メルジーネ海底遺跡を攻略し、神代魔法の1つである再生魔法を修得した一行だったが、その最終試練でハジメの精神が崩壊(その為か一行の中で唯一再生魔法の修得が『保留』となった)、そんな彼を休ませる為に一行を乗せたストリボーグがハイリヒ王国に帰還した翌朝、どういう訳かハジメは王宮の執務室におり、据え付けられたデスクで彼は報告書や要望書等の書類に目を通し、せっせと処理していた。
休養の為に王都へ帰還したのに其処で仕事していては帰った意味が無いじゃないかと幸利達は諫めたがハジメは「今はハイリヒ王国の、この国に住まう民の事を考えていたい。それで十分気分転換に、心の休養になると思うけどね」と聞く耳を持って無く、心の休養になると言われてしまっては、そしてあの時の発狂振りが嘘の様に調子を取り戻していたのを目の当たりにしては、これ以上諫言する事は出来ず「リリィとどんな話をしたんだ」と疑問に思いながらも引き下がるしか無かった。
ハジメのその言葉に偽りは無かった、いや、それを考えずにはいられなかったと言った方が正しいか。
公務に当たったり、リリアーナ達王妃や幸利達重臣ら関係者と食事を共にしたりと普段は確かに今までのハジメに戻ったと言える状態だ、ところが心身共にフリーな状態、例えば1人トイレに入っている時になると話は変わって来る。
1人になった途端、メルジーネ海底遺跡での最終試練を追加で行うと言わんばかりに、エリヒドら嘗ての王族や重臣等クーデターによって亡くなった人達の声が聞こえ、死した時のままの姿が見え、ハジメに対して憎悪の籠った視線を向け、責め立てる様な文言を口にするのだ。
もしかしたら一度眠りについてしまったが最後、あの時の光景を夢に見てしまうのではないか、いやそれ以上に前王エリヒドらが夢枕に立ち、己の業を突きつけて来るのではないか、そんな事態に恐れ戦いたハジメはそれ以来、子作りと称してリリアーナ達の身体を徹夜で貪って、目を逸らしていた。
悪く言ってしまえばリリアーナ達の身体に逃げていたのである、「ハイリヒ王国の将来の為に」という大義名分を言い訳にして。
帰った直後に再会したリリアーナとハジメがどの様な会話を交わしたのかは当人同士にしか分からない事、ただ1つ分かるのは、それで蟠りが全て解けた訳では無いという事である…
当然、そうやってあの時突きつけられた『矛盾』から闇雲に逃げ続けるのも限界はやって来る、単刀直入に言えば、心が上げる悲鳴から逃げている内に今度は身体が悲鳴を上げ始めたのだ。
転移前から両親の仕事を手伝ったり、趣味の1つであるガンプラの組み立てについ熱中したりと徹夜する事が度々あったハジメ、それが皮肉にも反映された為かトータスに転移した時点で天之河の倍以上もあった体力はオルクス大迷宮での激闘を経て常人の八千倍というバカでかい領域に至ったが、それでも生物がその命を保つ上で最重要な睡眠を何日もとらずにいたら悪影響が出るのは確定的明らか、実際に3日4日経つとその目元にクマが出始めた。
転移前からハジメの徹夜癖を良く知っている幸利達は、帰還初日の頃こそ「何時もの癖か」と気にしない様にしていたものの、流石に何日も続けている事を聞き、それに伴う身体の変調を目の当たりにすると何らかの対応をしないと不味いと感じ、早速行動に移した。
「ハジメ、今日のお前の公務は全て宰相である俺と王妃であるリリィ達が請け負う。お前はミュウとレミアさんとの3人親子水入らずで外に出かけて来い」
「と、トシ?何を急にそんな…」
朝食を手早く済ませて執務室へ向かおうとしたハジメを呼び止めた幸利は其処で、一応の立場上は主君である筈のハジメに何と、休暇と外出を言い渡して来たのだ。
立場的に考えて逆じゃねとか、一方的に休みを突きつけるとか法律ガン無視かよとか、色々とツッコミ所はあるのだが、幸利は有無を言わさぬ態度で、ハジメの戸惑いを無視して話を続ける。
「お前達が少しばかり外に出て何か問題でもあるか?権限的に不足はない、そもそも迷宮攻略していた時に請け負っていたのはリリィと愛ちゃんだ、一時とはいえまたそんな感じになるってだけの話だぞ」
「そもそも外出と言ってもミュウとレミアさんの身の安全をどう確保するのさ、ガーランドのスパイや邪教信者が何処かに潜伏しているかも知れないのに。今は兵達も戦闘訓練で王都を開けているし」
「オルクス大迷宮最深部のヒュドラを事実上1人で瞬殺した奴が何言ってんだ。いざとなればISを纏ってドンパチすれば済むだろ」
「いや簡単に言うけどそんな事したら大騒ぎだよ、民衆がたちまち混乱に陥るよ。そもそも国王である僕が護衛も付けずにそんな事するだけでも」
「いいから行って来い」
「わ、分かったよ、出かけて来るからその月光蝶を引っ込めてよ…」
とはいえハジメも急にそんな事を一方的に言われてはいそうですかと受け入れる訳には行かない、増して現在の自分はハイリヒ王国の国王、その地位にいる自分が統治するハイリヒ王国は現時点でクーデター等の事件に伴う混乱が完全には収まり切っていない状態、そんな状況下で仕事を忘れてのんびり休んで等いられないと言わんばかりに必死の抵抗を試みる。
だが最後には、オーラの如く身体から月光蝶を噴出し始めた幸利の
「それじゃあミュウ、レミアさん。行こうか」
「うん、パパ!パパとのお出かけ、楽しみなの!」
「あらあら、ミュウったら。でも私もハジメさんとのお出かけは初めてだから、胸が躍るわね。宜しく頼みますね、アナタ」
「いやだからレミアさん…
まあ良いや。それじゃあ皆」
「「「行ってきます(なの!)」」」
「おう。こっちは俺達に任せて、しっかり楽しんで来い」
ミュウやレミアと共に王都へと出かける事となったのだ。