堪えていたものが一気に溢れ出し、滂沱の涙を流すリリアーナ、そんな彼女を静かに抱き締めていたハジメだったが、何時までもそうしていられる状況でなくなった事を察知した。
何か只ならぬ気配を察知して上空、正確には聖教教会の総本山たる神山の真上を見上げるハジメ達、その視線の先は、一見すると青空が広がるだけで何か異物らしき物は見えず、釣られて同じ方向を見上げた淳史達はそれ故に怪訝な表情をしていた。
だが魔物の肉を食した事で遠くの物も見える技能を取得したハジメ達には確かに見えた、神山の上空に続々と出現するノイントと同じ顔をした女性らしき姿が、邪神エヒトルジュエの眷属達の大軍が。
「…あくまで僕達を此処で始末しようって腹積もりの様だね、エヒトルジュエは」
その光景を目の当たりにして呟いたハジメの言葉に、一行のうちその光景が見えなかった者達も空の向こうで何が起こっているのかを理解、とはいえその事態に直面する事を想定も覚悟もとっくの昔にしていたのだ、狼狽える事無く己がすべき準備をしていく。
その中で、
「ハジメさん。この戦いに、私も共に行かせて下さい」
「リリィ…?」
何時の間にか泣き止んでいたリリアーナが、この戦いに同行すると言い出した。
ついさっきまで泣きじゃくっていたのが嘘だったと言わんばかりの決然とした表情でそう言い出したリリアーナだが、流石に今の彼女を前線に引っ張り出す訳にはいかないとハジメは考えていた。
悩みに悩んだ末の決断だったとはいえ家族や重臣達を皆殺しにした事へのショックが相当なのは先程まで号泣していた事からも明らか、幾ら気丈に振舞おうとしてもリリアーナはまだ14歳の少女、その心に負った傷は深いなんて一言で片づけられる物では無い。
そもそも今度の相手は邪神エヒトルジュエの眷属達、1体1体が人間族や魔人族、そこら辺の魔物とは文字通り次元の違う戦力である上、その数は大軍と表現する通り十や二十、百や二百では効かないのだ、先程はボーク・スミェルチ弾等のハジメ達も想定していなかった初見殺しな武器と、イユリを背後に出現させての不意打ちによって眷属の1体であるノイントを、その実力を十分に発揮させる事無く秒殺出来たが今度はそうもいかない、総力戦で臨まなければならない状況で戦力的にも精神状態的にもリリアーナは戦えないだろうという考えがハジメにはあった。
そんなハジメに、リリアーナはこう言った。
「私はこのハイリヒ王国の王族であり、ガンダムパイロットであり、貴方の妻です。確かに私はハジメさん達程の力はありません、前線で戦ったとして、貴方達の足を引っ張る事になりかねないでしょう。ですがどんな形であれ、愛する貴方と共に邪神エヒトルジュエを討つ所存です。それが貴方達の、貴方達が元いた世界の、ハイリヒ王国の、そしてこのトータスの為になると、邪神の手によって狂わされ、私の手で殺めざるを得なかった父上達への償いになると信じるが故に。私は、貴方と共に戦います!」
それは、先程のハジメからのプロポーズへの事実上の快諾を兼ねた決意表明。
自らの実力不足も、つい先程起こしたクーデターに伴う己の罪も受け止め、前へ進むと決めたリリアーナの姿を目の当たりにして、ハジメも止める事は出来なかった。
「分かった。ならば共に行こう、リリィ。エヒトルジュエを討つべく、共に戦おう!」
「はい、貴方!」
こうして旅の一行に加わっていた8人に愛子、そしてリリアーナを加えた10人のガンダムパイロットと、淳史達ストリボーグクルーの計15人で神山上空に出現したエヒトルジュエ眷属の大軍との戦いに臨む事となり、其々準備を進めた。
「南雲ハジメ、アヴグスト。発進!」
「清水幸利、ディカブリ。出るッ!」
「白崎香織、アクチャブリ。行くよ!」
「八重樫雫、ナヤブリ。出るわ!」
「園部優花、フィブラリ。発進するわよ!」
「畑山愛子、マイ。出ます!」
「…ユエ、イユニ。出撃」
「シア・ハウリア、シンチャブリ。行くですぅ!」
「ティオ・クラルス、アプリエル。参る!」
まずはハジメ達ガンダムパイロット達、リリアーナ以外の9人がデバイスを操作して自らの専用機を顕現させてコクピットに搭乗、それに合わせてリリアーナもまた、王宮だった場所に佇むイユリのコクピットへ入り、マナアンプリファイアーを急遽組み込んだ影響で幾らか狭くなった空間内に己の身をねじ込んで搭乗、
「リリアーナ・ハイリヒ、イユリ。発進します!」
背中に折り畳まれている翼らしき機構を展開してその後を追った。
「こっちも行くぞ!ストリボーグ、発進用意!」
「エネルギー回路、動力機関、オールグリーン!何時でも行けるわ!」
「了解だ!ストリボーグ、発進する!」
前線を担う10機のヴァスターガンダムが一足先に空へと飛び立った一方、後衛を担うストリボーグ及び、そのカタパルト部分に立つ形で顕現した1機のヴァスターガンダム――ストリボーグの護衛を担う形で奈々の専用MSとなったヴァスターガンダム初号機『イエヌヴァリ*1』もまた先行するヴァスターガンダム達の後を追うべく準備を進める。
副艦長である淳史の指示を受けてオペレーターの妙子がモニターや計器類をチェック、問題なく動けるとの連絡を聞いた操舵士の昇がストリボーグを発進させた。
「宮崎!イエヌヴァリの方はどうだ?」
『ストリボーグとの有線接続状態、オールグリーン!こっちも準備OKだよ!』
「良し、ガンダムとストリボーグをエヴァンゲリオンのアンビリカルケーブルみたく有線接続し、魔力の才に恵まれないパイロットでも十全な運用を可能にするシステムは問題なく機能しそうだな…
流石は南雲、相変わらずいい仕事だぜ。なら宮崎、頼むぜ!」
『了解!宮崎奈々、イエヌヴァリ。行っきまーす!』
前線のヴァスターガンダム達と共にエヒトルジュエの眷属達を討つべく空へと舞い上がったストリボーグ、そのカタパルト部分に立つイエヌヴァリでも動きがあった。
実を言うとこの状況下でストリボーグの艦橋にいなかった奈々、彼女は新型プラグスーツ*2を身に纏い、己の専用機であるイエヌヴァリに搭乗し、手元の端末を操作しモニターに映る情報を確認していた、良く見るとイエヌヴァリの背からはケーブルみたいな物が伸びており、それはストリボーグの船体側面と繋がっている。
普通に動かすだけでも人間族最大級、対エヒトルジュエの『術』とするにはその倍以上の魔力が求められるヴァスターガンダム、そのパイロットをどうするかという問題の解決策の1つとして、魔人族の精鋭を魔力源として組み込むという方法は先述した通りイユリに内蔵されているマナアンプリファイアーとして実装されているが、それとは別のアプローチとして、動力源として大量の魔石を積載出来るストリボーグと有線接続し、其処から魔力の外部供給を受けるという方法も考え出された、さしずめ、淳史の言う通り新世紀エヴァンゲリオンにおいてエヴァンゲリオンへの電力供給を担ったケーブル『アンビリカルケーブル』である。
この発想を基にイエヌヴァリの背部に組み込まれた接続端子『マナケーブルコネクタ』を介してストリボーグから伸びる魔力供給ケーブル『マナケーブル』と接続するシステムが取り入れられ、今回の戦闘においてテストも兼ねてイエヌヴァリを出撃する事となった。
流石に有線接続での供給である為に、その行動範囲はマナケーブルの長さに依存するし、ストリボーグの船体に絡まない様な立ち回りも求められる(一応パイロット側の操作で外す事は可能だが、その場合は後述の状況となる)、極めつけはマナケーブルが損傷されればその分だけ魔力供給の効率が落ち、両断されたその瞬間に供給を断たれてしまうが故に其処を切られない様にしなければならなくなる(奈々の専用機となったのは、仮に切断されてしまった場合はスペアのマナケーブルで接続する為、それを行う程の魔力を有しているのがクルーの中で彼女だけだったから)と、マナケーブルがアキレス腱となってしまうが、組み込む動力源が結局、相応の魔力を求められるマナアンプリファイアーとは違って搭乗者の資質が其処まで問われないし、ヴァスターガンダム側もストリボーグ側も然程改造を施す事無く導入出来るとあって此方も即座に導入されたのだ。
…因みに、機動戦士ガンダムSEED DESTINYに登場した遠隔送電システム『デュートリオンビーム送電システム』みたいに魔力を遠隔供給出来れば、マナアンプリファイアーやマナケーブルシステム双方の欠点を解消出来るのではないか?との意見もあったが、流石のハジメでも現時点で其処までのシステムは無理だったので、今回は
何はともあれストリボーグの護衛と言う形ではあるものの戦力化にメドがついたイエヌヴァリ、そのパイロットである奈々の号令と共に起動形態へと移行し、露出した内部装甲からは、奈々のプラグスーツの差し色と同じマゼンタカラーの魔力光が放出された。