遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
―――港の灯台付近
SIDE:黎
「海に?」
「はい。私もあれから気になって万丈目くんの行方を調べていたんですニャ」
そしたら今朝のうちにこの島を出て行ったそうですニャー。そう大徳寺先生は続けた。
そうか、無事に原作通りに進んだか。
海の果てに一隻の船が見えた。この距離では残念ながら俺でもよく見えないが、あれがそうなのかも知れない。そんな事を少しだけ考えた。
「きっと万丈目もどこかでこの空を見ているさ」
「アニキそれはちょっとクサ過ぎッス」
「あはは、やっぱりそうか?」
あはははは、と笑いが漏れる。この平和を、
俺は今、世界の為に、そして何より都を取り戻す為に戦っている。あいつが苦しい思いして待っているのに、俺だけこんなところで笑って過ごす訳にはいかない。
だから俺は一歩後ろに下がった。その場に留まっていたら、きっと幸せに包まれてしまうから。世界に復讐する前に、この幸せを受け取ったら、もう復讐の事なんて考えられないだろうから。
そして、この一歩がこの後の明暗を分けたのかも知れなかった。
「!」
突然に感じた、あの気配。ネットリして生温かいスライムのような、胃の中に溜まったドブ川の汚水のようなこの不快な感触。
近い!
辺りをキョロキョロと見回していると、不審に思ったフィオが俺に話しかける。
「黎? どうしたの?」
『マスター、近いです!』
「え!? い、いや黎から2メートルくらい離れて……」
『違います! 邪神の気配です!』
そのフレイの言葉でやっと俺の行動に合点がいったのか、フィオも感覚を研ぎ澄ませて周囲を見回す。
流石に二人も何かを探す行動をすれば疑問に思ったのか、皆もこっちを向いた。
そして、とうとうその場所が分かった。
「ニャ? 黎くん、何を探して」
「大徳寺先生、伏せろぉぉおおおおおおっ!」
「い、ヒィィッ!」
ブゥン! と気合一閃、生み出した刀が空を斬る。タッチの差でしゃがんだ大徳寺先生の頭のあった場所で俺の黒い刀とあの黒い双刀がぶつかり合った。
ガキィン!
「チッ! 外しましたか、死に損ないの分際で邪魔してくれますね!」
「不意打ち、しかも俺自身を狙わないとはね。ご大層な名前のクセして誇りとかは全然無いんだな、プライド!」
「い、言ってくれますね……! こっちは貴方を殺せれば良いんです、正々堂々やる必要性は全く無いのですよ!」
そう、空間からいきなり飛び出し、大徳寺先生ごと俺を斬殺しようとしたのはあのプライドだった。
今日も黒いテンガロンハットに黒いマント、黒目黒髪と、全身真っ黒だ。
「ああぁっ!」
「お前は!」
「この間黎を殺そうとした奴!」
翔、十代、フィオの叫びにプライドは不気味に笑って正解、と答える。
「ククク、この間までは別にほっといても良かったんですがねぇ。ですが先日、精霊界に侵攻した時、貴方が邪魔してくれたお陰で邪神様の消費した力に見合う結果を得られなかったのですよ。
おまけに新しい力も得た。これでは我々の邪神様が復活するのに邪魔である以外の何者でも無い。故に……」
「排除しに来た、か?」
「その通りです」
はん、それなら話は早い。
油断無く俺は双刀を生み出して構える。
「フフフ、私に剣技で敵うとでも?」
「減らず口を利く前に構えたらどうだ?」
挑発には挑発で返す。この男にはそれが一番良く効く。
そっと後ろを向き、皆にウィンク、更に顎で港の入口の方を指し示す。これで大体伝えたい事は伝わったハズ。
(コクリ)
どうやら伝わったようだ。大地と明日香が頷き、皆をそっと誘導する。OK、ありがとな。
(明日香!? どうして逃げるの!)
(シッ! 静かに。ここにいたい気持ちは分かるけど、それは彼の邪魔になるだけよ)
明日香が今にも飛び出しそうなフィオを押し留める。
(天上院くんの言う通りだ。黎はこのままプライドと真っ向勝負に持ち込むつもりなんだ。ならあそこにいても人質が関の山だ)
(なるほど、さっきの大徳寺先生みたいになっちゃう訳ね)
(酷いニャー! 私は人質になってないニャア!)
(黎くんが助けてくれなかったら、今頃先生首から上が無かったッスよ!)
ジュンコの言葉に大徳寺先生が涙目になって抗議するが、翔の言う事も最もだと思ったのか、押し黙ってしまった。
「ふ、今度こそ冥土に送っておげますよ!」
「断る! 死ぬんだったらテメェが死んどけ!」
プライドは双刀を1つに重ね合わせ、1本の分厚い剣に変えた。双剣同士の戦いでは決着をつけにくいと判断し、ああして別の武器にしたのだろう。
邪神復活が遠のき、焦っている証左だ。得意の分野で確実な勝負を持ち込まず、目先の勝率に手を伸ばした。
「ぬぇや!」
気合を込めてプライドが真上から剣を振り下ろした。
これを俺は後ろに引いて回避すると、右の刀を振るう。体をのけ反って回避されたので続けて左も振るう。
「はっ!」
「らっ!」
左の刀を跳んで躱したプライドは真上から重量を込めて剣を叩くように振り下ろす。これは双刀をクロスさせてガード。
そのまま交差を解く段階で跳ね飛ばし、距離を一気に詰める。右の刀と剣がぶつかり合ってまた距離が離れ、今度は再び刃同士が均衡を保つ。
至近距離で互いを睨み合う。改めて見るとこいつの顔は吐き気がする。嫌味でも何でもなく、生理的嫌悪感を呼び出すような顔の作りだ。いかにも「オレ様は偉いんだから敬え愚民」とでも言っているかのように見える。
「はぁっ!」
再び跳ね飛ばし合って、今度は俺が斬りかかる。狙いは奴の頭。
だがプライドはこれをしゃがんで回避し、逆に俺を空中に蹴り飛ばした。空中コンボのように連続で俺の体が空中で蹴られて踊る。ってか、空中コンボ決めるヤツなんて21年生きてて初めて見たぞ、俺。
「ぐっ!」
全て金属で覆った皮膚でガードしたが、落下のダメージまでは殺しきれなかった。
撃墜した俺を、一瞬遅れて着地したプライドが冷ややかに見る。
ペッ、と口の中に入った砂粒を唾液ごと吐く。
「やるな」
「褒めても何も出ませんよ」
「元より期待して、いない!」
ブン! と左の刀を空振ってフェイントし、逆の腕で持つ本命の刀、つまりは右の刀を目一杯振るう。
ギュォォオオオオオオオッ! と空色の閃光が放たれ、ビーム砲のように至近距離でプライドに当たった。
「“
「な!? ぐへあっ!」
虚を突いた攻撃が炸裂し、プライドは派手に吹っ飛んだ。
「どうした。相手は精霊の力を持ってるんだから、このくらい予測しな」
落下途中に風の力を体に流し込んだのは正解だった。落下ダメージを最小限に抑えられ、太刀筋に合わせて風の塊を撃ち出せた。
「こ、のぉ!」
「休ませはしない!」
刀を一瞬で収納し、代わりに取り出したのは真っ赤な鞭。
これを振るってプライドの周りを一周させて取り囲む。勢いが残っているので、空中で静止しているように見える。
「なんですか、これは。こんな虚仮脅しで私が」
「“
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「えぎゃぁあああああああああっ!」
こいつはただの鞭じゃ無い。細かい爆薬が仕込んである爆弾でもある。
これを“風破閃斬”に奴が怯んでいる隙に炎の力に交換した精霊の力を使って爆発力を強化した。俺の手元から少しずつ強くなる小爆発が起こり、奴の元に向かう頃には岩をも吹き飛ばせる大爆発になっているという寸法だ。
「見下すのは勝手だが、それで痛い目見てちゃぁ世話ねぇな」
「ぐ、こんのぉ……!」
ギン! と殺気を込めた視線で睨みつけるプライド。こちらも殺気を込めて睨み返す。
「そっちがその気なら、私も奥の手です!」
スゥ、とプライドが大きく息を吸い込むと、その体が大きく膨らむ。2倍、3倍、4倍……。更に体の形まで変わって来た。細く、長く、目は8つに増え、赤く凶暴な光を宿している。
背中には翼が生え、腕と足がトカゲや蛇のそれに変わる。ついでに角も生えた。
そして若干浮いているようだ。翼は動いていないので飾りかも知れない。
それは見上げる程大きな、赤黒い竜だった。
「……古来より竜は東洋においては神聖視され、西洋においては邪悪なものとされた。成程、お前らの由来がキリスト教における“原罪”なら、竜という邪悪な姿を持っているのも頷ける」
何よりの特徴はその翼だ。二対四枚の大きな翼は、まるで闇に染まった天使の羽根だった。
「世界創造の時、熾天使ルシフェルは天界に刃向ってその座を剥奪され、大天使から堕天使に堕ちた。そして悪魔になったそうだ。故にルシファーは悪魔の王でありつつも堕天使。そして七つの大罪の一角、傲慢を司る。お前のその四枚の翼が、自分がそういう存在であると物語っているよ」
多少自分なりの見解が混ざっているが、概ね間違った事は言っていない。
プライドはその発言を無視して語る。
『覚悟は宜しいかな?』
「冗談。俺はまだ死なねえし、後ろの皆も」
短く切ると、俺は灯台を踏み台にして高く跳び上がった。奴が吐いた炎を体を捩じって回転しながら躱すと、身の丈を超える大斧を取り出した。
「死なせない!」
斬! 一閃して奴の額を叩き割る。言葉にできないような悲鳴を上げ、プライドが苦しむ。
そのまま風の力を使って空高く舞い上がる。
(COMMAND:Power Source CHANGE:WIND → GROUND + THUNDER)
頭の中で予めシミュレートしておいたコマンドを入力し、能力の変換を行う。戦場で一々考えてる余裕は無いので、こういった自己暗示による短縮化は大切なのだ。
空中で風の力を切ると、落下が始まった。このタイミングで地の力で鋼鉄を纏って重量を強化し、雷の力を使って全身の筋肉のリミッターを強制的に外す。
「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ! “
バチバチバチッ! と空色の雷を纏った足が、ライトグレーの鉄靴を装着した蹴りが、上空から未だ苦しんでいるプライドの背中に直撃する。
『グィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼‼』
「デカけりゃ勝てると思うな!」
巨体は海面に叩きつけられ、ブクブクと沈んでいく。あいつの吐いた炎はどうやら海面に当たったようで、辺りに薄い霧が発生していた。
ま、何にせよ皆無事のようで何よりだ。
「レーイ!」
「おう! 無事だったか皆!」
フィオを始めとした皆が手を振りながらこちらにやって来る。
「ヘヘヘ、勝ったね、黎」
「デュエルじゃ無かったけどな」
「アタシ、生まれる世界間違えたのかしら……?」
「大丈夫ッス。きっと神様のちょっとした悪戯ッスよ」
「
「さっきはありがとうですニャー」
「ニャー……」
皆が皆、一切の怪我無く俺を賛辞する。ファラオの眠たげな声も、今は平和の象徴みたいで気分が「おんのれ、このクソがぁぁぁぁあぁあああああっ!」……、一気に悪くなったよ。
海中から水気を吸って重くなった服を着つつもピンピンして生還を果たしたって、こいつ人間じゃねぇ! あ、人間どころか生き物かどうかも怪しいのか。
「プライド、生きていたか」
「勝手に殺さないでほしいですね!」
しかもまだ理性は健在。
「ぜぇ、ぜぇ……。奥の手を使ってこれとは……。まぁ構いません。貴方がデュエルで勝たなければ、私は何度でも生き返ります。私が負けさえしなければ事態は進展しない。然るに、私がデュエルを受けなければ、貴方は義妹の所に辿り着けない!」
「だが、お前は俺を殺さなくてはいけない。リアルファイトじゃ無理だった以上、闇のゲームで勝って命を奪わなくちゃいけない。違うか?」
「う!」
「プラス、このままスゴスゴと帰れば、邪神や他の七つの大罪に合わせる顔が無い。かと言ってデュエルで負ければお前は命を失うからできれば避けたい」
「ぐ!」
俺の指摘は確実に的を射ているらしく、プライドの気味の悪い笑顔がドンドン引き攣っていく。
俺はそれを内心で笑いながら止めを刺す。
「要するにお前は勝敗に関わらず、俺とデュエルするしか選択肢は無い訳だ」
「ぬぅぅぅぅっ!」
ダンダンダンダン! と地団太を踏むプライド。今回の心理戦はどうやら俺に有利に傾いているようだ。奴は今完全に理性を失っており、プライド(ややこしいが、こっちは“誇り”と訳せる方)にけしかけてやればこいつはますます取り乱すだろう。
「この! このこのこの! 人間の分際で! 化物の分際でっ!」
「人間の視点で見ればお前も十分に化物だ」
「キィイィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
地団太を踏むペースと強さが1段階ぐらいアップした。
暫くは何も聞こえないだろうと思い、今は冷やかな目で見下す。今まで人を見下した事なんて
やがて、少々落ち着きを取り戻したプライドは虚空に手を伸ばした。
ギュオォォォォォォォォォォォォッ! とその掌に闇が集まる。集まった闇は見覚えのある形を成した。ディスクとデッキだ。
「殺す! 殺します! 殺して差し上げます! 私の闇のデュエルで、骨肉も塵芥も残さずにぶっ殺して差し上げますよ!」
ガジャン! と展開したディスクは、どこか禍々しい。デッキからもとんでもない邪気、というか邪神の気配を感じた。正直、精神の弱い人間なら吐き気どころか狂乱しかねないぐらいだ。
「クラクラして来ましたわ……」
「アタシも……」
「僕もッス……」
現に後方10メートル以上離れているももえ、ジュンコ、翔には影響が出ている。
恐らく俺に影響が無いのは精霊の加護みたいなものがあるからだろう、結晶を秘めた胸の内側が少し熱い。
「もう少し離れよう?」
「奴の影響は、ここにいてもあるようだ。実際、俺も少々気分が悪い」
幸い、フィオと大地が更に奥の方へと誘導してくれた。精霊持ちの十代や気の強い明日香には変化が見られないが、他の皆は多少なりとも顔色が悪い。
プライドが空中に白いガラス玉のようなものを打ち上げた。風船くらいの大きさだろうか。上空10メートルくらいのところで停止する。
「無様な姿を島中に晒しなさい!」
懐のPDAの動画受信の着信音が鳴る。そこには俯瞰的な視点で俺とプライドがリアルタイムで映し出されていた。
どうやらあの球体はビデオカメラのようなものらしい。仕組みはよく分からないが、深く考えても仕方がないので、考えるのはやめておく。どうせ科学では証明できないし、物理と化学は文系の俺には上手く扱えない。
「さぁ、デュエルです!」
「受けて立つ」
ガシャン! とこちらもディスクを起動させる。そしてホルダーに入れておいたデッキを差し込んだ。
「ククク、前回、あれだけ痛い目にあったクセに、まだ私に勝てると思ってらっしゃるのですか。哀れ! あまりにも哀れですなぁ!」
「言ってろ。俺はもうあの時の俺じゃない。皆から力を分けてもらい、何段階も強くなった。もうお前如きには負けはしない!」
「ならば証明してみなさい!」
「望むところだ!」
パチンッ! とプライドが指を鳴らすと周囲に薄暗い闇が立ち込める。見通せない程じゃ無いが、それが逆に恐怖心を煽り立てる。
闇のゲームの、スタートだ。
『デュエル!』
to be continued