穴が開いている所に頭を突っ込んだり…そんな姿に、ハジメから何かしら話し掛けられたのか顔を出したミュウも「ぷふっ!」と吹き出していた、ご満悦の様である。
それに満足したのか、カウンターへ悠然と向かうハジメとそれについて行く他のメンバー、同時にXラウンダーによる威圧も消え失せたのかドサドサと崩れ落ちる音があちこちから響いたがさらりと無視して、
「フューレン支部長イルワ・チャングから手紙を預かっている。ホルアド支部長に直接渡せと依頼を受けているんだけど、その支部長は何処に?」
「あ、はい。お預かりします。えっと、フューレン支部長様からの依頼…ですか?」
カウンターにいる受付嬢に要件を伝えつつ、身分証明の為にステータスプレートを渡した。
何度も言うが一介の冒険者がギルド支部長から直接依頼を受けるなんて余程の事、本当にそうなのか?と訝し気な表情をしていた受付嬢だったが、渡されたステータスプレートに表示された情報を見て驚愕、ハジメの話が嘘でない事を思い知った。
「き、金ランク!?」
最高ランクである『金』を持つ冒険者は全体でも一握り程、そしてその認定を受けた者は1人の例外も無くギルド職員に伝えられている筈なので、情報が入っていなかったハジメ達の存在に驚き、思わず情報を漏らしてしまった。
その声を聞いた建屋内の人達、先程ハジメ達を睨み付けて返り討ちにあった冒険者達や、受付嬢の同僚であるギルド職員達が、同じ様に驚愕してハジメ達を凝視、騒ぎが大きくなったのを聞いた事で、ハジメの個人情報を大声でバラシてしまったと察した。
「も、申し訳ありません!本当に、申し訳ありません!」
「別に良いよ。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるかな?」
「は、はい!少々お待ちください!」
本当に申し訳無さそうな様子で繰り返し謝る受付嬢の姿に苦笑いしつつも、早く支部長に取次してくれと頼んだハジメ、ウルの町で魔物の大軍と戦った事、フューレンでフリートホーフを摘発と言う名の襲撃によって壊滅させたこともあってその名が轟いてしまっているし、これからエヒトルジュエ及び聖教教会に喧嘩を売りに行くのだ、今更である。
子連れで美女・美少女ハーレムを持つ未成年の『金』ランク冒険者達の存在から注目を集める中で待つ事5分位、奥の方から何者かが猛ダッシュして此処へとやって来る音が聞こえて来た。
何事かとハジメ達が注目すると、横の通路から全身黒装束の少年がド派手な音を響かせて床を滑りつつ飛び出してきて、誰かを探す様にキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
その人物はハジメ達にとって見覚えのある存在、まさか此処で再会するとは思わなかったのか、思わず目を丸くして呟いた。
「「「「「「遠藤?」」」」」」
「「「遠藤君?」」」
「遠藤っち?」