遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
──レッド寮から北へ約500メートルの位置・AM 5:19
SIDE:黎
「ふぅ、戻って来たか」
異世界でエンヴィーを撃破し、俺は元の世界へと帰って来た。私は帰って来た! とか言いません。故郷じゃねぇし?
天空一家との別れは寂しいが、避けられない事だ。きっと彼らも向こうでまた楽しくも輝かしい毎日を過ごす事だろう。俺にはそれを止める権限は無い。
気を取り直してワープの範囲外に置いておいた電波時計を見ると、ちょうどワープの翌々日の早朝だった。どうやら向こうで過ごした時間はこっち換算で数時間でも、ワープする際に時間がかかるようだ。時間にしてざっと1日半、停学として申請した日にちをジャストで消費した計算だ。
本来なら1日なんて時間を休学扱いにはできないのだが、その辺は校長先生の辺りが取り計らってくれるらしい。優しい先生だ。
「ん……っ」
パキパキ、と骨を伸ばす。今日は平日なので授業がある。早く自分の部屋に戻って支度をしないとな。
――アカデミア教室・AM 8:02
「おはよう、皆!」
『おはよう(ございます)(ッス)(なんだな)!』
教室に着くと、十代達は既に席に着いていた。
こういうやりとりは青春時代ならでは、だ。今の内に堪能しないと、大学ではこんな事はほぼ有り得ないからな。
「黎、大丈夫? 包帯巻いてるけど」
「大丈夫。出血はもう止まってるし、痛みも無い。昼には取れるさ」
授業が始まるまでまだ暫く時間がある。皆が興味津々といった様子なので、俺は早速、エンヴィーとの戦いを大まかに纏めて話した。
「と、まあこんな感じ」
「頑張ったんだね、偉いよ」
「ガキ扱いは止めてくれ、フィオ。これでも元々は21だったんだぜ?」
「遊馬崎さんはよくそんなデタラメなカードを相手にできましたわね」
「はは、オレだったら根をあげていただろうな。研究しても勝てるものじゃなさそうだ」
「流石だな、黎!」
「ありがとな。2つ目の鍵は開いたし、明日の夕方にまた出発する予定」
キュイン、と右掌からホログラフが現れる。魔法陣の円に5つの閂のような物があるその見た目は、エンヴィーを倒した後、こちらに戻って来て暫く経った時に現れたもの。閂が差さりそうな跡が2つ存在する事から、恐らく護衛を1人仕留めるごとに1つ外れる仕組みなのだろう。
何故今まで現れなかったのかは不明だが、もしかしたら転送用の魔法陣が関係しているのかも知れない。『コザッキー』や『ブラッド・マジシャン』のお陰なら、菓子折りでも持って行くべきなのかな?
「はぁ、僕達がいる世界以外にもデュエルモンスターズが……」
「もしかしたら、あっちにも十代や翔がいたりしてな」
「おっ! そりゃ面白そうだな! 俺自身かぁ……、デュエルしてみてぇな!」
「アンタ、いつもそればっかりなのね……」
「まあ、それが十代なんだな」
少年のワクワクの心で目をキラキラさせる十代にジュンコが半眼で突っ込む。隼人のフォローも入るが、微妙になってないような……。
キーンコーンカーンコーン
「お、授業が始まるぞ」
「席に着きましょう」
明日香の言葉に、俺達は三々五々、席へと着きに行った。
今日の6時限目は大徳寺先生の錬金術だ。
化学の基礎となった錬金術は、やっている事こそ中世のそれだが、同時進行で現代の化学もやっている。
卑金属、つまり銅や鉄を金や銀に変えるのが錬金術。馬鹿にするなかれ、中世のその試みが無ければ現代化学は確立しなかったのだ。
キーンコーンカーンコーン
と、ここで授業終了のチャイムが鳴る。
「それでは、これで今日の授業は終わりなのニャ。宿題は無いので、しっかり復習するようにして下さいニャ」
大徳寺先生の言葉に、クラスの委員長が号令をかける。
「気をつけ。礼!」
『『『ありがとうございました!』』』
これで、本日の授業はお終い。鞄の中に教科書とノート、筆箱その他をしまう。
と、こちらに何人かが歩いて来た。
「こんにちは、遊馬崎くん。今日もお願いします」
深緑の短髪にワインレッドのフレームの眼鏡の少女。学年委員の委員長と風紀委員を務め、見た目からも役職からも通称は“委員長”、原麗華。
「ボウヤのお陰で色々と強くなれた、いつでもシましょう?」
藤色のツインテールに色々とアダルティな発言。体の成熟具合も、一部のファン層の言葉を借りれば“大人のお姉さん”。“ゆきのん”のあだ名を持つ、藤原雪乃。
「え、と、じゃあお願いします」
おろおろした話し方で常に自信無さげ。ショートカットでやや影が薄いというのが目下の悩みのタネである恐竜使い、宇佐美彰子。
この他、人気ランキングの上位ランカーである爽やか系(後に英語を混ぜたイヤミ系)ブルー男子の田中康彦や誤解の多い正統派ツンデレキャラ(本人は否定)のツァンディレ、明るく朗らかなブラウンのショーカット少女の加藤友紀など、様々なメンバーが俺の周りに集まって来た。
放課後の教室の使用は自由だったし、それじゃあ。
「オーケー、始めよう」
始める、といっても別に如何わしい事をする訳では無い。というか、カタブツで融通が利かない委員長がそんな事を承認する事は有り得ない。
ちなみにこの事を本人に言うと、
「確かにそうですね。まあ百歩譲って、行為そのものは自己責任として見逃しますかも知れませんが、校内では絶対に認めません」
との事だ。思ったよりも融通が利くんだね。
そしてこの後、
「私にも好きな人くらいできるでしょうからね。自分の首を絞める役職である事は認めますが、絞めすぎて窒息死してしまっては本末転倒ですから」
らしい。序に言うと、この後「乙女に何を言わせるんですか///!」と怒鳴られた。いや、自爆ですよ原さん?
そんな彼女であるが故に、風紀を無視する藤原や協調性の無い(というか素直に協力姿勢を取れない)ディレとは相性が悪い。
さて、話がズレたが、何を始めるかと言えば、自習だ。
「つまり、儀式モンスターや融合モンスターは、正規の方法で1度特殊召喚しないと、墓地から特殊召喚はできない。この制限を“蘇生制限”と言います」
そう言ってディスクのプロジェクターの映像を拡大(勿論、普通のディスクにはこんな機能は無い。自力で改造した)して説明する。
事の始まりはプライドとの初戦の後、デッキ構築のアドバイスやカードについて色々な人に享受していたところ、授業に復帰した際の放課後にも教えてほしい人が殺到。保健室に入室制限がかけられていたらしく、本当はこんなに教えてほしい人がいたのかと、あの時は少々度肝を抜かれたものだった。
で、俺からアドバイスを貰った人達が次々とデュエルで好成績を収めているため、俺に教わる=強くなれるという方程式が生まれ、いつの間にかかなりの人数の教え子ができてしまったのである。
そんなワケで、1日に30分程、男女や階級の区別無く俺はこうしてカードの講義をしているのです。いやはや、生前にwikiを何度も見ていたお陰で色々と知識がついたよ。うん、wiki万歳。
「それじゃ、今日最後の問題は昨日やった『王宮のお触れ』についてです」
王宮のお触れ
【永続罠】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。
「ご存じの通り、このカードは一切の罠の効果を無効にします。これと魔法カードを封印するモンスター効果を組み合わせたデッキが強力なロックです。加藤さんや石原さんが使っているのがそうですね」
皆の視線が加藤
これがハマりやすくて困る。僅か数ターンでロックが完成し、こちらの動きが完全に封じられてしまう事もある。
俺自身、彼女達の前に何度辛酸を舐めた事か。それでも『ならず者傭兵部隊』や『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』なんかを引き当てて毎度勝利する俺は褒められても良い。
「そして、こちらは『裁きを下す者-ボルテニス』と『冥王竜ヴァンダルギオン』。どちらもカウンター罠をトリガーに場に特殊召喚できるモンスターです」
ここまでは皆、理解できているらしく、理解の目をしている。
「実は、この2枚のカードの中で『王宮のお触れ』発動中に自身の効果で場に特殊召喚できるモンスターがいます」
この俺の言葉と同時に「え?」、「マジで?」、「知らなかった」、「相変わらずの博識だな」という言葉が返って来る。まあ、カードテキストに注目してその差異を知らないと知らない事だから当然だろう。
「さて問題です。どっちができると思います? それとも両方可能でしょうか? 或いは両方不可能でしょうか?」
ニヤ、と挑戦的に笑う。あっちこっちで騒めきが生まれ、喧々諤々の論議が進む。
耳に入るのは「きっと引っ掛けで両方ムリだ」、「いや、逆の可能性も……」、「誰か、『ボルテニス』と『ヴァンダルギオン』持ってない?」、「誰今アタシのお尻触ったの!」、「何故オレを殴る!」、「普段の行いを考えなさい!」、「難しいですわね……」などなど。
……何か痴漢がいなかったか? 或いは痴話喧嘩。
「それじゃ、そこまで! 自分が正解だと思う物に手を挙げて下さい!」
教室に響き渡る俺の号令に、少しずつ喧騒が収まって行く。静まり切ったタイミングを見計らって4択の内の1択目を出す。
「“両方できる”と思う人!」
パパパ、と数人が挙手。
結果として“両方できない”が半数以上、“『ボルテニス』が可能”と“『ヴァンダルギオン』が可能”が残りを半数ずつ分けた結果となった。
具体的にパーセンテージで言うと、こんな感じ。
両方できる 5%
両方できない 55%
『ボルテニス』ができる 20%
『ヴァンダルギオン』ができる 20%
なお数字は適当なので、悪しからず。(ェ
「正解は“『ボルテニス』のみ可能”です!」
プロジェクターに拡大した『王宮のお触れ』、『ボルテニス』、『ヴァンダルギオン』のテキストを映し出す。
裁きを下す者-ボルテニス(効果モンスター)
星8
光属性/天使族
ATK 2800/DEF 1400
自分のカウンター罠が発動に成功した場合、自分フィールド上のモンスターを全て生け贄に捧げる事で特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した場合、生け贄に捧げた天使族モンスターの数まで相手フィールド上のカードを破壊する事ができる。
冥王竜ヴァンダルギオン(効果モンスター)
星8
闇属性/ドラゴン族
ATK 2800/DEF 2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。
「ここに記されている通り、『王宮のお触れ』はあくまで“罠カードの効果”を無効にするカードです。『ヴァンダルギオン』は“カウンター罠で相手のカード効果を無効にする”事が特殊召喚の条件なのに対し、『ボルテニス』は“カウンター罠を発動する”事が条件です」
教室を見渡すと、納得して頷いている人と、首を傾げている人がそれぞれ半々といったところか。
「『王宮のお触れ』は“効果”は無効にしますが、“発動”に干渉する事はできません。つまり、“発動”そのものがトリガーの為、『ボルテニス』は例えカウンター罠を無効にされても特殊召喚できる、というワケです」
このセリフで漸く納得してくれたのか、あちこちで感心の声が上がった。
時間を見ると、開始からざっと30分。良い頃合いだな。
窓の外もカラスが鳴いている感じの夕焼けとなっているし、もう締め括っても大丈夫だろう。
「それじゃ、今日はここまで~!」
「起立! 礼!」
『『ありがとうございました』』
……言うまでも無いとは思うが、号令をしてくれたのは委員長こと原麗華嬢だ。俺は別に先生じゃないから、こんな改まった号令は要らないと思うんだけどな……?
ワラワラと皆が席を立つ。この授業もどきで友達ができた人もいるらしく、俺に感謝して来る人もいた。
ま、俺みたいな化物が誰かの役に立てるのなら本望さ。俺の事を拒絶しない人達がここにいる。原、藤原、ディレ、加藤、田中、勿論の事十代や翔、フィオだって。
ちょっとだけ、幸せだ。
だから俺はこれ以上の関係に進むのが怖い。これ以上先に何が待っているのかが全く分からないからだ。
得体の知れない物や未知には誰しも恐怖する。俺とて例外では無い。
臆病者と罵ってくれて構わない。俺はそれでも怖いと思い続ける。
違うな。未知の何かと戦う事は怖くない。俺が本当に恐れているのは幸せに馴染む事だ。
今、俺は都を救う為に動いている。でも、もし今のこの幸せな状況に俺だけが甘んじ続ければ、この絶望と不幸で凝り固まった決意はすぐに崩れてしまうだろう。
人の心は、性格は過去の経験の産物。俺は他人を不幸にさせたくないが為に動く。でも、それは回り回って俺にやって来る幸運を享受したいからという打算の裏返しでもあるのだろう。
言い換えれば、俺は自分が幸せになりたいが為に他人に親切にしている。
でももし、今俺が欲しかった“普通の人になれる”という幸せを手にしてしまえば? そうなれば決意は揺らぐ。所詮、人間は自分の身が可愛い存在だ。自らに危険が及べば弱腰になって身を守ろうとするだろう。
俺がもしそうなれば、都を助けるなんて夢のまた夢。否、その夢の中の幻の蜃気楼。実体は無く、掴む事も叶わず、記憶する事すら叶わない。
……俺の決意なんて、所詮は砂の城だ。水で固めただけの、蹴り飛ばせば跡形も無く崩れて消え去る、脆いものだ。
そもそも、俺がこんな決意をしたのは、人に親切にしようと思ったのは、世界を呪ったからだ。
『何であたし達ばかりがこんな目に合うの!』
都と手を取り合って、傷を舐め合っていた毎日。互いを守り合うだけの力も無く、ただただ怯えて、脅して、吼えて、血に塗れて。
『俺達が何をしたって言うんだ! そんなに俺達が憎いかよ!』
世界に向かって吼えて、呪って。それでも現状が変わるはずも無く。
無気力になりかけていた、ある日の事だった。
『ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!』
何でそんな事をしたのか、今でも分からない。
あの日、俺は近所の女の子が空高くへ飛ばしてしまった風船を、都は車道に落してしまった人形を車に轢かれる寸前で取ってあげた。その時、髪の毛を伸ばして風船を取り、都に至ってはすぐに治ったものの片腕の肉の一部が欠けていた。
それでもその少女はお礼を言ってくれた。俺達が化物だと理解した上で。
伸びる髪で、尋常じゃ無い速さで治る体で、それでも彼女は恐れずに俺達に感謝してくれた。
『お義兄ちゃん』
『ん?』
『温かいね、心』
『ああ。俺達のやる事、見つかったな』
たった一言の感謝で、俺達は生きる道を見つけた。あの暖かい感触の為に、世界に復讐する為に、俺達は色々な人達を助けてあげて来た。
だというのに、世界は俺達に非情な死をもたらした。あの時、俺の心は完全に死んだ。朽ちて滅び、悲しみすら感じない程に打ちひしがれた。
1度死んだ時、誰かに優しくしようという思いは消えた。色々な人に優しくして、親切にして、時には文字通り命や身を削って、それでなお俺達は報われなかった。あの先、もし一命を取り留めて生き続けていたとしても、俺達に待つのは不幸だけだっただろう。
何故? 俺達はあれだけの事をやって、何故恩を仇で返す様なマネをしたんだ、世界よ。
苦しかった。
ただ、救われたかっただけなのに、何1つ報われずに死んだ。
生まれは確かに悪かっただろう。人間として成立しない化物のそれだったのだろう。
育ちだって決して良くなかっただろう。都も俺も、何度この手を血で染めたか。
それでも俺達は全てが悪ではなかったのだ。
だから俺達は善意に善意で返す事を決めた。
なのにたった1度、人生に失敗した程度で、化物の寿命が尽きた程度で、俺の決意は崩壊した。当たり前かも知れない。化物と俺は同一だったのだから。
だからこそ、俺は転生したら、とことんまで人に冷たくし、孤立しようと考えてもした。その証拠に、当初俺は都さえ見つかれば、あいつさえ助かれば、こんな世界どうなったって良いと思っていて、だから世界平和は二の次だった。ヘラヘラと軽薄に、面倒事が起きたら逃げようと……。
でも、こっちの皆は温かくて、俺はついここに心の拠り所を見出してしまった。当初は利用するだけ利用し、切り捨てる事も考えていたのに。
俺の決意は、いつも脆い。新しい決意は消え去り、また誰かに優しくするという弱い心の元に生きる事となってしまった。
俺は、どうすれば良いんだ?
答えが出るはずも無い問いは、虚しく、そして儚く俺の心の中へと散っていく。
俺は物思いに耽る事を止め、現実世界に目を向ける。ちょうど1人が扉に手をかけた瞬間だった。
「おらぁ! 邪魔するぞ!」
「うわぁっ!」
突然、乱暴に扉が開かれ、数人の男子ブルー生が入り込んで来た。そりゃもうズカズカという言葉がピッタリと合うくらいに。
「いた! テメェ、遊馬崎!」
あん? 俺が目的か?
唐突な乱入者に皆の視線が集まる。
「誰だ?」
「誰だ、だとぉ?」
ブルー連中の癇に障ったのか、連中の顔が怒りの色に染まる。
はて? 会った事あったような……、いや無かったな。デュエルした相手や、カツアゲを咎めた相手は片端から記憶してるんだが……。
「どなたですか、だろうが! レッドのクセして何で敬語使わねぇ!」
そっちかい。
「図に乗るなよ、化物風情が!」
「言いたい意味が理解できん」
突然キレられても困る。何に対して怒っているのかハッキリしてくれないと、こっちとしては対処のしようがない。
「うっせぇ! ンだこの場は! 教師気取りかゴラ!」
「別に。教えてほしいと頼まれて断らなかっただけだ。効率を考えればこの方法が最も大人数を相手にする事が可能であり、容易い。たったそれだけの理由だ。それに人の上に立つ存在になった覚えは無い」
熱い相手には冷静に返す。こっちまで熱くなれば相手を論破する事は難しいからだ。
が、俺のこの冷静さが気に喰わなかったらしく、奴らは更に逆上した。
「テメェ、その言い方ムカつくんだよ! 化物が、とっととこのアカデミアから立ち去れ!」
「死ねよ、今すぐ! お前に生きる権利なんて無いんだよ!」
「化物は化物らしく、どっかで首でも掻き斬られて野垂れ死んでろ!」
「醜いカスが! 人間様に刃向うんじゃねぇ!」
「今すぐ化物の巣に帰れ! アカデミアに化物の居場所はねぇんだよ!」
おーおー、酷い言われ様だな。
俺はもう慣れているのでサラッと受け流すが、他の皆は耐えられなかったらしく、ガラの悪いブルーに対して言い返している。
「言い過ぎだぞ! 遊馬崎に謝れよ!」
「その言い方は看過できませんね!」
「ボウヤ達、言って良い事と悪い事の区別もつかないのかしら……!」
「同じブルーとして恥ずかしいぞ!」
「人に向かってそんな簡単に死ねとか言うなよ!」
「君達には心っていうモノが無いのか!」
こちらの生徒は総勢で50人前後。対して乗り込んで来たブルーは10人に満たない。数の差は歴然。
が、彼らは階級というものを武器に楯突いた。
「黙れよ、レッドのクズ! イエローのザコにブルーの恥晒し共が!」
「大した実力も無いカス共がブルーのエリートであるオレ達に刃向うんじゃねぇ! 身の程を知れや!」
喧々諤々、瞬時に教室内は俺に教わっていたチームとガラの悪いブルーのチームに分かれて大喧嘩が始まった。
「第一人間として恥ずかしくねぇのかよ! このロン毛は化物だぞ!」
「それが何だ! 黎は仲間だ! 化物とか関係ねぇ!」
「黙れよレッド風情が! 化物に味方するテメェも人間じゃねぇ!」
「貴方達には気品というものが無いようですね! それでエリートとは片腹痛いです!」
「ハン、女にエリートが分かるか! 女は男に媚び諂ってれば好いんだよ!」
「待て! それは同じ男として聞き捨てならないな! この場の全ての女性に謝れ!」
「必要ねぇな! 女は片端からブルーだ! どうせ全員レッド並みの実力のクセによ!」
「あら、なら貴方達はレッド以下ね。着色すら烏滸がましい存在だわ」
「ふざけんな! オレ達はブルーのエリート! 選ばれた存在だぞ!」
「何を以て選ばれたというの! 人を見下す事しか能の無い奴らが威張らないで!」
俺は教壇で黙ってその喧騒を聞き届ける。が、次第に雲行きが怪しくなって来た。双方の間の溝がマッハで広がり、深まっている気がする。
それでも俺が介入すれば余計に拗れると思って静観を続けていたが、苛立った田中が1人のブルーの胸倉を掴み上げた。
「同じブルーとして恥ずかしい限りだ! どうしてお前達はそうやってイエローやレッドの彼らを見下す事しかしないんだ! 挙句の果てに善意で俺達に教鞭を取ってくれている彼の事をとことんまで蔑む! お前達にそんな権利があるのか!」
「黙れよ田中、このリア充野郎が! お前こそ選ばれた人間気取りでよぉ! 女にキャーキャー言われて嬉しいかよこのクソが! テメェこそ、ブルーのクセにレッドやイエローに味方しやがって! 恥を知れ、恥を! つーか離せボケがっ!」
お互いにヒートアップした状態、胸倉を掴まれたブルーが田中の顔を殴り飛ばした。
「うぐっ!」
地面に強かに体を打ちつけ、そのまま段差を転がり落ちる。
流石にこれは黙って見ていられなかった。
「田中! 大丈夫か!?」
すぐに駆け寄ると同時に、ブルー生が「うぼっ!」という間抜けな声をあげた。
「よくも田中くんを!」
「許さねぇ!」
田中の友人やファンがお返しと言わんばかりに殴ったブルーを殴り返したのだ。
「高田!」
「テメェらよくもやりやがったな!」
「先に殴ったのはそっちでしょ!」
「自業自得よ!」
マズいと感じ取った俺は桜を呼び出す。
「桜、田中の治療を頼む」
「御意のままに」
場は睨みあいから殴り合いに発展しかける瞬間だった。俺は水の力を使って指先から冷凍光線(というか固体化した窒素)を放ち、両勢力の間に大きく分厚い氷の壁を生み出した。
「うわぁっ!?」
「冷たっ!? 何コレ!?」
「こ、氷だ……!」
突如として出現した氷の壁に、皆が驚愕する。
一通り驚愕すると、髪の毛と瞳が青色に変色し、氷の壁に向かって指を差している俺に、皆の注目が集まった。肌の表面に出ている青い唐草模様も気を引く一因だろう。
「口喧嘩なら見逃した。が、殴り合いになるのなら話は別だ。それ以上は看過できねぇぞ」
桜に目配せをして、田中を背負う。そしてガラの悪いブルーの連中の前に立つと、殺気を込めて睨みながら言い放つ。
「ああ、俺はお前らの言う通りの化物さ。心臓貫かれても死なねぇし、体だって気持ち悪いくらいに改造できる。だが、それと彼らは関係無い。俺を恨んでここにいる皆に手を出すのはお門違いだ」
ビリビリビリビリ、と殺気による空気の振動が伝わり、机や椅子が震える。田中を後ろにいた桜に預けると、青色の髪と目のまま言い放つ。
「俺が憎いのなら直に俺の所に来い。他人に手を出すな」
暗に皆を傷つけるなと言う。俺は自分がどれだけ傷つこうが構わない。だが、彼らが傷つくのは我慢ならねぇな!
それに。
「第一、ここはデュエルアカデミアだ。白黒着けるんなら、
ガチャッ、と左腕のデュエルディスクを相手に見せる。
蔑むような視線を受けながら、
「18時に屋内のデュエルフィールドに来い。相手してやる」
自信満々に、己の絶対性を信じ、俺は宣戦布告をした。
to be continued