連絡が遅くなり、すいませんでした。
90話_ハルツィナ樹海、その大迷宮へ…
人間族や亜人族のテリトリーへの侵攻を企てた魔人族の軍勢との戦闘から一夜明けたハルツィナ樹海。
丁度大樹の周囲の霧が薄まって道が開ける周期に入ったこの日、其処へと真っすぐに飛行する者が8人、そう、大迷宮攻略を再開したハジメ達だ。
昨日の一連の出来事を切っ掛けに立ち直った様子のハジメを見て大丈夫だと判断したのか、攻略を再開すると言い出した彼に対して幸利はOKを出し、彼らを乗せたストリボーグが今朝ハイリヒ王国を出発、ハルツィナ樹海へと一っ飛びして来たのだ。
その話を何処かから聞いたのかカム達ハウリア族の面々が樹海の外で待っており、その場で道案内を申し出て来たのだが、シアが既に道順を覚えているのと、ISに搭載されているハイパーセンサーによって道に迷い様が無いので丁重に断り、結局フェアベルゲンへ戻る彼らと途中までは同行する事となった。
その道中、やはりと言うべきか樹海の魔物達が霧に紛れて奇襲を仕掛けようとするも、上述の理由から逆にその居場所を完全に把握されており、襲い掛かる素振りを見せた物は例外なく射殺され、魔石等の素材を回収される事となった。
「皆さーん、着きましたよぉ」
そうこうしている内に大樹へと到着、先行していたシアが肩越しに振り返りながらそれを伝えて来た。
「凄く…大きいのじゃ…」
「だな。けどなティオ、その発言は色々危ないからな」
今まで霧に包まれていたのが嘘の様に晴れ渡った空間、そのど真ん中に聳え立つ枯れた巨木は今も尚健在ぶりを見せつけており、その存在感は一行の中で数少ない初見であるティオが思わず何処ぞの漫画みたいな発言を口にする程、幸利も発言にツッコミを入れつつも存在感に魅入られていたのは同じだった。
そんなティオと幸利の様子を見て、自分達も最初見た時はこんな顔だったのかもとハジメ達が小さく笑みをこぼしつつ、此処からが大迷宮の本番と気を引き締めて石板へと向かった。
「先ずは再生魔法を得られるメルジーネ海底遺跡のコインと、その海底遺跡へ入る為に使うグリューエン大火山のペンダント、後はオルクス大迷宮とライセン大峡谷の指輪で良いかな」
そう呟きながら1つずつ大迷宮攻略の証を嵌め込んで行くハジメ、その度に石板の輝きが大きく強くなって行き、4つ目を嵌め込んだ瞬間、輝きが解き放たれた様に地面を這って大樹へと向かい、大樹その物をも輝かせ、
「む?大樹にも紋様が出たのじゃ」
「…次は、再生の力?」
ティオが呟いた通り、七角形の紋様が大樹の幹に浮かび上がった。
それを見てトコトコと歩み寄ったユエは、紋様にそっと手を触れながら再生魔法を行使する。
するとパァァァァ!という擬音が聞こえて来そうな位の光が大樹を包み、紋様、それもユエの触れている場所から光の波が天辺に向けて何度も広がって行った。
こうして眩い光を放つ大樹は、まるで根っこから水を吸い上げる様に光を隅々まで行き渡らせ、
「あ、葉が…!」
「人が何か手を掛けた途端に復活するとか、花咲かじいさんか?」
「新緑が生い茂るだけで花は咲いていないけどね」
その枯れ果てた身に生命力が漲って行き、やがて鮮やかな緑を取り戻した。
そんな大樹が息を吹き返すかの様な光景にシア達が見惚れていると、突如として正面の幹が大口を開けるかの如く裂けて広がり、数十人が優に入れる程の大きな洞が出来上がった。
あれこそが石板のメッセージにあった『新たな試練の道』の入り口、ハルツィナ樹海の大迷宮への入り口なのだろう、そう確信したハジメ達は躊躇なくその中へと入って行く。
その先頭を行ったハジメが洞の中に入るや否や周囲に視線を巡らせる、幾らこの大樹が相当な大きさでも大迷宮を内包するには余りにも小さすぎる、きっと此処には階段や転移魔法陣等、大迷宮へと自分達を飛ばす仕掛けがあるのだろう、と当たりを付けて。
然しながら今見た所ではそれらしき物は見当たらない、ただ大きなドーム状の空間が広がるだけだ。
まさか満たしていない条件があったのか?いや攻略の証は4つ嵌め込んだし再生魔法もユエが使った事でこうして洞の中へと入れる、紡がれた絆、亜人族の協力という点もシアがいるのだから問題無い筈、まさか膨大な魔力と未来視という固有魔法を得たシアは魔物扱いなのか?それとも再生魔法の習得に失敗した自分がいると道は開かれないのか?となると…
と先へ進むための仕掛けが見当たらないのは何故か考え込むハジメ、だがそれは杞憂に終わった。
一行の全員が洞の中へ入ったのを見計らって、先程の光景を逆再生しているかの如く閉じられていく洞の入口、やがて完全に閉ざされ空間内が完全に暗闇に包まれた所で足元に巨大な魔法陣が出現した。
いよいよ試練の始まりか、そう気を引き締めるハジメ達、次の瞬間、眩い光と共に彼らは洞の中から消え去った。
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「っ、此処が、ハルツィナ樹海の大迷宮…」
視界が色を取り戻したのを感じて目を開いたハジメ達、其処で見た光景は、大樹に辿り着く迄に飽きる程見て来た樹海のそれだった、大樹から飛ばされた先がまた樹海とは何とも言い難い。
彼等が転移して来た場所は、周りが全て樹々で囲まれたサークル状の空き地、此処を進めと言いたげな道やその痕跡など一切ない正に陸の孤島とも呼ぶべき場所だ、ご丁寧に上空は濃霧で覆われているのでISで上空へと飛び立って、なんて事も困難であろう、ヴァスターガンダムを出す等この鬱蒼とした空間内では当然無理だ。
「何もヒントが無いとはね、少なくとも5番目に攻略する大迷宮の名は伊達じゃないって訳か。兎も角、マッピングして行きながら探すしかないね。皆、準備は良い?」
『OK!』
此処はISのメモリをフル活用、マッピングして行きながら隈なく探すしかないと決心したハジメ、その呼びかけに皆が元気よく返事を返して歩き出し、
「消えろ、ユエ達の姿形を真似するクズめ」
たかと思った次の瞬間、ハジメはユエを、雫とシアはティオを、香織と優花は幸利を、其々踵を返して襲撃、躊躇なくその頭を撃ち抜き、吹き飛ばした。
5人のまさかの行動をもし第三者が見ていたら驚きの余り呆然とするか、これ以上の凶行をさせぬ様力づくでも止めようとするだろう、しかしそれも恐らくその後の光景を見て改めるに違いない。
何せ吹っ飛ばされた3人の頭『だった物』が落ちた所にあったのはその残骸では無く赤く錆びた鉄みたいな色合いのスライムらしき物で、頭部を失った身体もまた次の瞬間にはドロリと溶け出し、やがて同じく赤錆色のスライムになっていったのだから。
そう、このサークルに飛ばされたのはハジメと香織、雫と優花、シアの5人と、ユエとティオ、幸利の3人『に擬態した』スライム型の魔物だったのである、転移の際に記憶を探られる感覚が多少あったので、きっとその際に3人の姿形等の情報を集め、それを基に擬態させて送り込み、本物は別の場所へと飛ばされたのだろう。
では何故ハジメ達5人は3人が偽物だと即座に見破れたのか、それは転移された直後、ISの機能に異常が無いか点検を行った所、丁度3人が装着しているISの反応が無いままな事が判明したからだ。
恐らく自分達とは別の場所へと飛ばされた際、ISを始めとした装備品を失ったのかも知れない、他の3人にはより重大な試練を課す為にそうしたのだろうが、此処ではそれが仇となった訳だ。
尤もそれを使わずともハジメ達が姿形そっくりの偽物を見抜くなど造作も無かったであろう、ハジメとその恋人である香織達、そして親友を通り越して『相棒』と言える幸利との絆は、例え姿形を真似しようと揺さぶる事等出来ないのだ。
それはさておき、早速悪どい仕掛けをしてくるとは流石に大迷宮だなと改めて認識したハジメ達は、他の場所へと飛ばされて自分達を探しているであろうユエ達と、何処かへと飛ばされた彼女達のISを探し出すべく樹海へと足を踏み入れた…!