「やあ、また会ったね。まさか此処で、こんなに早く再会するとはあの時思わなかったけどね」
「南雲、お前…!」
早朝目の当たりにした天之河達への早急過ぎる&重過ぎる(彼らはそう思っている)処罰、股間の『もの』をギロチンによって断ち切られ、激痛にのたうち回る暇も無く(そもそも捕縛されているので無理だが)奴隷の証たる首輪型アーティファクトを取り付けられて広場を後にした6人の様をただ見ているしかなかったメルド達。
それから少し経って昨日案内していた騎士から国王との面会が叶ったと聞き、その先導で王宮へと向かう一行、その道中で何故か目的地が神山だったり、ハイリヒ王国の王宮があった場所が何故か更地と化していたりと信じがたい事実を何度も目の当たりにしながら辿り着いた大聖堂、その謁見の間に、永山達がこの世界に呼び出される時に最初に目にしたあの部屋に入れられた彼らを、ハイリヒ王国の新国王となったハジメと、その王妃となったリリアーナと香織、雫と優花、愛子とユエ、シアとティオ、ハジメの指名で宰相に就いた幸利、と今現在のハイリヒ王国を率いる立場にある者達が、揃いも揃ってプラグスーツの上にマントを羽織るという異様な姿で出迎え、幸利と同じくハジメの指名で重臣となった淳史達や、妙子に抱きかかえられたハジメの義娘(暫定なのでまだ姫ではない)であるミュウも後部に控えていた。
幸利が口にしていたとはいえまさかハジメが国王となったなんてと疑っていた一行だったが、その光景を見て本当だったのだと確信、それと同時に様々な疑問が彼等の頭に沸き上がった。
王宮が何故更地になっているのか、エリヒド王を始めとしたハイリヒ王国の人達や、イシュタルら聖教関係者はどうしたのか、まさか皆殺したのか、何故天之河を国家反逆罪なんて重罪を適用して捕縛した挙句、僅か1日足らずの時を経てあれ程の処罰を下したのか、それ程までに天之河達を恨んでいたのか、何故、何故、何故…
本音を言えば今すぐにでもハジメに掴みかかりたかった永山達ではあるが、横に控えていた騎士達がやけに大きいライフル――ハジメが淳史達の意見を基にヴィーフリのファブリカモデルを再設計して造られた自動小銃『ノーチ*1』を油断なく構えていたし、そうで無くてもハジメ達であれば自分達など難なく制圧出来、その結果天之河達と同じ末路を辿るのは分かり切っていたので手出しは出来なかった。
余談だがこの場で控えている騎士達は元々、愛子の護衛として教会から派遣されていた騎士達だったのだが、民衆達の妨害によって愛子と離れ離れになっている最中にハジメ達がイシュタルらを皆殺しにして大聖堂を制圧した事、それに愛子が加わった事にショックを受けたものの、その愛子からこの世界の真実を聞かされ、彼らのリーダーであるデビットが「愛子のいた世界に手を出そうなど許してはおけん!」と奮起、他の騎士達も同調した為に聖教を裏切り、クーデターの際に大多数の騎士達がリリアーナによって殺されたので人員不足となっていたハイリヒ王国の騎士となったのだ。
「さて、何処から話そうかな」
それを目ざとく察知し、疑問を抱くのも尤もだと考えたハジメは、オルクス大迷宮の奈落の底へ落ちてから今日に至るまでに知った事、起こった事を全て、時系列に沿って説明した。
反逆者の住処で知らされたこの世界の、邪神エヒトルジュエの真実、それを聞いて抱いた『神殺し』の決意とそれを体現したヴァスターガンダム等の兵器、ユエやティオ、シア達ハウリア族を始めとした亜人族の皆がこの世界で目の当たりにして来た『闇』、ウルの町で再会し仲間となった幸利と愛子と淳史達、そして全てを知り、周りが皆敵の手に落ちたと思い知った果てにたった1人で望まぬクーデターを起こしたリリアーナ…
「何だよそれは、つまり俺達は神様に、エヒトルジュエの掌の上で踊っていただけって事か、その為に俺達はこんな世界に呼び出されたのか?なら、なら何でもっと早く教えてくれなかったんだ!もっと早く言ってくれたら」
「早く言ってくれていたら、何だい?まさか一緒にエヒトルジュエを討つとでも言う積りかい?
黙ってろよクズが」
全てを聞き、今更ながら自分達がエヒトルジュエによって踊らされていただけだと、その為だけに呼び出されたのだと知り激昂、それと共に何故オルクス大迷宮及びホルアドに滞在していた時に伝えてくれなかったのだという疑問が浮かんだ一行、それを代表して永山がハジメに投げかけるも、返って来たのはXラウンダーによる威圧と、某闇落ちした仮面ライダーとして名高いキャラの代表的なセリフによる拒絶だった。
その憎悪を帯びた重苦しい気配にあてられたのもあってか、何も言えなくなった永山達に、ハジメは更に言葉を重ねる。
「これは遠藤にも言った事だけど、恋人である香織達、義娘であるミュウ、親友であるトシ、玉井達、フェアベルゲンにいるハウリア族の皆。それとこの4日間で新たに加わったけど、此処ハイリヒ王国に住まう、僕達と共に在らんと誓ってくれた民達…
僕が、僕達が大切な仲間だと思っているのは今挙げた人達だけさ。他は、例えばお前達は偶々この世界へ一緒に転移した『同郷』の人間でしかない、他人と変わらないって事さ。そして、僕に関するある事無い事を噂として流した中村、天之河とその腰巾着である坂上、檜山とその取り巻き、そして『聖教』を自称してエヒトルジュエを盲信するイシュタルら邪教関係者はもう他人を通り越して『敵』だ。どんな存在であろうと敵には容赦しない、全力を以て排除する。それが僕の、僕達の、今のハイリヒ王国のやり方だよ。
お前達も敵とされたくないなら大人しくしろ。さもなくば天之河達の後を追わせる。分かったね?」
冒険者ギルド・ホルアド支部で再会した遠藤に伝えたのとほぼ同じ内容で自分にとっての『仲間』の定義を説明するハジメ、それに加えて天之河達に対して何故こうも早く、死刑に次ぐ、いや人によっては上回るとまで言える重い処罰を下したのかという理由を『敵』の存在を上げて答え、大人しくしなきゃ『敵』と認定し、天之河達と同じ処罰を下すと脅す様な言葉を残して、この場にいる仲間達と共にこの場を後にした。
「永山君、野村君、遠藤君、谷口さん、辻さん、吉野さん。ハジメ君が何故君達を其処まで『他人』扱いするのか、本当は分かっているんじゃないんですか?」
ハジメ達が永山達の方を一瞬たりとも振り返る事無く謁見の間を後にした中、教師としての使命感からか愛子だけが唯一、足を止め彼らの方を振り返りつつそう問い掛けた。
然しながらその目は、根っからの生徒思いで知られている愛子が自分達に向けるとは到底思えない、まるで養豚場の豚を見る様な、残酷な「可哀そうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね」と言わんばかりの冷たい目だった。
愛子は言外に伝えているのだ、雫を慕う集団『
「ハジメ君は常に交流の為のチャンネルを開いていた。香織さん達は勿論ですが、玉井君達もそのチャンネルにアクセスしようとしていたし、ハジメ君もそれに気づいていた。一方で中村さんや天之河君、坂上君や檜山君達はそのチャンネルを荒らし回って事実無根な悪い情報を貼り続け、君達はそれを鵜吞みにして関わろうとしなかった。ハジメ君との交流を断ったのは君達の方です、そんな君達が今更ハジメ君達に協力と言う名目で助けを求めても手遅れなんですよ、分かりましたね?」
そして愛子もまたそう言い放ち、この場を後にした。
残された永山達は、全ては自分達が蒔いた種だと、此処へ転移する前からの対応によるツケが回ったのだと、全てはもう手遅れなのだと、今更ながら思い知った。
その後彼らは、ハジメの言いつけを守ったからかどうかは分からないが、大聖堂の中に設けられた部屋から、全てが終わるまで出て来ることは無かった…
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「よぉ、生きてるか?」
「…何とかね、此処で死んだら、光輝君を助けた意味が無いからね」
それから時は経ち、中村が収監されている地下牢を訪ねた幸利、ハジメが自分の恋人達を連れ込んだ翌朝の部屋の様な匂いに少なからず顔を顰めながらも目的地へと辿り着くと、其処には奴隷用の首輪型アーティファクト以外何も纏わぬ身が白くドロドロとした液体に塗れた中村の姿があった。
そう、言うまでも無いが、中村に下された罰は『王国お抱えの(ピー)奴隷として兵士達の(ピー)を行う』という物である。
「見上げた根性だなぁ、その根性を全うな方向に使ってくれりゃあハジメも傷つかずに済んだのにな。まあ良いや、そんなお前にプレゼントがあるんだ。ホレ」
普通だったら直視するのも憚られ、哀しみと憤りを覚えるだろう惨状ではあるが、相手はハジメの心をズタボロにした黒幕である中村なので大した感慨も抱かなかった幸利は、この状況でも愛する天之河の為にと気丈に振舞う中村の根性を一応は称しつつ、布に包まれていた手乗りサイズの物体をプレゼントと称して牢の中へ投げ込んだ。
「…何これ?」
「ああ、これか?
天之河の(ピー)だよ、今朝方ギロチンでスパンと切り落とした、な」
「…ゑ?」
それが何なのか直ぐには分からなかったのか、いや分かろうとしなかったのかもしれないが、ともかくポカンとした中村に、幸利はその正体を、天之河達に下した処罰の内容も交えて話し始めた。
「へ、え、ちょっと待って、ボクが罪を認めたら光輝君を解放してくれるって」
「おいおい、俺はそんな事一言も言っていないぜ?俺はただ、お前が罪を認めたら天之河達の命を救けてやるって、アイツらの命は取るなと国王様に掛け合って来るって言っただけだぜ?話をちゃんと聞かねぇお前が悪い。まあ安心しろ、約束通り生きている。生きて、己が犯した罪を償っている最中だ」
「そ、そんな…」
救けてくれると言ったのにどういう事なのか、まさか全部嘘だったのかと幸利を問い詰めようとする中村だったが、確かに幸利は『アイツらの命を救けてやっても良い』と、天之河達の命は助けると言っただけであり、天之河達を解放するとは一言も口にしていない、自分の言った事を中村が都合よく解釈しただけだと突き放した幸利の言葉に、まるで絶望したと言いたげに顔が青ざめた。
「尤も、お前が罪を認めるにしろ認めないにしろ、アイツらの処罰が変わる事は無かっただろうけどな」
「…へ?」
そんな中村を更なる絶望へ叩き落すべく、幸利は衝撃的な真実を明かした。
「こうなる事を見越していたんだろうな、ウルの町にいる愛ちゃん先生から嘆願書が届いていたんだよ。『天之河君達が起こした事は、確かに償わなければならない重罪ではあります。然しながら彼等とて突然この世界へと呼び出された身、此処に纏わる法や慣例等は知らなかった身の上であり、齎された力と地位に見合った振る舞いを理解できなかった身です。その命を以て償いとするといった様な、死刑といった極端な処罰は避けて頂けませんか?受け入れられなければ作農師としての任を放棄します』ってさ。いよいよ魔人族が攻め込んで来る、奴らとの戦争が本格化するって時だ、今以上の兵糧が求められるのにそう言われちゃあ呑むしかないと、アイツらの死刑『だけ』は回避、奴らの(ピー)を切り落とした上で王国お抱えの奴隷としての労役を科すって形で収まったのさ」
言うまでも無いが、愛子は今大聖堂を改修した王宮にいるし嘆願書など出していないので幸利の言葉は大分脚色された物ではあるものの、生徒全員の生還を望む愛子の意向が反映されたのは確かだ。
一方で生半可な処罰で『邪教』の残党をつけあがらせたり、折角自分達を支援してくれる民達の反エヒトルジュエの思想に反する事になったりしてしまっては不味いというハジメの総合的な判断に基づき、天之河達の処罰は中村の司法取引など関係なくあの様な形となったのだ。
「つまり、お前の自供は、司法取引は何の意味も無かったって訳だ、ぶっちゃけた話な!バーカ!」
最初から天之河達の命を奪う積りは無かったと打ち明けた上で、中村の司法取引は無意味な物と言い放ち、その誘導にまんまと乗っかって自分の罪を認めた中村を嘲笑いながら幸利は去って行った。
尚、幸利は天之河達の処罰について打ち明けた時、ギロチンによる斬刑、とは言ったものの、具体的にどう『斬る』かとは具体的には口にしていない。
とはいえ唐律*2において斬刑とは斬首の事を指すし、ギロチンも本来は斬首を行う為の道具なので、ギロチンによる斬刑と聞いたら普通は斬首による死刑だと思うだろうが…
「ふざけんな、ふざけんな…!
殺してやるぅぅぅぅ!」
愛する天之河との子供が作れなくなったと、自分は幸利の掌の上でまんまと踊らされた末に、今こうして兵達のオモチャにされているのだと思い知った中村は、去り行く幸利の背へ、憎悪のままに叫んだ。