時は遡り、ハジメ達のグリューエン大火山攻略が真っただ中な頃のストリボーグ艦内に視点を移す。
「今頃ハジメ達は大迷宮の最深部に辿り着いた頃かな?」
「いや流石に早過ぎだろ、幾らハジメ達とはいえまだ入ってから1、2時間位じゃね?」
「ハジメ君達なら、増してISを身に着けた状態ならあり得るんじゃないかしら?此処が厄介な要因は周りのグリューエン大砂漠の過酷な気候と、大火山の熱さ。それを防げるISがある以上早期決着は余裕じゃない?」
「だね妙子っち、となると私達の出る幕は無さそうだね。レーダーからの反応も無い、何事も無くエリセンへ戻れそうだよ」
「油断するなよ?ハジメ達がストリボーグに帰還する迄が任務だ、周囲の警戒を怠るな」
現在ストリボーグ艦内に残った淳史達5人のクルーは、此処へ近寄って来る者がいないかを警戒、レーダー等による監視を行っていた。
このグリューエン大火山はオルクス大迷宮やハルツィナ樹海と同じく、大迷宮の1つである事やその場所までよく知られている、此処も冒険者がそんなに立ち寄らないだけで、此処でしか取れない鉱石の一種『静因石』を採掘する為にアンカジ公国の者が時折入っている。
その情報を掴んでいるのは魔人族側も同じだろう、となれば最深部での試練を乗り越える事で修得出来る神代魔法を狙って此処の攻略へ動くに違いない、人間族のテリトリーに侵入して来たのを捕らえたレイスら魔人族から齎された、彼らが引き連れていた魔物達が神代魔法の1つによって改造されたものだとの情報からも確定的に明らか、それがハジメ達と鉢合わせたら厄介だとの考えからこうして監視にあたり、近づいて来る様なら自分達だけで追い払う積りだ。
とはいえ魔人族が今この時に来る事は無いだろう、と淳史を除いた面々は少なからず油断していた、ハジメの指示の下
だが、その会話がフラグになったかは分からないが此処にきて、今までなかった反応が出た。
「淳史君、此処から南方より多数の魔力反応を確認、真っすぐに此方へ向かっているわ!」
「噂をすれば何とやら、か!奈々、イエヌヴァリを展開して甲板部へスタンバイだ!」
「りょ、了解!」
「マジかよ!?やらせない為に、超長距離砲撃でガーランドの国土を散々荒らしたってのに!」
「大方、中枢迄当たっていなかったか、国土の被害を無視して全ツッパしているかのどっちかって所だろ、明人の技能からして後者だとは思うが、そうだとしたらガーランドのトップは頭おかしいのか!」
魔人族が今此処に来る訳無いと高を括りながらも、淳史の注意もあってレーダー等をしっかり確認していた妙子が、此処へ真っすぐに向かう多数の生物、魔力を持った存在を示す反応を見たのだ。
つまりそれは人間族か魔人族、魔物が集団となって此処へと迷いなく向かっている事を示す、その報告を受けて奈々にイエヌヴァリへ乗り込んでの待機を指示した淳史の一方で、他の面々は魔人族側が集団で、或いは魔物を引き連れて此処へ来たと思い込み万全の『仕込み』をしたにも関わらずそうなった事に苛立ちを隠せなかった。
そう、たった今言った『仕込み』とは、ストリボーグに搭載されたマルチプルカノンによる超長距離砲撃、ストリボーグの砲撃手である明人がハジメの指示のもと行った魔国ガーランドへの絨毯爆撃である。
実を言うとハジメ達がハルツィナ樹海を訪れ、国交を結ぶべくフェアベルゲンの長老達と交渉していたその裏で、遥か上空から大陸南側に位置する、魔人族側の国家である魔国ガーランドに向けて、マルチプルカノンの高いスペックに物言わせた超長距離且つ高威力の砲撃を雨あられと叩き込んでいたのだ。
その意図は言うまでも無いがガーランドの国土を蹂躙する事による魔人族側の士気低下、並びに人間族側が超長距離から強力な砲撃を行える術がある事、それが何時でも行える事を思い知らせて国防に注力させる威圧だ。
そんな意図を受けて明人は魔国ガーランドへ向けてマルチプルカノンをフル稼働、多種多様な砲撃をバカスカと撃ち込み、甚大な被害を与えたにも拘わらず、それから僅か一週間足らずしか経っていない今、国土への被害も何のそのといった感じで大迷宮攻略へやって来た事に、それを指示したであろうガーランドの首脳の頭のおかしさに憤りを隠せない一同。
「とはいえ、魔人族ではない可能性も無くはない。此処を良く知る冒険者の集団、或いはアンカジの手の者って可能性もな。妙子、その魔力反応の方へ呼び掛けを行ってくれ」
「わ、分かったわ」
その中で1人、副艦長としてストリボーグの指揮をハジメから任された淳史は至って冷静だった。
もしかしたら件の魔力反応は魔人族側のものではなく、静因石の採掘に来たアンカジ公国の者か冒険者の集団かも知れないのに魔人族と決めつけて攻撃してしまっては、ハイリヒ王国の他国からの信頼に罅を入れてしまう、それでは数日も費やした外遊が、ハジメの外交努力が無駄になってしまう、そう判断して魔力反応がした方向へ呼び掛けを行う様、オペレーターの妙子に指示した。
「此方はハイリヒ王国直轄艦、ストリボーグ。此方へ向かっている者達に問うわ、其方の所属は?」
その指示を受けた妙子は、件の魔力反応がストリボーグから大体4~5km、あと少しでグリューエン大砂漠の砂嵐を突破出来る所まで来たタイミングでスピーカーを介して呼び止めた。
冷静に指示を飛ばす淳史の存在もあってか落ち着いた口調で対象へと呼び掛けた妙子、その答えは、
「な!?対象の魔力反応が極大化!攻撃、来るわ!」
『任せて!イエヌヴァリで迎撃するよ!』
膨大な魔力をチャージしての攻撃だった。
ストリボーグに搭載されているマルチプルカノンの魔力チャージにも匹敵する程の魔力反応に驚き、慌てて報告する妙子、それを受けて、奈々が搭乗していたイエヌヴァリが行動を起こした。
程なくしてストリボーグへと放たれる強大な魔力のビーム、それに対してイエヌヴァリも右肩に担ぐプロトブラスターからビームを放出、迎え撃つ。
一見すると某3Dグラフィックだけど横スクロール2Dシューティングなゲームみたく敵のビームに干渉して打ち返すのかと突っ込まれそうだがそうではない、氷術師である奈々の技能を生かした特殊なビームによって敵の攻撃をいなそうという考えだ。
放出されたビーム内にはプリズム状の氷が無数に含まれている、この氷に光を通させる事によって軌道を逸らさせたり、熱エネルギーを氷が融解・蒸発する事によって奪い取ったりする事によって威力を弱めたりして魔力光を無力化しようとしているのだ、差し詰め機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズにおけるナノラミネートアーマーや、機動戦士ガンダムSEEDにおけるラミネート装甲みたいに。
そんな奈々の思惑が的中したのか、砂嵐の向こう側から放たれた魔力光は、プロトブラスターから放出されたビームと交差した瞬間にあさっての方向へ逸れたり勢いが弱まったりした末、ストリボーグ及びイエヌヴァリに命中する事は無かった。
だが相手はそんなの織り込み済みだと言わんばかりに次なる手を打った。
「また対象の魔力反応が極大化したわ!今度は全体的に大きくなっている感じよ!」
「デカい一発が駄目なら弾幕を張るってか、やってくれる!」
『流石のイエヌヴァリでも大量にばら撒かれたら防ぎ切れないよ!』
「皆、しっかり捕まっていろ!ハジメ達が戻るまで持ち堪えるんだ!」
「了解だ、昇!俺達だけでも切り抜けられるって所を見せて、アイツらを安心させてやろうぜ!」
妙子の警告と共に放たれる無数の閃光、淳史の見立て通り一発一発は先程の十分の一程度の物ではあるが、それでも直撃すればストリボーグやヴァスターガンダムとて無視出来ない被害を受けるのは必至、ハジメ達がいればこれも難なく凌げるのだろうが彼等は大迷宮攻略の為に此処にはいない、戻って来る迄は自分達でこの難局を切り抜けなければならない。
「ノイマン少尉ばりのバレルロールだ!」
『昇っち何しちゃってんのォォォォォ!』
そう決意してこの状況を切り抜けるべく其々の行動に移ったストリボーグのクルー達、その中でも目覚ましい活躍をしたのが、操舵士である昇だ。
ストリボーグからの砲撃やイエヌヴァリからの援護によって弾幕に隙間が出来ていたのもあったが、昇はそうして出来た隙間を目ざとく見つけ出してはストリボーグを瞬時に動かし、時にはアークエンジェルの操舵士アーノルド・ノイマン少尉ばりのバレルロールも披露するという、外で見ていた奈々が思わずツッコミを入れる程の破天荒な操縦によって、無数の魔力光を見事に回避して見せたのだ。
そんな彼らの活躍によって、永遠に続くかと思われた魔力光の嵐は漸く終結、凌いでいる間にハジメ達から大迷宮を攻略したとの報告もあってか、艦内にはもう一息だと言いたげな雰囲気が漂っていた。
そんな彼らの様子を知ってか知らずか、砂嵐の向こう側から敵が接近、その姿を現しつつ、声を発した。
「…看過出来ない実力だ、まさか私の白龍によるブレスが受け流されるとは…
おまけに報告にあった強力にして未知の武器や建造物…
まさか総数50体もの灰龍の掃射を無傷で受け流すなど有り得ん事だ。貴様ら、一体何者だ?幾つの神代魔法を修得している?」
ストリボーグに搭載された集音マイクによって拾った男と思しき声、そして露わになった姿を見て、一同は『ああ、やっぱりな』と思うと共に敵意を強めた。
赤髪で浅黒い肌、尖った耳と如何にも魔人族と言いたげな男は、その口ぶりの通り巨体を誇る純白の龍に乗り、大体50体位の灰色の龍を従えていたのだ。
そんな魔人族の男は、ストリボーグやイエヌヴァリの迎撃が、それを成し遂げた力が神代魔法の恩恵による物だと考えたのか、そう質問したが、
「言った筈だぞ、此方はハイリヒ王国直轄艦、ストリボーグ、と。此方が名乗ったのだから次は其方が名乗るべきでは無いのか?魔人族というのはその礼儀も知らないのか?」
それに淳史は不敵な笑みを浮かべ、挑発するかの様に返した。
「…これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」
「ほざくな、あっさり凌がれたくせに。ところで滅茶苦茶になった故郷の復興はどんな感じだ?」
尚も挑発を重ねる淳史、その中で魔国ガーランドがストリボーグによる絨毯爆撃によって壊滅的な打撃を受けた事を示唆した。
「気が変わった。貴様らは、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」
それが男――フリードの琴線に触れたのか、如何にも怒りに満ちていると言わんばかりの低い声で名乗りを上げた。
「神の使徒、か。大方、神代魔法を手に入れて、そんな大仰な名乗りを許されたって所か?それも魔物を使役する魔法じゃない、魔物を作る、或いは魔改造を施す類か。それであんな強力な魔物揃いの軍隊を作り上げたとならば、確かに神の使徒か」
「その通りだ。神代の力を手に入れた私に『アルヴ』様は直接語り掛けて下さった。『我が使徒』と。故に私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障害となりうる貴様らの存在を、私は全力で否定する」
何処となく邪教関係者を思わせる口ぶりで目前のストリボーグを、その背後にいるであろうハジメ達の存在を真っ向から否定するフリード。
その苛烈な物言いを受けて尚、艦内にいる淳史は不敵な笑みを浮かべたままだった。
「おっと、お仲間がどうなっても良いって言うんだな?」
「…何?」
「妙子。スクリーンを展開して、奴に艦内の『あの場所』の様子を見せつけてやれ」
「分かったわ」
淳史の唐突な発言に訝し気な様子のフリード、そんな彼に見せつけるべく、淳史の指示を受けた妙子がストリボーグ艦内のとある部屋の映像を空中に投影した、其処には、
「な!?こ、これは!?」
「このストリボーグの艦内にある一室を映している。此処にいる奴らが何者なのかは言うまでも無いよな、何せお前自ら選び抜き、人間族のテリトリーへの潜入を指示したんだからなぁ?」
レイス達の他にもフリードが先遣隊として人間族のテリトリーへ潜入させた数十人もの魔人族が、極彩色の物質で満たされたカプセルらしき機器――簡易版マナジェネレーターに入れられている光景だ。
恐らくフリードにヴァスターガンダム等の情報を伝えていたであろうこの魔人族達は、ハジメがハイリヒ国王に即位してから天之河達を捕縛する迄の間に1人残らず確保し、全員をストリボーグの動力源として漬け込んだのだ。
「人質とでも言う積りか…!」
「それだけじゃねぇ。このストリボーグは膨大な魔力を燃料に動いているんだが、今その供給はコイツらから搾り出す事で賄っている。つまりお前が何かしらの行動を取り、それに対応すべくこのストリボーグが動けば、それだけでコイツらは魔力を根こそぎ搾り取られる苦痛を味わうって事だ」
「な、な、なんて卑劣な…!」
「おいおい何を言っているんだお前は。これはお前達魔人族と俺達人間族との戦争だぞ、卑劣もカツレツもオムレツも好き嫌いなく喰らわなきゃ勝てる訳が無い」
「く、お、覚えておれ…!」
仲間達が人質にされている事を思い知ったフリードは、淳史の言う通り何かしらの行動を取るのは不味いと判断せざるを得ず、悪態をつきながらも撤退するしか無かった。
こうしてフリード率いるドラゴン達の軍勢を撃退した淳史達クルー、その直ぐ後に大迷宮を出たハジメ達と合流し、次なる大迷宮攻略を目指してエリセンへと向かった。