時は遡り、ハジメとガハルドの会談がリリアーナとアルテナを加えて再開する頃、ハジメはストリボーグに待機していた淳史と連絡を取っていた。
「どうした、ハジメ?」
『淳史。直ぐにフェアベルゲンへ向かって、援軍を要請して来て欲しい』
「フェアベルゲンに?また随分と急だな、何かあったのか?」
『ヘルシャー帝国のガハルド皇帝が話の分かる方なのもあり、会談自体は上手く済みそうでね、このまま行けばハイリヒとヘルシャー、そしてフェアベルゲンの三国間で対等な国交を築けそうなんだ。だけどヘルシャーの重臣達が僕達の事を敵視し、ガハルド皇帝共々如何にかせんと企んでいる様子、機会を見つけて仕掛けて来るかも知れないんだ。その鎮圧の為にフェアベルゲンの援軍が必要なのさ』
「そりゃまた穏やかじゃねぇな。けどさ、ヘルシャーの逆臣を討つならフェアベルゲンに援軍を求めるより、ハイリヒから送り込んだ方が早くないか?というか、幾ら随一の兵力と言えどそれはこの世界の人間族基準、お前が其処にいるんだから援軍は必要無いんじゃないか?」
『ただヘルシャーの逆臣を討つだけならそうだね。だけどその後の状況を踏まえるとそうは行かないのさ。今も言ったけどこのまま行けばハイリヒ王国とヘルシャー帝国、フェアベルゲンの三国間で対等な国交を樹立する運びとなる。不当な理由で奴隷となった亜人族も解放される事となるだろう。だけど今まで『邪教』の価値観を抜きにしても魔力の有無というアドバンテージから亜人族を見下して来たヘルシャーの民が、いきなり対等に接しろと言われても素直に従うとは思えない。必ずや国交樹立に反発する民が現れ、その撤回を求めて暴動が発生するだろうね。それを防ぐ為にも亜人族の、フェアベルゲン国民の力を見せつける必要がある。此処ヘルシャー帝国は良くも悪くも実力主義、特に戦士としての力が重んじられる、その力を認められて重臣となった者達をフェアベルゲン国民が倒し、反乱を鎮めて見せたとなれば、ヘルシャーの民達も亜人族の実力を、国交樹立の意義を認めざるを得ないって事さ』
「成る程、直ぐに起こるだろう反乱を鎮圧するだけじゃない、後々起こりうる反乱を未然に防ぐ為の援軍って訳か。分かった、今からフェアベルゲンに向かって、長老の方々に掛け合って来るぜ」
『ありがとう。こっちは話をつけて置くから、そっちは頼んだよ』
内容はフェアベルゲンへの援軍要請という指令、それを聞いて最初はハジメのチート級の実力を良く知っているのもあって援軍の必要性に疑問を持った淳史だったが、それが持つ意味を聞いて納得、
「各員、我らは王からの指令を受け、これよりフェアベルゲンに向かう!各自持ち場についてくれ!」
『了解!』
ハルツィナ樹海へ向かうべく各クルーへ指示を飛ばした。
こうして一行を乗せたストリボーグはヘルシャー帝国を離れ、フェアベルゲンへ一直線に向かった。
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「現在我が王達は隣国ヘルシャー帝国の帝城にて首脳同士による会談を行っておりますが、どうもヘルシャー側のガハルド陛下が話の分かる方なのもあり、このまま行けばハイリヒ王国とフェアベルゲンは、ヘルシャー帝国と対等なる国交を結ぶ事となりそうです。無論ヘルシャー側にもハイリヒと同様、フェアベルゲン国家国民への永きに渡る差別や迫害に対する謝罪と賠償を行わせる運びとなるでしょう」
「何と、それは真か…!?」
「まさか、ヘルシャーの皇帝が…?」
「し、信じられない…」
「ハジメ殿が、またもやってのけたと言うのか…」
「はい、間違いありません。まあ、お疑いになるのも無理はありませんが」
その後、一時間も経たずにハルツィナ樹海へと辿り着いたストリボーグ、艦長を務める淳史はハジメの代理として長老達との会談に臨む事となり、挨拶もそこそこにハジメ達とガハルドとの会談の状況を伝える。
それを聞いた長老達、アルフレリック達は勿論カムですらも驚きを隠せなかった。
それも無理は無い、ハイリヒ王国こそ此処トータスの出身では無く尚且つ差別を蛇蝎の如く嫌うハジメが国王、臣下や国民も『邪教』への、これぞ掌返しだと言わんばかりの反感もあって亜人族への永きに渡る差別を反省して歩み寄ろうとする態度を見せているが、一方でヘルシャー帝国は『邪教』の価値観以外にも魔力の有無による覆しようのない能力差を背景に現在進行形で亜人族を差別し、迫害して来ているのだ、そのトップがそれをあっさりと反省して対等な関係を築こうとしている事に驚かない者が果たしているだろうか。
「尤もヘルシャー帝国の国家国民が、というより人間族全般がフェアベルゲン国家国民を始めとした亜人族の人々を差別し、迫害して来たのは言うに及ばず。そうして下に見ていた者達といきなり対等に接する様にと言われても、差別して来た事を詫びて償えと言われても従おうとしない者は少なからず出て来ると思われます、現にその情報を掴んだであろうヘルシャー帝国の重臣達が、ガハルド陛下諸共我が王達を亡き者にすべく動いている様子だと我が王から連絡を受けました」
「まあそうなるよね。寧ろ皆して乗り気だと聞いたら、流石に罠を疑う所だよ」
とはいえそれに乗り気なのがガハルドだけ、トップが先走っているだけだと聞いて、臣下達がそれを力づくで破談に持ち込もうとしていると聞いて「デスヨネー」と言わんばかりに納得していたが。
尚、淳史の言う我が王『達』にはハジメとリリアーナだけでなく、フェアベルゲンから駐在大使として派遣され、その勉強の為に同行しているアルテナも含まれている事を、つまり彼女の命も狙われている事を祖父であるアルフレリックを始め皆理解していたが、にも関わらず誰もが平然としているのはハジメの化物級の強さを全員が身を以て理解しているから、そんなハジメがいるからアルテナもリリアーナも序でにガハルドも、誰が襲って来ようが大丈夫だと無類の信頼を寄せているからである。
「それで?出国したその日にとんぼ返りして来て、その話題を明かした上で、貴殿らは何を要求するのかな?」
「はい。今回の件で我が王達を亡き者にせんと動くヘルシャーの逆臣を討伐すべく、フェアベルゲンから援軍をお送り頂きたいとの我が王からの要望です。移動手段に関してはストリボーグを解放しますし、装備に関しても不足分は此方で支給しますのでご心配なく」
「フェアベルゲンから援軍を?失礼ながら、帝城内にはそのハジメ殿もおられる筈です、あの方がおられるなら幾らヘルシャー帝国の家臣達が束になって掛かろうと1人で討伐出来るのでは?」
それはさておき、出国したその日にいきなり戻って来た目的は何なのかとルアに尋ねられ、ハジメからの要望を伝える淳史、当然ではあるが、そのハジメがいるのにフェアベルゲンから援軍を送る意味があるのかとマオがツッコんだ。
「此度の要望に関しては「フェアベルゲンの兵士がヘルシャー帝国の重臣達を討った」という事実が重要なのです。ヘルシャー帝国は良くも悪くも実力主義、殊に戦士としての実力が重視されます。その重臣ともなれば人間族でも指折りの実力者、それを討ったとなればヘルシャー帝国民もフェアベルゲン国家国民の力を認めざるを得ないでしょう」
「成る程ね。それに、ハイリヒ王国の重臣である貴殿を通じての要望を受けてとなれば、外部には「ヘルシャーの逆臣の企みに気付いたハイリヒ国王が、それに対処すべくフェアベルゲンに、亜人族に助けを求めた」となる。つまり「邪神の眷属の大軍を退ける程の力を有するハイリヒ王国が頼りにする程、フェアベルゲンは力を有している」事を示せる訳だね。そういう意味でもヘルシャー帝国民は此方の力を認めざるを得ないだろうし、何より他の勢力にも此方への、亜人族への対応の仕方を改めさせる事にも繋がるね。流石はハジメ殿だ、抜け目ないね」
尤もそれは淳史自身が抱いた疑問である、マオのツッコミに対しても動揺する事無くハジメの考えを伝えるが、それを聞いたルアが、この援軍要請が持つ更なる意味に気付き、それを口にした。
それを聞いた淳史は「ハジメの奴、其処まで考えて援軍要請を命じて来たのか…」と改めて己の主君であり戦友でもあるハジメの凄さを実感した。
「相分かった。なれば要望の通り援軍を送る事にしよう。カム、其方で訓練を積んだ兵士を如何程出せる?」
「ざっと二百位は。兎人が百、翼人、狐人共に五十ですな」
「一個中隊といった所か。玉井殿、それで足りるだろうか?」
「はい、十分な数です。余りに多くてもストリボーグ艦内に乗り切れませんし、数の暴力で押し切ったとの印象も与えかねませんので」
そのルアの話を聞いてかどうかは本人のみぞ知るだが、援軍要請を受ける事で意見が一致、カム達ハウリア族のもとで厳しい訓練を、ハジメが僅か十日で見違える程の強さをハウリア族の面々に身に着けさせたのと同じような訓練を積んで来た兵士達総勢約二百名がヘルシャー帝国に派兵される事となったのだ。