香織の全身全霊の攻撃によって巨大クリオネを倒し、メルジーネ海底遺跡の探索を再開したハジメ達、すると一行が遺跡の外へ出たかの如く、陽の光が差す鬱蒼とした密林へと出て来た。
といっても其処は未だに遺跡の内部、その証拠と言わんばかりに、頭上に広がっているのは青空では無く揺蕩う海面だった、この広大な空間も何かしらの結界で守られているのだろう。
大迷宮攻略も5ヶ所目、今更かと切り替えて密林の上へと抜けて周囲を見回すと、
「此処は…船の墓場って奴かな…?」
「凄い…帆船なのに、なんて大きさ…」
「ストリボーグより大きい奴もちらほら見かけるわ、帆船でそれが出来るなんてね」
「それが無数に、周りに海も川も無いこんな岩場に横たわっているなんて…」
「…厳密には海の下」
「なればこの大量の船は、水没したそれがこの遺跡へ偶々流れ着いたのか或いは」
「この遺跡を製作した解放者の1人が最終試練の為に作ったのか、ですね」
「どの道、あそこへ行くしか無いって事だな。然し随分と分かりやすい手掛かりだな」
密林が何処までも広がっていそうな光景の中、とある開けた一角には、無数の帆船が朽ちて横たわる岩場があったのだ。
そのどれもが最低でも100m以上、大きい物だと全長290mのストリボーグすら凌駕するサイズを誇る巨大な船ばっかりで流石のハジメ達も驚きを隠せない、今の中国を明という国家が支配していた時代の宦官、鄭和が指揮したとされる船団の中で最大サイズの帆船『宝船』が一説によると全長約137mだと言われている事を踏まえると、ストリボーグすらも上回るサイズが如何に巨大か分かるだろう、それ程の帆船は風力や人力だけでは碌に動かせないし、船体のバランスも崩しやすいので普通は作らない。
閑話休題、そんな異様な光景に驚きながらも、其処こそメルジーネ海底遺跡の試練に関係する場所であろうと当たりを付け、一直線に飛んでいく。
「それにしても、戦艦ばかりだな」
「そうね、砲門とかは無いけど戦の跡がありありと残っているわね」
「甲板から魔法を撃ち込むのが海上戦の主流って訳かしら」
「そうじゃな。船体重量の問題を踏まえると木造船にせざるを得ず、となれば火魔法は無論、水魔法も船内で用いるはご法度、なれば射撃門の類は必要無かったのじゃろうな」
「となると、ここいらの船は戦で撃沈された末に此処へ流れ着いた、という事でしょうか?」
「…それも劣化の具合からして大半がほぼ同時期に撃沈している、という事は」
「この辺りで嘗て大規模な戦争が行われ、その際に撃沈した船達が流れ着いたのが此処って事だね」
「だね。でもあの一番大きな船だけは客船っぽいね。装飾とか見ても豪華だし…」
岩場を探索しながら、横たわる船の共通点を発見してかそれについて話し合う一行、彼らのいう通り岩場に点在する船にはどれも地球における戦艦タイプの帆船みたく横腹に射撃門が付いている訳では無かったものの、激しい戦闘があった事を示す痕跡が残っていた事から戦艦だと確信した。
大砲が存在しない一方、それに代わりうる術として魔法が存在しているこのトータスという世界、もし大砲や鉄砲、弓矢みたいに射撃門から魔法を発動したらどうだろうか?
ティオの言う様な事情からか木造船が主流であろう、その内部で炎属性魔法なんて発動したら引火の危険性は高いし、水属性魔法も発生した水を吸収して劣化を招いてしまう、それを踏まえると船内から射撃門を開けて乱射するより甲板から狙い撃ちした方が良い。
そんな推測を立てながら岩場を進む一行、その一連の考えは岩場の中腹辺りまで来た所で正しかったと証明された。
『ウォォォォォォォォ!』
『ワァァァァァァァァ!』
「な、何だ!?」
「皆、周りが!」
「幻覚の類か、それとも転移魔法か…!」
「どっちにしろ、試練は始まったって訳ね!」
「じゃな!」
「ん!」
「ですね!」
「さっきの巨大クリオネみたいな奴もいるかも知れない、皆、心して掛かるよ!」
突如、大勢の人間族と思しき雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景が歪み、それに気づいた一行が周囲を見回した時には、彼らは大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
試練が本格的にスタートしたのだろうと身構え、油断なく周囲を警戒する一行、その眼にはさっきまでいた船の墓場など無く、何百隻もある巨大な帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる何千、何万もの人々の姿が見えた。
程なくどちらかの陣営から宣戦布告だと言わんばかりに花火が撃ち上がり、それが弾けると共に双方が進軍を開始、体当たりでもするかの様に突貫しつつ高威力の魔法が飛び交う戦となり、巻き込まれてはいかんと一行は上空へと避難した。
「さっきの巨大クリオネが魔力を吸収していたんだ、コイツら相手にも魔法は通じないと考えた方が」
「いや、皆!どうやらさっきの巨大クリオネとは逆に、魔力による攻撃以外は通じない!」
「マジかよ、其々の試練で別の耐性を持たせて総合力を見てやるって魂胆か!?だがそうと分かれば話は早い!数多の身に宿りし
「スターライト、ブレイカー!」
「汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁ!」
「Fuck offじゃ!」
「『嵐帝』!」
「魔力攻撃となると『風爪』の出番ね!」
それと同時に行ったハイパーセンサーによる周囲の索敵で、これが物理干渉出来る幻覚と判明、それを全員討つのが試練と当たりをつけて戦闘を開始しようとした一行だが、Xラウンダーによる近未来予知を行ったハジメによって、先の巨大クリオネとは逆に、魔力を伴った攻撃でないと通じないと分かった。
そうと分かれば此処には大量殲滅を行える人材が豊富だ、此処からはずっと俺のターン!と言わんばかりに、幸利の月光蝶、香織のビーム、優花の火炎放射、顔だけを竜化させたティオのブレス、ユエの海水を巻き上げた竜巻、雫の真空波…等の様々な魔力攻撃によって戦場は瞬く間に蹂躙された。
その際、ハジメは近未来予知によって見た、目の当たりにしてしまった。
『全ては神の御為にぃ!』
『エヒト様ぁ、万歳ぃ!』
『異教徒めぇ!我が神の為に死ねぇ!』
さっきまで敵味方に分かれて戦っていた兵士達が、エヒトルジュエへの信心を声高に叫びながら一斉に此方へと襲い掛かる光景が、そして…
「…ハジメ?」
「どうしたのハジメ君、顔色が悪いよ?」
「ん?あ、ああ。実を言うと、Xラウンダーでの近未来予知で、さっきまで互いを敵として戦っていた両陣営の兵士が、いきなり僕達へ狙いを変えて襲い掛かって来る光景が見えたんだ。その兵士達はエヒトルジュエへの信心を口にしていたし、眼も洗脳されたかの様に澱んでいたよ。となるとこの大迷宮の試練で求められるのは…」
「…エヒトルジュエが齎すものの悲惨さを見て受け止められるか」
「或いはその齎したものによって追い込まれても臆せず立ち向かえるか、という事ですか?」
「でしょうね。解放者達はエヒトルジュエとその眷属によって洗脳された人達に刃を向けられず、エヒトルジュエらと戦う事無く敗北した、となれば同じ轍は踏ませない、と考えるのが普通でしょうから」
まさかの光景を目の当たりにしての動揺を隠せなかったのか、いきなり顔を青ざめさせたハジメを案じた仲間達に、はっきり見えた事柄を、それを踏まえメルジーネ海底遺跡の試練がどういう物かの推察を彼は口にした。
それを聞いてこの大迷宮を作り上げた解放者、メイル・メルジーネが試練で何を求めているかを話し合う一行、その陰でハジメは、最後の最後に頭を過った光景を、仲間達に言いそびれていた光景を思い出していた。
とはいえその光景をハジメが言える筈も無いだろう、
(何であの光景からリリィを、『あの時の』リリィの事を思い起こしたんだ、僕は…?)
エリヒド王ら王族と重臣、数多の兵士達といったハイリヒ王国関係者達だった無数の屍と、王宮だった瓦礫の上で、ノイントの首を手に大粒の涙を流すリリアーナの姿など、『真教政変』の一部始終など…