遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
黎:LP 0
衝撃が走った。
黎のライフが尽きたのだ。
最後の敵幹部、ラースの攻撃はダメージをライフコストに変えるというルール無視の違法能力。
エクシーズモンスター『電光千鳥』を切り裂いた大斧の攻撃は、そのまま彼の命すらも引き裂いたのだ。
「──」
その“引き裂いた”という言葉は誇張でも何でも無い。
文字通り、雷の大鳥ごと彼は切り裂かれていた。
Xの字型に胴体を斬られ、多大な血飛沫と共に倒れ伏す黎。
周囲の地面は広範囲に渡ってドス黒く焼け焦げ溶けており、ラースの攻撃の異常性が見て取れる。それを真正面から受けた彼には、寧ろ原形を留めている事を褒めるべきなのかも知れない。
「れ……い……」
黎:LP 0
されど幾度見ても変わらぬ、彼のライフが尽きたという通知。
その現実は、ラースの前に彼の力が及ばなかった事を意味する。
「次は貴様だ、バランサー」
そしてその残酷な未来は、フィオにも牙を剥こうとしていた。
「『プラネデス・ホロウ・ドラゴン』はフィールドの最も攻撃力の高いモンスターにのみ攻撃が許される。だが2度の攻撃が可能であり、そして戦闘でモンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力と守備力の合計値の5倍のダメージを与える」
「わ、わたしの場にいる『カオス・アンヘル』の攻撃力は3500! そして戦闘では破壊されず、シンクロモンスターに発動したモンスター効果から身を守る効果を与える! 攻撃力3000のモンスターじゃわたしは斃せない!」
「無駄だ、『スカル・シャーク』を墓地から除外しモンスター効果発動。このモンスターがフィールドから墓地に送られたターンに1度、我のモンスターの攻撃力を1000アップさせる事ができる」
「何ぃ!?」
スカル・シャーク(効果モンスター)(オリジナル)
星4
闇属性/アンデット族
ATK 500/DEF 2100
このカードの(1)(2)の効果を発動するターン、自分は直接攻撃できない。
(1):自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊し、このカードを手札から特殊召喚する。
その後、自分フィールドに「スカル・シャークトークン」(アンデット族・闇・星4・攻/守0)1体を守備表示で特殊召喚する。
(2):このカードが自分フィールドから墓地に送られたターン、このカードを墓地から除外して発動できる。
自分フィールドの全ての「スカル」モンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップし、相手の効果を受けない。
またこの効果を受けたモンスターとの戦闘で相手モンスターが破壊されなかった場合、ターン終了時に相手の手札を全て除外する。
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:ATK 3000→4000
敵の巨大骨龍は2回攻撃できる。『カオス・アンヘル』が破壊されなくとも500ダメージを2度受ければ、残りライフ600のフィオでは耐えられず
しかもこの半天使は闇属性悪魔族、手札にある『オネスト』では対処できない属性を持っている。『天空の聖域』含む残った3枚の手札では防御できない。
「──っ」
「これが人類終焉の序曲。死ね、生きる価値無き罪人共!」
骨龍が胸部の怪しいオーヴにエナジーを溜め、口から毒液のようなブレスを吐き出した。
天空から降り注ぐ絶望の滝、天使がより高い所から落ちる“死”によって殺されるとは皮肉にも程がある。
だが手札にも墓地にもフィールドにも、攻撃を凌ぐ手段は無い。
(黎、ゴメン……)
フィオは死を悟り、瞼を強く閉じた。
(わたしは2度も、君を殺してしまった──!)
「死ねぇえええええええええええ!」
ラースの怒号が、周囲一帯に響き渡った。
フィオ:LP 600
「……あれ?」
だが、いつまで経ってもフィオのライフは動かない。それどころか半悪魔に攻撃が届く様子も無い。
「な、何で? 攻撃を防ぐカードなんて持ってないのに……」
「当然だ」
そして耳に届く。
「俺のフィールドには攻撃力3600の『ジェムリングホルニ』がいる、攻撃力3500の『カオス・アンヘル』に攻撃できるワケ無いだろうが」
死んだと思った彼の声。
「れ、黎!」
「主殿!」
「黎さん!」
「……サー!」
☆
SIDE:黎
あっぶねぇ、メッチャ意識飛んでた。何十秒か本気で死んでたぞ、今。
(……前が、よく見えない)
クッソ、左目含めて顔の左半分が完全に潰れてるな。治そうにも焼けて使えねぇ体組織が多くて修理できねぇ。
(心臓の鼓動も、弱い)
内臓も殆ど黒焦げ、肋骨ごと肺と心臓もぶった斬られてやがる。俺が化物でも生きてる方が異常な重傷だ。
(体力、精神力、魔力、生命力、活力、カロリー、マナ……。駄目だ、殆ど枯渇してやがらぁ)
何とか肺と喉、右手と足腰だけ応急処置で治したが、それだって見せかけだけ。もう1回しか攻撃を受けるだけの余力は無い痩せ我慢。
(障子紙にもなりゃしない耐久力、体組織吹っ飛んで軽くなった体重すらもこれ以上支えられねぇ)
それでも何とか生きている。
黎:LP 0
いや、訂正。
バッチリ死んでいる、御覧の通りにな。
だがそれでも敵の攻撃を俺の宇宙ステーションが受け止めていて、フィオのモンスターには届かない。俺が生きている事、これ即ち『ジェムリングホルニ』が盾になっている事と同義なのだから。
「な、何故だ! 何故ライフがゼロになった貴様が生きている! ン何故貴様のモンスターが残っている! 何故! 何故何故何故! ンッ何ァ故ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
「お前、俺が攻撃を受ける直前に効果発動したって聞いてただろうが」
中空に光の粒子が集まり、1枚の長方形を形作る。
『W・S パトロートル・バタフライクル』。レベル6の風属性昆虫族モンスター。
こいつは手札からこのカードを含む2枚のカードを墓地に送る事で、送った中に含まれていない自分の墓地にある魔法カードの効果を1ターンだけコピーできる。
「世迷言を! 貴様の墓地にライフコストを踏み倒すカードは存在せぬ! 何を模倣した所で敗北を免れる方法なぞありはしない筈だァ!」
「ああ、俺の墓地にそんな都合の良いカードは無かったよ」
俺の墓地にはな。
勿論フィオの墓地にも無い。
それならばラースの墓地はというと、あっちもまた然りだ。
「では何故だ! 何故我の前で行儀良く死ぬ事ができぬぅ! 何が我の勝利の邪魔をするのだぁあああああ!」
「喚くな、ちゃんと教えてやる」
種明かしは非常に簡単だ。
そうだな、ラースの言葉を借りるのなら。
「俺は死なない。俺に敗北の過去が無い限り、お前が俺に勝利する未来は有り得ない、って所かな」
「……黎!? ま、まさ、か、君は……っ!」
「貴様!」
「ああ、そのまさかだ!」
俺がコピーしたのはこいつだ!
「魔法カード『彼方からの詠唱』、ゲームから除外されている魔法カード1枚と同じ効果を得る! 俺はこの効果で、除外されているお前の『スカル・オーバーロード』を使わせて貰ったんだ!」
「お、おんのれ貴様ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「『スカル・オーバーロード』は除外されているカードを全て墓地に戻し、中から1枚を手札に戻す事ができる。俺は除外されていた『バックドライブ・ストーム』を回収!」
W・S パトロートル・バタフライクル(効果モンスター)(オリジナル)
星6
風属性/昆虫族
ATK 2500/DEF 2500
このカード名の(2)の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):エンドフェイズに手札・墓地のこのカードを除外して発動できる。
次のターン終了時まで、相手は墓地のカードの効果を発動できず除外できない。
この効果の発動に対し、相手はカードの効果を発動できない。
(2):手札からこのカードを含むカードを2枚墓地に送って発動できる。
自分の墓地から、この効果で墓地に送られていない通常魔法カード1枚を選びその効果を発動する(この効果で発動した効果は、次の自分のターン終了時に無効となる)。
この効果は相手ターンでも発動できる。
彼方からの詠唱(アニメオリジナル)(自己解釈エラッタ)
【通常魔法】
(1):除外状態の魔法カード1枚を選択して発動できる。
そのカードの発動時の効果を発動できる。
ラース曰く、『スカル・オーバーロード』は未来と現在を捨てて過去だけを残す死人になる効果。未来に訪れる死を避けるカードだ。
……死者になる効果、か。
ハ、一度死んでまた戦いに赴く化物には丁度良いじゃねぇか。
だがこれは一時的な延命、次の俺のターンが終われば今度こそ俺は本当に死ぬ。それまでの僅かなタイムラグが勝負になるだろう。
「1度ならず、2度も3度も邪神様のお力を侮辱するとは! 何という許し難い蛮行、何という屈辱的な外道! ならば貴様から先に叩き潰す! 『ホロウ・ドラゴン』で『ジェムリングホルニ』を攻撃!」
「っ!」
「破壊されたモンスターの攻守の合計の5倍のダメージを受けろっ! 1度や2度殺しただけでは許せぬ、百億の死を以て償え害獣めがぁあああああああああああ!」
「ぐぉぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
地球一周をしているのでは思う程の骨龍が宇宙ステーションに絡み付き、全身を使って鉄塊を圧し潰す。大爆発と共に無数の宇宙デブリが俺の周囲に降り注ぎ、辺り一面を本当に焼け野原にしていった。
明らかな致命傷。これまでフィールドの破壊やモンスターのバフに注力していたラースが、初めて大幅なダメージを与える効果を使ってきた。『アビズマクス・ヘルノボーグ』が展開の要としての能力なら、こっちは敵を討ち滅ぼすための決戦兵器って所か……。
黎:LP 0→0→0
だが俺のライフはゼロ、これ以上は減らない。
「続けて今度こそ『カオス・アンヘル』に攻撃ィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「『カオス・アンヘル』は闇属性モンスターをシンクロ素材にした事で、自分フィールドのモンスター全てに戦闘破壊されない効果を与える!」
「だがダメージは受けて貰う! “クルーエル・スターキラー”!」
「うっ、ぐぅうううううううううううううううううううう!」
フィオ:LP 600→100
続けて放たれた毒液のブレス。
こちらはフィオの場の悪魔がバリアを張って防御。余波でフィオは大きく後退するが、それでも辛うじて生き残っていた。
「はぁ……はぁ……。た、耐えられた……!」
「クソが! クソがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 許すまじ人間! 許すまじ下郎共! 貴様ら、誰の許可の下に生きているか分かっておらぬ! 己がどれだけ薄汚い命か自覚しておらぬ! これだから人間は下等なのだァっ!
我は『スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン』の更なる効果を発動! このターン中に戦闘で2体以上モンスターを破壊している場合、その2体の攻撃力の合計値以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊する!」
「『カオス・アンヘル』の効果! 光属性を素材にした事で、わたしのシンクロモンスターは相手モンスターが発動した効果を受けない!」
「ならば残ったモンスターは全て破壊だぁ! 失せろ、“ヘル・メテオ”!」
『グォオオオ!』
『ぬぉおおっ!』
「うあぁぁっ!」
「桜!」
忍び装束の女騎士が先の宇宙デブリの残骸が落ちて来た事で吹き飛ばされ、フィオの場の天使2体もまた存在が消滅する。
弾かれた桜は大きく宙を舞い、構えていたフレイとポーラに受け止められた。
「がはっ!?」
「桜さん、大丈夫ですか!」
「……しっかりして」
「ぐ、……あいすま、ぬ……!」
良かった、辛うじて生きている。
「そしてこのターン戦闘で破壊したモンスター1体につき5個のスカルカウンターを置く!」
「スカルカウンター……?」
「……破壊された風の桜の効果発動。このカードが効果で墓地に送られた時、手札を1枚捨てる事で、デッキから捨てたカードと同じ種類のカードをセットできる。俺は『バックドライブ・ストーム』を捨てて、デッキから『
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 0→10
「効果を無効にするカードを伏せたが無駄だ! 『ホロウ・ドラゴン』はカウンターを3つ取り除く事で、フィールドのカード1枚の効果を無効にする! 最早貴様なぞ恐れるに足らず!」
「……」
「それに分かっている筈だ! 我の墓地にカードが戻った、とな!」
……確かに、ラースの言う通りだ。
この状況でこの陣形は非常によろしくない。しかも唯一の勝ち筋であったラースのデッキデスならぬセメタリーデスも自分から潰してしまった。
そして次のターンが終わる時、俺のライフがゼロである事が再び敗北に直結する。
1ターン引き延ばしただけ、それが現状を率直に述べた状況だ。
「我はカードを1枚伏せる! そして墓地に存在する『スカル・レイジング・ユニコーン』のモンスター効果を発動! このカードを除外し、次の我のターンが来るまで、我のアンデット族モンスターは攻撃力が10倍になる! そしてカードの効果で我の場に表側表示で存在できなくなった時、貴様らのデッキから元々の数値から変化していた攻撃力500につき1枚を墓地に送るのだ!」
チッ、この局面でまだそんなカードを!
W・L・S ミストラル・チェリー(シンクロ・効果モンスター)(オリジナル)
星8
風属性/戦士族
ATK 2500/DEF 2100
「L・S レストア・チェリー」+チューナー以外の「W・S」モンスター1体以上
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):風属性モンスターが自分のEXデッキから特殊召喚された時に発動できる。
自分メインモンスターゾーンに存在するEXデッキから風属性特殊召喚されたモンスターの数だけドローする。
(2):このカードと戦闘を行うモンスターの効果はダメージ計算終了時まで無効となり、そのモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力の内、低い方の数値と戦闘を行う。
(3):このカードが相手の効果によって破壊された場合に発動できる。
手札を1枚捨て、捨てたカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)でカード名の異なるカードを1枚デッキからセットする。
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン(リンク・効果モンスター)(オリジナル)
リンク4
闇属性/アンデット族
ATK 3000
LM=左/下/右/上
カード名の異なる「スカル」モンスター3体以上
(1):このカードは直接攻撃できず、モンスターに2回攻撃できる。
この時、1番攻撃力の高いモンスターにのみ攻撃ができる。
(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力と守備力の合計値の5倍のダメージを相手に与える。
(3):自分の「スカル」モンスターが相手モンスターを2体以上戦闘で破壊したバトルフェイズ終了時に発動できる。
その破壊したモンスターの攻撃力の合計以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊する。
その後、このターン戦闘によって破壊されたモンスター1体につき、このカードにスカルカウンターを5つ置く。
(4):このカードのスカルカウンターを3つ取り除き、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードの効果を無効にする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
(5):スカルカウンターの乗ったこのカードはリリースできず、相手の効果によってフィールドを離れない。
またスカルカウンターの乗ったこのカードが存在する限り、ランク5以上のXモンスターの発動した効果は無効となる。
スカル・レイジング・ユニコーン(効果モンスター)(オリジナル)
星7
闇属性/アンデット族
ATK 2500/DEF 100
(1):このカードはリリース無しで召喚できる。
この効果で召喚するターン、自分は手札からモンスターを召喚・特殊召喚できない。
(2):自分の手札が0枚の時、フィールド・墓地のこのカードを裏側表示で除外して発動できる。
自分フィールドのアンデット族モンスターの攻撃力は10倍となり、ターン終了時まで攻撃宣言できず、以下の効果を得る。
●このカードが戦闘による破壊以外の方法で、相手によってフィールドに表側表示で存在できなくなる場合に発動できる。
このカードの攻撃力が元々の攻撃力の数値から変化している場合、その数値500につき1枚相手のデッキからカードを墓地に送る。
七罪士 ラース:ATK 4000→40000
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:ATK 4000→40000
「攻撃力4万だと!?」
「……『スカル・シャーク』の効果が上書きされてる」
「変化した数値は3万6千、72枚のカードを墓地に送るって事ですか!」
「ラースの攻撃力も上がってる、あいつアンデット族だったの……?」
「これまでの護衛は悪魔族だった。多分、種族を2つ持ってるタイプだ……、っ」
「フィールド魔法の恩恵はアンデット族のみ受けられる、そのために悪魔でありアンデットなワケか」
「そして『スカル・シャーク』の効果を受けたモンスターがバトルでモンスターを破壊できなかった場合、ターンの終わりに相手の手札を全て除外する!」
「くっ!」
「これで抵抗できまい、ターンエンドだ!」
「エンドフェイズに墓地の『パトロートル・バタフライクル』の効果発動! お前は次のターン終了時まで墓地の効果を発動できず、除外もできない!」
「小癪、時間稼ぎだ!」
ラース:LP 0
手札:0枚
フィールド
:スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン(ATK 40000・スカルカウンター:10)
:七罪士 ラース(ATK 40000)
:スカル・アルファ(-1)=スカル・オメガ(-12)
:伏せカード1枚、会稽白骨惑星(フィールド魔法)
頭がクラクラする。
右手の感触が酷く弱い。
腹の中身がスカスカで顔の左半分もグチャグチャで、普通の人間ならとっくに死んでる有様で。
それでも俺は生きていた。
何と生き汚い。
生きながら死者になったラースとどっこいどっこいだ。
「俺のターン」
かつて最初の護衛プライドは言った。
俺は産まれてくるべきではなかった、と。
ああ、そうかも知れない。
きっと俺はこの世に産まれてはいけなかったし、この世界に産まれ変わってもいけなかった。
俺がいなければきっと都はあそこから出る事は無く、生きる苦しみを味わう事は無かっただろう。
俺がいなければ俺によって殺される人も、それによって苦しむ遺族の方もいなかっただろう。
俺がいなければこの世界に邪神が移動して、異世界のデュエリスト達に迷惑をかける必要も無かっただろう。
それでも──それは。
「『スカル・オーバーロード』の効果により、このドローのみ俺は墓地のカードを5枚手札に戻す」
ま、それを理解してるとは到底思えないが。
「これがラストドローだ、行くぞ!」
「無駄な足掻きで我を愉しませてみよ、世界崩壊の前奏曲として相応しい無様な姿でな!」
「ドロォーッ!」
回収したカードは5枚。
即ち『収縮』『シャドー・ハーピー』『精霊の吹き溜まり』『RUM-ケイオス・フォース』、そして桜。
それらのカードに加え、墓地やEXデッキにあるカードを加えたルートが開発され、1枚1枚が光で繋がっていく。
後はそれらを使い、勝利するのみ。
「行くぞ、ラース!」
まずはこのカードだ! これで奴の化けの皮が剥がす!
「ドローフェイズにトラップ発動、『無限泡影』!」
通常ドローでは優先権は移らない、このタイミングでは奴より先にカードを発動できる!
「フィールドのモンスター1体の効果をこのターン無効にする! 俺は『スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン』を対象にする!」
「小癪! 『プラネデス』はスカルカウンターを3つ使い、『無限泡影』の効果を無効にする事ができるのを忘れたか!」
そうだ、お前はそうするしか方法が無い。
ここで使っても良いが……、その前に。
「チェーンして速攻魔法『収縮』を発動! これで『ホロウ・ドラゴン』の攻撃力を半分にする! 『スカル・レイジング・ユニコーン』の効果は期限付き、『収縮』で上書きすれば攻撃力は1500だ!」
「……1500に戻れば、下級モンスターでも戦闘破壊できる」
「その上で手札の桜さんをもう1度召喚すれば、最低でもターン終了時の敗北は無くなります!」
「仮にこの効果を無効にしたとしても、カウンターは残り4つ! 主殿のカードを無効にできるのは残り1度きりになる!」
こらこら、そこの精霊トリオ。説明はフラグだぞー、やめたまえー。
何てアホな事を考えていたのも束の間、再び天を覆う骨龍の効果が発動された。
「無意味だな、この効果に回数制限は無い! 『収縮』も無効にしてやろう! だがその前に永続罠『スカル・アウトブレイク』を発動! 発動時の効果処理として、我の場にあるスカルカウンターを10倍にする! そしてこれにより『スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン』は対象に取れなくなる!」
何!?
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 10→7→4→40
「カウンターが!?」
「40個だと!?」
「クゥヒアハハハハハハハ! 漸く無駄な足掻きと理解したか、“ホロウスター・クウェルチ”!」
俺の場にある2枚のカードに、骨龍の眼光から放たれた怪しい電波が当てられ石化してしまう。
俺の手札はこれで残り3枚、対するラースは後13回効果を無効にできる。1ターン中に複数回の効果を使う事は現代のデュエルでも難しくないが、途中で何でも止められるとなると話は別だ。連鎖が繋がらないのなら、10回以上も効果は使えない。
「クソッ! 俺は『シャドー・ハーピー』を召喚!」
『キャハッ!』
「効果発動! 墓地の『ボーガン・ド・ショモー』を除外し、トークンを特殊召喚する!」
「『ホロウ・ドラゴン』の効果発動! その効果を無効にする! “ホロウスター・クウェルチ”!」
「くっ!」
W・S シャドー・ハーピー:ATK 1000
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 40→37
「なら魔法カード『精霊の吹き溜まり』を発動! 今除外した『ショモー』をエクストラデッキに戻す!」
「無駄! 無意味! 無価値! 『ホロウ・ドラゴン』の効果発動! 再び“ホロウスター・クウェルチ”!」
「墓地の『カープラント・ドラゴン』の効果発動! 自身を除外する事で、墓地から『シャドー・ハーピー』と『スウォーム・レイニアスズ』を特殊召喚する!」
「『スカル・アウトブレイク』の効果発動! 1ターンに1度、相手の墓地で発動したモンスター効果を無効にし、1000ポイントのダメージを与える!」
「な、があああっ!」
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 37→34
黎:LP 0→0
再び使用を封じられる俺のカード達。
これで俺の手札には召喚権を使ったため召喚できない桜、そして使っても意味が無いRUMがあるのみ。
墓地で使える効果も残っていない。
スカル・アウトブレイク(オリジナル)
【永続罠】
(1):このカードの発動時の処理として、自分フィールドのスカルカウンターが乗ったカードを1枚選択する。
そのカードに乗っている全てのカウンターの数を10倍にする。
また対象のカードはこのターン相手の効果の対象にならない。
この効果の対象になったモンスターの効果がこの効果を処理した後にこのターン5回発動した場合、この効果はもう1度発動できる。
(2):1ターンに1度、相手の墓地でモンスター効果が発動した時に発動できる。
その発動を無効にし、相手に1000ダメージを与える。
(3):「スカル」モンスターが2体以上相手によって破壊されたターンに発動できる。
フィールドのこのカード(表側表示)を墓地に送り、自分の墓地から「スカル」モンスターを1体守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは効果では破壊されず、攻撃力・守備力は0になる。
「どうだ下郎、貴様にはもう打つ手はあるまい。己が狩られるだけが運命の愚物と悟れ、下民」
「確かに、黎の手札は2枚あるけど、どっちも使えない……」
「コンボが繋がらぬ……、いくら主殿でもこれでは!」
手札を見る。どっちのカードも腐っている。
フィールドを見る。焼け野原だ。
墓地を見る。発動できる有効なカードは無い。
ライフを見る。依然として0のまま。
この状況、この大ピンチ。
ああ。
燃えるよ、本当に!
魂を焼き焦がすようなこの焦燥感、全身を蝕む耐え難い激痛! これこそ俺が生きている証! 俺がまだ死んでない証明!
礼を言うぜラース、俺は今生きているんだからな!
「今一度現れろ、常闇に揺蕩うサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は通常召喚された“W・S”1体! 俺は『シャドー・ハーピー』をリンクマーカーにセット!」
「まだやるか貴様! 我を苛立たせる事しかできぬのか!」
くノ一ハーピィが光となって回路の矢印に灯り、召喚ゲートをこじ開ける。
戦う方法が手札に無い? フィールドに無い? 墓地に無い? だったらEXデッキにならあるだけの事!
LM=下
召喚ゲートを潜って登場したのはカラフルな風船を捩って犬の形にしたもの。ツイスト・バルーンやアニマル・バルーンと呼ばれるそれがモンスターとして俺のフィールドに姿を現した。
これがモンスターなのかと問われると少々悩ましいが、そんなのはいつもの事なのである。
「リンク召喚! リンク1、『W・S バルーン・プードル』!」
W・S バルーン・プードル:ATK 500
「『バルーン・プードル』の効果発動! リンク召喚成功時、自分の墓地から効果を無効にして“W・S”モンスターを特殊召喚する! この効果で特殊召喚されたモンスターは『バルーン・プードル』が場に存在しない場合、破壊される! 浮き上がれ、『ライトニング・ガルーダ』!」
「小賢しい! 『ホロウ・ドラゴン』の効果発動! “ホロウスター・クウェルチ”!」
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 34→31
カウンターの数が再び減少し、骨龍が電磁波を出して俺のモンスターを狙う。
……それを待っていた!
「『バルーン・プードル』のもう1つの効果! このモンスターは攻撃・効果の対象になった時、破壊される!」
「何!?」
「お前のモンスターの効果は確か、場のカード1枚を対象に取ってその効果を無効にするんだったな! “フラジャイル・バースト”!」
ぱーん!と派手な音を立てて風船の犬が割れる。数秒遅れて雷の怪鳥が墓地から復活するが、自分を浮かせる風船が消えた事で閉じずに残っていた墓地へ連結する黒いゲートにその身が落ちて行く。
これで良い、奴は俺の狙い通りの動きをしてくれた。
俺を絶望させるために片端から効果を潰していったのだろうが、それこそがお前の首を絞めた!
「……これで対象がいなくなった、『ホロウ・ドラゴン』の効果は通らない」
「リリース・エスケープならぬデストロイ・エスケープって所でしょうか」
「だが『バルーン・プードル』が破壊された事で、蘇生された『ライトニング・ガルーダ』も破壊だぁ!」
「ああ、それで良いんだ! 『ライトニング・ガルーダ』はフィールドで破壊されている場合、自身を除外する事でデッキから“W・S”を2体墓地に送る事ができる! これは墓地で発動する効果、今のお前に止める手段は無い!」
「チッ、このために『バルーン・プードル』を召喚したのか!」
『ライトニング・ガルーダ』はフィールドから墓地に行った後、『浮鵺城』の効果で蘇生されて『エンタープラズニル』のオーバーレイ・ユニットになった。これでは発動条件を満たさない。
この一見すると無駄にすら見える一連のモーションが、俺の
「俺はデッキから『W・S デカイトンボ』と『W・S
ズギリ、と心臓が鼓動を刻みながら痛みを訴える。
頼む、本当にもう少しだけで良い。それだけ耐えてくれ。
耐え終わったら……、止まって良いから。
「『デカイトンボ』はカード効果で墓地に送られた時、手札の風属性モンスターと共に特殊召喚できる! 蘇れ『デカイトンボ』! そして手札からもう1度頼む、桜!」
「承った!」
空間の穴が開き、中から巨大なトンボ風の大凧に掴まった桜が飛び出した。
俺の前に降り立った彼女は盾を構えながら抜刀し、緑色の光を俺に当てて癒していく。
「桜の効果発動! 俺のライフを700回復する!」
「主殿、回復するぞ! “キュア・ブロッサム”!」
「まだまだカウンターは残っておるわ! その効果も無効にしてやろう!」
「ぐ、ぅ……!」
W・S デカイトンボ:ATK 1000
L・S レストア・チェリー:ATK 1800
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 31→28
W・S バルーン・プードル(リンク・効果モンスター)(オリジナル)
リンク1
風属性/獣族
ATK 500
LM=下
通常召喚された「W・S」モンスター1体
(1):このカードがリンク召喚に成功した時に発動できる。
自分の墓地から「W・S」モンスターを1体守備表示でこのカードのリンク先に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効となり、このカードがフィールドに存在しない場合破壊される。
(2):リンク召喚されているこのカードが相手の攻撃・効果の対象になった時に発動する。
このカードを破壊する。
バトルフェイズ中にこの効果を発動した場合、このターン自分は戦闘・効果ダメージを受けない。
W・S デカイトンボ(効果モンスター)(オリジナル)
星4
風属性/機械族
ATK 1000/DEF 600
このカード名の(1)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):このカードが効果によってフィールド以外から墓地に送られた時に発動できる。
墓地のこのカードと、手札の風属性モンスター1体を特殊召喚する。
この発動と効果は無効にならない。
(2):このカードが戦闘によって破壊された場合に発動する。
自分はデッキから1枚ドローする。
再び骨龍の電磁波を浴び、刀剣から発する癒しの波動を打ち消される俺の騎士。
構わない、それで良い。
最初から桜の回復を目当てにした召喚じゃない。
ふぅー……、と息を大きく吐く。
肺が壊れている、自力で肺胞や横隔膜を動かさないと呼吸1つすらままならない。
空気を再び吸おうとすると、肋骨が音も無く割れた。折れたのではなく、割れた。割れたカルシウムの欠片を緊急で縫合するも、縫合に使った蛋白質も質が悪くすぐにブチブチと茹で過ぎた麺類のように千切れてしまう。
俺の肉体はどうにも思っていた以上に俺の体を無理して支えてくれていたらしい。それが限界を訴えていた。
「まだ終わらない! 俺はレベル4の桜と『デカイトンボ』でオーバーレイ!」
「主殿、踏ん張れ! 私も踏ん張る!」
「おう!」
「またエクシーズ召喚か!」
「凄い……! 最後まで諦めなかった黎の足掻きが、また活路を見出そうとしている!」
それでも戦え。
死んでも戦え。
俺の命の価値で勝て。
奴らに、俺の命を否定したあいつらに、鉄槌を!
「2体の“
☆4×☆4=★4
桃色の光になった桜が、緑色の光になった大凧と共に空中に飛び上がる。空に開いた銀河の渦に2つの光は呑み込まれ、新たな力を生み出す爆発を引き起こす。
出現するのは侍の姿をした桜。西洋風の騎士鎧だったデフォの姿から一転、流麗な着流しをまとった新選組にも似た意匠の侍として見参。腰に佩いていた2本の太刀を引き抜き構えるという二刀流スタイルはこれまでのシンクロでは存在しなかった姿。シンクロとエクシーズで異なる在り方、という事だろうか。
「エクシーズ召喚! 『L・S スカーレット・ロード・チェリー』!」
「斬り捨て御免! その素っ首、叩き落させて貰う!」
L・S スカーレット・ロード・チェリー:ATK 2500
カードに描かれたイラストの背景にあるのは桜並木。成程、桜の
「ぐ……ぁ……、が……っ!」
「黎!?」
「黎さん!」
「はぁ……、はぁ……!」
「主殿!?」
「……サー……!」
「う、ぁ……、平気だ……っ!」
ただの精霊召喚で凄い負荷だ。全身に分散していた筈の負担が、まだ俺の体の生きている部分に集中しているせいでバラつきとムラが生まれて、無駄に重くなっているんだろう。
知るか、俺の肉体を凌駕しろ精神。今こそ根性を見せる時だ。
「『ロード・チェリー』の効果発動! このカードはオーバーレイ・ユニットを1つ使い属性を1つ選択! その属性を持つモンスターの効果を全て無効にし、1体につきライフを700回復する! 当然俺は闇属性を宣言!」
「フィールドの闇属性モンスターはマスターの『カオス・アンヘル』を含めて3体です!」
「……2100回復すれば、ターンの終わりに『スカル・オーバーロード』の効果が切れても生き残れる」
「「“レストア・アブソービング”!」」
当然、ここで回復を許す程ラースは甘くない。
血管が太く浮き出た顔を醜く歪ませ、怒りの化身は大斧を俺に向ける。
「いい加減にしろぉ! 我は『ホロウ・ドラゴン』の効果でそれを無効にする! この程度の遅延行為でプレイングミスでも誘っているつもりか、甘く見るなガキ共が!」
L・S スカーレット・ロード・チェリー:ORU 2→1
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 28→25
再び回復のエフェクトが骨龍の電磁波に当てられて相殺となった。
これで『ホロウ・ドラゴン』は通算で7回もこのターンで効果を発動した事になる、だがまだ8回も発動できる余裕があり、リソースの差は歴然。
更に……。
「そして5回効果を発動した事で永続罠『スカル・アウトブレイク』の効果を発動! もう1度のみカウンターを10倍にする効果を発動できる!」
「何だって!?」
「……!」
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 15→150
おいおい無茶苦茶過ぎるだろ、何だよカウンター150個って。
どんな変態専用構築したデッキでもそんな数は溜まらないぞ。
「これではあのモンスターは、後50回も効果を無効にできます!」
「……有り得ない、これじゃ何もできないのと同じ!」
「黎……っ!」
「クハカカハハハハハハハ! もっと哀れに踊れ、もっと無駄に騒げ! 貴様らがどれだけ策を弄しようと我に勝つ事はできぬ!」
確かに、50回なんて回数、1回のデュエルで発動できる効果の回数を超えていると言っても良い。
メインデッキ40枚に加えてEXデッキ15枚、これらを以て都合55枚。5枚を残して全ての効果を無効にできるのなら、本当の意味で手も足も出せなくさせる効果と言えるだろうな。
「それはどうかな」
だが随分と見下してくれるじゃないかラース。
俺が連続して効果を発動していた理由がお前のプレミを誘発するため?
ナメるな。
今のお前にプレミを期待するどころか、プレミするだけのカードの選択肢は無いだろうが!
俺の狙いを見せてやるよ!
「ラース、俺の最後の手札が何だったか覚えているか!」
「……っ! そのカードは!」
見せたカードは言うまでも無い、白と黒が渦巻く陰陽の紋様のようなカード。
あの火山近くのデュエルで送り付けたカードが変化した、究極にして邪悪な1枚。
「行くぞ、俺は『RUM-ケイオス・フォース』を発動!」
これが最後の賭け。
俺が俺らしくデュエルするための、最後の全身全霊。
そして。
「悪い桜」
「む?」
一言の謝罪に、二刀を携える女がこちらを向いた。
「こんな主で」
「何を言うか、私は主殿に仕える事ができて幸せだぞ」
勿体無いなぁ、本当にお前は、俺に。
「このカードは自分フィールドのエクシーズモンスターをランクが1つ、または2つ高いカオス・エクシーズにランクアップさせる!」
「ふざけるな! 我の前で2度もそのような屈辱を許すワケがあるか! 我は『ホロウ・ドラゴン』のモンスター効果を発動! 貴様らに穢されたランク・アップ・マジックを掻き消してやる! “ホロウスター・クウェルチ”!」
またまた骨龍が電磁波を発して俺のカードを狙い撃つ。
怪電波に晒された俺の魔法カードはこれまで同様に石化していく、が。
「そうはさせない。俺は墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、効果発動! このターン『ケイオス・フォース』は相手モンスター効果の対象になった時、それを無効にできる!」
「なっ、それは先刻墓地に送った──!」
「そうだ、こいつは『パトロートル・バタフライクル』の時に捨てたカードだ! そのデカブツの効果が対象を取る以上、この効果から逃れる術は無い!」
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:スカルカウンター 150→147
石化されたのは緑のカードを覆っていた障壁のみ。薄膜となった石が砕けると、中にあった俺のランク・アップ・マジックは無事だった。
俺の狙いはお前の思考誘導、どんなカードも『ホロウ・ドラゴン』の効果で潰せると思わせるため。『ホロウ・ドラゴン』の効果をチェーンさせるという事はつまり、この『ケイオス・フォース』の効果を直接カウンターするカードで潰せないという事だ。
これで気兼ねなくランクアップできるぜ!
「主殿、我が命を使え! 使い潰して奴に勝て!」
「俺はランク4の桜でオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」
「はぁぁあああああああああっ!」
戦装束の女騎士が桜色の光に変わり、空へと駆け上がる。
その輝きはダークグリーンの混沌の渦へと飛び込んでなお褪せず、春のような温かい輝きの爆発を起こす。
「……サー、まさか」
「黎、さん?」
驚いたような顔をする精霊2人。
……本来、カオス化というのは代償が伴う。自我を持つのなら猶更。何故ならカオスとは他人に対する気持ちそのもの、怒りや慈しみの集合体だからだ。純度の高いそれを強引に外部から捻じ込まれてしまえば、精神に異常を来たして肉体にも影響が出るのは自明の理。ましてや精霊である桜をカオス化させれば、その影響は悪い方向に未知数と言えるだろう。
「カオス・エクシーズ・チェンジ!」
ただしそれには。
★4→★6
「裏返りし天地創造、怨念の湧き上がる春風!」
俺という例外がいる。
「その埋められた否定の果てにある、浅ましき命の業を喰らい尽くせ!」
邪神の成り立ち、それが
邪神が『存在しない』のなら。
「咲き狂え、ランク6!」
何よりこのRUMがフィオと俺の結晶と言うのなら、それは。
桜が本来持つ負荷を、俺が奪い去る事だってできるという事だ。
「『L・S ブラッディ・ロード・チェリー』!」
「ア゛ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ATK 3000
君臨したのは、血よりも赤く赤く、そして暗く暗く、何よりも美しいパーティドレスを纏った桜。
ポニーテーツは完全に下ろしており、顔にもアイシャドウや真っ赤なルージュといった、まるで御伽噺の悪女のような強いメイクが施されている。
何よりその手にはこれまでのどんな進化系にもあった刀が無く、大きく開いた背中には見た事も無い悍ましい紋様が刻まれていた。
恐ろしいまでの異質、カオス化した事で理性を失った事も相まって、目の前にいるこの女を桜と認識する事を理性が拒みかけている。
「さく、ら、さん……?」
「ウ゛ゥ……!」
フィオの呼びかけにも応じない。
すまない桜、ほんの少しだけ耐えてくれ。
「……ッ!」
パンッ、と腹の中で音がした。内臓が文字通り破裂したらしい。
ガワだけそれっぽく治したモノだから、脆くて当然か。
神様、もしいるなら後3分だけ時間をくれ。それで事足りるから。
「このカードを特殊召喚した時、墓地のエクシーズモンスターを3体までオーバーレイ・ユニットにする事ができる。そしてその後、このカードのオーバーレイ・ユニットの数×400ライフを回復できる。ただし進化前の桜の姿が2つとも重なっている場合、倍率を700にできる!」
「くっ、あの忌々しいRUMのせいで効果が無効にできんか!」
「そういう事だ! 墓地の『電光千鳥』と『ブリザード・アルバトロス』、『エンタープラズニル』を吸収し、“キュア・カースド・ブロッサム”!」
「オーバーレイ・ユニットは、これで5つです!」
「良し、3500回復だ!」
黎:LP 0→3500
桜が天に向けて両手を伸ばすと、そこから赤黒い光がシャワーのように俺に降り注ぐ。
だがそれは癒しにあらず、俺の痛覚を一時的に麻痺させるだけの紛い物。本来の彼女が持つ治癒とは似ても似つかず、俺の血も皮も肉も骨も戻らない。
それで良い、もう俺の肉体はきっと治らない。
治せないモノを修復しようとするなんて、馬鹿馬鹿しいにも程があるからな。
「これで俺は『スカル・オーバーロード』の効果が切れても敗北しない!
桜の効果! このモンスターは全ての墓地に埋葬されているエクシーズモンスターの効果を得る!」
「何、全ての墓地だと!?」
「お前の墓地には確か、攻撃時に互いのモンスターの攻撃力を固定された数値にするモンスターがいたよなぁ! “スカル・トゥ・フラワー”!」
大地から無数の太い木の根が伸びる。その根の片方は桜に、もう片方は3人のディスクに繋がり、そこから養分を吸い取って行く。
ラースのディスクから骨を被った魔導士のカードが浮き上がり、桜に流れ込んでいったのは言うまでも無い。
「昔からよく言うだろ? 下に死体が埋まってる桜は、綺麗な色の花が咲くってな」
「貴様……!」
「使わせて貰うぞ、お前の死体をな! 俺は墓地の『スカル・ファントムダークソウル』の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このターン桜は相手モンスター全ての攻撃力を100にし、自分の攻撃力を1000にする!」
「そしてこの効果で変化した数値の分、ライフを回復できる!」
「更に今オーバーレイ・ユニットで墓地に送られたのは『ブリザード・アルバトロス』、これにより1枚ドローできるのです!」
七罪士 ラース:ATK 40000→100
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:ATK 40000→100
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ATK 3000→1000/ORU 5→4
黎:LP 3500→84400
「ライフポイント、8万4400だと!?」
「締め上げられて砕け散れ!」
地中から伸びる巨大な木の根、それが天まで伸びて骨龍を拘束していく。
逃げようと藻掻く白い塊だったが、根っこはそれを許さずより強力に締め付けて押し潰して行き、やがて粉々になるまで圧殺した。
無論、それはラースとて例外では無い。地に足を付けていたラースにいたっては完璧にこれを防ぐ術が無く、ミイラのように全身を根っこに巻き付かれてこちらも絞め潰される。
「ぐぉおおおおおおおおおおおお! だ、だがフィールド魔法の効果を忘れたかぁ! 更に我は本来特殊召喚できぬが、自分フィールドのカードを2枚を贄とする事でその召喚条件を踏み倒す事ができる! 我はペンデュラムゾーンのカードを2枚除外! この時、我の元々の攻撃力は2倍となる!」
ラース:LP 0→0→0
七罪士 ラース:ATK 4000→8000→9500
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:ATK 3000→4500
「2体とも復活しました! しかし既にカウンターは墓地の肥料です!」
「……そして、複写した相手の効果に制限回数は無い」
「更にこのターン、ラースは墓地の効果を使えない! 伏せカードも無い、恐れるものは無い!」
「2つ目のオーバーレイ・ユニットを使い、もう1度効果発動!」
「クッフフフフフフ、ハァッ!」
七罪士 ラース:ATK 9500→100
スカル・プラネデス・ホロウ・ドラゴン:ATK 4500→100
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ORU 4→3
黎:LP 84400→98200
ラース:LP 0→0→0
再び俺のライフを回復するため、奴のモンスターが搾り上げられる。
まるで雑巾から水を吐き出させるかのように、或いは果物から果汁を採るかのように、無慈悲に桜は敵を砕く。そこには普段の高潔な騎士の姿は無く、ただ敵を殲滅させるだけの殺戮マシンがいた。
「っ……!」
そしてそのあまりにも残酷な変化の対価は全て俺が持っている。
左上腕の皮膚が爆ぜて周囲に血が弾け飛ぶ。連鎖して左手の指が全て千切れ、地面に落ちる。素早く手札を右手に持ち換えたのでカードは無事だが、デュエルディスクはあっと言う間に血塗れだ。
まだ、大丈夫。心臓は止まってない。
「これで……、後は……!」
「ナメるなぁああああああああ! 我は永続罠『スカル・アウトブレイク』の効果発動! このカードを墓地に送り、墓地から“スカル”モンスターを攻守を0にして特殊召喚する! 蘇れ、『スカル・グール』!」
『オ゛ォォォォォ!』
スカル・グール:DEF 100→0
これまでに見たモンスターとはまた異形のモンスターの登場か。
骨ばかりだった奴の
「『スカル・グール』の効果発動! 自身をリリースし、墓地から召喚条件を無視してレベル10以上の通常召喚できるアンデット族モンスターを特殊召喚する! 蘇れ、我自身よぉ!」
七罪士 ラース:ATK 4000
腐肉の骨は一瞬で消え、吹っ飛んでいた奴が空中で体勢を整えつつ巨大化してフィールドに再び降り立つ。
墓地から蘇ったためフィールド魔法の復活効果は使えないが、それでも攻撃力4000が再び現れたのは厄介だ。
「貴様ら……、我をここまで不快にさせるとは……っ! 覚悟はできているかぁああああああああああああ!
我は我自身の新たな効果を発動! 相手ターンに1度、相手モンスター1体に攻撃を強制させる! そしてその攻撃対象は我が選ぶ!」
「何!?」
「我が選ぶのは貴様のモンスターだ、バランサー! この効果は我がダメージを受けたターンにのみ使用できるが、代わりに攻撃を行うモンスターと、その対象にされたモンスターの効果はこのターン無効となるぅううう!」
チッ、4度も殴ったのが裏目に出た。ライフが0から動いてなくても、ダメージを受けた事は変わらないって事か……!
「『カオス・アンヘル』の攻撃力は3500! その女の攻撃力は今1000! 破壊されれば今度こそ貴様に打てる手は無い!」
「でも『ケイオス・フォース』でランクアップしたモンスターは相手の効果を受けない筈です!」
「これはモンスターではなくプレイヤーが受ける効果! RUMの守りは通じぬ!」
マズい……。
ここで桜を討たれれば、本当に俺には打てる手が無くなってしまう。
もう1度オーバーレイ・ユニットを使って『カオス・アンヘル』の攻撃力を100にすれば、と思うが『カオス・アンヘル』は発動したモンスター効果を受けない。何よりそんな事をすればフィオの100しかないライフが尽きる。
手札は1枚あるが、このカードじゃ打開できない! 万事休す、か!?
スカル・グール(効果モンスター)(オリジナル)
星1
闇属性/アンデット族
ATK 100/DEF 100
(1):このカードをリリースして発動できる。
自分の墓地から召喚条件を無視して、レベル10以上の通常召喚できるアンデット族モンスターを1体選び特殊召喚する。
この発動と効果に対し、相手はカードの効果を発動できない。
七罪士 ラース(効果モンスター)(オリジナル)
星12
闇属性/悪魔族
ATK 4000/DEF 4000
このカードは(1)の効果以外で特殊召喚できない。
このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。
(1):ルール上このカードはアンデット族としても扱う。
(2):このカードは自分フィールドのカードを2枚除外する事で、アンデット族を特殊召喚する効果で特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚したこのカードの攻撃力は倍になる。
(3):デュエル中に1度、自分フィールドに他にモンスターが存在しない場合に発動できる。
自分墓地のEXから特殊召喚されていた「スカル」モンスターを5体まで選んで装備カード扱いでこのカードに装備し、その攻撃力の合計をこのカードに加え、更にその合計値を10倍にする。
この効果で変化した攻撃力は相手の効果によって変化しない。
(4):このカードが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。
その戦闘で発生する相手への戦闘ダメージは0となり、相手はその数値の分だけLPを払う。
この時にLPがその数値以下だった場合、LPは0になる。
(5):自分が相手によってダメージを受けたターンのバトルフェイズ、相手フィールドのモンスターを2体選択して発動できる。
相手はその2体のモンスターで戦闘を行わなくてはならない。
この効果の対象になったモンスターの効果は無効になる。
この効果はこのカードの攻撃力が元々の数値と異なる場合、発動できない。
(6):このカードが相手の効果の対象になった場合に発動できる。
その対象を別の正しい対象に移す。
(7):このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドのアンデット族モンスターの攻撃力・守備力は元々の数値より低い数値にならず、相手はこのカードのコントローラーのフィールド・墓地のカードを除外できない。
(8):このカードが相手の効果によってフィールドを離れる場合、または元々のコントローラーが相手のカードによってリリースされる場合、代わりに相手のLPを半分にする。
(9):このカードが相手によって破壊された時に発動できる。
相手のLPを0にする。
(10):自分と相手のLPの差が100より多い場合、このカードは以下の効果を得る。
この効果はこのカードが召喚・特殊召喚・反転召喚されたターンは使用できない。
●相手が手札・墓地・除外状態のカードの効果を発動した場合に発動できる。
その発動を無効にする。
●相手がモンスターを特殊召喚した場合に発動できる。
その特殊召喚を無効にし、裏側表示で除外する。
●相手が発動した魔法・罠の効果は「自分は3000ダメージを受ける」効果になる。
●相手がLPを払う時、LPが変化しなかった場合に発動できる。
相手の手札・フィールド・墓地のカードを全て裏側表示で除外する。
「……そうはさせないよ」
桜が血走った眼で悪魔を見据えると同時、フィオのフィールドに暗い光が満ちた。
黒い粉雪のような光の粒は『カオス・アンヘル』を捉えると、そのまま悪魔ごと霧散していく。
「何だァ!?」
「除外されている『天空の
「い、いつの間に……、いやまさか!」
「そうさ! こいつはお前がさっき『スカル・シャーク』の効果で除外したカードだ! 墓地に送れば良かっただろうに、残念だったね!」
成程、フィオがギリギリまで引き付けた事で、ラースの逆転を目論んだ反撃は空振りに終わったのか。
これでラースの効果によって相手に指定できるモンスターは消滅。2体同時に指名する効果である以上、片方が消えれば効果が成立せず通らない。
ラースには自分のライフが相手より101以上少ないと色々なロックをかける効果があるが、さっきまでの俺のライフは0でフィオは100ポイント。その差は丁度100でこれも使えず、今度は召喚ターンに使えないという召喚酔いの制約でまた封印だ。
どうやら奴は『スカル・オーバーロード』を使う事を前提としたスキルツリーを伸ばしたようで、それまで自分を維持するための身代わり効果や墓地のカードを保護する効果もあれど、やはりどれも状況を覆す効果足り得ない。
「忘れたかい、ラース。このデュエルは2対1、警戒すべきカードの枚数も2倍になるって事を!」
「こ、このクソ天使がぁああああああああああああああああああああああああああ! なら我が手ずから引き千切ってすり潰してやるわぁあああああああ! 我自身の最後の効果を発動ッ! デュエル中に1度、我は墓地の“スカル”モンスターを5体装備し、その攻撃力の合計値を吸収する! そして攻撃力を更に10倍にするのだぁあああああ!
さぁ我の、そして偉大なる邪神様のための糧となるが良い! 我が手に集え、『ヘルノボーグ』『ファントムダークソウル』『エクスターミネイトマジシャン』『キューブデーモン』『ホロウ・ドラゴン』ッ! そしてこの攻撃力は変化しないっ!」
七罪士 ラース:ATK 4000→14000→19000→23500→27000→30000→300000
「「「攻撃力30万!?」」」
「おいおいマジか……! 最後の最後であの『ヌメロニアス・ヌメロニア』を超えやがった……っ!」
「……ラースがフィールドにいる限り、ラースの墓地のカードは除外できない!」
「これでは『ジェムリングホルニ』の効果を使ってセメタリーデスを仕掛ける事ができません!」
「土壇場でまだ迎撃の策が残ってるなんて!」
「ウ゛……ァ……ゥイ゛オオ……!」
桜は今、コピーした効果で攻撃力が1000に落ちている。30万の足元にも及ばない。
仮に墓地から『電光千鳥』の効果を転写しても、奴自身の効果で別のカードを盾にされてしまう。
そして『ジェムリングホルニ』のフィールドのカードを除外する効果では奴を駆除できない。
俺のライフを軽々と上回る奴の攻撃力が相手では、回復したライフも意味が無いどころか焼け石に水だ。
このままでは打てる手が無い──
「俺は墓地の『
「──っ!?」
「手札を1枚捨てる事で、このカードは手札に戻る事ができる! ……う、……ぐっ、て、手札の『死者蘇生』を捨てて、戻って来い!」
「今更そんなモンスターに何の意味がある!」
「『裏空イチバン』を捨ててその効果を発動! このターン相手が墓地、または除外状態のカードを手札かフィールドに出している場合、そのカードはデッキに戻る!」
「何だとぉ!?」
天空の聖楽(オリジナル)
【通常罠】
このカード名の(2)の効果はデュエル中1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「ヒュペリオン」モンスターが存在する場合に発動できる。
相手フィールド上のモンスターを全て守備表示になりターン終了時まで効果は無効となる。
更に「天空の聖域」が自分フィールドに存在する場合、この効果で表示形式が変更されなかったモンスターは墓地に送られる。
(2):このカードが相手によって破壊・除外されている場合、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。
墓地・除外状態のこのカードを手札に戻す。
W・S 裏空イチバン(チューナー・効果モンスター)(オリジナル)
星1
風属性
ATK 0/DEF 800
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できず、(2)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):このカードを手札から捨てて発動できる。
このターン墓地・除外状態から手札・フィールドに移動した相手のカードは全てデッキに戻る。
(2):手札の魔法・罠カードを1枚捨てて発動できる。
墓地のこのカードを手札に戻す。
この効果は相手ターンでも発動できる。
吹き上がるは穏やかな、しかし命の芽吹きを感じさせる力強い風。
それが5枚のカードを巻き込んで空高く舞い上がり、周囲に桜の花弁を散らして行く。
後に残るのは、武装を剥がされて斧もヒビだらけにされた巨漢が1人。
七罪士 ラース:ATK 300000→4000
「これで装備していたカードは全て消えた! 合計値を10倍にするって事は、逆に言えば合計値が無いなら10倍にならないって事だ!」
「ぐぅ、お、おのれ……!」
「バトル! 桜でラースに攻撃!」
「莫迦め! 攻撃力1000で攻撃力4000に敵うと思うてか! 更に我は自身の効果により元々の数値4000より低い攻守にはならぬ! そして貴様がご丁寧に真似をし続けていた『ファントムダークソウル』はEXデッキの中だ!」
ダンッ、と桜がドレスを翻して宙を舞う。
その両手にはドレスのパニエの中に隠してあった仕込み刀があり、既に抜き身のそれを大上段から振り下ろそうとしていた。
「が、ぉ……、ぉぉ゛……っ!」
っ……!
「桜の最後の効果! オーバーレイ・ユニットを2つ使う事で、俺のLPを1800回復する!」
「無駄な抵抗、焼け石に水、無意味! 無価値! 無駄だぁ!」
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ORU 3→1
黎:LP 98200→100000
これでオーバーレイ・ユニットは残り1つ。
2つ減ったという事はつまり、墓地に2枚カードが増えたという事。その意味、分からないとは言わせないぞラース。
「そしてここで墓地に送られた『スカーレット・ロード・チェリー』の効果を使う! 戦闘を行う場合、墓地のエクシーズモンスターを2体まで除外! その攻撃力の合計値をこのカードに加える! 俺は墓地から『電光千鳥』と『ブリザード・アルバトロス』を除外!」
「何だとぉ!?」
L・S スカーレット・ロード・チェリー(エクシーズ・効果モンスター)(オリジナル)
ランク4
風属性/戦士族
ATK 2500/DEF 2000
レベル4「S」モンスター×2
(1):このカードが「L・S レストア・チェリー」をX素材としている場合、このカードのX素材を1つ取り除き、属性を1つ宣言して発動できる。
このターン宣言した属性のモンスターの効果は無効となり発動できない。
その後、フィールドに存在するこのカード以外の宣言した属性のモンスターの数×700LPを回復する。
(2):このカードが戦闘を行うダメージ計算開始時に発動できる。
自分の墓地からXモンスターを2体除外し、ターン終了時まで除外したモンスターの攻撃力の合計値分だけこのカードの攻撃力をアップする。
L・S ブラッディ・ロード・チェリー(エクシーズ・効果モンスター)(オリジナル)
ランク6
風属性/戦士族
ATK 3000/DEF 3000
レベル6モンスター×3
このカードは「チェリー」Xモンスターに「RUM」魔法カードを使用した場合でのみ特殊召喚できる。
このカードは「
このカードの効果はEXモンスターゾーンに存在しない限り無効となり発動できない。
(1):このカードが「RUM」の効果でX召喚された場合に発動できる。
自分の墓地からXモンスターを3枚まで選んでこのカードの下に重ねてX素材とする。
その後、このカードのX素材の数×300LPを回復する。
「L・S レストア・チェリー」「L・S スカーレット・ロード・チェリー」をX素材としている場合、X素材の数×700LPを回復する。
(2):このカードは自分・相手墓地のXモンスターの効果をこのカードの効果として発動できる。
(3):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。
自分LPを1800回復し、このターン相手の効果によって自分LPの数値は変化しなくなる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ATK 1000→5300
「ご、ごせん、さんびゃく……!?」
漸く、漸く繋がった。
無数にあるカードからカードに線が繋がり、そしてフィオの奮闘も込めてこれでやっと一筋の希望が見えたのだ。
その先にある光を、今こそこの世界に。
「……っ」
これで最後だ、ラース!
「ッ、ァ、……、た、叩き斬れ桜ァ!」
「オ゛ォオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオッ゛ッッ!」
「ひっ、こ、こんな有り得ない事がぁ!?」
緑と赤の魔力が流し込まれた桜の刀が巨大なレーザーブレードに成長していく。
咄嗟に斧を交差して受け止めようとしたラースだったが、刺身かバターを切るかのようにスルスルと溶断されていき勢いが落ちる事すら無い。
そのままレーザーブレードはラースの頭を捉え──
「“
一刀両断。
ラースを頭からぶった斬って、正中線から真っ二つにしてやった。
瞬間、超ド級の大爆発が発生し周囲を熱波が包む。
「ア、が……」
「はぁ、はぁ……はぁ……、はぁ……っ」
これで、後は……。
っ!
……っ!
「わ、レが……戦闘破壊された、時ッ! 貴様のライフをゼロにするぅっ!」
「そんな効果が!?」
「倒さねばあらゆる盤面を掌握し、倒せば自爆ですか! インチキも大概になさい!」
…………、っ!
──、──!
肺を修復……失敗。
喉の内部に血が溜まった……。穴を開けて排出。
横隔膜を強引に押し上げて空気を出し、声の代わりに……!
「桜の、効果……っ! 回復効果を使った、ターンは……、俺のライフは効果で、変化しない!」
「おんの、れぇ!」
熱波は俺達を襲おうとしたのだろう。
だが桜が咄嗟に無数の木を生やして壁とし、俺達を守ってくれた。
ありがとうな、桜。お前の忠義、真実騎士のそれだ。
「はぁ……はぁ……、ぜぇ……、ターン、エンド!」
「クソがぁ! 『スカル・オメガ』の効果により7枚のカードが墓地に戻るっ!」
「同時、に……『スカル・オーバーロード』の、効果は……切れ、る……!」
黎:LP 100000
手札:0枚
フィールド
:L・S ブラッディ・ロード・チェリー(ATK 3000)
:メインモンスターゾーン無し
:魔法・罠ゾーン無し
「れ、黎、大丈夫!? 最後の力を出し切ったみたいに顔が真っ青だよ!?」
「……」
大丈夫だフィオ、後はお前のターンを終わらせれば全てが解決する。
だから早く…………。
「マスター、ドローを!」
「っ、わたしのターン、ドロー!」
「こ、こで……桜の効果……。『ジェムリングホルニ』の効果を、使、う……」
『ジェムリングホルニ』は『エンタープラズニル』をオーバーレイ・ユニットに持たなければ効果が発動できない。
だが召喚時に墓地からサルベージしておいたから、その心配は無用だ。
「墓地のカード……、すべ、て……除外、す……、……る……」
「オ゛ォ゛ア゛ァ゛ァ゛ァァァァァァァァァッッ!」
「くっ!」
L・S ブラッディ・ロード・チェリー:ORU 1→0
桜が地面に手を当てると無数の木の根が伸び、墓石の下に埋葬されていた
もうこれで完全に奴に打つ手は無い。
あったとしたら、その時点で俺の負けだ。こっちだってリソースはカツカツ、これ以上は鼻血どころか唾液だって出やしねぇ。
「有り得ん……。何故だ……何故だ何故だ何故だぁ! 何故、我が貴様ら如きに負ける! 我は負けぬようになったのだ、死なぬ骸となり生者を凌駕したのだ! 我は最強の護衛として決して負けぬようルールを覆したのだ! 敗北せぬよう勝利がいつでも掴めるようにしたのだぁっ! それが何故ぇぇぇっ!」
ハ、そりゃ違ェよラース。
例え超一流のデュエリストであろうとも敗北の可能性はいつだって付きまとう。重要なのはそれを受け入れ、ここぞという時に負けないようにする事。
お前はそれを怠った。敗北を恐れて縮こまり、ルールを捻じ曲げて必死に逃げたんだ。
そんなお前に、運命は微笑まない。
何故なら勝利の女神も運命の女神も、そしてお天道様だって、自分で自分を助けようと頑張る奴にしか手を貸してくれないからだ。
相手が負けるまで逃げて穴熊決めてるような卑怯者に微笑んでくれる程、神様ってのは間抜けじゃねぇよ。
「すぅ……」
ああクソ、色々と言ってやりてぇのに肺が空気を殆ど吸ってくれねぇ。
だったらもう一言で良いや。
「フィオ―――――ッ!」
「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
最後の空気を思い切り吐き出して、叫ぶ。
それで彼女は意図を汲んでくれた。
十二分だよ、フィオ。本当にありがとう、このデュエルで何度も俺を支え、時に狙いを分散させ、俺を守ろうとしてくれて。
フィオ:LP 100
手札:0枚
フィールド
:モンスター無し
:伏せカード2枚(内1枚は『天空の聖楽』)
そして迎えられるラースのターン。
ドロー前に発動するカードは無いのか、ラースは完全に動揺しきって目が泳ぎまくっている。
それでもディスクは勝手にドローフェイズの判定を行い……。
【
無情にも、奴に敗北を告げた。
「あ、ぁああああああああああああああああああああああああっ! 申し訳ございません邪神様ッ! 決して負けぬようにしたのに、薄汚い人間共のせいでぇえええええええええええええええええええ!
邪神様万歳! 万歳っ! ばんざぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
ラース:LOSE
黎、フィオ:WIN
☆
これで最後の護衛も倒した。
後は本体を……。
「ぇ……。ぁ゛……」
後は……。
「黎?」
あと、は……。
「ぜー、はー……、ぜー……はぁー……っ!」
「桜さん大丈夫ですか? まずは呼吸を整えて下さい」
「……カオスの力を受けた、少し休むべき」
「う、む……、っ」
……。
「黎!」
大丈夫だと右手を挙げようとしたが、動かない。
あれ、俺の腕ってこんな短かったっけか?
いや足元に落ちてるのか。
ならせめて向き合って笑うくらいは。
あ? 何で動かない? いや回ってる? 世界が? 俺が? 足、どうなってんだ?
周りの景色の移り変わりが、凄いゆっくりに感じる。
1秒がこれ以上無いくらいスローリーだ。
フィオが何故か横向きで、顔を真っ青にしている。
おや地面が近いな、いつの間にかたおれていたらしい。
困ったな、もう手も足もうごかないのに。
でも痛くない、あつくもさむくもない。ただぜんしんがおもい。めのまえがくらくなってきてる。
おれのてあし……、いったいどうなってるんだ? あらら、すなのしろみたいにくずれてってるな……。
これが……かおすのだいしょうと……、たたかってきた
ああ、まだ……なにも、おわ……って、ないんだ、け、どな、……ぁ。
バケモノにふさわしい、くだらないオワリ、か……。
to be conituned