如何にもファンタジーRPGだと言わんばかりの仕掛けの数々、その攻略を妨げるであろう激流や魔物等の障害を難なく切り抜けてメルジーネ海底遺跡へと潜入、探索を開始したハジメ達。
その道中ではやはりと言うべきか、此処に住まう魔物達が襲撃して来た、フジツボの様な姿で、穴の開いた所からウォーターカッターの如き水流を放つ水属性魔法『破断』で攻撃して来る魔物や、手裏剣の如く飛来するヒトデ型の魔物等の襲撃に見舞われるも、正直言ってその強さや厄介度は他の大迷宮には遠く及ばない程低く、勿論ハジメ達は難なく駆除して見せた。
入る前までは確かに無理難題と言えなくも無いが、それにしてもグリューエン大火山の攻略が前提にしてはヌル過ぎないか?と何処か肩透かしを食った様な気分のハジメ達だったが、その訳は次なる空間内で発覚した。
「む、敵襲だよ!皆、構えて!」
「皆さん、敵は溶解作用を有している模様、直接触れたら危険ですぅ!」
何か部屋の様な空間へと入った次の瞬間、魔物らしき存在が襲い掛かって来るのを察知したハジメが警戒する様呼び掛ける、それと同時にこの空間へ来る際の入り口がゼリー状のものによって封鎖されてしまった。
それを察知した最後尾のシアが、退路を確保する為にそのゼリー状の壁を壊そうとピサニエ・セドモイを大上段に構えるも、Xラウンダーの力による近未来予知で壁を壊すには至らない事、ゼリー状のものが溶解作用を有した物で出来ており無闇に手を出すのは危険だと判明して足を止め、本丸が来るであろう後ろ側、空間内部の方へと向きを変え、一行に注意を促した。
「誰が来ようが、俺の月光蝶の敵では」
「駄目だ、トシ!この魔物は魔力をも消化吸収するみたいだよ!月光蝶は闇魔法によるもの、コイツ相手には通じない!」
「マジかよ、ライセン大峡谷といい此処といい、月光蝶対策はバッチリって訳か!」
そんな一行が相手だろうと物の数ではないと言わんばかりに襲撃の手、天井の方から入口を塞いでいるそれと同じゼリー状の触手が多数襲い掛かって来る、それを各々の手段で迎撃せんと構える一行、幸利も十八番である月光蝶で無力化しようとしたが、ハジメの近未来予知でそれが通用しない事を忠告され、魔力を用いる手段が殆ど使えないライセン大峡谷で余程苦労したのか思わずそう口にしていた。
まあ月光蝶をピンポイントで対策したというより魔力を使う術全体への対策をしたのであろうがそれはさておき、ハジメとシアの忠告もあってか、近接攻撃を行う為に飛び込む事も、各々の魔力を用いて展開しているシールド・バリアを過信して回避を怠る事も無く、襲い掛かる触手を難なく倒していく。
此処で大きく貢献したのが、元はライセン大峡谷攻略の為にハジメが開発したアーティファクトの数々、其処で力が大きく制限される香織達3人の為に開発した専用アーティファクト、香織用のスプィーシカと優花のパリャーシ、ユエのクルィロだ。
魔力を物理的エネルギーに変換し切ってから放出するという機構を搭載したこれらのアーティファクトから放たれた火炎放射やビーム等の攻撃は、触手が持つ魔力を消化吸収する能力を物ともせず敵をバッタバッタと薙ぎ払っていく。
そんな敵にとって押されっぱなしな状況に痺れを切らしたのか、壁や触手に使われるゼリー状のものの正体が、襲撃を仕掛けて来る魔物が姿を現した。
天井から染みだす様に出現、空中に留まりながらその姿を形成したのは、半透明の人型、ヒレ状の手足、全身に有する赤いキラキラした斑点、触覚の様な物を2本生やした頭部…
全長10mと推定される巨大な体躯から化物にしか見えないがそれを抜きにすればクリオネに見えなくも無いその魔物は、絶対に仕留めてやると言わんばかりに全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーの如くゼリーの飛沫を飛び散らせた。
ハジメ達も先程と変わらずそのゼリー状のものに接触する事無く迎撃、出来ているのは良いのだが、唐突にジュワーという音が聞こえて来て咄嗟にその方を向くと、此処へ来る迄に難なく蹂躙して来た魔物達が巨大クリオネの体内で溶かされて行く様子が見えた。
「ふむ、どうやら我々が弱いと思うておった魔物は本当に只の魔物で、こ奴の食料だったみたいじゃな。ハジメ殿、無限に再生されては敵わん、魔石はどの辺りじゃ?」
「そういえば透明な身体なのに魔石が見当たらないわね、ハイパーセンサーにもそれらしき反応が…」
その光景から、巨大クリオネは魔物等を糧にそのゼリー状の体組織を殖やしているのだと確信、此方が幾ら攻撃しようと決定的な手を打たねば堂々巡りだと、いや此方の魔力は膨大と言えど有限なので先に音を上げるのは確実だと危機感を抱いた一行、その決定的な手である巨大クリオネの体内にあると思われる魔石破壊を仕掛けるべく、各々がハイパーセンサーを駆使して魔石の在処を探るが、
「…無い、奴には、魔石が無い…!」
Xラウンダーにイノベイター、ニュータイプの派生技能として得た力をも総動員して探ったハジメが、予想だにしない事実を口にした。
「は、ハジメ君?魔石が無いって…じゃあ、あれは魔物じゃないって事?」
「其処までは分からない。だけど強いて言うなら、あのゼリー状の身体全てが、生きた魔石と言って良い。僕が解析した所によると、奴の身体全てが魔石である事を示している。更に言えば部屋全体も同じ様な反応だ、ひょっとしたら此処は既に奴の腹の中って可能性もある!」
身体の中に魔石があるのではなく、身体その物が魔石で、然もその身体はこの部屋全体にまで広がっている、そんな衝撃的な事実をハジメが口にすると共に、巨大クリオネが再び攻撃を開始した。
己の正体がバレてしまっては遠慮はいらないと言わんばかりに、今度は上からの触手及びゼリーの豪雨だけでなく、下から海水を伝って魚雷の如く体の一部を発射して来たのだ。
ハジメ達もこの部屋自体が巨大クリオネの体内だと分かり、下に留まっては危険だと部屋の中ほどを浮遊、迎撃を続けるが、事実上弱点が無い相手では焼け石に水なのは変わりない。
「だったら此処は私が行くよ!」
「香織!?」
そんな状況を打開すべく、一行の中から誰かが巨大クリオネの前に躍り出た、香織だ。
治癒師という天職的にもステータス(とはいえ身体能力を示す項目の数値もオール5桁なので前衛の仕事が出来ない訳じゃない)的にも後衛向きな香織のまさかの行動に一行が驚きを隠せない中、
「此処が既にあれの腹の中だと言うなら、圧倒的な光熱で跡形も無く消し飛ばしてしまえば…!
スプィーシカ、バスターモード!発射ァ!」
そう呟きつつ拡張領域から取り出したもう1丁のスプィーシカに、既に取り出していたそれを連結、バスターモードに変形させ、己の魔力を総動員してのビーム砲撃を巨大クリオネへと発射した。
スプィーシカの中で魔力を光熱エネルギーに変換し切った状態で放つビーム攻撃なら無効化出来ず、自らの4万もの魔力をほぼ全て変換した膨大なエネルギーを有する光熱砲撃に耐えられる筈が無い、そんな考えの香織が放つ極光には、流石の巨大クリオネも脅威と判断したか、擬態によって潜伏させていたであろう壁の一部すらも防御に回すかの如く己の身に集結させる。
そんな巨大クリオネに香織のスプィーシカから放たれた膨大な光熱エネルギーの暴力が直撃、そのゼリー状の身体を消し去らんと殺到、焼け焦げて行ったからなのか或いは蒸発して行ったからなのか、ジュワーという音と共に湯気が噴出、やがて空間内を充満して行った。
「…やった?」
その圧倒的な光熱をまともに食らった巨大クリオネ、その地点から噴出された大量の湯気によって視界は遮られ、ハイパーセンサーも状況の変化が急激な余りオーバーフローしたのか新たな情報を拾えなくなった中、誰かがフラグを匂わせる事で有名なセリフを呟いた。
とはいえ此処にいる誰もが状況をハナから楽観視してはいない、幾らあれ程の膨大な光熱をモロに受けたと言えど敵は目前の本体だけでなくこの部屋全体、下手したらその外にも身体があるかも知れない、フラグを立てたかと思ったら本当にやっていたという某最弱のラスボスみたいな展開と見せかけて奇襲を仕掛けて来る可能性もある。
そう思って警戒を解かない一行、やがて充満していた湯気が冷やされて水と化す形で晴れて来ると其処にはやはり、まだ生きていると思われる巨大クリオネの姿があった、が、
「効いている、みたい…なら、もう一発!」
全く効いていない訳では無く、寧ろかなりの有効打になっていたのが、目前の巨大クリオネの姿と、活動再開したハイパーセンサーの情報から明らかになった。
10mはあると思われていた巨体は一回りも二回りも縮み、ハイパーセンサーで表示される周囲の反応は所々穴あきが見られる様になった事で、バスターモードとしたスプィーシカのビームによって、その身が大幅に削られているのは確定的明らかだ。
それを見た香織は、ヴァーダから注いだ神水を飲んで魔力を回復、再びビーム砲撃を行うべくスプィーシカへ魔力を総動員する。
それを見た巨大クリオネは、これ以上あのビームを食らったら不味いと、部屋の外に回っていた身も全て集結させて元の巨体を取り戻しつつ香織へと襲い掛かるも彼女が攻撃する方が明らかに早い、触手等の攻め手が届く前にスプィーシカから再度膨大な光熱エネルギーが放出、攻撃に用いたゼリー状のものを消しながら射線上にいた巨大クリオネの巨体に直撃、その身がまたも大幅に削られた事を物語る様に部屋は湯気で充満した。
「これで、仕留めるよ!はァァァァァァ!」
再び湯気が晴れた後に見えた巨大クリオネの身体は、最早人間とそう変わらない程度の大きさにまで縮み、周囲の反応も消え失せていた、つまり目前の小さくなった本体を消し飛ばしてしまえば勝利だ。
そう判断した香織は再び神水を口にし、みたびビーム砲撃を行う、巨大クリオネも、防ごうとしても攻め手を潰そうとしても駄目なら逃げるしかないと撤退を試みるも、先回りしていたユエのクルィロからの威嚇射撃によって失敗に終わり、その身は膨大な光熱に飲み込まれた。
その様子はまるで、起動新世紀ガンダムWのOVAであるEndlessWaltsにて、最終決戦でウイングガンダムゼロが行ったツインバスターライフルの連射であった。
「はぁ…はぁ…やった…!」
流石にあれ程のビームを3発も食らって平気な敵などいやしまい、ビーム砲撃が終わった後には巨大クリオネの姿は無く、ハイパーセンサーでもそれらしき反応は消滅していた。
万能回復アイテムである神水の存在や、そもそも敵からの攻撃など通じないと言わんばかりの機能満載なISの存在から、治癒師の天職を持つ自分が、アクチャブリのコクピットから降りている時の自分がパーティ内で役に立っているのだろうか、ハイリヒ王国の国王となり、政務や大迷宮攻略等で多忙な毎日を送るハジメの支えにちゃんとなれているのだろうか、そんな不安を人知れず抱えていた香織、巨大クリオネ相手に真正面から挑んだのも、自分なら倒せる術があるという自身も無くは無かったが、その不安からくる焦りの方が大きかったのだ。
巨大クリオネを消し飛ばしたのを確認した彼女が思わず浮かべた笑みは、そんな不安が消し飛んだ事による安堵も含まれていた。
「ごめんハジメ君、スプィーシカが壊れちゃったみたい…」
「あれ程の化物を討つとなると仕方ないさ、香織。むしろ躊躇せずやってくれてありがとうね。スプィーシカは後で直しておくよ」
だがその代償もまた元ネタ通りと言うしかない、ビーム砲撃を行った香織本人にこそ影響は無かったが、最大出力での3連射という無茶には耐えられなかったと言わんばかりに、スプィーシカの銃身は高熱の余り赤く輝いて曲がってしまい、機関部も所々がボロボロと崩れ落ち其処から黒煙が漏れ出していた。
巨大クリオネを倒す為の無茶な運用によって大破してしまったスプィーシカをハジメが預かりつつ、一行はメルジーネ海底遺跡の探索を進めて行った。