ヘルシャー帝国の帝城内の会議室で再び始まった4人の会談は、既に三国間で国交を樹立する事がハジメとガハルドとの間で取り決められたのもあって滞りなく進み、ハイリヒ王国側とは、防衛を目的とした銃火器やIS、MSといった兵器とその使用方法を指導出来る人材供与、それと引き換えに駐在大使として皇族を王都に住まわせる事、フェアベルゲン側とは、ハルツィナ樹海にて亜人族達の手によって建国され今も尚統治されている事、樹海内に住まう亜人族達はその国民である事の認定、亜人族への差別・迫害を認めての謝罪並びに不当な理由で奴隷とされ、ヘルシャー帝国の国家国民が所有していた亜人族の奴隷達を返還する等の賠償、両国の首脳の血族を駐在大使として派遣する事、とハイリヒ王国がフェアベルゲンと国交を結ぶ際に交わされた約束に沿った合意が締結された。
こうしてヘルシャー帝国とフェアベルゲンの国交樹立、ハイリヒ王国とヘルシャー帝国の新しい形での同盟関係が構築されたが、ガハルドはそれを、この後に催されるハジメ達の歓迎パーティを会見の場として公表する事を提案、ハジメ達もヘルシャー帝国の重鎮達が集う場で行うのは丁度いいと快諾した。
元々ハジメがハイリヒ王国の新国王に就任した事、その挨拶を兼ねた首脳会談を目的として来訪した事を歓迎する意図でパーティ自体は催されてはいた(尤も事前予告が無かったり、僅かな期間で様々な国を飛ぶ弾丸外交で無かったり、敵対的関係で無かったりしなければ当然ではあるが)が、其処にハイリヒ王国とヘルシャー帝国、そしてフェアベルゲンの三国が親密な仲となる事を祝う目的も加わった訳だ。
尤もお祝いムードなのはヘルシャー帝国関係者ではガハルド等ごく限られる者達だけだろうが…
ともあれそういった目的を孕んでいるとは会談の当事者しか知らされていない中で始まった歓迎パーティ、ヘルシャー帝国の首脳であるガハルドに、ハイリヒ王国から来た国賓であるハジメとリリアーナ、それとハジメ達に同行したアルテナ、そしてヘルシャー帝国側の重臣達…
同盟国の代表たるハジメ達の来訪を歓迎する場に相応しい面々が揃う中に、本来なら公式な外交の場である此処にいるべき筈の存在が約一名いない――言うまでも無くヘルシャー帝国の皇太子『だった』バイアスである――事に司会の男が戸惑いを隠せなかったものの、ガハルドから「気にするな、続けろ」と促されたのもあって進行させた。
「今宵はハイリヒ王国の新たな国王となられたハジメ殿とその第一王妃たるリリアーナ殿、それとハイリヒ王国と国交を結んでいるフェアベルゲンからの大使たるアルテナ殿の、我が国への訪問を歓迎するパーティへ集まってくれた事を感謝させて貰おう。このパーティに先立ち、ハジメ殿達と少々込み入った話をしていたのだが、実に有意義な話となった。ま、子細は後で話すとしよう。今宵は大いに食べ、大いに飲み、大いに喋って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、我らが親しき隣国たるハイリヒ王国の国王に就かれたハジメ殿への何よりの祝福となろう!」
司会に促されて覇気に満ちた声で演説するガハルドに合わせるかの様に飲み物や食事などが各々の席へと運ばれ、彼の音頭での乾杯と共にパーティは始まった。
「む?リリアーナ殿、アルテナ殿。耐性が付いているらしいハジメ殿なら兎も角、毒見もせずに食すのは危険だ。丁度良いな。おい、奴を連れて来い。毒見をやらせる」
「はっ!」
ところが開始早々、出された食事、正確にはハジメ達の食事を見て何かを察知したのか、それを食べようとしたリリアーナとアルテナをガハルドが制止し、後方に控えていたであろう護衛の者に、毒見係に任じたのであろう誰かを呼び出させた。
その命を受けた護衛が程なくして毒見係であろう者を連れて来たのだが、
「ば、バイアス様!?」
「様なんて付ける必要はねぇぞ、コイツはもう俺の跡継ぎなんかじゃあねぇ。今のコイツは大罪を犯した重罪人だ。さ、一先ずはコイツを食え」
その者が誰なのか、顔を見てそれを察知したヘルシャー側の参加者達が驚きに包まれた。
それも無理は無い、毒見係として連れて来られたのが皇太子である筈のバイアスであり、然しながらその身なりは皇太子とは到底言えず、寧ろ重罪を犯してその罰を受けている真っただ中である囚人といった方が良い状態だからだ。
そんな己の家臣の戸惑いなど知ったこっちゃないと言わんばかりにガハルドは、アルテナに出された食事から無造作にとり、バイアスの口を無理矢理開かせてその中に、強引に詰め込んだ。
「むぐ、むぐ…
ぐ!?あ、がぁぁぁぁ!?」
バイアスは抵抗するもヘルシャーでも指折りの実力を持った護衛達とガハルドの3人掛かりではそれも空しく、詰め込まれた料理を咀嚼した末に飲み込んだ、するとガハルドの想像通り料理の中に毒が入っていたのか、苦痛を露わにし、断末魔の悲鳴を上げた末に、その僅か26の生涯を終える事となった。
「…案の定って所か、こりゃぁ。
おいお前ら、コイツは一体どういう積りだ?」
元々期待を抱いていなかった故か、或いは先の騒動で皇太子の座を剥奪してからもう息子と思わなくなったからか、己の子供が死んだ事に何の感情も抱かず、国賓の食事に毒を仕込んだのがこのパーティに招かれた重臣達の企てによる物だと見当を付け、人間族最強の名に恥じぬ威圧を放ちながら問い質した。
「陛下。どういう積り、は此方の台詞です。この帝城に『簒奪王』に『殺戮姫』、挙げ句の果てには薄汚い亜人族の女まで国賓として招き入れるなど。よもや強く誇り高きヘルシャーの皇帝ともあろう貴方様が、エヒト様に刃向かう異端者達を前に膝を折ったとでもおっしゃられるのですか?」
そのプレッシャーに気圧されながらも、己の信念を全うすると言わんばかりに、家臣として主君の愚行を質すと言わんばかりに重臣達が敵意を向けながら、逆にガハルドへ問い質した。
その口ぶりからは『邪教』への、偽りのエヒトこと邪神エヒトルジュエへの信心が今も尚しっかりと根付いている様であった、いやもしかしたらエヒトルジュエの眷属によって洗脳されてしまった後なのかも知れない、ハジメ達を異端者とすべく、エリヒドらハイリヒ王国の重鎮達がそうされた様に。
「簡単な話だ。『強きと共に在る』というヘルシャー建国以来の理念に従った迄だ。お前らもヘルシャー帝国民であるならそれを分かってくれると思ったんだが、帝国民である事より邪教信者である事を選んだか!偽りのエヒトがそんなに好きかぁぁぁぁ!」
それを感じ取ったガハルドは、胸中から湧き上がる物を堪えながらその問いに答えるが、やがて堪え切れなくなり、爆発させた。
「おのれガハルド・D・ヘルシャー!異端者に屈して魂どころか国すらも売り飛ばしたばかりか、偽りだの邪教だのとエヒト様を貶めるか!異端者共々エヒト様からの裁きを受けるが良い!」
その言葉に、エヒトルジュエや聖教を罵倒する言葉に重臣達もまた怒りを露わにし、ヘルシャー帝国重臣という立場では無く『聖教』信者の立場でガハルド達を糾弾、今この場で殺すと言わんばかりに各々の武器を構え出した。
最早売り言葉に買い言葉、何時殺し合いが始まってもおかしくないと思い知ったガハルドは、湧き上がる物を我慢せず吐き出した為か異様に落ち着き払った様子でハジメに何事かを尋ねた。
「…ハジメ殿、其方の者達の手配は済んでいるか?」
「ええ、万事滞りなく」
「なら」
その答えを聞き、何事かハジメに伝えようとしたガハルド、その時、
『なっ!?』
一発の銃声が響き渡ると共に、ガハルド達を取り囲もうとした重臣達のうち数名の頭が粉微塵と化した。
「全ての責は俺が負う!この場に集まった邪教信者達を、貴殿らの『敵』を遠慮なく討つと良い!」
それはアブーフカ等で使われる40×46mm弾の散弾タイプの物、それを撃ち込んだのは、帝城の窓の向こう側から、アメリカのCryePrecision社が開発したブルパップ式回転弾倉ショットガン『SIX12』と似た、然し色々と原型を留めていないブルパップ式回転弾倉グレネードランチャー『ルイシ*1』を構える翼人族の男だった。
思わぬ方向からの不意打ちに動揺する重臣達の一方、事前に伝えられていたのもあってかガハルドは冷静さを崩す事無くハジメ達に攻撃の許可を、己の『元』臣下達の討伐許可を出した。
「この帝城を包囲したフェアベルゲンの戦士達よ!此処に集いし『敵』はヘルシャー帝国史の中で、その力を以て重鎮の座へと昇りつめた強者の血を引く者達だ!貴様らが我らヘルシャー帝国と並び立ち、手を取り合うに相応しい『強者』だと言うのなら!その力を以て己が『敵』を討ち果たして見せろ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
今しがた先制攻撃を行った翼人族の男を始め、この帝城に集まった『敵』を討つべく包囲しているだろうフェアベルゲンの戦士達を煽るかの様に叫ぶガハルドと、それに応ずる戦士達。
後に『帝城の血脂染め』と称されるヘルシャー帝国内での粛清が今此処に始まった。