「パパぁ!お帰りなの!」
「ミュウ、ただいま!」
オルクス大迷宮の入場ゲートがある広場に響き渡る幼女の元気な声、その主であるミュウは声を響かせながらステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら一直線に父親であるハジメへと駆け寄って行き、そのまま飛び込んだ。
此処で、突っ込んできた幼女の頭が腹部に直撃して悶絶する、というのがアニメとかにありがちなパターンではあるがハジメはそんなヘマはしない、ミュウに怪我などさせないと言わんばかりに衝撃を流しつつ、しっかりと受け止めた。
「今帰ったよ、ミュウ。良い子でお留守番していた?」
「うん、お兄ちゃん達やお姉ちゃん達が一緒に遊んでくれたの。だからパパがいなくても大丈夫だったの」
「お前達を待っている間、我儘を言う事も、勝手な行動をする事もしないで待っていたんだぜ。四歳とは思えない位出来た子だよ、余程お母さんの育て方がしっかりしていたのかな」
「おぉそうか、偉いねミュウ!流石はパパ自慢の娘だ!」
「えへへ、ありがとうなの、パパ!」
「いや南雲、お前ミュウの父親になってまだ2日目だろ、お前が此処まで育てた訳じゃないだろ」
此処ら辺は流石に年相応だなぁと、父親が受け止められないとは端から思っていないかの様なミュウの突撃に何処かほっこりしながら、待っていた間のミュウの様子を尋ねたハジメ、返って来た答えはしっかりすべき所はしっかりしている、まだ見ぬミュウの母親の出来た一面を垣間見れる物だった。
そんなミュウを親バカ振り全開で褒めるハジメ、そんな彼にツッコミを入れたり「完全に父親している…」と近い内に来るかも知れない別れの時にどうなるのか懸念したりしている仲間達の一方、クラスメート達はどういう訳か「まさか父親になっているなんて!」と驚きに包まれ、誰もが母親は一体誰だと、香織と雫、優花といった転移前からの恋人に加え、ユエとシア、ティオといったこの世界でハジメと想いを通じ合わせた美女達、あろう事かハジメとはそういう関係じゃない妙子と奈々にまでその邪推の対象を広げていた。
冷静に考えれば行方不明中の三ヶ月で四歳位の娘が出来るなんて有り得ないし、明人もハジメにツッコむ際に彼がミュウの父親であるとは言っても義理である事を明かしているのだが、度重なる死闘の果てに何とか死地から生還する中で色々と衝撃の事実を突きつけられたせいで、その冷静さが失われていたので見事に勘違いが発生していた。
そしてそんな勘違いは、ハジメに敵意を抱いている存在に行動を起こさせるには十分な物だった。
「待つんだ香織、雫!それに園部達も!躊躇なく人殺しを行う清水や、それを屁理屈こねて正当化する南雲とこれ以上一緒にいてはいけない!」
言うまでも無いが、天之河の事だ。
躊躇なく人殺しを行う、という所でハジメ達と再会するまでの所業がフラッシュバックしたのか一瞬渋い顔をした幸利だったが天之河がそれを知る筈は無いので、続けて言ったハジメの件も加味して魔人族の女の事を言っているのだろうが、その件はあの場において必要な行動であり、それに対するハジメの言い分も屁理屈では無くれっきとした正論である。
それを思い出した一行、更には遠藤が騒ぎ立てた為に事の次第を何となく理解していた周囲の面々からも一体何を言っているんだコイツはと言いたげな目を向けられていたが、天之河は止まらない。
「君達も清水や南雲から離れるべきだ!南雲は無力な女性を無理矢理犯して子供を作らせた挙げ句、人殺しという重罪を犯した清水を、屁理屈並べて黒を白に変えようとしている外道な男だ!今もそんなコスプレみたいな恰好を強制させて悦に浸っている、女性をコレクションか何かと勘違いしているんだ!最低な奴だ!俺は南雲達とは違う、これ以上その男達の所にいるべきじゃない!俺達と一緒に行こう!君達程の実力なら歓迎するよ、共に人々を救うんだ!」
説得(と本人は思っている)の為に香織や雫、優花達クラスメートに向けられた視線がユエ達に転じられ、ハジメが如何に悪い奴かを(事実無根にも程があるが)声高に叫び、爽やかな笑顔を浮かべながら手を差し伸べた。
その手を向けられたユエ達は…
「うわぁ…」
「痛々しいですねぇ、この人。話には聞いていましたが予想を遥かに越えて来たですぅ」
「呆れたBad boyじゃのぉ、こ奴は。さような妄言をハジメ殿達が元居た世界の民は信じ込んでおったのか、信じられぬのぉ…」
まあ、予想通りと言うべきか、ドン引きしていた。
事実無根にも程があるハジメの悪評を並べる天之河の痛々しい言動が精神攻撃となったのか、ティオの露出した素肌に鳥肌が立っていた、恐らくはユエ達も同様だろう、そんな気持ち悪い奴の言葉などこれ以上は聞きたくないと言わんばかりにハジメの影にそそくさと退避していた。
そんなユエ達の姿に、手を差し出したまま固まった天之河、恐らくは提案を拒否するどころか、視線を合わせず、気持ち悪い奴といわんばかりに退避するその姿にショックを受けたのだろう、そのショックは再燃した怒りとなった。
「決闘だ、南雲ハジメ!俺が勝ったら二度と香織と雫には近寄るな!そして、其処の彼女達も全員解放して貰うぞ!はぁぁぁぁ!」
「な!?バカ、止まれ光輝!」
聖剣を引き抜き、突きつけながらハジメに、香織達の身柄を賭けた決闘を申し込む天之河、そのままハジメの返答を聞く事も無く、その実力差を痛感していた坂上が止めるのも聞かずに突っ込み、剣撃が届く間合いとなった所で袈裟斬りの要領で振り下ろした。
この世界の人間族から逸脱したステータスに、一時的にそれを三倍に上昇させる技能『限界突破』をも駆使して数瞬の内にハジメへと肉薄した天之河、(ハジメの仲間以外の)誰もがその剣撃がハジメを捉えたと確信し、天之河は決闘の勝利を確信した。
だが「すぽっ」という間の抜けた音がした次の瞬間、振り下ろした筈の聖剣の感触が手から感じられなくなり、ハジメに届く筈のその斬撃は最初からなかったと言わんばかりに、その両腕が虚空を薙ぐだけに終わった。
まさかの事態に一瞬唖然とした天之河、だがその間に膝蹴りを放って来たハジメの、今まさに天之河の顔面を捉えんとしているその膝頭が視界に包まれた。
「せいやっ!」
「がぁっ!?」
袈裟斬りを放つ勢いを抑え切れず身体が流れた所に、顔面を捉えた膝蹴りが直撃し、余りの威力によって一瞬で昏倒した天之河、一方で秒殺といって良い速さで天之河を無力化したハジメの左手、厳密には左手の人差し指と中指の間には、天之河が持っていた筈の聖剣、その刀身が挟まれていた。
そう、天之河の聖剣による袈裟斬りがハジメの身を捉える直前、左手の指二本だけで白刃取りをし、剣撃の勢いを逆手にとって聖剣を抜き取って見せたのだ。
こう文章に記すと激昂する天之河の剣撃をハジメが事も無くさばいて見せたと捉えられそうだが実際はそんな簡単な事じゃあ無い、只でさえこのトータスにおいてチート級のスペックに加え、幼少期より雫の家の道場に通って八重樫流剣術を修めた事で剣の技も一級品と言って良い天之河の剣撃を、増してたった2本の指で白刃取りするなど無理難題と言って良い、最早化物と言えるスペックとXラウンダー等の強力な技能が成せたと言っても過言では無いのだ。
「勝ったら香織達の身柄を渡せと、そっちが賭けを申し込んで来たんだ、僕が勝ったのだから相応の物を戴くよ。そうだね、この聖剣で良いかな。おいトシぃ、コイツの調整頼むよ」
「分かったけどその呼び方やめろやハジメ。お前は松平のおやっさんか、そんで俺は土方十四郎か?」
「何言ってんのトシ、トシは寧ろヅラの方でしょうに」
「ヅラじゃない、桂だってやらせんなよお前!」
「そしたら遠月学園十傑の第一席?」
「俺の皿に宿ってくれって俺は司瑛士か!?」
「なら十二鬼月の上弦の参かな?」
「死んでくれ杏寿郎って猗窩座か!?随分タイムリーな奴出すな!」
「じゃあ青髭のマスター?」
「超クールだよあんたって縁起でも無い奴出してんじゃねぇぇぇぇ!」
そんな超人技を事も無げに行って見せたハジメは、賭けに勝った報酬と称して奪い取った聖剣を手に、男は1さえ覚えて置けば生きていけると豪語する警察庁長官みたいな呼び方で幸利に調整を頼んだ。
その呼び方にツッコミをいれ、それに乗っかってメタいネタでボケ倒すハジメと漫才みたいなやり取りを繰り広げながらも承諾した幸利、淳史達と一緒に来ていたロアに依頼を完遂した事を報告してその報酬を受け取り、彼らはホルアドを後にした。
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それから一時間掛けて次なる大迷宮が存在する神山、その麓に位置するハイリヒ王国の王都に到着した一行を載せているストリボーグだが、
「こ、これは!?」
そのカメラ越しに映った光景、それを見た一行は驚きを隠せなかった。
其処に映っていたのは、建物の所々に返り血が舞ったであろうシミが広がり、王宮は戦闘によって全域が崩されたのだろうか瓦礫の山と化し、それを実行したと思しきヴァスターガンダムが待機形態で直立し、そして、
「民よ、今こそ立ち上がるのです!ハイル・ハイリヒ!」
『ハイル・ハイリヒ!』
「ハイル・ハイリヒ!」
『ハイル・ハイリヒ!』
その前でプラグスーツ*1を身に纏ったリリアーナが、銀髪の女性らしき容貌を驚愕に染めた、血と思しき赤黒い液体を流出させる人の頭部を手にし、眼前に集った民達に決起を呼び掛け、彼らが応ずる様に叫ぶ光景だったのだから。
ハジメと幸利のやり取りで出て来たネタですが、
ヅラ…桂小太郎(銀魂)
司瑛士(食戟のソーマ)
猗窩座(鬼滅の刃)
青髭のマスター…雨竜龍之介(Fate/Zero)
言うまでもありませんが、幸利の担当声優である石田彰さんの担当キャラ、つまり毎度ながら中の人ネタですw
さて、今話をもって第四章は終了、第五章からオリジナル展開となります。
そして次章から鬱展開及びリリィのハートがフルボッコにされる展開が続きます。
鬱展開が苦手な方、リリィファンの方、すいません。