「本当に、何とお礼を言えば良いか…
娘とこうして再会出来たのも、治らないと言われた私の足が治ったのも、全て皆さんのお陰です。この御恩は一生掛けてもお返しします。私に出来る事でしたら、どんな事でも…」
色々な事があり過ぎて大騒ぎになっていたのを何とか収め、レミアに案内されるがまま彼女の家を訪れたハジメ達は、其処で改めて一連の経緯を説明した。
フューレンでの出会いやその身を巡る騒動、ハジメをパパと呼ぶ様になった真相とミュウに纏わる事だけじゃない、レミアの足を完治させた神水についてや、ハイリヒ国王に即位するまでの流れ等…
それを聞いたレミアはその場で深々と頭を下げ、涙ながらにお礼を繰り返した。
「どうかお気になさらず。僕の心が望むままにやり、周りの皆も同じようにしただけですから」
「ですが…」
ハジメ達は、特にハジメは公務だったり余程敬意を払うべき相手だったりしない限り使わない敬語を使って気にするなと伝えるも、娘の命も、自分の五体も救ってくれた恩人に、まして自分達海人族を保護してくれる国の王が其処までしてくれた事に対して礼の1つも出来ないのは納得出来ないと言わんばかりに引き下がらない。
やがて、ハイリヒ王国の重鎮である一行が、彼らにとって大切な存在とはいえ一介の民でしかないミュウを送り届ける為だけにエリセンまで、外遊の寄り道で飛んでくるとは思えない、この辺境の町に来たのは別の理由があると察知し、それを完遂するまでの拠点としてこの家を使って欲しいと言い出した。
「どうかせめて、これ位はさせて下さい。幸い家にはゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセン滞在中は、どうか遠慮なく。それにその方がミュウも喜びます。ね、ミュウ?ハジメさん達が家に居てくれた方が嬉しいわよね?」
「んみゅ?パパ、何処かに行くの?」
幾ら何でもそれはと固辞しようとするハジメ達に先手を打つと言わんばかりに、話し中に眠くなったのか己の膝枕の上でうとうととしていたミュウに同意を求めたレミア、それを聞いたミュウは「え?何言っているのママ?」と言わんばかりにキョトンとしていた。
どうやらミュウの中では『パパ』であるハジメが此処にいるのは、自分とレミアと共にいるのは物理法則よりも当然な事となっている様子だ。
ミュウにとって本当の意味で『パパ』になれたも同然な事を嬉しく思いながらも、近いうちに来るかもしれない別れを辛い物にしない為の『パパ』離れに失敗したとも実感、複雑そうな表情を浮かべながらハジメは話を続けた。
「…出来ればミュウと正式な親子となりたかったのは本当です。ただ今は、その意志を押し通せる状況にありません。だから周りから駄目だと言われても良い様に、王としての公務を理由に距離を取ろうとしていました。ミュウも貴方の育て方が良かったのかあの年で聞き分けも良い、分かってくれると思ったんですが…」
「あらあら、うふふ。パパが、娘から距離を取るなんていけませんよ?」
「レミアさん、あの、今の僕はハイリヒ王国の」
「王様である前にミュウの『パパ』ですよ?いずれ旅立たれるのは承知しています。ですが、いやだからこそ、お別れの日まで『パパ』でいてあげて下さい。距離を取った挙げ句さようならでは…ね?」
「…それも、そうですね」
ミュウと正式な親子になりたかった、つまりレミアと結婚するなりミュウと養子縁組するなりして法的にも親子関係になりたかったというハジメの言葉は本当の事、実を言うとミュウを保護して彼女の『パパ』となった時からその事を頭の一片に置いていたのである。
だがそれは叶わなくなったとハジメは考えていた、何故なら、
「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと『パパ』でも」
「エゴですよ、それは…!」
「は、ハジメさん?」
「ぱ、パパ?」
今のハジメは一介の冒険者では無い、ハイリヒ王国の王様だからだ。
話の中で自分の想いに従ったらどうかと言い掛けたレミアに、Xラウンダーによる物では無いとはいえかなりの威圧感を発しながら、逆襲のシャアにてアムロがシャアに対して言い放った言葉で制止した。
そんなハジメの普段とは違う様子に驚きを隠せないミュウ、それを見逃さなかった淳史達が「パパとママはこれから大事な話があるみたいだから、どっか別の部屋に行こうか」と彼女を連れて避難した。
「しつこい様ですが、今の僕はハイリヒの国王です。その僕がミュウの『パパ』に、僕と貴方が結婚するとなると、貴女は第九とはいえ王妃となられる。つまりそれは、貴女の実の娘であるミュウはハイリヒの王女になるという事。必然的に、次期国王の候補として祭り上げられる立場になるという事、政の道具として扱われる様になってしまうという事です。ミュウにどれだけの負担を強いるか、分からない貴方では無いでしょう?」
ハジメが言った様に彼とミュウが親子関係となるという事は即ち、彼女がハイリヒ王国の王女になるという事、必然的に王政に関わっていく立場に置かれてしまうという事、そんな彼女を都合の良い道具にせんと近寄る輩が少なからず現れるかもしれないという事なのだ。
「尤も僕自身は、仮にミュウが王女になろうと、次期国王の候補に挙げる積りはありませんが」
「あら、そうなのですか?」
「ええ。今でこそ僕はハイリヒの国王を務める身ですが、元は邪神エヒトルジュエの手によって此処トータスに呼び出された異世界の者、言うなれば外様です。此度は喫緊の事態故に国王へ即位せざるを得ませんでしたが、その経緯もあって諸国の人々からは『簒奪王』だの『反逆者』だのと言われています、その状態で王の座に居座るのは宜しくありません。いずれハイリヒ王家の血を引く者に、リリィとの間に出来た子に、然るべきタイミングで後を継がせる予定です。それこそが王政のあるべき姿であるが故に、ハイリヒ王国の、トータスの為であると思うが故に。そして、ミュウを政の道具にしたくないという『パパ』としての想い故に。
ですが、詳しい説明は省きますが僕は人間族という枠から逸脱した存在、その僕との子づくりでの影響は未知数です。今も毎晩リリィ達と子作りに励んではいますが、もしかしたらリリィとの間どころか、子供そのものが出来ない可能性もあり、その時には養子をとって後を継がせるしかありません。そうなればミュウがその後継になってしまう可能性が極めて高い。ミュウが『お姉ちゃん』になれるか否かで、あの子の運命は大きく変わってしまう、そのオッズは僕自身にも計算出来ないんです」
とはいえそんな事態にする積りなどハジメには微塵も無く、誰に国王の座を継がせるかについても己の考えを固めていた、ハイリヒ王家の血を引く者で今現在生きているのは第一王妃のリリアーナのみ、そのリリアーナとの間に最初に生まれた子が今のハジメ位の年齢になった頃に国王の座を継がせる、それが例え王子であろうと王女であろうと関係ない、という考えだ。
国王に即位してから毎晩、夜通しでリリアーナと(ピー)しているのは、例え外遊先であろうとヤる事ヤッていたのは、それ程リリアーナを愛していたから、『下半神』と言われる程の性欲のままに動いたから、そういった理由だけでは無い、早急にハイリヒ国王の座を『外様』の『簒奪王』と呼ばれる自分から引き継いでくれるだろう存在を産み出す必要があるからなのだ。
だが物事に絶対は無い、毎晩の如くヤッていてもそれでリリアーナが妊娠する可能性は100%ではない、ましてハジメはオルクス大迷宮の奈落の底から帰還する為に魔物の肉を食し、その変質した魔力の影響で肉体が大幅改造された身、その影響がハジメのマルチプルカノンにも及んでいないとは言えない、下手したらリリアーナとの間どころか自分の子供自体が出来ない可能性もある。
そうなったら養子を迎えてその子に国王の座を継がせなければならないが、現時点でいの一番に候補にあがる、上がってしまうのがミュウだ、レミアを王妃とする等してミュウを王女にするとなると、そんな事態が現実の物となってしまう、ハジメは其処を危惧していたが故にミュウと本当の意味で親子となるのを、国王に即位した時、諦めざるを得ないと心に決めたのだ。
「結論は急ぎません、仲間達が大迷宮から帰還し、此処へやって来るのを待たねばなりませんから。早くともあと2・3日は掛かるでしょう。その間にゆっくり話し合いましょう、ミュウの、僕達の将来の形をどうするのが一番良いのかを」
此処で合流する予定である幸利達がオルクス大迷宮とライセン大迷宮を攻略するのに、早めに見積もってもあと2・3日掛かると踏んでいたハジメ(実際にその読み通りとなったのは別の話)、その間に言葉を重ねればミュウもレミアも分かってくれるだろうと思っていたが、
「いいえハジメさん、それには及びませんわ。私の、いえ、私達の想いはもう固まっています」
「え…?」
「先程も言いましたが、一生掛けてもこの恩をお返しすると、私に出来る事ならどんな事でもする積りですし、あれ程の事を躊躇なくやってのける貴方の素晴らしいお人柄を、会って間もないですがお慕い申しております。きっとミュウも私と同じ積りですよ」
レミアの決意は、ハジメの話を聞いて尚揺らぐ事が無かった。