ハジメ達が山頂から潜入したグリューエン大火山、その内部はオルクス大迷宮やライセン大迷宮、神山以上にヤバい場所だった。
といってもライセン大迷宮よりも凶悪なトラップが張り巡らされている訳でも、神山よりも厳しい潜入条件が課されている訳でも、オルクス大迷宮よりも強大なモンスター達がうじゃうじゃいる訳でも無い、此処がヤバい理由は、活火山内部を大迷宮にするという正気の沙汰ではない発想で作り出されたが故の構造的なものだ。
まず驚愕すべきはマグマが空中を流れている事、それもフェアベルゲンの様に水路を空中に建てて水を流しているのではなく、重力魔法等による物か、マグマその物が宙に浮き、そのまま川の様に空中の至る所を流れているし、通路や広間も同じなので、迷宮に挑む者は地面や頭上に注意する必要がある。
更には壁等から突如として噴火して来るマグマにも気を付けなければならない、溶岩ドームを形成するデイサイト質マグマや流紋岩質マグマは、主成分である二酸化ケイ素の量が比較的多くて粘り気があるので、火山ガス等の揮発性物質を閉じ込めやすい、それが揮発する事によってマグマの内圧が増大化、その果ての暴発が頻発する事で何時ドカンと来てもおかしくない天然のブービートラップと化してる為、此処の攻略を目指す冒険者は石橋を叩いて渡る位の慎重さが求められる。
そうなれば攻略はかなりの長丁場になりかねないが、そう長々と時間を掛けられない理由もあった、そう、先程も言った通りサウナかと言いたくなる程、いやオーブンに閉じ込められてそのまま熱せられる程の高温だ。
デイサイト質マグマや流紋岩質マグマは温度も流動性も比較的低くはなっているものの、それでも摂氏600℃は下回らない高温を発しており、そんな物で満たされたこの大迷宮も滅茶苦茶暑い、いや、熱いと書いた方がしっくりくる、そんな環境だ。
そんな迷宮内に普通の冒険者が入れば、流れる汗は留まる事を知らず、数分と経たない内に脱水症状を引き起こして死んでしまう、此処を取り囲むグリューエン大砂漠の時点で過酷な環境に晒され続けた身体では猶更だろう、或いはそうした過酷な環境下で、マグマや魔獣の奇襲を乗り越えられる事をこの大迷宮を造った者――解放者の1人であるナイズ・グリューエンは要求しているのかも知れない。
とはいえそれは普通の冒険者の場合、その点ハジメ達は普通じゃない。
ハジメ達が着用しているISは元ネタの小説において宇宙空間での活動を想定して開発された、その宇宙空間は真空状態なのは勿論、摂氏-270℃という極寒の空間、かと思えば太陽等の恒星から発せられる光や電磁波をダイレクトに浴びせられる事で何百℃も熱せられる等、此方もまた想像を絶する過酷な環境である。
ISに搭載されているシールドバリアは、真空空間でも活動出来る様に装着者との間に空気の層を形成している他、あらゆる攻撃を防ぐ機能によって宇宙塵等の危険な飛来物質や、周囲の急激な温度変化からも装着者を守ってくれる、その為グリューエン大火山の過酷な環境下に置かれていながらもハジメ達は、汗一つかいていない平然とした表情で大迷宮を突き進んでいたのだ。
そんなハジメ達の思う様にはさせないと言わんばかりに、壁や床からマグマが噴出したり、マグマで出来ていると言わんばかりの姿をした魔物達が襲い掛かって来たりしたが、マグマに関しては見ようともしないのか或いはそんな物障害にもならんと言いたいのか何事も無くスルーし、
「其処っ!」
「狙い撃つよ!」
「はぁっ!」
「喰らいなさい!」
「Let’s Danceじゃ!」
「『天灼』」
「どらっしゃぁぁぁぁい!」
「『月光蝶』であぁぁぁぁる!」
魔物に関しても飛び掛からんとした所に、ハジメのグローサから放たれたボーク・スミェルチ弾が、香織のレーザーが、雫のリエーズヴィエや優花のキンジャール、ティオの龍化させた腕から放たれた真空の刃が、ユエの雷撃が、シアのピサニエ・セドモイが、そして幸利の月光蝶が返り討ちにしていったので、足止めにすらならなかった。
こうして何の滞りもなく大迷宮を突き進むハジメ達、やがて直径3Kmは下らないであろう、広大な空間へと出て来た。
此処で連想したのはライセン大迷宮の最深部にある、ミレディの魂が入った巨大ゴーレムと戦った時のあの空間だ、それと比べると多少手を加えただけなのか自然なままの歪さが残っているものの、マグマの海と言わんばかりにそれで満たされた地面、その所々に足場の如く飛び出た岩石、中でも中央部に島の如く飛び出ている大きな岩石の足場、其処に出来たマグマのドームが如何にも最終試練の場だと物語っている様だった。
「…あそこが住処?」
「みたいだね、此処に来る迄に大分下って来たし」
「となればこの辺りに、住処を守るガーディアンがおる筈じゃな」
「出て来るとしたらそこら中にあるマグマからかしらね、さてサンダルフォンが出るかサハクィエルが出るか」
「優花、第8使徒違いよそれ」
「いやその前に、お前ら何でエヴァの使徒に限定した?」
その光景を見たユエ達がいよいよ最終関門だと、軽口を交わしながら気合を入れ直す一方でハジメとシアは周囲の警戒を怠らない、2人が技能として持つXラウンダーによる近未来予知で、そのガーディアンが何処から襲い掛かって来ようが先手を打てる様、準備に万全を期していた。
「皆、散開!」
『了解!』
それによって何か捉えたのか、空中に散らばるよう指示を飛ばしたハジメ、それを受けて全員が各々の方向へ飛んだ次の瞬間、先程迄ハジメ達がいた場所へと向け、マグマの海からそれの一部を吹っ飛ばしたかの様な溶岩弾が発射された。
ハジメの指示もあって余裕で回避した一行だったがそれは開始の号砲に過ぎないと言わんばかりに、尚も下のマグマの海、上のマグマの川から各員を狙って溶岩弾がマシンガンの如く連射された。
「シア!」
「はいですぅ!」
攻撃その物はシールドバリアで難なく防げる部類ではあるものの、そのシールドバリアのエネルギー源が装着者の魔力である以上被弾は少ないに、というか無いに越した事は無い、かと言って全方位からの何時終わるか分からない波状攻撃を避け続けるのも厳しい、そんな状況を打開すべく、ハジメとシアは溶岩弾の弾幕を、隙間を縫う様な動きで回避しながら中央の足場へと飛んでいく。
「其処ですぅ!」
「シア!胴体だ、胴体を狙って!」
「は、はい、ハジメさん!」
その際、またも何か察知したのか、シアがピサニエ・セドモイを大上段に構えながらマグマのある方向へと突進していく、それと同じタイミングで、重厚な咆哮と共に巨大な蛇が飛び出して来た。
出会い頭を叩き潰してやると言わんばかりにそのまま頭めがけてぶん回そうとしたシアだったが、イノベイターでもあるハジメのより高度な予測に基づく指示を受けて胴体に狙いを変えて振り下ろした、すると何かが砕け散る音と共にその身は真っ二つに切り裂かれ、やがて全身がただのマグマと化し、海に帰って行った。
「どうやらあのマグマ蛇は今まで会敵した魔物とは違う、マグマその物で出来た体躯の中に魔石があるみたいだ!其処以外の攻撃は通じない様だよ!」
「それに皆さん、中央の足場を見て下さい!岩壁が光ってますぅ!どうやら岩壁に埋め込まれた鉱石の数だけあのマグマ蛇を倒せって事みたいですぅ!」
「つまりはあのマグマ蛇がガーディアンって事ね、サンダルフォンと見せかけてラヴァ・ゴーレムが来るなんてね」
「今度は遊戯王かよ、まあ作者も除去手段として使ってるけど」
「いや作者の方なの?幸利君は使わないの?」
「正直、俺のD-HEROデッキとの相性が良くないんだよ、だから入れてねぇな」
「鉱石の数はざっと百個、つまりガーディアンを計百体倒すのがクリア条件って事かのぉ」
「…この過酷な環境下であれを百体相手にする、迷宮のコンセプトにも合っている」
「でも見た感じ20体しかいないね、という事は倒した所に補充される形なのかな?」
最初の1体が登場したのを皮切りに続々と姿を現すマグマ蛇、その際にシアが見た事で発覚した中央の足場の変化によって、そのマグマ蛇こそ大迷宮攻略の上での最終試練で立ちはだかるガーディアンだと判明、尚も優花達が軽口を交わす余裕を見せながらも各員は油断なく構えた。
こうして始まったハジメ達と、ガーディアンであるマグマ蛇との戦いだが、正直言って今までの魔物達と大して変わらない程あっさりと終わった。
それも当然と言えば当然であろう、マグマその物な体躯からの攻撃こそ生身であれば厄介ではあるものの当たらなければどうという事は無いし仮に当たってもシールドバリアによって魔力が消費されるだけで済む、一方の此方はそのマグマの体躯の中にある魔石をぶっ壊してしまえば良いだけ、それを難なく成せる手段は豊富にあるのだから。
何のどんでん返しも無くマグマ蛇を一掃して見せた一行は、中央の小島に埋め込まれた鉱石が全て光ったのを確認し、ドームの中へと入って行く。
其処には、
「魔法陣と…メッセージ?」
「この魔法陣は神代魔法を修得する為の物だと思うけど…」
「何々…『人の未来が 自由な意思の元にあらん事を 切に願う ナイズ・グリューエン』」
「自由な意思の元、つまりエヒトルジュエに、邪教に縛られぬ未来を切り開けって事かのぉ」
「とは思うが、此処にはこれだけか?他に何か無いのか?」
「…ミニマミスト?」
「いや流石に此処でそれを為そうとするのは無理があるでしょ。そして相変わらずそういった知識を知っているのねユエは…」
「もしかしたら此処は、神代魔法を修得させる為だけの部屋なのかも知れませんね」
神代魔法を修得する為の魔法陣と、優花が読んだメッセージが壁に刻まれているだけというシンプル過ぎる物だった、シアの言う通り神代魔法を修得させる為だけなのかも知れない。
とはいえそれはハジメ達にはあずかり知らぬ事、会話を切り上げて全員が魔法陣に足を踏み入れる、すると今までと同様、脳内の記憶を探られる様な感覚の後に神代魔法の知識と使い方を直接刷り込んで来た、これによって一行は4つ目の大迷宮を攻略、新たなる神代魔法の修得に成功した。
「淳史。たった今、グリューエン大火山を攻略、神代魔法を修得したよ。空間魔法なる物だ」
『そ、そうか!そしたら早く此方に来てくれ!
魔人族の男と、ソイツが率いるドラゴンの大軍と会敵、交戦状態に入っている!向こうの狙いは恐らく大迷宮、その最深部にある神代魔法だ!』
「何!?分かった、今すぐ向かう!皆、急ごう!ストリボーグが交戦状態に入っているみたいだ!」
『はい!』
それを地上で待機しているストリボーグに報告したハジメだったが、其処で緊急事態が発生している事を、艦長代理である淳史から伝えられて初めて知った。
ストリボーグが魔人族との交戦状態に入っている事を知った一行は、大急ぎで地上への道を突き進んだ。