54話_追憶・運命の存在
それは昨晩、いや時間的に今日未明と言うべきか、そんな闇に包まれたハイリヒ王国の王都にて、
「久しぶり、リリィ。大体三ヶ月振りかな」
「お久しぶりです、ハジメさん…!
こうして再びお会い出来た事、実に嬉しく思います、本当に、本当に会えて良かった…!」
ハジメが王宮に、その中のリリィが居住する一室に潜入した所まで遡る。
「然しハジメさん、何故この時に尋ねられたのですか?私が起きていたから良かったものの…」
死んだと思われていたハジメが生きていたと知り、内心は嬉しくて仕方なかったリリアーナではあったが、夜更けに自分の部屋へ忍び込んで、というシチュエーションは流石に怪し過ぎた為か、嬉しさ故に躍る心を抑えつつその訳を聞いた。
「詳しくは今から話す事に含まれているけど、今僕達はこの世界の人達に喧嘩を売りかねない事をやろうとしている。そんな僕が此処ハイリヒ王国の王女である君と親密な仲だと分かったら君の身に危険が及びかねないからね、こうしてお忍びで尋ねるしか無かった。そして今日を境に僕達へのこの世界の人達の敵意は爆発するだろう、その前にどうしても君に会いたくて、ね」
その訳を説明しながら、ハジメはオルクス大迷宮の奈落に転落してからの日々を、この世界の真実を、聖教が信仰する『エヒト』ことエヒトルジュエの本性を、ハジメ達が今でも帰還する事無く各地を旅するその目的を、全てリリアーナに話した。
最初は信じられないと言いたげな戸惑いを露わにしたリリアーナ、それも無理は無いだろう、自分が今の今まで信仰していたエヒトが実はとんでもないクズでした、なんて信じろと言う方が無理な話である、寧ろ「主をクズ扱いするとは何事か!」とキレなかっただけ彼女は年の割に大人と言えるだろう。
然しながらハジメがそんなあからさまな嘘をつく人では無いという事は、リリアーナはよく理解していた、地獄と言うしかない旅の道中でその真相を、それを裏付ける様々な事柄を知り、エヒトルジュエを倒さねばという決意に至り「おいおいこれ別のアニメに出す奴じゃねぇの!?」とゾルタン・アッカネンばりにツッコまれかねない様々な銃火器や兵器を開発したのだろうと、彼女はその話を受け止めた。
「その追及の魔の手は、君にも及ぶだろう。転落前から君とは仲良くして貰っていたからね。その仲の良さに付け込んで、君を人質にとろうと拉致しかねないと僕は思う。そんな君へと伸ばされる魔の手を、出来る事なら僕達が振り払いたい。だけどそれは不可能と言うしかない、いざとなれば君自身がその魔の手から逃れるしかないんだ。その為の術を君に渡す為に、今日この時に忍び込んできたって訳さ」
そんなリリアーナの心中はさておき、一連の話を終えたハジメはその『魔の手から逃れる術』を、IS等の兵器を起動する為のデバイスを、彼女の右手に装着させ、プラグスーツやグローサ等の銃火器も手渡した。
「ありがとうございます、ハジメさん。成るべくならそういう事態が来ないに越した事はありませんが、今の話を聞いて合点がいく事があったので、この力に頼る事態に至るかもしれません…」
「合点?」
そんなハジメの気遣いに礼を言いながらも、かねてから不穏な気配を感じ取っていた為か何処か渋い表情を浮かべるリリアーナ、それが気になったハジメに、彼女はその経緯を話し始めた。
「はい、実はここ最近、ハジメさん達の所在等を調査すべく、王国内外問わず人間族が領有する各所へと軍隊が派遣されている様なのです。最初はハジメさん達の生存が報告されたのを受け、貴方達を再び王国に迎え入れる為なのかと思いましたが、その詳細を調べていたらしいヘリーナの話によるとどうも様子がおかしいのです。ハジメさん達に異端者の疑いがあり、その裏付け捜査を行っているらしいのです。もしかしたら…」
「だね。どうやら僕達がエヒトルジュエ討伐の為に暗躍している事を聖教教会が既に察知したか、或いは『解放者』の時と同様にエヒトルジュエ本人が眷属を通じて聖教関係者に命じたか、どちらにせよ案の定、ハイリヒ王国を通じて僕達をこの世界の敵と認定し、排除しようという腹積もりで来たか。それを見越して色々動いた甲斐があったね」
とはいえそれはハジメ達の想定内の事態、そうなる事を、自分達が異端者に認定される事を想定して様々な手を打ち、異端者認定される事で発生するだろう懸案を潰して来たのだ、今更と言えば今更ではあるし、その『様々な手』もリリアーナは説明を受けていた。
然しながら、リリアーナの表情からは安心したと言いたげな様子は感じられなかった。
「大丈夫だよ、リリィ。聖教が信仰するエヒトルジュエを討伐すると決めた以上、異端者の烙印を押される事は避けられない、そうなっても大丈夫な様に今まで手を打って来たんだよ。君が気に病む事は無いさ」
「…はい」
そんなリリアーナの様子を察したハジメが、彼女を安心させるべく頭を撫でながら諭す様に言葉を重ねる、最初は驚いたリリアーナだったが、撫でられる感触が心地よかったのか、或いはハジメの言う事を理解したのか、表情から不安の色が消えていた。
「さて、と。またねリリィ。今度会う時は、そうだね…
エヒトルジュエの討伐が果たされた時、かな?」
「あ、はい。ではまた、会える日を楽しみにお待ちしておりますわ」
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「ご安心下さい、ハジメさん。貴方達を異端者に、この世界の敵に認定等させはしません。例えこの身を賭してでも、
どんな手を使ってでも」
ハジメが去った後の部屋の中、其処でリリアーナは、とある決意を固めていた。
エヒトルジュエ討伐と言う、この世界の人間族に喧嘩売っているのと同じ事をしようとしているハジメ達、それ故に例え異端者に、トータスにおける敵に認定されたとしても良い様に動いて来た。
異端者に認定されても物資等の補給が出来る様に冒険者ギルド・フューレン支部長という要職に就いているイルワの後ろ盾を、彼からの任務を完遂する事で得たり、愛子やリリアーナというアキレス腱を補強すべく今こうしてMS及びその関連武装を配布したりした結果、彼らにとって懸案となる要素はもう無い、異端者となった所で不都合となる事などほぼ無いと言って良いのだ。
そんなハジメ達にリリアーナのこの決意は、それに基づく行動は余計なお世話かも知れない、もしこの場にハジメがいたとしたら「僕達の事は大丈夫だから、君が無駄に手を汚す必要は無いんだよ」と諭していたかも知れない。
それでもリリアーナは、香織達という生まれて初めて出来たと言って良い親友達が、何よりハジメという想い人が異端者に認定されるなど耐えられなかった。
オルクス大迷宮の奈落に落ちた為に死んだと思われていたハジメ達4人、彼の大親友だった幸利ですらもその生存を絶望した状況になって初めて自覚したハジメへの溢れんばかりの想い、何故彼らの為にもっと動かなかったと後悔の日々を送った彼女だったが故に、彼らが生きていたと分かった時は、そしてついさっきまでこうして相まみえた時は、それはそれは嬉しさで胸が一杯になった。
そんなハジメ達を異端者に認定し、トータス全土をあげて彼らを排除するなど冗談では無いと、この世界を遊び道具の様に扱う邪神を討伐しようとしてくれる彼らを敵と見なすなどあってはならないと彼女は、その認定を行う父エリヒドやその重臣達に、異端者認定を思いとどまる様説得する決意をした。
もしかしたら決定を下す
なら、その決定に関わる重臣達も、決定を下す
そんな正気の沙汰でないと言われそうな決意を固めたリリアーナは突如、ハジメがホルアドへ向かう前日に託されたギターラを取り出し、激しくかき鳴らし始めた。
リリアーナが、ハジメが王都にいた頃に彼の弾き語りを聞くべく毎日の様に足繁く通っていたのは以前にも話したが、それを通じて何とギターの弾き方、ハジメが歌っていた曲のテンポや歌詞、音階に至るまで全てを覚え、完璧と言って良い程己の持ち歌にして見せたのだ。
そんな彼女が選曲したのは、例え己の全てを投げ捨ててでも『何か』の為に戦う戦士の曲…!
「蒼ざめた瞳 見つめる炎
今全てを 捨てる時が来た
想い出す事も 悲しむ事も
許されずに 闘い続ける」
ガンダムシリーズの1つ、所謂『宇宙世紀』シリーズの外伝OVAとして製作されたアニメ『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の第二期オープニングテーマ『MEN OF DESTINY』である。
全てが手遅れだと、説得など不可能だと感じたらクーデターを起こす事も辞さないと決めた彼女、たった今歌っているその曲の歌詞は今の彼女を表現するにぴったりだと言って良いだろう。
父親を始めとした家族も、親しき重臣達も、王女としての地位も何もかも捨ててでも、エヒトルジュエを討伐すべく戦うハジメ達の、それによって救われるであろうハイリヒ王国の、このトータスという世界の為に闘うと誓った彼女、一度弓引いたからには家族との思い出を回想する事も、敵対してしまった事を悲しむ事も許されず、
「今日で命が 燃えつきるとしても
それでも人は 明日を夢見るものか
それが運命でも」
恐らくハジメ達一行及びその協力者の中で最も狙われ易く、命を落とす可能性の高い自分自身、それでも愛する人達の為、生まれ故郷の未来の為を思い、この出会いを運命と見定め、
「絶望の
未来は誰の為にある
滅びゆく世界 駆け抜ける嵐
選ばれし者 MEN OF DESTINY」
このトータスがエヒトルジュエの遊び道具でしか無かったという絶望を変えるべく、ハジメ達が発生させたガンダムという嵐、未来はエヒトルジュエ等というクズの為にあるのではないと、そんなクズの遊びによってトータスを滅ぼさせはしないと、