遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
SIDE:黎
パシュン! と光のゲートが閉じ、俺は次の戦いのステージに飛び出した。
辺り一面に木、木、木……。要するに森の中だった。しかも結構鬱蒼と茂っている。
「海の次は森か……。案外、山の中だったりしてな」
『さて、な。私からは何とも言えん』
今回は桜は実体化していない。森の中だから、草木の精霊であるこいつは喜びそうなものだが。そう尋ねると、珍しく不機嫌に(唇を尖らせているようにも見える。クールなこいつにしては、マジで珍しい)、
『見飽きた。森の中で何百、何千という月日を暮らしていたからな』
との事だ。
さて、それはさて置き、今の所、俺のサーチの範囲内には人間大の生物は、何も引っかかっていない。実を言うとコレ、かなりマズい。何せ、ワープした相手が何処にいるのか、何をしているのか、危険な目に遭っていないか、全く分からないのだから。
早く探しに行かない『うにゃぁあああああああああああああああああああああああっ!』と……。
「手間が省けたな」
「言っている場合か! 早く行くぞ!」
桜からツッコミを貰いつつ、俺は悲鳴の聞こえた方角へと走り出した。
SIDE:???
「いやぁあああああああああああああああああああああっ!」
はい、どーも皆さん! ナレーター代わりましたぁっ!
「避けるなぁよぉ、メンドクセェじゃねぇかぁ……!」
ってそんな場合じゃ無いんです! うわー! 死ぬ! 死んじゃいますぅ!
何ですかあの巨人は! 腕の一振りで木が圧し折れるとか、人の腕力じゃないよぉ!? わぁ、またメシメシ言いながら倒れて来たぁ!
うわぁああああああああああああああん! アタシ運動できないんですぅ! ひぃーん! こんなの拷問だよぉ!
「というか、ハァ、何で、アタシを殺しに来てる、ハァ、ん、ですかぁ!」
「あー、それは……」
せ、せめてこのくらい知っておかないと死ぬに死ねません! 若しかしたらあの巨人さんの勘違いかも知れないし!
「あー、いーや、メンドクセェ」
「どんだけ、ハァ、やる気、無いんです、ハァ、かっ!」
あー、ダメだ。ツッコミもままならない。
ってか、アタシは何でこんな事してんのぉおおおおおおおおおおっ!
光にいきなり巻き込まれて気が付いたら森の中で……。アタシが何したっていうんだぁああああああああああああっ!
ふと思い出すのは誰もが知っている童謡、『森のくまさん』。あれで出会ったのは確か心優しい熊。まあ、実際あんな熊さんがいる訳が無いので、実際に出会うのは嫌だなー、なんて思ってはいたし、別の動物が良いなって思っていた。いたんだよ、でも……。
「だからって、殺し屋の巨人に出会うって何なのさぁあああああああああぁあぁぁぁぁあぁあぁぁああああああああああああぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁあぁっ! ゲホッ、ゲホッ!」
うえ、ただでさえ肺活量が無くて体力も無いのに叫んだから、むせた……。
「はぁ~あ、殺すのも、メンドクセェ……」
「ハァ、ハァ、だったら止めましょうよ、ね!?」
「でも、殺さなかったら、もっとメンドクセェ。だったら、仕方ねぇよなぁ」
「うわぁーん!」
ラブ! フレア! ルーン! ナイト! フォーチュンレディ達! 助けてぇ!
『“
『ギャオンッ!』
ギュワッ! と放たれる黒い魔法弾と炎。両方とも巨人の顔面に直撃! これなら流石に倒れて―――
「いて……」
『効いてない!?』
『ギャウッ!?』
ヒーン、倒れてくれません!
他の皆の攻撃が何十発と命中しているのに、なんなのあの人の頑丈さはぁ!
『マスター、この先は崖です! こっちへ逃げましょう!』
「あ、ありがとう、ハァ、フレア!」
こっちへ行けば逃げられるらしい。追い詰められてたまるかぁ!
「ヒミャッ!?」
痛い!? 木の根に躓いた!? ウソん、こんな局面で!?
「あー、避けるなよぉ!?」
ぐわっ! と振り上げられる腕には、さっきまで無かったドデカいハンマーが!? どっから取り出したのそれぇ!?
こんなトコで人生終わりですか!? アタシまだ16年しか生きてないんですけど!? 神様ヒドいですぅ!!
『マスター!』
『キュキュー!』
「うわーん、まだ死にたくないよぉ! お兄ちゃぁん! 薙冴先ぱぁい! 響くん! 明日香さん、アキさん、十代くん、遊星くん、クロウくん、翔くん、みんなぁあああああああああああああああああああああっ!」
アタシの悲鳴も虚しく振り下ろされる大槌。ああ、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん、ゴメンナサイ。先立つ不孝を、お許し下さい。
ぎゅ、と目を瞑って……。
その後聞こえたのは、グエ、というカエルの断末魔のような声だった。
SIDE:黎
「え……?」
不思議そうに少女が俺を見上げて来る。この森は魔術の生成を妨害する素粒子が漂っているらしく、桜が実体化に苦労したと不満気に呟いていた。それ故だろう、俺がこの少女と邪神の護衛のサーチに時間がかかったのは。
だが、この子の悲鳴と派手な破砕音で方向を割り出す事ができた。サーチ魔法は使い辛かったが、方向を絞れば問題無く作動した。
「えと、どちら様でしょうか?」
「俺の名前は遊馬崎黎。君と同じ転生者だ」
ほえ、と少女が間の抜けた声を出す。
ブラックのセミロングに、夜色の瞳。中肉中背で、眼鏡っ子を挙げろと言われたらまずこの子の見た目が挙がるだろう。要するに普通の眼鏡女子だ。
が、容姿は良い。小顔で脚と腰回りはスラッとしていてキレイだし、胸はまぁ、聞くなって感じだが、顔の造形だって誰が見ても可愛い部類に入るだろう。
そして、天空一家の優から感じたのと同じ、こことは違う世界の気配。間違い無く、この子も転生者だ。
加えて、彼女の後ろには沢山の精霊がいる。その数10人。皆、俺を警戒している。まあ、さっきまであのデカいのに追い回されていたんだ、無理も無いだろう。
だが、何よりも気になるのは、サーチした瞬間に気がついたあの―――
「う、ぐぁ、イテ……」
チッ、起きたか。粉砕するぐらいの威力でこめかみを蹴り飛ばしたんだが。随分と頑丈だな。プライドやエンヴィーなら、頭ぶっ飛んでいるだろうに。
邪神の気配を漂わせる、3メートルを超える大男。手にした大槌はこいつと同じかそれ以上のデカさだ。刺々しいデザインに、これ見よがしに描かれているドクロマーク。こいつに殴られていたら間違いなく重機でもペチャンコだな。よくてスクラップだ。
適当に短めに切り揃えられた髪に、中途半端な長さの黒の服。ダーク系の服はこいつらのトレードマークなのだろうか?
「うー、“騎士”の魂ぃ……!」
「好い加減、名前くらい覚えてほしいな。遊馬崎黎だっつーの」
「何でもいいや、メンドクセェ……。オデはただ、お前を殺してそっちの女も殺すだけぇ」
「ああ……、そうかい!」
次の瞬間、奴がハンマーを振り上げるよりも速くに俺は踏み込む。炎と地の力を融合してマグマを纏った拳で顔面を殴りつける。ジュウッ! と対象が融解しつつも焼ける音がする。
「アジィッ!?」
「早い反応もできるんだ、な!」
瞬時に炎と地の能力を解除。能力回路を風一本に絞る。強力な風圧を口の中に溜め、破砕する振動と共に、射出する!
「“BREAK SHOUT A LOUD”!」
「グベバッ!?」
キュイィィィイン! とジェット機のタービンの様な音を響かせてデカブツが吹き飛ぶ。
大槌は砕け散ったが、こいつ自身は無傷だろうな。
ノソッ、と立ち上がった奴を相手に俺は嘲笑をくれてやる。
「どうだ、少しは堪えたかスロウス?」
「ぐ、何故オデの名前をぉ……?」
「言動だ。プライドとエンヴィー、そして七つの罪。ならそこから生み出せる結論はただ1つ」
これまで相手した奴は“傲慢”を意味するプライド、“嫉妬”を意味するエンヴィー。
この2つはモンスター状態の時についていた“七罪士”から分かるように、原典に記されている“七つの罪”つまり“原罪”だ。
そしてその名前に沿うかのようにプライドの言動は完全に俺達を見下したものであり、エンヴィーは家庭を持つ(予定である)優に嫉妬して集中攻撃を仕掛けた。
そして、七つの罪の中で、未だ出て来ていないのは五つ。
そして先刻からの言動、怠慢具合から推測できるのはただ一つ。“怠惰”を意味するスロウスだ。
残る罪は “強欲”のグリード、“暴食”のグラトニー、“色欲”のラスト、そして“憤怒”のラース。しかし、こいつの言動はその四つの内のどれにも当て嵌まらない。
消去法でも、推論でもこいつはスロウスで間違い無いだろう。
「ぐぅ……」
「悪いけど、この子は殺させない。この子は、この戦いにおける希望だ」
「うぅ、メンドクセェ……。でも、ここで殺さなかったらもっとメンドクセェ。だったら、しょうがねぇから、ここで殺すぅ……」
「コミュニケーション取る気無しか!」
思わずツッコムが、迎撃を忘れたワケじゃ無い。新しい大槌を奴が作り出すよりも速くに地面を踏みつける。
「“砂塵の鉄壁”!」
「うぶっ!?」
スロウスの回りから砂が壁のように吹き上がる。目眩ましにはなるだろう。
さて、今の内だ。
「お嬢ちゃん」
「あ、
「自己紹介は後々。今はここから撤退する方が先だ。精霊達もついて来い!」
テンパって自己紹介する少女、柊ちゃんをお姫様だっこの形で抱え、俺は森の木を枝から枝へと移動した。
──森の外れ
「さっきも言ったとは思うが、俺は遊馬崎黎。君と同じ転生者だ」
『主、黎殿の精霊、桜と申す』
「あ、えーと、柊真奈です。こっちがアタシの精霊達で、『ブラック・マジシャン』のルーンに、『ブラック・マジシャン・ガール』のフレア」
『始めまして』
『宜しくお願いします!』
「『夜薔薇の騎士』のナイトに、『ブラック・ローズ・ドラゴン』のラブ」
『ナイトです』
『ギャウッ!』
「そしてフォーチュンレディの六人姉妹達です」
『チャオ!』
『宜しく……』
『始めましてってね!』
『どうも』
『始めまして』
『宜しく頼む!』
森の外れまで避難した俺と少女―――真奈ちゃん。状況を説明するよりも、(スロウスの追跡も暫くは無いだろうという事もあって)まずは自己紹介という事になった。
ちなみにフォーチュンレディの挨拶は上から順に『ライティー』、『ウォーテリー』、『ウインディー』、『アーシー』、『ダルキー』、『ファイリー』。挨拶一つで性格が表れるのだから礼儀は大切だ。
「さて、自己紹介も済んだ事だし、この状況を説明したいと思うんだが、良いかな?」
「どうぞです」
然したる疑問も挟まないか。中々純情というか、天然というか。
まあ、説得する手間が省けると考えれば良いか。
「さて、俺がこれから話す内容に嘘偽りは一切無い。だからどんなに怪しくても、真っ向から疑ってかからないでほしい」
SIDE:真奈
「まあ、絶望しか無かったよ。何やっても何一つ報われなかった。幸せなんて絶対に手の届かない夢物語だと思っていた」
「それは、大変だったんですね……」
「転生してからも報われてねぇなぁ。たった一人の家族を邪神共に奪われちまった。お陰であいつと殺し合わなくちゃいけなかった。あの時は、とても辛かった」
「どうして、邪神は黎さんの
「連中、太古に封じられた四番目の邪神は、人の負の感情を食い物にして強化される。俺は絶望だけを食って生きて来たみてぇなモンだからな。俺から搾り取る序でに依り代にするつもりだったんだろう」
「……………………」
「だけじゃ無い。邪神は自らの力をまだ発揮できないから半ば無防備と言っても過言じゃない。不死に近しい体をもった都は、それだけで好都合な存在。時が来るまであいつの体の中で待機し、体を食い破った後は、世界を呑み込む。そしたら後はその力を使って他の世界全てを喰らうという寸法だろうな」
「て事は……」
「話にもあった通り、連中の使うカードはデタラメやインチキも良い所だ。そんな奴らに世界1つ分なんて莫大なパワーが加われば、もう止める事は絶対的に不可能だ。物理的ダメージで死なない以上デュエルで仕留めるしか無いんだが、そのデュエルにだって問題があるんだから困り物だな」
あ、どうも皆さん。現在、アタシはスロウスという巨人から逃がしてくれた男性、遊馬崎黎さんから今回の事情を聞いています。
彼の前世、浚われた義理の妹さん、どうして邪神と戦っているか、負ければどうなるか。
でも、アタシにとっては邪神云々よりも――
「まあ、平たく言えば、邪神さえ止められれば万々歳。世界は救われますよ、というワケだ。ここまで分かってくれた──」
「うう、グスッ、ヒッグ! うぇええええんっ!」
「かって、ちょ、何故泣く!?」
だ、だって! こんな話、泣かない方がムリですよ!
「何なんですか! 毎日の不幸の上にこの仕打ちって! 死んでなお家族を洗脳されて、命懸けで戦って! 何で黎さんは何も報われないんですか! 理不尽過ぎますよぉ!」
見せてもらいました、黎さんの服の下。半袖のシャツの上からでもハッキリと分かった凄い数の傷跡。多分、アタシがこんな数の傷を受けていたら、間違い無く途中で死んでいた。
そしてこの人の過去も、映像で。頭に手を置かれたかと思ったら、いきなりヴィジョンが流れて来るから驚いた。でも、こんな悲惨な過去を持つ人が、こんな報われない現在を送っているなんて、あっちゃいけないと思う。
そしてそれでも、人間を憎む事も、関わりを切る事もできたのに、そうしなかった。もしアタシが黎さんだったら、他人に対してこんなに優しくならなかったと思う。きっと、スロウスに襲われていた時でも助けになんか入らなかったし、よしんば入ったとしても利用するためだから『この子は、この戦いにおける希望だ』なんて言わない。
「うぅう、アタシは、こんな人がいるなんて知らなかった! 助けてあげる事もできたかも知れなかったのに、できなかった! アタシは、アタシはぁっ!」
「そこまでだ」
ポン、と頭に乗る、優しくて温かい感触。
黎、さん?
「悲しんでくれるのはありがたい。でも、過ぎた事だ。泣こうが喚こうが、どうにもならないよ。それに、お互いがお互いを知らなかったんだ、自分を責めたって何も生まれない」
君みたいな子に、生きている内に会いたかったかな……。
そう呟いた黎さんの目は、とても寂しそうだった。
グシ、と涙を拭う。今アタシがするべき事は泣く事じゃ無いと気がついたから。
こんなトコで泣いたって、黎さんは喜ばないし、何も変わらない。何より、アタシ達がこうしていられるのはスロウスがやって来るまでという制限時間がついている。
時間の無駄遣いはできない。
「泣いてくれて、ありがとな」
「いいえ」
アタシには、それぐらいしか、できないから。
協力して、少しでもこの人に幸せをあげたいから。
「今度は、アタシの身の上話ですね」
アタシは一言一句違わないように、自分の現状を話始めた。
後ろで精霊達が、見守ってくれている事を感じながら。
SIDE:黎
「アタシの転生は、車に轢かれたとか、突然死んだとか、そんなんじゃ無いんです」
光に巻き込まれた。彼女はそう言った。
成程、一口に転生を言っても種類は様々だ。彼女の場合、死というよりかは憑依や転移が近いだろう。
何でも、彼女は突然にGXの世界へと飛ばされてしまったらしい。
「で、そこには本来なら5D’sの住人である遊星達のチーム5D’sや、シンクロがもう存在した、と」
「はい。エクシーズは無かったんですけどね……」
不思議な事もあるものだ。が、何より耳を疑ったのは、彼女よりも先にその世界へと転生していた人がいる、という事だった。
「薙冴先輩っていって、物凄くデュエルが強いんです。ハンディキャップ無しで戦ったら、もう誰も勝てません……」
「ハンデ有りでも強そうだな、その人は」
「で、神様みたいな人が、薙冴先輩、先輩と一緒にいたリアさん、アタシ、そして遊星くん達がGXの世界にいる理由を話してくれたんです」
“
「アタシ自身、そんなよくは解ってないんですけどね。何でも7000年前、神々――この場合は“三幻神”や“赤き竜”の類だそうです――と悪魔の戦いがあって、その中にいた7人の最高位の神様の事らしいんです。悪魔は倒したんですが、傷ついた神様も眠りについたそうです」
「ふむ」
「で、時間が経てば消滅する悪魔をワザワザ封印したんです。アカデミアの地下に」
「!?」
「ええ。“三幻魔”や『ユベル』事件で掘り起こされる地下です。三年後、確実に封印が解除されるそうです」
「……。で、その最高神と何の関係が?」
「悪魔を封印した場所はアカデミアの地下。そして神様の封印場所は、別の次元へ飛ばした人の魂、鍵は大きなエネルギーをもったものだそうです」
「じゃあそれが……」
「はい。アタシの中に神様が、そしてその鍵がシグナーの元である赤き龍だそうです」
成程、そして何かしらの理由があって彼女と薙冴先輩という人物はGX時代へと飛ばされた。そしてその鍵であるシグナー達も。かつ、彼らが遺憾無く戦えるようにシンクロが流通した世の中になっている、と。
向こう側で何が起きているのかは知らないが、こっちと同じようにロクでも無い事が起きようとしているワケか。
「そして、神様の封印が人の魂なら、鍵の封印場所は大きなエネルギーを持つものなんです。アタシの鍵の“赤き竜”、“千年パズル”、“オレイカルコス”、“地縛神”……」
「待て。どこに封印している」
この他、“三幻魔”や“破滅の光”なんかもそうらしい。んなトコに封印するな。昔の神様はどんだけアホなんだ。
「それで、世界の1つが“地縛神”と鍵の反応で消滅したそうです。幸い、人間の方は無事らしいんですけど、何をトチ狂ったのか、アタシの世界に転移させてしまって……。それに反応して他の神様もアタシのいる次元に集まり始めていて、アタシも共鳴の関係上、覚醒がじきに始まるとか」
「覚醒すると、どうなる?」
「今のままでは、神様は莫大なエネルギーだけの姿なので、解放しても世界が吹き飛ぶだけです。なんでも、姿として器を作る必要があるとか」
今はまだ何も思いつかないですけどね。そういって真奈ちゃんは頭を掻く。
成程。つまり情報を整理すると。
1.7000年前に神と悪魔の戦いがあった
2.悪魔はアカデミアの地下、神は人の魂の中へ封印
3.神を復活させる鍵は“赤き竜”を始めとした膨大なエネルギーを持つ精神体その他
4.その内1つが“地縛神”と反応。鍵は無事だが、現在真奈ちゃんのいる次元へ集合し始めている
5.神が集まれば悪魔と神の復活及び全次元崩壊の可能性大。その前に神の姿を固定し、力を自分のものにしなくてはならない
こんな感じか。
「えーと、そんな感じだと思います」
「こっちはこっちで一大事だが、そっちはそっちでヤバそうな雰囲気だな」
「あ、あはは……。でも、黎さんの状況に比べたら、こんなのどうって事無いと思います。そりゃ、家族や親友と引き離されてツラいですけど……。でも、薙冴先輩達もいますし、黎さんの方が苦しいですし……」
真奈ちゃんはそう言って、俺を必死に元気づけようとしてくれた。
この子は……。
「アホ」
「ピャッ!?」
パシッ、と軽めに頭をはたく。
「不幸の比べ合いなんざ不毛なだけだ。君には君の苦しみがあり、俺には俺の苦しみがある。それを比較する事は大きな間違いだ。どっちがより苦しいとか悲しいとか、比べて何になる? 気休めぐらいにしかならないし、現状は打開されない」
「あう……」
「21年、四半世紀に満たない時間しか俺は生きていないけど、俺はその短い生涯の中で多くの事を学んだ。だからこそ君が元気づけようと必死なのは分かるけど、それはあまり効果的とは言えない」
シュン、と項垂れる真奈ちゃん。可哀想かも知れないけど、こういう逆風も必要だ。
その事も精霊達は分かっているのか、後ろで黙っている。
「でも、少し嬉しかったよ。ありがとう」
「あ、はい!」
ふ、と彼女の元気につられて俺もつい笑う。
「精霊達もありがとう。俺の事情に付き合ってもらって」
『構いません』
『マスターが望むのなら、何だってやりますよ!』
『それが我らの勤めです』
順に『ブラック・マジシャン』のルーン、『フォーチュンレディ・ライティー』、『夜薔薇の騎士』のナイト。
他の真奈ちゃんの精霊達も、頷くなり微笑むなりで答えてくれた。
ありがとうな、こんな化物のために。
さて、と。
「真奈ちゃん、ちょっとこっちに」
「? はい」
自分の前に真奈ちゃんを座らせる。ちょうど彼女の額が座っている俺の目線に来る所を見ると、お互いの身長差が分かる。
ス、と手を伸ばした。
「これから戦う相手は、ハッキリ言って次元の違う相手だ。これまでのデュエルとは確実に一線を画す」
「はい」
「だから奴に対抗するために、君の中に流れている“七究神”の力の流れを変える」
「流れ、ですか?」
「ああ。気の流れを気功術の達人が操れるように、俺もエネルギーの流れをある程度は弄る事ができる」
『危険ではないのですか?』
『ブラック・マジシャン』のルーンが言う。不安気な顔だが、杖をしっかり構えている所を見ると、下手な事をすれば俺を攻撃するつもりなのだろう。
と言うか、この『ブラック・マジシャン』って女性なのね。
「問題無い。新しく流れを作るのでも、流れる力を増やすのでも無いからね。ただ少し、枠組みを弄るだけ」
『どちらかと言えば、整体に近いものだったか?』
「ああ」
表に出て来る機会がもっとも多い桜にも、以前同じ事をした事がある。
魔力の総量は変わらないが効率が上昇した、というのが彼女の言葉である。
「えーと、危険が無いようでしたらお願いします」
「つーかもう終わったよ」
「速っ!?」
だから少しエネルギーの流れ方を変えるだけって言ったでしょ? それに“七究神”のエネルギーがどれ程のものか分からない以上、慎重にならざるを得ない。
結果として、まあドロー運が少し上がり、運動神経も上がった、といったトコか。
「速いんですね……」
「殆どいじってないからね。下手打って大爆発とか、笑えねぇっつの」
「あ、あはは……」
乾いた笑いを浮かべる真奈ちゃんだが、彼女の中に眠るエネルギーを見た時、俺は正直言って驚愕のあまりに叫ばなかった自分を誉めてやりたい。
まず、量が違う。通常の精霊に流れているエネルギー量を100と仮定するならば、俺はざっと7000はある。誇張でも何でも無い、純然たる事実だ。当然、この量は歴代の精霊の中でも特に多く、五指に入る程らしい。
しかし、彼女の量は文字通り桁違いだ。数値にしておよそ2,150万。具体的な数値なのは、自分の3000倍を大きく超えると判断した数値。恐らくもっと多いだろう。これで眠っているだけなのだから、本気で目覚めたら星どころか次元1つ消し飛ぶというのも頷ける。はっきり言って今の総量だけでも国1つが2、3年は運営できるエネルギー量だ。
そして密度も違う。密度に使う単位は国際法に基づきkg/m³となる。重金属で合金にして戦車装甲にも使われるタングステンが19.3で、メートル原器やキログラム原器に使われ王水にも溶けないイリジウムが22.42となる。
金属の話をしても無意味か。通常の精霊の単位立法(この場合は1立方センチ)のエネルギー密度を10と仮定すると、俺は約1940だ。これも歴代で五指に入るらしい。
対し、彼女は391,050,000と、驚異的な数値だ。
この密度の高さは魔法に換算した時の純度と魔力の高さに関係する。
普通、エネルギーはそのままでは使えない。体内で魔力に変換し、それで初めて魔法に使える。
純度が高ければ低級な魔法でも威力が増し、そして魔力がそれだけ圧縮されている訳だから魔力の残量も多い。
複雑な計算式を用いて40分程時間をかけ、尚且つ答えもメチャクチャなものになるので詳しくは言わないが、俺と彼女のエネルギー差は総じて数
ちなみに潤とは10の28乗、兆の次の次の次の次の次の次になる。
解りづらいか。一覧にすればこうなる。
10の68乗 無量大数 むりょうたいすう
10の64乗 不可思議 ふかしぎ
10の60乗 那由多 なゆた
10の56乗 阿僧祇 あそうぎ
10の52乗 恒河沙 ごうがしゃ
10の48乗 極 ごく
10の44乗 載 さい
10の40乗 正 せい
10の36乗 潤 かん
10の32乗 溝 こう
10の28乗 穣 じょう
10の24乗 予(予禾) じょ
10の20乗 垓 がい
10の16乗 京 きょう(けい)
10の12乗 兆 ちょう
10の8乗 億 おく
10の4乗 万 まん
10の3乗 千 せん
10の2乗 百 ひゃく
10の1乗 十 じゅう
10の0乗 一 いち
10の-1乗 分・割 ぶ・わり
10の-2乗 厘 りん
10の-3乗 毛 もう
10の-4乗 糸 し
10の-5乗 惚 こつ
10の-6乗 微 び
10の-7乗 繊 せん
10の-8乗 沙 しゃ
10の-9乗 塵 じん
10の-10乗 埃 あい
10の-11乗 緲(眇) びょう
10の-12乗 漠 ばく
10の-13乗 模糊 もこ
10の-14乗 逡巡 しゅんじゅん
10の-15乗 須臾 しゅゆ
10の-16乗 瞬息 しゅんそく
10の-17乗 弾指 だんし
10の-18乗 刹那 せつな
10の-19乗 六徳 りっとく
10の-20乗 虚 きょ
10の-21乗 空 くう
10の-22乗 清 せい
10の-23乗 浄 じょう
何が言いたいかって、まあ一言で言うなら、この子の内側には莫大とか膨大で済まないエネルギーが眠っている、という事だ。
「成程、だから“闇”か……」
「え?」
「人には魂の型がある。それは性格や生き方を左右する、まあ、一種の遺伝子だ」
この子の魂の型は“闇”。光と対極を成す存在であり、珍しい現象タイプの型。一般的には“神の救いの届かない場所”や“諸悪の根源”として、或いは“死”や“虚無”としても扱われる。
しかし、それだけでは無い。そしてその場合の魂の型は“暗黒”や“虚無”になる。
“闇”が意味するのは自然的な対照を超えた“死と再生”の象徴や“時間の再生”などと深いつながりがある。
まあ要するに悪=闇では無いという事さえ解ってもらえれば幸いだ。
闇は、深く先が見えない。
故に、このエネルギー量。
暗く、包み込むヴェール。
「頼もしい」
「あ、はぁ、ありがとうございます……?」
おっと、口に出ていたか。
キョトンとした顔の真奈ちゃんと精霊達。何でもないよ、とお茶を濁しておく。
首を傾げる真奈ちゃんやフォーチュンレディズ。クスクスと笑うルーンと桜。ニコニコと微笑むナイト。嬉しそうな顔のフレア。
そして飛んで来た巨木。
「いや、ちょっと!?」
慌てて上に向けて蹴り飛ばす。
重力にしたがって落ちて来たら、今度は飛んで来た方へキック!
『ぐげ……!』
鈍い声が聞こえ、少し離れた森の中で、何か大きなものが倒れる音がした。
「い、今のもしかして……!」
「ああ、間違い無い。スロウスの奴に追いつかれた」
メキメキメキ、と木の倒れる音がする。結構引き離したと思ったんだがな。
まあ良いか。やっておきたい事は全てやったんだ。
のっしのっしとスロウスが森から出て来る。木々が薙ぎ倒されて道ができている所を見ると、どうやら障害物は軒並み倒してやって来たらしい。とんだ面倒臭がり屋だ。
「ようやく見つけたぁ……、あぁメンドクセェ」
「真奈ちゃん、ちょっとゴメンよ」
「ひゃわ!?」
スロウスの攻撃を予測。いくら真奈ちゃんの内側に力が眠っていようとも、現段階ではまだ覚醒していない。つまりそれは火薬の詰まった木箱も同じ。下手な事をすればこの世界が吹き飛ぶ。
だったら今の彼女は守るべき存在だ。そう判断した俺は、彼女を俗に言うお姫様抱っこで抱え上げる。
「ルーン達、俺の合図で行動してくれ! 桜、ルーン達の援護を!」
『分かりました、マスターをお願いします!』
『散開!』
三々五々に散って行く精霊達。それと同時にブワッ、とスロウスが大槌が振り上げ、俺は真奈ちゃんを抱えて素早く跳躍して回避。
俺は跳びながら靴底に仕込んだブレードを飛ばす。
「あー、ウゼェ」
巨体には全く堪えないのか、肩に(スロウス対比で)小さくて細い刃が刺さっても無視して再び大槌を振りかぶる。
かかった!
「“リーディング・エレキワイヤー”!」
「は、びばばばばばばばばばあばっばあっばあばばぁっ!?」
射出した刃には靴と直接繋がっているワイヤーがついている。そしてそこから流すのは紫の結晶石が生み出す高圧電流。生命体なら確実に死んでいる量を流して攻撃。
着地後は真奈ちゃんを抱えたまま休む暇を与えずに踏み込む。このデカブツ相手に休みなんてやったらダメージが一瞬でおシャカになっちまうからな。
廻し蹴り、踵落とし、膝蹴り、爪先蹴り、踏み付け、飛び蹴り、膝裏による首の締め付け。腕が使えないので、足技の知っている限りのバラエティをお見舞いする。
「はっ!」
「のぁ……」
追加で十六文キック。眉間に直撃し、俺は重力に従って地面に着地し、スロウスは数歩後退りの後に、何も無い空間に向けて腕を払う。
思った通り、こいつは反応は良くてもその後の行動に直に繋がっていない。
更に威力を強め、地の力による重量強化と硬度強化。額を重金属で覆って、無防備な鼻っ柱に目一杯の頭突きを叩き込む。
「んぬっ!」
「イデェッ……!」
俺のモットーは“やられたらやり返す”。敵にアマい顔はしません。
「ルーン、フレア、足元に攻撃!」
『了解、“
『任せて、“
「ぬお……!」
ズドン! と黒色の魔導弾が最高位の黒魔術師から、ピンク色の魔導弾がその愛弟子から放たれ、スロウスがバランスを崩す。
このチャンスを逃すつもりは無い。流す力が変化した事で髪の色が紫から青に変色し、口元に冷気が収束する。
「“
「おごが……!」
青白い光線がスロウスの膝関節を凍らせる。膝が動かなくなった事でバランスがとれなくなり、スロウスはそのまま転倒。このまま続ける!
水の力を地の力に交換。その一点にエネルギーを絞り、強い重力場を生み出す。
「“グラヴィティ・ドライブ プラス”!」
「アゴゴゴゴゴゴゴッ!?」
地面に縛り付けるかのような過重力。これで倒れたまま動けないはずだ。本当ならブラック・ホール並みの重力場も出せるが、味方も巻き込みかねないので却下。
「『アーシー』、追撃!」
『うん、“カースド・スキュアー”!』
眼鏡をかけた橙の魔女が杖を回転させながら地面に叩きつける。ジャキジャキジャキジャキッ! と尖った鉄の刺が地面から突き出し、スロウスを串刺しにする。貫通する程の長さはスロウスに対しては足りなかったが、十分なダメージにはなった。
「うわ、派手に行きましたね……」
「説明の途中で言ったとは思うが、物理ダメージじゃこいつらは死なない。刺そうが斬ろうが焼こうが、な」
現にスロウスは起き上がっている。背中に空いていると思われる穴はもう塞がっているだろう。
「ああ、痛がるのもメンドクセェ。でも、こいつらは殺さねぇともっとメンドクセェ……。だから殺す、死ねぇ……!」
「断る。“
地面に足を叩きつけ、それを合図に先端が鋭利に尖った槍が地中から何本も飛び出す。過たず全てがスロウスの体を貫通し、血が噴き出す。
「ぐえ……っ!」
「う……」
「見なくて良い。『ファイリー』、焼き払え!」
『はいよー! 喰らえ、“
気分悪そうに目を閉じる真奈ちゃん。普通の生活をして来たこの子にとって、こんなスプラッタシーンは馴染みが無いものだろう。
彼女の目をそっと髪で覆い、火炎の魔女に指示を飛ばす。赤色の魔女は巨大な火炎弾を飛ばして巨体を焼く。
「あじぃっ!?」
まだまだ終わりじゃ無いぜ?
「弾け飛べ、“バンブー・バースト”!」
「アボババッバババババッ!?」
パンパンパンパパン! と竹の節の中の空気が熱膨張を起こして破裂する。特性の竹なので爆薬が炸裂したかのように激しい衝撃が襲っている事だろう。
「ぐえ、イテェ…………」
ドシィン、とスロウスの巨躯がブスブスと黒い煙を上げて崩れ落ちる。
チャンスタイム、もらった!
「ナイト、ラブ、ゴー!」
『お願いします、皆さん!』
『ウキュァッ!』
ナイトが剣を一振りすると地面から様々なレベル4以下の植物族モンスターが生まれ、スロウスに攻撃をしかける。あるものは火を吹き、別の奴は突進を仕掛け、或いは毒液を吐いたりしている。
ラブとて負けてはいない。黒薔薇の花弁が飛び交う嵐を起こしてスロウスの動きを牽制し、ダークレッドの炎を吹いて焼き尽くす。勿論、味方の植物族モンスターは一切ダメージを負っていない。
グラァ、と巨体がダメージで揺れる。ここで畳み掛ける!
「『ライティー』、『ダルキー』、『ウインディー』、『ウォーテリー』!」
『“シャイニング・ショック”!』
『“ダーク・フェイト”!』
『“サイクロン・エクスキューション”!』
『“スプラッシュ・ストリーム”!』
光の衝撃波、闇の波動、突風の槍、水流の柱がスロウス目掛けて降り注ぐ。過たず全弾が直撃し、スロウスが轟音と共に吹き飛ぶ。
だが、それでもスロウスは倒れない。片膝をつきつつも着地する。それでも、隙だらけだ!
「桜!」
「おぉぉぉおおおおおおぉぉぉおおおおおおっ!」
ダン! と跳躍した桜がスロウスの頭に剣を突き刺す。そのまま勢いに任せて90度横に倒し、フクロウのように首を捻じ曲げる。ゴグュギッ! と嫌な音がしてスロウスの首が折れた。
「ぐぅ、おぉおおおおおおおおおおおおっ!」
『き、効いている? これまで我々の攻撃は何1つとして通用しなかったというのに……』
痛みに悶絶するスロウスに対し、ルーンが驚愕の表情を表す。
「当然だな。奴は攻撃でダメージを負わない程の頑丈な体の持ち主だった。が、それだって
アルマジロ、ワニ、カメ、カタツムリ……。そういった体表が頑丈な動物はその内側を守るために固い皮膚を持っている。言い換えれば、その固い表面は盾だ。盾の内側は当然脆い。
鱗だろうと甲羅だろうと、固い防御さえ破れば、後を突破するのは容易い。
「だからこそ、“バンブー・バースト”で皮膚を抉ったんだ」
『それで攻撃が通じるようになったのか。皮膚という防御層の内側に攻撃が届くようになったから』
ザッツライトだ、桜。
奴にダメージを与えられた箇所は、どこも皮膚、つまりは盾の内側だ。
『さあ止めを……』
「止めな、エネルギーの無駄使いだ」
血気盛んに『ファイリー』が杖に紅の炎を灯したのを見て、俺は彼女を止める。
『何故だ!? このチャンスを逃せと言うのか!?』
『あら、黎さんの話を聞いてなかったの? 邪神の護衛はどれだけ物理ダメージを与えても無意味だって?』
『う……、そう、だったか?』
『記憶してるべきですよぉ……』
食ってかかる『ファイリー』を止めたのはお姉さんキャラの『ダルキー』。そして渋い顔で彼女を窘めるのは気弱な『ウォーテリー』だ。
『じゃ、じゃあどうするんだよ!』
『アンタ本当に記憶してないのね。デュエル、それも闇のゲームで勝つって黎さんは言っていたでしょうが』
『……全く、人の話を聞いていないのか?』
『だねー』
『だー、チクショー! ゴチャゴチャ煩ぇよっ!』
地団太を踏みそうな勢いの『ファイリー』の問いに答えるのは気の強い『ウインディー』。呆れ顔を浮かべているのは消極的な『アーシー』と陽気な『ライティー』だ。
……俺、ちゃんと話したと思ったんだけどなぁ。
そんな事をやっている内に、視界の端でスロウスが起き上った。
「ぬがぁ、イデェ……!」
「解ったかスロウス? 肉弾戦で俺達は殺せない。ならどうやって殺すべきか、解るな?」
「デューエルゥだー、ああ、メンドクセェ」
乗せられやすくて助かるぜ。
ノソ、と立ち上がるスロウスには、もう傷跡は見受けられなかった。こいつはこいつで再生が速いな。
ブジュッ、とスロウスの左腕に闇が集まり黒く、巨体に見合った大きなディスクが装着された。同時に、周囲に薄ら暗い霧が立ち込める。
「う、もしかしなくても闇のゲームですよね」
「逃げるなら今だが」
「大丈夫です、皆の命がかかっているんですから」
俺の茶化した言い方に、怯んでいた真奈ちゃんはどこか諦観した様子でディスクを構える。初代の形式であり、レーンに沿ってブレードが合わさって展開する。アカデミアのディスクの痕跡もあるので、向こうにいる遊星のあたりが作ったのかも知れない。
「気骨があるな、頼もしいぜ?」
「……アタシ、本当は不安なんです」
不安?
「この戦いにかかっているのはアタシの命だけじゃない。アタシのいるデュエルモンスターズの世界、元々居た世界、そして他の人や世界の命がかかっている。そんな重たいもの背負って、アタシは戦えない……」
『マスター……』
成程。確かに、この子はまだ16歳。それが世界の明日を背負わなくちゃいけない状態なんだ、気負うのも無理はねぇか。
「真奈ちゃん、別に世界のために俺は戦っている訳じゃない」
「え?」
「俺が戦っているのは大切な人を救い、守るため。無数の世界のためとか、そんな御大層な目的じゃ無いよ」
「大切な人を、守る……」
「思い出してほしい。君の親友、敬愛している先輩、切磋琢磨し合う友人、自分を慕ってくれる精霊。彼らを守るために戦えばいい。世界を守るなんてオマケだ」
「……フフ、そうですね。結果的に世界が救われる。それで十分ですね!」
真奈ちゃんの表情がパアッ、と明るくなる。吹っ切れて何よりだ。
俺もディスクを起動させる。スイッチをオンにし、レーンに沿ってブレードが走る。ライフカウンターが初期数値の4000を表示。同時に“デッキをセットしてください”というメッセージが出るので、それに従ってデッキを装填するべく、カードを周囲に展開する。
OK、今回はこれで行こうか。
「皆、行くよ! 世界のためなんかじゃなく、大切な人達を守るために!」
『『『イエス、マスター!』』』
「そう。世界なんざどうでも良い、守りたい奴を守る。それで充分だ」
『その通りだ。有象無象の某よりも己の大切な者の為に!』
と、そうだ。
「真奈ちゃん、ちょっと」
「何でしょう?」
ポワ、と光の玉を生み出し、彼女に放る。
衣服に触れた瞬間、光の玉は非常に淡い膜となって彼女を覆った。
「これは?」
「プロテクター。俺のデュエルエナジーと精霊の力を混ぜて作ったバリアみたいなものかな。例えミサイルが直撃しても骨にヒビで済む」
もっとも、連中の仕掛けて来る攻撃はミサイル以上の威力のヤツがあるけど。
衝撃は殺しきれないという事、傷そのものはつかないという事、外側からの攻撃なら隕石の衝撃でも相殺すれば死なないという説明を簡潔にする。
「ありがとうございます。でも、黎さんは……」
「俺は化物、簡単に死にはしないさ」
さて、無駄話もこのくらいにしておかないと。
「さぁて、始めようじゃないかスロウス。俺達が勝つか、テメェが勝つか」
「勝負だ!」
「おぉよぉ~」
『デュエル!』
to be continued