「長老の方々、お久しゅうございます。改めまして、この度ハイリヒ王国の新国王となりました、ハジメ・N・ハイリヒと申します、今後ともお見知りおきを…」
「お初にお目に掛かります。ハイリヒ王国第一王妃、リリアーナ・N・ハイリヒと申します。本日は宜しくお願いしますわ」
フェアベルゲンの中枢たる部屋、その場において行われるハイリヒ王国とフェアベルゲンの首脳会談の場、其処に集うは、フェアベルゲン側は長老であるアルフレリックとマオ、ルアとカムの4人、一方のハイリヒ王国側は国王であるハジメと王妃を代表してリリアーナの2人。
両国を率いる立場である面々が集結して始まった会談、その冒頭にハジメ達ハイリヒ王国側の2人は挨拶をしたのだが、ハジメの滅茶苦茶畏まった口調に、嘗て対面した時とは明らかに違う彼の対応に、アルフレリックを始めとした長老衆(カム以外)は「誰だお前は!?」と思ったのは言うまでも無い。
「これはご丁寧に。フェアベルゲン長老の一席を担う、カム・ハウリアと申します。本日は宜しくお願いしますぞ、ハジメ殿」
「う、うむ。同じくアルフレリック・ハイピストと申す。今宵は宜しく頼む。然しハジメ殿、嘗て会った時とは随分とまた振る舞いが違う様な…」
「今回はハイリヒ王国を率いる身として臨む、公の場であるが故、その辺りはご容赦願います」
「あ、あぁそう…
ならば此方も、嘗て会った時の事は忘れ、フェアベルゲンを率いる身として、この場に臨ませて頂こう」
そんなハジメにもあっさり対応したカムに引っ張られる様に他の長老も挨拶をするも戸惑いは隠せなかった様で、代表してアルフレリックが問い掛けたのも、それに対するハジメの返答が国王という立場故の物なのも、それを受けてルア達が襟を正したのも言うまでも無い。
「さて、今回の会談はハイリヒ王国とフェアベルゲンの国交樹立を目的とした物である事は、事前に交わした文書の通りですが、それにあたり、条文の案を考えてまいりました。此方がその内容です。
1:ハイリヒ王国はフェアベルゲンを、主権を有した一独立国家と認め、国交の場において対等なる立場で且つ、最も重んじるべき隣人として接する。
2:ハイリヒ王国はフェアベルゲン国家国民を始めとした亜人族への差別・迫害の罪を認めて謝罪し、出来うる限りの賠償を行う。
3:ハイリヒ王国はフェアベルゲンと国交の契りを結ぶに辺り、フェアベルゲン国家国民の防衛を目的とした兵器供与、兵士教導の人材派遣等の支援を行う。
詳細は後程説明しますが、以上の3点を条文の要旨と致します。如何でしょうか?」
前置きは手短めにと言わんばかりに早速本題を持ち出したハジメ、国交樹立を宣言する際の条文として考えていた案を披露したのだが、そのフェアベルゲン側にとって(現状を鑑みれば)かなり優位な内容にアルフレリック達は驚きを隠せなかった。
とはいえ条文の1つ目と2つ目に関してはハジメの性格を考えれば盛り込んで当然かという思いもあるにはあった、敵以外には優しく、差別や迫害を『敵』の所業として蛇蝎の如く嫌うハジメだ、人間族の国であるハイリヒ王国が真っ先に、亜人族の国であるフェアベルゲンを独立国家と認定し対等な関係であると内外に示す事で、その政治思想を声高に叫び、トータスの現状を変えて行きたいのであろう、と。
「ハジメ殿、随分とまた我々にとって都合の良すぎる内容では無いか?殊に条文の3つ目は…
条文の1つ目にある通り、国交を結べば我らフェアベルゲンと貴殿のハイリヒ王国は対等なる立場、であるならば貰ったままという訳にも行かない、それでは対等とはとても言えない。此方としてもハイリヒ王国に何かしらの見返りを出したいと思うのだが、何か望みの物は?」
アルフレリック達が驚いたのは3つ目、何とフェアベルゲンを守る為にハイリヒ王国が保有する兵器やその扱い方等を教える人材を惜しみなく提供するという事だ。
此処で供与すると明言している兵器は言うまでも無くハジメが開発したアーティファクトの類、ハジメの類稀な錬成技能によって作られた武器は勿論、この世界においてはオーバーテクノロジーを通り越して未知の産物である銃火器、挙げ句の果てにMSまでもハジメは提供する積りでいた。
実を言うとハジメは、先の使徒達との戦いにおいて得られたイユリの、もっと言えばマナアンプリファイアーを搭載したヴァスターガンダムの戦闘データを基に「魔力を持たない亜人族でもエヒトルジュエやその眷属に抗える力」をコンセプトに新型MSを開発、動力源をマナアンプリファイアーに一本化(それに伴いマナアンプリファイアーは魔力生成機構『マナジェネレーター』に名称変更)する等の設計変更を経て、機動戦士ガンダムUCのもう1人の主人公と言って良いリディ・マーセナスの専用機、バンシィ・ノルンの装甲を白くしたかの様なMS『ボルショイ・ティラー*1』を完成、その初号機を今回、フェアベルゲン側にプレゼントすべく持ち込んで来たのだ。
そんなハジメの、この世界のパワーバランスを思いっきりぶっ壊すかの様な大盤振る舞い、その訳はアルフレリック達も想像が付いた。
現時点でハジメ達はエヒトルジュエとその眷属、並びにそれを崇める邪教関係者を排すべき脅威としている、然しフェアベルゲンにとってはそれだけじゃない、悪い意味での実力主義から邪教の教え抜きに(といっても邪教への信心は熱いが)亜人族を見下す隣国ヘルシャー帝国の国家国民、選民思想から亜人族どころか人間族すらも見下す魔人族もまた恐れるべき脅威となっている。
ハジメ達の特訓によってかなりの強さを得たハウリア族がいるにしても、現状のフェアベルゲンではエヒトルジュエとその眷属はおろか、ヘルシャー帝国や魔人族の軍勢が相手でもその攻撃を凌ぐのは厳しい、国交を結ぼうとしている国の代表としてそれを危惧したハジメが、自分が作り上げたアーティファクトの類を、その使い方等を教えられる人材を提供する事で軍事力を強大化させ、それらからの攻撃にも対抗出来る様にしたいという思惑だろう、と。
だが例えそうだとしても、生まれも育ちもトータスなリリアーナが側にいてよく押し通せたなと言いたくなる、フェアベルゲン側が余りにも得をし過ぎる内容である、対等な関係を結ぶ以上は此方からも出来得る限りの支援をせねばならない、何か出来る事は無いかとアルフレリックが代表して尋ねた。
ところがハジメは、そんなのいらんと言わんばかりに首を横に振った。
「いえ、それには及びません。見返りを出すべきは此方です、それ程のものを我々は貴方達から受け取りましたからね」
「それ程の物を受け取った?一体何時、我々が貴殿にその様な物を授けたのだ?」
「おや、お分かりではありませんか?まあ、確かに『御三方』には覚えが無いかも知れませんね。
我が妃、シアですよ」
ハイリヒ王国が保有する膨大な戦力、それを実現する最新兵器の大盤振る舞いを『見返り』とする程のものを何時渡したのかとアルフレリック達が疑問を持ったが、その答えを聞いて初めて「あ」と今になってその存在に行きついたのかポカンとした様な表情となった。
実際、シアの存在が今やハジメ達にとってどれほど心強いものかは態々説明するまでも無いだろう、ハジメ達にも比肩しうる戦士として、ガンダムパイロットとして、そしてハジメの恋人として、その大きさはどんな最新兵器の数々でも釣り合う事は無いのだ。
「おぉ、我が娘シアを妃に。かねてよりハジメ殿とは恋仲であるが故、何時かはそうなると思いましたが、いざ娶られたと聞くと感慨深いですな。シアの幸せそうな顔が目に浮かびまする。してハジメ殿、孫の顔を見られるのは何時頃ですかな?」
「あ、あはは、それについてはまだ兆候は見られないので何とも言い難いのですが…」
一方でシアの父親であるカムはそれを分かっていたのか条文に疑問を挟む事は無く、寧ろ娘のシアがハジメと結ばれた事に父親として感慨深げに頷き、かと思えば孫はまだかと、フェアベルゲンの長老として首脳会談に臨んでいる事も忘れて完全にプライベートモードに入っていた。
「現在シアは同じく我が妃であるティオ、ハイリヒの宰相に任じた清水幸利と共に神代魔法の1つ『生成魔法』を得るべく、オルクス大迷宮の攻略に出向いております故、此度の会談の場に同席させる事は叶いませんでしたが、今度会談が催される暁には是非とも同席させようと思っております」
「では、その時までに孫の方、頼みまするぞ」
「善処はします」
そんな公人の自覚あんのか?と言わんばかりなカムの言動に苦笑いしながらも冷静に対応するハジメだったが、最早カムは完全に『シアの父親』状態であった。
「こほん。ハイリヒ王家、ひいてはハジメ殿の御家事情はさておき、我々としてはそうも行かない。今更この話を蒸し返して貴殿の気を悪くするのは忍びないが、元はと言えばシア・ハウリア、今はシア・N・ハイリヒだったか、彼女はフェアベルゲンにおいて『忌み子』とされていた存在、あの日お咎め無しとするまで我らはその存在を認めておらず、その後直ぐに彼女は貴殿らのもとについた、我らは全くと言って良い程彼女に関与していなかったのだ。そんな彼女を貴殿らの仲間に、貴殿の妃にした事への『見返り』と言われても、我々としては素直には受け取れぬ。それにフェアベルゲンの『主権』は長老勢が有していると言えるだろう、その1人であるカム率いるハウリア族にだけ負担させる訳にも行かない。其処で物は相談なのじゃが…
アルテナ、入りなさい」
「はい」
そんな会談を会談で無くしたカムを窘める様にアルフレリックは咳ばらいをしつつ、自分達の心中を、シアと合わせてくれた『見返り』と言われても素直に受け取れない心中を偽りなく説明した彼は、後方にある扉の向こうに控えていた存在に声を掛け、入室させた。
「お初にお目に掛かります、フェアベルゲン長老、アルフレリックの孫、アルテナ・ハイピストと申します。ハジメ様、リリアーナ様、今後とも良しなに」
入って来たのは、床にまで届く程の長く艶やかな金髪、アルフレリックとの血の繋がりを疑わせない端正な顔立ちに
このアルテナの存在が、ハイリヒ王国において少なからず影響を及ぼす事になるのだが、それはまた別の話。