愛子の天職が作農師であると分かった途端に驚き、部下に指示を飛ばしたメルドに何事かハジメが尋ねるとその訳が、愛子の存在がどれだけ重要かが分かった。
愛子の天職である作農師は所謂非戦闘系天職ではあるがその中でも飛び抜けて珍しく、戦闘系と同等の割合しかないとの事であり、尚且つこのご時世において喉から手が出る程欲しい存在だったのだ。
『腹が減っては戦は出来ぬ』という諺にもある様に戦時中である今、食糧供給が重要問題である事は地球でも、此処トータスでも変わりなく、そんな課題を、農地の生産性を著しく向上させるという形で解決出来る技能を幅広く習得している作農師の重要性は極めて大きい。
そんな作農師に、沢山の技能を持った形でなった愛子はその後、農地開拓の為に様々な人間族の領土へと派遣される事が決まり、残るハジメ達23人の生徒がハイリヒ王国王都にて、魔人族との戦争の前線投入へ向けて訓練を受ける事となった。
そのメルドの決定に当初愛子は、生徒達だけが前線に立つための訓練を受けなければならないのに自分だけが後方の安全な場所にいるのはどうかと難色を示したが、ハジメの「人には人のやるべき事があり、愛子には愛子にしか出来ない事がある。その愛子にしか出来ない事はこのトータスにおいて重大な事、それを全うしていけば愛子の、此方の発言力も強まると思うよ。そうなれば元の世界へ帰れる確率は高くなる」と説得した事で応じ、その道中で愛子自身もこの世界に関する情報を、元の世界へ戻る手がかりをなるべく探してみると約束した。
さて残された23人の訓練についてメルドは、各々の天職や技能、当人同士の関係等を考慮した4,5人単位のグループに編成して行う事となった。
まず勇者である天之河、拳士である坂上、結界師である
軽戦士である檜山、炎術師である中野、風術師である斎藤、槍術師である近藤のグループ。
重格闘家である
曲刀師である
そしてハジメと香織、雫、優花、幸利のグループ…尤も、ハジメのグループに(ハジメ以外に親しい人がいない)幸利は兎も角、香織らも入っている事に天之河や檜山から抗議の声が上がったがメルドは天職的にも親密過ぎる位親密な関係的にもこれ以上に最適な編成は無いとして取り合わなかった。
そんな一幕を経た昼飯時、ハジメ達5人は其々のステータスプレートを確認し合い、詳細な訓練方針を決める事にした。
まずハジメだが、メルドがバラしていたのもあって其処まで驚かれる事は無かった。
一方の他のメンバーのステータスはと言うと、最初に幸利だが、
「俺のステータスはこんなだな。魔力関係以外最悪で、如何にも後衛向きって感じだ」
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清水幸利 17歳 男 レベル:1 天職:闇術師
筋力:1
体力:1
耐性:1
敏捷:1
魔力:111
魔耐:110
技能:闇魔法・高速魔力回復・省略詠唱・全属性耐性・先読・隠業・気配感知・魔力感知・言語理解
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本人が最悪とぼやく様に、筋力、体力、耐性、敏捷といった身体能力を示すステータスがどれも最低値の1、此処トータスに住まう人間族の標準値よりも桁が1つ少なくなってしまっている。
魔力及び魔耐こそ天之河を上回って23人の中でトップ、天職である闇術師は魔物の核とされる魔石や土地に込められた魔力に干渉する技能に特化しているのでこれを応用すれば魔物の洗脳を行う事も出来る強力な存在だが、それを狙って行うならば対象からの意識が向く事による襲撃へのリスクを負わねばならず、魔法は兎も角物理的な攻撃が掠りでもしたらアウトな幸利にそのリスクは大き過ぎる。
人間族が魔法を発動する際に必須と言って良い詠唱を短く出来る『省略詠唱』等の技能を駆使した立ち回りや、前衛メンバーとの連携が欠かせないだろう。
「私のステータスはこんな感じだよ。私も清水君みたいに後方支援向きだね」
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白崎香織 17歳 女 レベル:1 天職:治癒師
筋力:5
体力:5
耐性:5
敏捷:10
魔力:100
魔耐:100
技能:回復魔法・光魔法適性・高速魔力回復・省略詠唱・全属性耐性・先読・気配感知・魔力感知・言語理解
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香織のステータスも、流石に幸利程極端ではないが身体能力面ではひ弱と言わざるを得ない。
一方で幸利には及ばないが魔力関係が優れており、尚且つ天職である治癒師は読んで字の如く怪我を治す技能に特化した『ヒーラー』的存在。
適性のある光魔法も駆使した後衛でのバックアップが主な役割となるだろう。
「私のステータスはこうね。明らかに前衛向きな物ね」
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八重樫雫 17歳 女 レベル:1 天職:剣士
筋力:60
体力:30
耐性:20
敏捷:100
魔力:5
魔耐:10
技能:剣術・縮地・剛力・先読・心眼・隠業・気配感知・言語理解
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雫のステータスは剣士という天職を体現したかの如く前衛向き、に一見するとそう判断できる。
確かに敏捷は高く、筋力ではハジメにも勝る上、それにバフを掛けられる技能『剛力』を有しているが、一方で防御面は後述する優花は勿論、体力と敏捷に極振りしたハジメと比べても低い。
高い敏捷と筋力を活かした一撃離脱戦法をとるのがベストと言えるだろう。
「アタシのステータスはこんな感じよ。何かどれも中途半端な感じがするんだけど…」
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園部優花 17歳 女 レベル:1 天職:投擲師
筋力:35
体力:35
耐性:35
敏捷:50
魔力:35
魔耐:35
技能:投擲・短剣術・狙撃・乱撃・心眼・先読・炎魔法適性・気配感知・言語理解
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本人はどれも中途半端と自嘲するが耐性で言えばグループ内でトップ、他の能力も自分以外のグループメンバーの様な穴は無くオールマイティな活躍が見込める。
尤も天職である投擲師は武器を投擲する事での遠距離攻撃に特化した存在、一応ハジメと同じく短剣術も技能にある為接近戦に向いていない訳では無いのだが…
「このステータスを踏まえると、僕が前衛に立ち、香織と幸利は後方で支援、雫と優花は遊撃って所かな。それを踏まえた戦術と、各々の技能に合わせた訓練を行っていく、といった方針になるかな、これは」
「尤もハジメに、錬成の技能を伸ばすか基礎的な物とか以外で訓練の必要は無さそうだけどな」
「そうね、自衛官になるって夢に向けて幼い頃からずっと格闘技とか武器の扱いとか習って来たもの」
「となれば錬成の訓練をすると言って、皆とは別行動をとる事も出来るわね」
「その一環として王都に保管してある資料を読み漁ってこの世界の情報を、元の世界へ帰る切っ掛けを掴めれば…」
「うん。尤も、皆との連携を密な物とする為にある程度訓練に参加する必要はあるけど、時間を見つけて、出来るだけ探ってみるよ」
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「ふぅ、根を詰めても仕方ないか。少し気分転換しよう」
訓練初日で決めた方針に従って情報収集を始めてから数日、この日も錬成師としての訓練と並行して王立図書館で書物を読み漁っていたハジメだが、流石に何時間も書物にかじりつくのは厳しい、気晴らしにと図書館を後にし、滞在場所である王宮の庭園へと向かい、物陰に腰かけた。
その手にはネックや弦、ボディに至るまで全て金属で出来たギター、ハジメが錬成の訓練を兼ねて作り上げた総金属製アコースティック・ギター『ギターラ*1』があった。
実を言うと『ガノタ』が高じてその主題歌も好きになり、その歌を歌う事が趣味となったハジメ、何時しかただ歌うだけでなくギターでの演奏も行う様に、所謂弾き語りも行う様になったのである。
「I JUST FEEL『RHYTHM EMOTION』
この胸の鼓動は
貴方へと続いてる SO FARAWAY」
そんなハジメが弾き語りしていたのはガンダムシリーズの1つであるアニメ『新機動戦記ガンダムW』の第二期オープニングテーマ『RHYTHM EMOTION』、一途なる愛をテーマとした歌だ。
尤もハジメには恋人が3人、いや愛子を加えれば4人もいるので一途も何もあった物では無いが…
「I JUST FEEL『RHYTHM EMOTION』
過ちも痛みも
鮮やかな一瞬の光へと導いて
I JUST FEEL『RHYTHM EMOTION』
この胸の鼓動は
貴方へと続いてる SO FARAWAY」
それはさておき自分の弾き語りにおける定番の1つになっている『RHYTHM EMOTION』を弾き終えたハジメ、だが場所的な理由もあるのか何時もの如く周囲に人はいなかった。
とはいえハジメにとっては気晴らしで歌っているだけ、聴衆がいようがいまいがさしたる問題では無い、そもそも過剰に聴衆が集まって来られると気晴らしにならないから城の中庭、その物陰を選んだのだが、
「素敵な歌ですね、ハジメさん」
「貴方は、リリアーナ姫様?」
その日だけは聴く者がいた。