遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
SIDE:黎
「だから、このデッキの特徴を活かしたいのなら、もう少しモンスターを抜いて……」
現在、俺は医務室のベッドの上で上半身を起こして、一人のイエロー生のデッキ構築の相談を受けている。
プライドとの戦いの後、俺は医務室のベッドの1つを丸々一晩占拠。400キロの体重をよく支えられた物だと感心したが、髪の毛がベッドの淵から垂れ下がっていた。最後の爆撃の時に金属を髪の毛に集中したので、こうして髪だけベッドに乗せなければベッドに壊れる程の負担はかけないという訳か、と納得したのは余談だ。
あの戦いの後、このアカデミアを去ろうかと本気で考えた。何故かって?
当然だろう? こんな人間じゃ無い化物を仮にも教育機関においておく訳にもいかないでしょうが。教師は生徒の安全を図る以上、俺みたいなモンスターを排除する風に考えるのが普通だし、生徒だって人間じゃ無い奴と仲良くしたり、机を並べたりするのは嫌だろうしな。
でも、なんつーか、ここの奴らは一風変わってるな。俺と
レッド、イエロー、ブルーと階級に関わらず、更には教師陣まで肩を持ってくれている。
はっきり言って、とても嬉しい。転生前はこの力は片鱗でも見せると気味悪がられ、街中も自由に闊歩できなかった。冗談でも作り話でも無く、研究機関の手が伸びて来た事もあったな。
「止め! 『F・S マグマドラゴン』でダイレクトアタック!」
もちろん、デュエルの相手も頼まれる。シンクロとエクシーズはこの時代に無いからね、もの珍しさかな。
「チクショー、負けたぁあああああああっ!」
「おんのれ、バケモンがぁアアアアアアアアアアッ!」
デュエル挑むのは俺を嫌っている奴の方が多いけどね。あーあー地団太踏みまくっちゃって。
負けたからってどうこうなるってモンじゃあ無いと思うけどなぁ、俺も相手も。
……、勝者の言い訳、かな?
――夜・廃寮
「ぬぅうううう、バレてしまってぇは、仕方が無いぃいいいいっ! 逃げるのみだぁ!」
今? タイタンと十代のデュエルの途中。で、イカサマがばれてタイタンが逃亡図るトコ。十代、そして原作と違って俺も排除の対象らしい。
目的は十代を止める事。逃亡を許せばタイタンが闇に飲まれる事も無いだろう。
うん、若本ボイス? 俺は好きだけど今は関係無いよ。
「待てぇ!」
「待つのはお前だ、十代」
追い駆けようと走り始めた十代の肩を掴む。
「な、何でだよ、黎!」
「深追いする必要は無い。明日香は無事だし、お前の『フェザーマン』はあいつが走り出した時に地面に落ちた。
追い駆けても得なんざ無い。ここは明日香をつれてこの廃寮から撤収しよう。見つかると面倒だ」
「……、分かったよ」
良し、タイタンもこれで安全だろう。セブンスターズに代わりに誰かが入るだろうが、それならそいつを倒せば良い。
そう思った時だった。
ゴウッ!
『!?』
眩いばかりの光が部屋中に満ち溢れ、ウジャド眼が発生した。
何!? 何故だ! 何故、闇の世界への扉が開く!
「のわぁあああああああああああっ!」
「うわぁあああああああああああっ!」
って、考えている場合じゃ無い! 十代とタイタンが闇の世界に引きずり込まれちまった!
「「十代!」」
「アニキ!」
しょうがない、プラン2に変更だ!
「どりゃあああああああああああああああっ!」
ファイト一発、俺も闇の中に飛び込んだ。
「な、何だこいつら!?」
飛び込んだ場面、それはあの『ダブルコストン』みたいな黒い奴らで周囲が埋め尽くされている所だった。
ダブルコストン(効果モンスター)
星4
闇属性/アンデット族
ATK 1700/DEF 1650
闇属性モンスターを生け贄召喚する場合、このモンスター1体で2体分の生け贄とする事ができる。
「十代! どけぇ、『ダブルコストン』もどき共がぁあああっ!」
「黎!」
素早く体にあの炎の力を流し込み変身すると、赤色の炎でウネウネ動く何かを焼き払った。ついでにタイタンの口の中に入ろうとしていたヤツも焼く。
「うあぢぃゃあああああああああああああああああっ!」
「我慢しろ、大の大人が!」
このくらいは自業自得なので、勘弁願うぜ?
「黎!」
「遊ぅ馬崎ぃ黎ぃ!」
「何してんだ! さっさとデュエルの続きをやりな! 多分こいつらはイカサマの闇のゲームに対して怒っているんだ! だったらデュエルが終われば、少なくともどっちかは解放される! 負けた方は俺がどうにかする! 早く続きを!」
こいつらが襲って来る理由はどちらかと言うと、闇のゲームの研究の残滓みたいなものがデュエルに反応して出て来たんだと思うんだが……、今は説明している暇が無ぇ!
「う、分かった!」
「“パワー・エッジ・アタック”‼」
「ぬぉおおおおおおおおっ!」
タイタン:LP 0
十代のE・HEROの最上級アタッカー『エッジマン』のブレードにより、タイタンの『スカル・デーモン』を戦闘破壊。その貫通能力でフィニッシャーとなり、デュエルが終了した。
途端、グネグネグネグネと黒いアレ(ゴキに非ず by黎)がタイタン目掛けて動き出し、十代の後ろに光る出口が発生した。
「十代、その出口から脱出を!」
「黎は!?」
「あのイカサマ師を助ける!」
十代をゲートの方へ押し遣ると、俺はタイタンの方に走る。
「く、来るなぁ! 来るなぁああああぁっ!」
尻餅をついたタイタンは必死に黒いアレを払っているが、ジワジワと包囲網は狭まっていく。
悪いが、黒いの。そいつをテメェらのエサにする訳にゃあいかねぇんだよ!
「そこまでだ、ってな! 喰らえ、“
グワッ! と焔の拳を振るい、紅蓮の炎で作った拳であの黒いのを殴り飛ばす。技名が無いのも寂しいので、ちょっとした遊び心でつけてみたんだが、これはハマりそうだな。
「お、おう? 助けてくれたの、かぁ?」
「後にしてくれ! 今は脱出が先決だ!」
「分ぁかったぁっ!」
タイタンを強引に引っ張り起こし、『ダブルコストン』もどきを炎で牽制しつつ、やや小さくなったゲートへ向かう。
その時だった。
『グビョォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「「!?」」
俺とタイタンの間に黒いのが集まり、デッカイ『ダブルコストン』もどきになった。テメェらはドラ○エのスライ○か! そんであのデッカイのはキング○ライムなのか!
「っとと、ツッコミ入れてる場合じゃ無えな。タイタン、先に脱出してくれ!」
「お、お前はどうするのだぁ」
「後から行くよ! はぁっ!」
腕から炎を噴出し、デカイ黒い奴の注意を引き付ける。
タイタンがゲートから脱出するのを見届けると、俺は右に跳び込み前転の要領で身を投げた。
だが、このデカイのは俺をターゲットと見定め、口からヘドロみたいな黒い塊を吐き出して来た。
「おっと危なっ! こんの……、ラァッ!」
咄嗟に踵からジェットのように炎を噴出して回避する。そしてそのまま炎の槍を投擲。しかし、効果が薄い。
怯まずに連続して炎を噴出。隙を見てはゲートに近づくが、デカイのもモゾモゾと動いて進行方向を邪魔してくる。
……どうやらコイツは俺を外に逃がしたくないらしいな。上等! だが倒す必要は無し、逃げるのみだ!
『黎! もう出口が!』
『黎くん!』
『黎ぃ!』
十代達の悲痛な悲鳴に光の扉を見れば、半ば閉じかけている。急がないと!
「“
素早く二本の刀を生み出し、炎を纏わせて縦回転で跳び上がりながら斬りつける。
そのまま勢いを利用してゲートの前に着地する。
『ジョォオオオオオオオオオオオオオッ!』
「な!? うわあぁっ!?」
しかしあの黒キ○グスライムはいつの間にか生やしていた腕を使って俺を殴り飛ばした。幸いにも咄嗟のガードが間に合ったが、また出口から離れてしまった。
こうしている間にも見る見るゲートが小さくなっていく。
「クソッ、タレがぁああああああああああっ!」
このままチンタラしてたら二度とこの世界から出られなくなっちまう!
かくなる上は特攻! もうあのブラックキングス○イムをぶち抜いてでも突っ切って脱出してやる!
と、思ったんだが……。
バチバチバチバチ…………、シュン。
「げ、時間切れ!?」
そう、この変身はウル○ラマンみたいなタイムリミットがついているのだ。やっべぇ!
『ノグルァアアアアアアアアアアアッ!』
「うっげげぇっ!」
マジですか!? ここでゲームセット!?
ヤバいヤバいヤバいヤバババババババー!!?
「レェイ!」
『クリクリィ~!』
じゅ、十代!?
突然十代がパートナーのハネクリボーを率いてゲートから飛び出して来た。大きくなっても怖いらしく、ビッグ『ダブルコストン』もどきは十代とハネクリボーに近寄れない。
「早く! 出口が無くなっちまう!」
『クリ~!』
「助かった、ありがとう十代!」
抉じ開けたらしく、また広がったゲートを俺達2人と1匹は急いでくぐり、闇の空間から脱出する事に成功した。
フー、やれやれ。どうなるかと思ったぜ……。
――明け方・廃寮前
「何故、私を助けたぁ…………」
夜が明けた廃寮の前、地面に座り込んだタイタンが力無く問いかけて来た。
んん、とっても簡単な事だと思うんだがなぁ。
「何故って、誰かを助けるのに『助けたい』以外の大それた理由がいるのですか?」
「違う、私はお前達に危害を加えたいわば敵だぁ。何故『助けたい』などと思えるのだぁ! 第一、お前は危うく死にかけたでは無いかぁ!」
んー、そんな事言われたって、確固たる理由も崇高な目的もあったモンじゃ無いんだぜ?
確かに十代が助けに来てくれなかったら俺はあの闇の空間でタイタンの代わりにセブンスターズになってかもだけどサ。
「別に深い考えは無い。ただ何と無く、理屈抜きに『助けたい』と思っただけです。誰かを助ける動機なんて、そんなモンで十分でしょう?」
「……、フフフ。甘いな、アマちゃんだなぁ、遊馬崎黎よぉ」
はは、甘い、か。
「確かに、命を捨てて誰かを助ける理由が『助けたい』だなんて、アマちゃん以外には無いわね」
「あ、明日香……」
「というか、アニキが助けに行かなかったら黎くん危なかったんスよ! 解ってるんスか!?」
「翔……、解ってるよ」
お前ら……。
「済まない、心配懸けたらしいな。そして十代、ありがとう」
「私からも礼を言わせてくれぇ」
のそり、とタイタンが立ち上がった。カチリ、と仮面を取りポケットにしまう。
中からは中年の男の顔が出て来た。ゴツいが、表情は優しい。
「お前達のお陰で目が覚めた、ありがとう」
「タイタン……」
「お嬢さん、遊城十代、危害を加えてしまってすまない」
意外にもしおらしくなったタイタン。いつの間にか俺達が彼のパラダイムシフトになってしまったようだ。
悪だけの悪人はおらず、善だけの善人はいない、という訳か。
ちょっと、嬉しいかな。
「こぉのサギ師のビジネスはぁ、たった今を以って終了とするぅ!」
「うん、それが良いと思います」
パンパン、と服の埃を払い、ポケットから1枚の紙を取り出した。そしてペンを使って何かを書き加えた。
「こぉれを持って行くと良い。今回の依頼人の名前が記された請求書だぁ」
「どうも。えーっと、
『クロノス・デ・メディチ殿
今回の依頼料、給料3ヶ月分頂き仕る。次第であったが、こちらの都合により仕事は中断。以降の接触を一切断つものとする。
なお、依頼料の支払いは不要と致す。
元・闇のゲーマー タイタン』」
『クロノス先生!?』
「クロノス先生がコレを仕組んだのか!?」
曖昧な原作知識と照らし合わせると、『元』がついていたり、『仕事は中断』なんてのが加えられている。
「ではなぁ」
「縁があれば、またどこかで!」
俺は朝靄の中を立ち去って行くタイタンに手を振った。どこかで、もっといい奴になったアイツに出会える事を信じよう。
その一方で、明日香が十代の隣で憤慨する。
「信ッじられない、あの教師! 生徒をこんな危険な目に合わせたっていうの!?」
「有り得ない話じゃ無いよ、明日香」
「え?」
「明日香が巻き込まれたのは偶然だろうが、俺や十代を狙う理由だったら分かる。
あの先生は最後まで俺の味方をする先生方に難色示してたし、元々持っていたエリート思考の所為で十代の事をあんまし良く思ってなかったみたいだしな」
皆が肩を落として黙り込む。クロノス先生に対しての印象がガラガラと崩れていってるのだろう。
やがて、十代がポツリと呟いた。
「ちょっとショックだけど……、やっぱり俺、クロノス先生を軽蔑なんてできねぇよ……」
「十代! 分かってるの!? 貴方は下手したらもっと酷い目にあっていたのかも知れないのよ!」
ふふ、お人好しの十代と真面目な明日香らしいな。
この頃から二人の間柄は比較的他の異性よりかは近かったんだな。
「まあまあ、明日香。十代は別に間違っちゃいないよ」
「黎、あなたまで!」
「信じる、信じないは人それぞれだし、或いはクロノス・デ・メディチの名を騙った偽物かも知れない。
それにこういうお人好しの十代の性格は悪い物じゃ無いさ」
それは、そうだけど……。と口籠る明日香。やれやれ、このまま言い合っていても実入りは無さそうだ。話を切り替えるのが得策だな。
「それはそうと、この写真、お前の兄さんのモンか?」
「え?
! これは兄さんの写真!?」
懐から俺が取り出したのは茶髪の男性が写っている写真立て。ポケットには入らないのでワイヤーを生み出してお腹の部分に括り付けておきました。
「10JOIN、つまり十を
「黎、ありがとう……」
「写真を見つけたのは十代だよ。お礼ならアイツに、な?」
「そう、ありがとう、十代」
「良いって良いって!」
チュンチュン、と小鳥の囀りが聞こえ始めた。あらら、もう朝か。
「十代、翔、隼人。夜が明けちまった。流石にコイツを見逃してくれる程大徳寺先生は甘くないぞ。帰ろうぜ? ではまた学校で!」
「うわっ、ヤッベェ!」
「早く帰るッスよ、アニキ、隼人くん!」
「そ、それじゃあなんだな!」
パタパタ、と帰宅する俺達。
その後ろでの会話を、俺はしっかりと聞いていた。
SIDE:明日香
全く、面白い男ね。
片や、子供のように無邪気で人を惹き付ける。
片や、大人の様に冷静で未知の力を持つ。
「遊城十代に、遊馬崎黎、か」
「明日香~!」
呼ばれて振り返ると、中等部からの友人のフィオが駆けて来た。
マリンブルーの瞳にライトブラウンの髪。そして、遊馬崎黎に思いを寄せている子。尤も、本人は気付いて無いだろうけどね。
「どうしたのさ。一晩中帰って来て無いって聞いたけど」
「ううん、何でも無い。ちょっとトラブルに巻き込まれただけよ」
「十分何でもあるからね、それ」
そうかもね、とここは適当に誤魔化しておく。
さて、帰りましょう。今日も授業があるからね。
「寮に戻りましょう? 朝ご飯に間に合わなくなるわ」
「あ、ちょっと明日香ぁ!」
SIDE:黎
「ん、ぐぅ~……っ」
グッ、と体を伸ばす。ざっと1時間ちょっとは眠れたかな。その気になれば3、4日は眠らないで済むから、睡眠時間としては十分だ。
「はぁ……」
にしても、力不足を痛感せざるを得なかったな、アレは。
俺がもっと強かったら、或いは炎以外の別の力を持っていたら、十代に助けてもらう事無く、自力で脱出できただろうな。
この先、あんなラッキーが訪れる可能性は無に等しい。十代に頼りっぱじゃ原作に影響が出るだろう。そうしてその辻褄合わせや余波がこちらに来たら取り返しがつかなくなるだろう。そうなれば都を取り戻す事はますます難しくなる。テメェの弱さの所為でゲームの難易度上げるとか、笑えねぇっつの。
……やっぱり、パワーアップだよなあ。単純に炎のデッキを強化するんだったら『ネクロ・ガードナー』みたいな別のカードを入れてやるっていう方法がある。でも、飽くまでデッキの主体が“炎”ならそれじゃ解決策にはならない。主力を抑えられたらデッキの力は格段に下がる。
炎以外の力が必要だというのは確実だろうな。
ところで、何か忘れているような気がするんだが……。
ゴンゴン!
『査問委員会だ! 遊馬崎黎、そこにいるのは分かっている、大人しく出て来い!』
朝っぱらから煩い声が響き渡る。
ああ、そっか。忘れていたのはこれか。
to be continued