「まさか、これは…
よもや、イレギュラーが先手を打っていたとは…」
愛する家族を、親しい重臣達を皆殺しにせざるを得ない程追い込まれ、それを実行してしまった絶望感に押しつぶされそうになったリリアーナだったが、ハジメ達の、この国の、世界の為にクーデターを実行したのに此処で立ち止まっていては意味が無いと切り替え、ハジメ達の異端者認定を強行するという蛮行を仕出かそうとしたエリヒド達に誅罰を下したと内外に知らせねばと決めた彼女。
そんな決意を固めたリリアーナがいる議場に、騒ぎを聞き付けたのだろう、1人の女性が駆け付け、その惨状に思わずそう呟いた。
聖教教会のシスター服に身を包んだ、銀髪で端正な顔立ちをしたその女性、幾らハイリヒ王国が国民総出で聖教を崇拝し、教皇であるイシュタルが国王だったエリヒドを凌ぐ程の権力を有しているとはいえ、およそこの場には似つかわしくない出で立ちの女性が何故この王宮にいるのかとツッコまれそうな場面ではあったもののそうするであろう存在は此処にはリリアーナ以外おらず、そのリリアーナもまるで彼女が此処に来る事を分かっていた様子で話し始めたので結果的にそれは流された。
「シスターノイント…
1つ、お聞きしたい事があります。
ハジメさん達を異端者に認定する様、父上達に仕向けたのは貴方ですか?」
ノイントと呼んだ女性が議場に来た事をハイパーセンサーで感知したリリアーナは、彼女の方に振り向く事無くそう問いかける。
リリアーナは確信していた、ノイントこそがこの一件を仕向けた元凶である事を。
その根拠が、両親や重臣達が聖教への信仰心をより強めたり、兵士達が何処か聖教へのイエスマン化したりして来た時期と、ノイントがハイリヒ王国王都の教会にシスターとして赴任し、王宮へ出入りする様になり始めた時期が殆ど一緒だった事だ。
普通ならそんな状況証拠にもならないであろう、ただの偶然の一致として片づけられるだろう事柄がクローズアップされる事は無いし、それを基にノイントを追求するなんて事を仕出かす程リリアーナは愚かでは無いが、それを結び付けられるであろう存在がこの世界にはいるのを知っていて、ノイントこそがその存在だとリリアーナは確信していた。
それは、
「もう1度だけ問います…!
貴方が、貴方が邪神エヒトルジュエの眷属なのか!貴方が父上や重臣の方々を操ったのか!」
エヒトルジュエの眷属、聖教において『使徒』と呼ばれる者達の事だ。
怒りと憎悪を露わにした表情で、振り向きつつ後方にいるノイントにグローサの銃口を向けながらそう追及するリリアーナ、その様子からはノイントこそが『使徒』で、ハジメ達を異端者として、自分達の主であるエヒトルジュエに刃向かう敵として認定する様、エリヒド達を何らかの方法で操ったのだという確信めいたものを感じた。
そしてそれは、図星を突かれたかの如く僅かながら驚き、主であるエヒトルジュエを邪神呼ばわりされて不快感を多少なりとも露わにした事で正解なのだとリリアーナは理解した。
「イレギュラー排除を妨げるばかりか、主を邪神扱いするとは…
貴方を生かしておく訳にはいきません。イレギュラー共々、排除します」
そんなリリアーナの心中を知ってか知らずか、自分の主たるエヒトルジュエを邪神と非難し、彼の方針に基づく行動を妨げた彼女を生かしておくわけにはいかないと、ノイントは十数メートルあった筈の距離を一瞬で詰め、何時の間にか手にしていた双剣でリリアーナを切り裂こうとした、
「貴様ぁぁぁぁ!」
「っ!あぐっ!?」
その接近を、ISのハイパーセンサーで捉えたリリアーナは、先程の問いを、今回の決議の裏でエリヒドらを操り、自分にクーデターという名の家族殺しを強いた事を認めたノイントへの憤怒と憎悪のままにグローサを発砲、放たれたボーク・スミェルチ弾は射線から外れる事の無かったノイントの左肩を深々と抉り、銃撃が直撃したノイントは激痛の余り左手に持っていた剣を手放した。
「ば、馬鹿な、こんな、筈は…!」
「へぇ。『使徒』ともあろう御方が、随分とどす黒い血ですね。こんな邪悪な体液が流れている存在が聖なる者であろう筈がありません。やはりハジメさんは間違っていなかった、私達は邪神エヒトルジュエに、貴様達邪神の眷属に騙されていた!貴様を殺し次第、一刻も早くこの事実を公表せねば!」
リリアーナの銃撃をまともに受けるという
リリアーナは勿論の事、この時のハジメ達も知る由は無かったのだが、ノイントら『使徒』達は皆、物質や魔力を分解するバリアを身に纏う固有魔法を有しており、それによって敵からの攻撃など通用しない筈なのである。
では何故ボーク・スミェルチ弾による銃撃が分解される事無くノイントの身体に直撃したのかと言うと、ボーク・スミェルチ弾の弾体として使用されているイリジウムが超高密度、超高硬度な物体である為、バリアによる分解が中々進まないままその銃撃を食らってしまったのである。
要は機動戦士ガンダムSEEDシリーズに登場する、物理攻撃を無効化する筈の『フェイズシフト装甲』に対して、クロト・ブエルの専用機レイダーガンダムの武装である破砕球『ミョルニル』でダメージを与えられるのは何故なのかという問いに対する答えと同じである、ミョルニルもまた高密度に圧縮された反発材で構成されている金属球を用いて攻撃する為、フェイズシフト装甲による相転移が追い付かないまま金属球の直撃によるダメージを受けてしまうのである。
閑話休題、そんな自分達の優位性を揺るがすであろう攻撃を何度も食らう訳には行かないと切り替えたノイントは、銃撃を受けた部分からの激痛に顔を歪めながらも、自分達及び主を巨悪と決めつけ敵意を露わにするリリアーナから距離を取ろうとし、
「え?」
「逃がすとでも?父上達を操り、私に殺させるという大罪を犯した貴様を見逃すとでも?
殺りなさい、イユリ」
建物が大規模崩壊する様な音が背後で響くと共に、ライトグリーンの光を放つヴァスターガンダム7号機『イユリ*1』、リリアーナの専用機としてプレゼントされたMSが王宮をぶち壊しながらノイントの背後を塞ぐ様に出現、それと同時に彼女の胴体を片手で鷲掴みし、リリアーナの指示を受けて、余りに唐突な事態に心の底から驚いたと言いたげな表情のノイントの頭から下を握り潰した。
流石の『使徒』であってもMSのハイパワーに物言わせた握撃に耐えられる訳も無く、頭部だけとなったノイントは当然の如く息絶えた。
此処で1つ疑問を抱いた読者もいるだろう、パイロットの魔力を動力源としている筈のヴァスターガンダムが、何故パイロットが搭乗していないにも関わらず普通に動けるのか、と。
その通り、パイロットの魔力を全身に張り巡らせる事で初めて動けるヴァスターガンダムだが、何も搭乗していなくても魔力を供給・制御しさえすれば動ける、それはつまり魔力操作技能の派生として遠隔操作を有しているハジメ達であれば遠隔操縦も可能なのである。
ただ此処で敢えて説明するが、ヴァスターガンダムは元々エヒトルジュエ及びその眷属達を倒す為の『術』として開発した経緯から、スペックが強烈である分パイロットへの要求魔力は膨大なのだ。
実を言うと魔力がハジメ達はおろか愛子にすら遠く及ばない淳史達クルーが合流して初めて判明したのだが、普通の人間みたいに動かすだけでも人間族最強と言われるメルド並みの魔力が求められ、エヒトルジュエを倒す『術』としての力を十分発揮するにはその倍以上、人間族はおろか魔人族ですらそれ程の持ち主は一握りと言われる程の魔力が必要であり、リリアーナの魔力では普通に動かす事すら出来ないという衝撃の事実が分かったのだ、然もストリボーグの時みたいに魔石を詰め込む手段も容積や駆動方法的に取れない。
これでは愛子はまだしも、リリアーナの護身用として役に立たないではないかと新たな課題を突き付けられたハジメ達だったが、その解決策は、足りない魔力を補填する術は直ぐに見つかった。
何とウルの町で捕えた魔人族の身体を、デビルガンダムにおける生体ユニットの如く補助魔力源としてヴァスターガンダムに組み込む事で、足りない魔力を補填するという手段を編み出したのだ。
ウルの町を襲撃しようとしたレイスとローゲンは魔人族の国『魔国ガーランド』において特殊部隊に配属されていた身で、人間族のテリトリーへの先行潜入の任務を命じられる程の精鋭、つまり魔力源としてはうってつけだったのである。
こうしてその2人のうちレイスの身体を闇魔法の因子で満たしたカプセルに漬け込み、それをコアとして搭載した補助魔力機構『マナアンプリファイアー』が開発され、その試験も兼ねてリリアーナにプレゼントする予定だったイユリに組み込まれたという訳である。
さて、リリアーナの魔力不足をカバーする目的でイユリに搭載されたマナアンプリファイアーだが、パイロット以外の魔力源を予め搭載しているという事は即ち、パイロットが搭乗せずとも遠隔操作で動かす事は可能であるという事、生体ユニットも魔人族の精鋭であるレイスなので魔力面で不足はない。
以上の経緯からパイロット無しでも動力源を得たイユリは王宮をぶち壊しながら出現、ISを介したリリアーナの遠隔操作を受けてノイントをつかみ取り、そのまま握り潰したのだ。
ハジメ達の処遇に関する決議、それを止める為に引き起こされてしまったクーデターの元凶たるノイントを殺したリリアーナは、その頭部を手に王宮前の広場へと現れ、何が起こったのかと集まって来た民達を前に、エヒトルジュエに纏わる数々の真実を、大昔に真なるエヒト――エヒクリベレイを幽閉してその座を占拠した偽神エヒトルジュエとその眷属による物であると多少脚色した形で公表した。
人々はその話に最初は戸惑うも、ノイントの首から流れるどす黒い血をリリアーナが「偽神の眷属である証である」と吹聴した事で続々と信じ、リリアーナへの支持を、『反逆者』達の名誉回復を、ハジメ達への支援表明を、エヒトルジュエへの非難を、エヒトルジュエを信仰する聖教を排斥すべきとの意思を、声高に叫び始めた。
その声を受けてリリアーナは民達に決起を呼び掛ける、ドイツ語で『万歳』等の意味を持つ言葉『ハイル』を付けた「ハイル・ハイリヒ」という宣言と共に。
それはまるで、ジオン公国総帥のギレン・ザビが演説で声高に叫んだ「ジークジオン」の如く。
後にこのトータスにおいて『真教政変』と称されたリリアーナたった1人での軍事クーデターはこうして成功と言う形で終わり、後に『機兵戦争』と称される短くも壮絶な戦いが始まりを告げたのだ。