ハルツィナ樹海の長い樹々を抜けると雪国であった、と、とある文豪の代表作、その冒頭みたいな言い回しが真っ先に浮かぶ位、樹海を抜けた先には銀世界が広がっている。
此処はハルツィナ樹海の丁度南に位置する一大雪原で、7つ目の大迷宮があるとされるシュネー雪原だ。
24時間365日雪雲に覆われっ放しと言って良いほど年中曇り空なので陽の光が届く事は無く、降り積もった雪や踏み固められて出来た氷が溶けない為に大地はずっと氷雪で覆われている。
因みに此処の西隣、大陸の南側中央に位置する魔人族の国ガーランドにも、北隣のハルツィナ樹海にも何かしらの壁が設けられているのか雪雲や氷雪が入って来ることは無い、よって樹海や魔国に氷雪での被害はないとの事。
閑話休題、その雪原の奥地にある巨大な峡谷、その先に目的地である『シュネー雪原の氷雪洞窟』がある、其処こそ大迷宮の1つだと冒険者界隈や各国は当たりを付けている、というのも見たまんまと言うしかない極寒の気候、年中吹き荒れる
尤も大迷宮の有無に関する確かな情報をミレディ・ライセンから予め聞いていた一行は、ハルツィナ樹海の大迷宮を攻略した翌日である今、ストリボーグで雪原を覆う雲海の上を全速前進していたのだ、場所を知っていて尚且つ安全に到達出来る足があるならそれを使わない手は無い。
「皆、到着したぜ。この下に大迷宮の1つである氷雪洞窟、其処へ向かう渓谷がある」
「分かった、昇。皆、今更だけどこの辺りは魔人族のテリトリー、今迄とは違って魔人族からの、ガーランドからの襲撃も十分にありえる。此方からの絨毯爆撃によって大いなる被害を受けたにも拘わらず大規模な侵攻を仕掛けて来たんだ、そんな事をする体力など無いなんて甘い考えはしない方が良い。まあ向こうもグリューエン大火山での件と先日の件、2度も侵攻を退けられて尚、無策な特攻を続けて来る程バカでは無いと思うけど、襲撃はあると見越して動くべきだ。昇はそのまま地表付近まで降下を。妙子は引き続き周囲の索敵を怠らずに。明人は砲撃の、奈々はイエヌヴァリの準備を進めて。淳史は何か起こった際に此方への連絡を。皆、心して行くよ!」
『了解!』
そうこうしている内に氷雪洞窟への通り道である渓谷の上へとストリボーグが辿り着いた、それを操舵士である昇から聞いたハジメは、此処は敵地の真っただ中であると警戒を促しつつ指示を飛ばし、ISを展開しつつ香織達と共にハッチへと向かった。
その窓から見える景色からして、丁度雲海を抜けてブリザードが吹き荒れる中へと入って来た所らしい、魔力消費等の関係からシールド・バリアを展開出来ず剥き出しになっていた装甲に猛吹雪が襲い掛かり、その表面をピキピキッと一瞬で凍てつかせた。
「正に『極寒』と呼ぶに相応しい有様じゃな。妾、寒いのは余り得意ではないでな、ISがあって本当に助かるのじゃ」
「いや流石にあんな『極寒』を得意とする奴なんていねぇだろ、誰であろうとISのシールド・バリアみたいな防寒能力は必要だぜ、これは」
「…ひょっとしたらそういった術を身に着けてから、極端な話メルジーネ海底遺跡みたく空間魔法で安全を確保出来る様になってから来いっていうヴァンドゥル・シュネーからのメッセージかも知れない。となれば氷雪洞窟は少なくとも空間魔法等を会得してから、大迷宮を幾らか攻略した人向けなのかも」
「わぁ、雪です!私、雪って初めてです、すっごい楽しみです!」
「ふふっ完全に、初めて雪を見た子供って感じのはしゃぎ様だね」
「まあ無理も無いよ、私達に会うちょっと前までハウリア族の里でひっそりと暮らしていたんだもん」
「雪はおろか、樹海以外の景色すらも初めてだっただろうし、仕方ないわね」
「そうね、全くシアったら可愛いんだから」
窓から見える外の景色、其処から考えられる過酷な環境を目の当たりにしたティオが愚痴りつつもISの有用性を改めて認識し、それを耳にした幸利とユエも加わって氷雪洞窟に挑戦する為の条件について推察する中、他の攻略メンバー、というよりシアは明らかに浮かれていた。
初めて目の当たりにする銀世界に感激したのか、今から外に出るのが楽しみだと言わんばかりに、先程の忠告も忘れてはしゃいでいた、その様はハジメの言う通り、初めて見る雪に大騒ぎする子供の如く。
尤もそれも仕方の無い事であろう、香織の言う通り一ヶ月くらい前までシアはハウリア族の里で、その特異体質故に隠されて過ごして来たのだ、雪景色なんて初めて見るのだから浮かれるのも当然と言える。
ハジメもそれを理解していた為かシアを窘める事はせず、その姿を香織達と共にほっこりとした様子で見ていた。
『ハジメ、地表付近まで降下したぜ。悪いがストリボーグの巨体じゃあ、此処までが限界だ。此処から先は降りて向かってくれ』
「了解。じゃあ行くよ皆、せーの!」
『テイクオフ!』
とはいえその浮かれモードも淳史からの連絡を機に、実際に出発する時となったのを機に終了、一瞬で気持ちを切り替え、ハッチの解放と共に、一斉に渓谷へと突入していった。
「折角ですし、渓谷への突入がてら雪の感触を堪能するですぅ!」
「ちょ、シア!?」
「バカウサギ…!」
…その折、実際には気持ちが全然切り替わっていなかったシアが雪原へのダイブを決行、ご丁寧に渓谷と繋がっている亀裂の上に積もっていた所を狙って突っ込み、そのまま直行するというはっちゃけた行動に出て他のメンバーを驚愕させ、その後ユエからハリセンでシバかれる事となったが余談である。
それはさておき、突入した渓谷の中は地面やら壁やら天井やら、ありとあらゆる土がありそうな所は全て氷雪で覆われ、入り口部分から吹き抜ける超低温の風が一行に襲い掛かっていたが、例の通りISのシールド・バリアによって全て遮断、彼らの身を凍えさせることは無かった。
気温は恐らくマイナス数十度、南極や北極、オイミャコン*2も此処程の寒風が吹き荒れ、こんな感じにそこら中が凍てついているんだろうなと想像しつつも、それは微塵も感じる事無く、吹き荒れる風で舞い上げられた雪による視界不良もハイパーセンサーによって補正しながら大迷宮の入口へと真っすぐに進んで行き、門番として配備されていたであろう数体のビッグフット*3型魔物も難なく撃退し、綺麗な二等辺三角形型という何処からどう見ても人工的に開けたであろう縦割れで作られた入口を通過、最後の大迷宮である氷雪洞窟へと潜入した。
さて。
この時ハジメは、ハジメ達は重大なミスを犯した。
そのミスが一体どういう物なのか、何が原因でミスが誘発されてしまったのか、それはまた後の話。
ただ1つ言える事は、
その代償は、余りにも大き過ぎる物だった…