前回の投稿から1ヶ月近く空けてしまってすいません(汗
ハジメ達が神山の頂上に聳え立つ大聖堂を占領し、その際の戦いによって資格有りと認められた為か、神代魔法の1つである魂魄魔法を習得してから3日後、とある一団を載せた数台もの馬車が、ハイリヒ王国王都への道をひた走っていた。
「何やら、随分と様変わりした気がするな…」
その先頭を走る1台の窓から様子を伺うメルド、そう、その一団はオルクス大迷宮で実戦訓練に励んでいた勇者一行である。
この王都からオルクス大迷宮に隣接する宿場町ホルアド迄は馬車で3日程掛かる距離、つまり彼らはハジメ達と同日にホルアドを出発したという事である。
何しろ人間族のテリトリーに魔人族の女が魔物達を引き連れて侵入、天之河達勇者一行やハイリヒ王国騎士達を襲撃して来たという異常事態が発生した挙句、ハジメ達の介入が無ければ全滅という正に絶体絶命の状況に陥ったのだ、それを速やかに王国中枢、それを通じて教会に連絡せねばというメルド達騎士団の判断から、即日出立したのである。
尤もその襲撃を退けてくれた恩人達の代表である筈のハジメに天之河が一方的に突っかかった挙句、決闘と称して襲い掛かり、それをハジメが返り討ちにした末に天之河の得物である聖剣を「決闘に勝った戦利品」としてぶんどるという事態が発生するも、元々聖剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクト、それが
こうして実戦訓練を始めてから3度目(1度目はハジメ達が行方不明となった件の報告で、2度目はとある事情からだが詳細は割愛する)の帰還となった訳だが、前回の帰還から2ヶ月も経っていないにも関わらず王都の雰囲気が様変わりしたのを感じ取ったメルドは、戸惑いの余りそう呟いたのだ。
彼らはまだ知らない、出立したその日にリリアーナが起こしたクーデターによって王族や重臣達が皆殺しにされ、それを鎮圧しようとした『使徒』達も後に加わったハジメ達の手で全滅、神山の大聖堂にいるイシュタルら教会の中枢も一人残らず惨殺された事を、それを経てハイリヒ王国、というより聖教教会をトップとした人間族のテリトリーにおける権力構造が様変わりしていく事を、天之河や彼とごく近しい者、実戦訓練でハジメ達を殺そうとした檜山達がこの後、地獄と言うしかない壮絶な目にあうのを強いられる事を…
「勇者御一行様ですね、書類確認等の手続きがありますので少々お待ちください」
「どういう事だ?此方は勇者様及びそのご同胞がお乗りになられているのは明らかな筈だが?」
「申し訳ありませんが、王宮より言い付けられておりますのでお待ちくださいませ」
王都の入場検査場、其処で検査場のスタッフから制止された事に疑問を覚えながらも、メルドが勇者一行を乗せた馬車だと説明する。
今までなら馬車に搭載されたETC的な感じのアーティファクトのお陰で勇者一行の馬車だと知らせる事が出来、それによって此処で事情を説明するまでも無く通されていた筈、だが今日になって突然呼び止められたばかりか、勇者一行だと伝えても通してくれない、その状況を不審に思った、いや、思った『だけで何もしなかった』メルド。
程なくして、入場検査場の脇にあるスタッフ用の通用口から王国の騎士らしき者達がゾロゾロと現れた、
「天之河光輝、中村恵里。貴様達に国家反逆の容疑が掛かっている。大人しく同行願おうか」
「なっ!?一体どういうことだ!?」
「国家反逆!?何かの間違いでは!?」
「そ、そんな!?」
この中世ヨーロッパとよく似たファンタジーな世界観では浮きに浮きまくっていたり、3日前に会ったハジメ達と同じ格好をしていたりな異様な恰好にツッコむ暇も無く、騎士達は衝撃的な事を告げた。
なんと天之河及び彼と同じパーティの中村恵里の2人に国家反逆の容疑が掛かっているとして、取り調べの為に確保すると言い出したのだ。
「詳しい話は後で聞く、良いから付いて来い!」
「くっ!」
思わぬ事態に動揺が広がる一行、中でも身に覚えのない容疑で自分達が拘束されようとしている天之河達は何かの冗談では無いかと反論するも、聞く耳持たんと言わんばかりに騎士達は2人を拘束しようと囲み出した。
そんな騎士達を前に天之河は、同じく容疑が掛かっている中村を背にこの場を切り抜けるべく、ハジメにぶんどられた聖剣の代わりに腰に差している剣を手にしようとしたが、
「貴様、我らを手に掛けるのか?」
「!?」
「大聖堂で散々守ると言っていた我々に刃を向けるのか?自分の身が危なくなった途端、任務でそれを行おうとしている我々を殺すのか?」
「そ、それは…」
その動きから天之河が何をしようとしているのか目ざとく察知した騎士が、何処かから聞いたのか、召喚直後の場で表明した事を持ち出して揺さぶりを掛けた。
その言葉は騎士達の思惑通り天之河の心に痛烈に刺さり、抵抗の手を止めさせた。
それをチャンスと見た騎士達は彼らを拘束すべく詰め寄るが、この行動を止めようと動いたのは容疑が掛けられている天之河達本人だけじゃない。
「てめぇら光輝達から離れろぉ!」
天之河の相棒である坂上が、今にも天之河達を拘束・連行せんとする騎士達を引きはがすべく、人間族最強とうたわれるメルドの倍以上はあるステータスに物言わせて一瞬で距離を詰め、殴りかかった。
ところが、
「ぐぁっ!?」
「坂上龍太郎、公務執行妨害並びに国家反逆犯を匿った現行犯で貴様も拘束する!連れて行け!」
まるでそれを先読みしていたかの様に騎士達が動いた。
腰にぶら下げていた『何か』を手に取った騎士達、次の瞬間には数回もの炸裂音が響き渡り、それと共に坂上の両肩・両腰から血しぶきが舞い、飛び掛かったままの態勢で崩れ落ちた。
無力化したのを確認した騎士達は自分達の公務を妨害したとして坂上も一緒に拘束する、その手にはたった今響き渡った炸裂音及び坂上が負った負傷の原因であろうグローサが其々握られていた。
ハジメ達の様に魔力を直接操作する技能も無ければそれを再現するISも装備していない騎士達の銃撃は電磁加速されていない亜音速の銃撃、それでも何発も食らえば幾らこの世界においてチート級を誇るステータスを有する坂上であっても耐えられる訳が無く、拘束は滞りなく済んだ。
「天之河光輝達を庇うと言うのなら、貴様らも坂上龍太郎と同じく力づくで拘束するぞ?」
拘束した坂上を無理矢理立たせて、未だ唐突な事態を理解し切れない一行にグローサの銃口を突きつけながら警告する事も怠らず、3人を連行していく騎士達。
たった今坂上が何発もの銃弾を食らって無力化されたのを目の当たりにしたのもあって、その警告が単なる脅しでは無いと思い知った一行はそれを黙って見ているしかなく、3人を連れた騎士達が通用口へと消えて行って暫く経ってから漸く王都への入場を許された。
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『陛下。天之河光輝と中村恵里、及び両名の拘束を妨害した坂上龍太郎の確保、滞りなく終わりました』
「ありがとう、拘束の方お疲れ様。引き続き持ち場に戻っての業務、お願いね」
『はっ!』
3日前のクーデターに伴って崩壊した王宮の代わりとして使用されている大聖堂、その一角に臨時で設けられた執務室で男――陛下と言う敬称から分かる通り、クーデターによって誅殺されたエリヒドの後を継いで即位したハイリヒ王国の新国王である――は、天之河達を拘束した騎士からその件の報告を受けていた。
「聖教の主だった幹部を一掃し、総本山たる大聖堂を制圧したとはいえ未だ聖教を信じ、僕達を敵視する者達は各地に点在している。天之河達を野放しにしていてはその勢力を勢いづかせる事になりかねないからね。此処でエヒトルジュエの、聖教の影響力を徹底的に排除しないと」
その騎士に労いの言葉を掛けて通信を終えた国王は、そう呟きながら立てかけてあった豪奢なマントを手に取り、黒を基調としたプラグスーツを纏った自身の上に羽織りながら執務室を後にした…