【完結】機動戦士ガンダムRevolt   作:不知火新夜

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57話_戦場のプロポーズ

それから幾らかの時間が経ち、ハジメ達を載せたストリボーグが王都に到着したのと同じ時刻、別の一団もまた、とある理由から長い道程を経て王都に到着した。

 

「…広場の方が随分と騒がしいな?」

「何か起きたのでしょうか?先日の魔人族による襲撃といい、いよいよといった所でしょうか」

「皆さん、大丈夫でしょうか…?」

 

そう、ウルの町に残っていた愛子及び、彼女の護衛としてついていた神殿騎士達である。

この世界の真相をハジメから聞かされるも、だからと言って未だにオルクス大迷宮で訓練に励む教え子達を見捨てる事も、食糧難に喘ぐ人達を見捨てる事も出来ず、今の任務を全うすべく神殿騎士達と共にウルの町に残っていた愛子。

とはいえ魔人族が十数万の魔物を引き連れ、ウルの町という中枢部から大きく離れた所とはいえ人間族のテリトリーに攻め込んで来たのだ、魔人族側がいよいよ侵略を本格化させたのだろうと考えるのは自然な事だ。

その動きを一刻も早く中枢部に伝えなければならない、其処で愛子達はウルの町での戦後処理を権力者達と共に粗方済ませた後、大急ぎで王都へと向かい、たった今到着したのだ。

因みに大急ぎと言ってもMSでは無く馬車に乗った上での『大急ぎ』である為か、ハジメ達がフューレンに到着したその時に出発したにも関わらず此処まで掛かったが、折角ハジメから愛子の専用MSであるヴァスターガンダム・マイをプレゼントされたにも関わらず何でそれを使わないのかとの疑問を覚えた読者もいるだろう。

然しながら愛子こそマイ及びそれに搭乗する為のISを所有してはいるが神殿騎士達は持っていない、つまり彼らは生身の状態でMSの亜音速と言えるスピードに晒されなければならないという懸案が出た。

まず考えられたのはMSに直接入り込む方法だが、コクピットは無理矢理詰め込むにしてもパイロットである愛子以外は1人しか載せられず且つ安全は全く保証されない、当然ながら同じ理由でがらんどうな体内もアウト、強烈な空気抵抗が襲い掛かるという理由から背中等も論外だという事で却下となった。

次に馬車の車体を抱える方法が考えられたが、トータスで流通している馬車には衝撃を吸収するクッションも無ければ、乗客乗員の身体を固定して急な揺れにも対応するシートベルトも無い、亜音速で飛ぶMSのスピードに揺られ続けて耐えられる訳が無いとして此方も却下された。

という事から、時間こそ掛かるが全員を安全に運べる馬車で移動する事となり、2日近く掛けて漸く到着したのだが…

 

「ぐぁっ!?な、何だ一体!?」

「あぐっ!?これは、石!?」

「み、皆さん!?一体何で…」

 

そんな愛子達に突然、彼女達、正確には彼女の護衛たる神殿騎士達に石らしき物が多数ぶつけられた。

色んな意味で『まさか』な事態に何らかの対応を取る事も出来ず大量のそれをまともに食らってしまう神殿騎士達と、それをただ見ている事しか出来ない愛子、それらが何処から飛んで来たか追って見ると其処には、殺気立った眼を向け、

 

「偽エヒトの手先風情が『豊穣の女神』に近づいてんじゃねぇ!」

「今すぐ『豊穣の女神』から離れろ、邪教徒め!」

「とっとと王都から出て行け、邪神の下僕が!」

 

神殿騎士達をボロクソに罵倒する市民達の姿があった。

 

「『豊穣の女神』!此処は危険です、今すぐ邪教徒から離れて下さい!」

「え、え!?これは一体!?」

「今、リリアーナ王の元へお連れ致します!詳しい事情は其処で!」

 

思わぬ状況と、先程まで喰らっていた投石のダメージの所為で対応出来ない神殿騎士達から愛子を引っ張り出した市民によって、彼女は戸惑いながらも広場へと連れられて行った。

背後で何とか愛子と合流しようとするも市民達の抵抗で王都から離れざるを得なくなった神殿騎士達の身を案じながら。

 

------------

 

異様な状況を察知してリリアーナのいる広場へと急行したハジメ達と、市民によって連れて来られた愛子、彼らが揃ったのを確認したリリアーナが、王宮があった場所へと案内して全てを打ち明けた。

教会のシスターとして潜入した、エヒトルジュエの眷属であるノイントによって彼女の父親たるエリヒド王や重臣達、騎士達が洗脳され、ハジメ達を異端者に認定せんと動いていた事、それに気づいた時には時すでに遅く、異端者認定の可否に関する協議の場で意見しても取り入れてくれず王女である自分すらも異端者の烙印を押されかねない窮地に追い込まれていた事、この状況を脱するには家族や重臣達を皆殺しにして決議を握り潰すしかないと決意し、ハジメからプレゼントされた銃火器を手にクーデターを起こした事、それを阻止すべく襲い掛かったノイントをヴァスターガンダム・イユリで殺害した事…

それを聞いた一行の口からは何の言葉も出なかった、リリアーナに言葉を掛ける事は、出来なかった。

内心は、明るく気さくで慈愛に溢れていたリリアーナが其処までやるなんて、と半ば信じられなかったのかも知れない、だが彼女の手に渡ったイユリによって崩壊した王宮と、未だ左手にぶら下がっているノイントの頭を見ればそれが事実なんだと思い知らされ、優しい彼女が其処まで追い込まれてしまった事と、自分達や祖国、ひいてはこのトータスの為に愛する家族をも皆殺しにせざるを得なかった彼女の絶望と悲哀を思えば、一体どんな言葉を掛けたら良いのか分からなかった。

何より、この日の未明にそのクーデターで使用されたイユリ等の各種兵器を彼女に渡していたハジメは、

 

「そ、そんな…」

「ハジメ君!?」

「ハジメ、気を確かに!」

 

彼女が起こした事への余りの衝撃からか、顔が青ざめ、足元が覚束なくなり、崩れ落ちそうになった所を己の恋人達によって支えられた。

自分がリリアーナに兵器を渡したから、この世界の真実を伝えたから、この様な事態が引き起こされてしまったのではないか、自分の余計な行動によってリリアーナを苦しめる結果なってしまったのではないか…

リリアーナの話を聞いて愕然としたハジメの脳内にはそんな悪い考えばかりが浮かび、思わず呟いた。

 

「僕の、所為なのか?僕がリリィにガンダムを、ISを、銃火器を渡したから、だからリリィは…」

「そ、それは…」

 

そんなハジメに彼の恋人や、旅の仲間達は答えに窮した。

実を言うと一行は、ハジメがリリアーナにイユリ等の各種兵器を渡す事を予め知らされていたのである、それが彼女の安全を確保し、人質としてエヒトルジュエ側に捕らわれてしまう事を防ぐ為だとも。

敵と見定めた存在には容赦ないもののそれ以外には基本的に優しいハジメの性根を良く理解している一行は、彼がそれ以外の意図が無い事を理解していたが故にその言葉を否定したい、さりとて否定すればリリアーナの性根を否定する事と同じ、どっちの答えも言う事が出来なかった。

言える者がいるとしたら、

 

「それは違いますよ、ハジメさん。この件は私が今の状況を鑑みて、どう行動すべきか悩みに悩んだ末、ハジメさん達の為に、この国の為に、そしてこのトータスの為になる道は何か決断して行った事です。例えハジメさんからイユリや各種兵器を渡されずとも、私はこの状況を打開すべく動いていたでしょう。例えば、密かに王都を抜け出てヘルシャー帝国やアンカジ公国辺りに支援を求めるなりして。故に、ハジメさんが気に病む事はありませんよ」

 

リリアーナ1人だけだ。

何かを堪えるかの様に引きつった笑顔を見せながら気丈に答えるリリアーナ、そんな彼女の姿を見たハジメは何処か決意を固めた様な表情で、錬成によって『何か』を作り出しながら彼女に近づき、左手薬指にそっと嵌めた。

 

「…え?」

 

それは、磨かれた大粒のグランツ鉱石をセンターストーンとして嵌め込まれた指輪。

その指輪が、ハジメのその行為が意味する事、それは、

 

「結婚しよう、リリィ」

 

プロポーズだ。

咄嗟に作ったとはいえ錬成師として超一流と言って良い技能を有した精巧さと、センターストーンに求婚の際に選ばれる宝石トップ3に入るグランツ鉱石(尚、その出処は敢えて書かない)を嵌め込んだ上質な結婚指輪をそっと嵌めて、ストレートな言葉で結婚を申し込むという工夫の『く』の字も無ければ、明らかに戦闘の後と言いたげな場所でというシチュエーション的にも合わないプロポーズだが、それとは裏腹にハジメはそれが意味する事をしっかり考えた上で決断した。

今のリリアーナはハイリヒ王国唯一の王族、即ち彼女と結婚する=ハイリヒ王国の王族になると言う事、王国の中枢に位置する1人として、王族も重臣も尽く殺されて混乱の最中にある王政を治めんとするリリアーナを支えていかなければならないという事、そしてそれに己の恋人達を巻き込むという事である、もしかしたら年端もいかない少女であるリリアーナの代わりに王の座に就く事になるかも知れない。

それでもハジメは躊躇しなかった、全ては己を慕ってくれ、自らもまた大切な存在だと思っているリリアーナの為に、リリアーナが守りたいと想うハイリヒ王国の、トータスの為に。

 

「だから無理しないで!今にも押し潰されそうな程の苦痛を、1人で背負おうとしないでくれ!」

「え?な、何を言っているのです、ハジメさん?私は無理してなど」

「そんな如何にも強引に作りましたと言いたげな笑顔の何処が無理していないって言うのさ!?」

 

共に支えて行くが故に、無理して抱え込むなと呼び掛けるハジメの言葉にも、未だその引きつった笑顔が変わる事の無いリリアーナ、まるで何かこみあげて来る物を抑えるかの様に。

だがそのせき止められたものは、

 

「我慢しないで、()()()()()…」

 

今まで母親はエリセンで自分を待っている生みの母だけだと頑なに言い張っていた筈のミュウが、思わずリリアーナを母親呼びしながら、悲しそうな表情で父親(ハジメ)に同調する言葉と、

 

「…お疲れ様、良く頑張りました」

 

何処か悲痛な表情をしたユエの、頭を撫でながら発したその言葉によって、溢れた。

 

「わ、私は、あぁ、

 

 

 

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!

 

泣いた。

思いっきり泣いた。

恥も外聞も投げ捨てて泣いた。

断末魔の叫びみたいな声をあげながら泣いた。

それでも、リリアーナの目から涙が枯れる事は無かった。

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