遊戯王GX~精霊の抱擁~   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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STORY59:襲撃の炭鉱場 ★

 

SIDE:黎

 

 

 

 光が俺達を次に導いたのは、石切り場のような場所だった。

 周囲に黒い石がゴロゴロと転がっており、その近くには古ぼけた横転した数台のトロッコがある。

 と、そこで俺は認識を変えた。

 

「これ石炭か」

 

 落ちていたのは、石炭だった。

 転がっているトロッコにもいくらか石炭がある事を考えると、山積みに石炭を積んでいたトロッコが全て転がり、この石炭の山を作り上げたのだろう。

 

「主殿」

 

 実体化した桜が話しかけてきた。

 

「どうした、桜?」

「あっちで人の気配がする。数は、5~6人。それと銃声もだ」

「銃声?」

「恐らくは機関銃、銃声が絶え間無く聞こえているからな」

 

 それ、ヤバくね?

 一般ピープルがマシンガン持ってるとも考えづらいし、十中八九、護衛の武器だろうな。

 

 耳を済ませると、確かに銃声が聞こえた。近いな。距離にして1~2キロ。走って5分程度か。

 火や雷で加速すれば、2分あれば着ける。

 

「桜、カードに戻れ。加速する」

「承知」

 

 淡い桃色の光に変わった桜が、俺の体内に入り込んだ(誤解の無いように言っておくが、『L・S』である桜の本体は緑の宝玉であり、現在それは俺と一体化しているからこう言ったんだ)のを見届けると、素早くその場を後にした。

 

 

 

SIDE:無し

 

 

 

 そこは、駅のような場所だった。といっても電車が通るような場所では無く、ただ単に車両(トロッコ)を乗り降りするための場所なので、開けっ広げでうら淋しい場所ではあったが。

 

 そこでは6人の男女が交戦していた。ただし、5対1で。

 

「さぁさぁ、何時までかくれんぼできるかしらねぇ!」

 

 1人の方は真っ黒な、扇情的な服を着ていた。その両手には拳銃が握られており、そこから絶え間無く弾丸が射出されている。傾国の美人と称する事ができるが、その美しさは明らかに破滅へと続いている。

 

 バシュッ! とトロッコの内の1つが、爆ぜる。

 その裏側に隠れていた少年が、慌てて隣のトロッコの陰に飛び込む。

 

「クソッ、弾切れがねぇとか、なんつームリゲーだよっ!」

 

 ざっくばらんに切りそろえた黒髪の少年が唸る。水色の瞳が苦悶の表情に歪んだ。

 悪態を吐くものの、事態は好転しない。

 

「こっちのトロッコも、そろそろ限界かな……?」

 

 水色の髪を短く切り揃えている中性的な少年―――面影からすると、黒髪の少年の兄弟だろう―――が苦笑いし、飛び出す準備をする。

 

「どうにかしないと、このままじゃジリ貧だよ……」

 

 別のトロッコの蔭へと飛び移った少女が呟く。金髪を肩の辺りで切り揃えている。女ガンマンを鋭く睨む碧眼と相まって、少々ボーイッシュに映る。

 

「どうにかっつてもなぁ……」

 

 少女の言葉に答えるのは、同じトロッコの蔭に隠れていた中年の男性だ。黒い短髪に黒い瞳。2人の少年の父親らしく、顔の造形も似ている。

 

「せめて飛び道具があれば良いんだけどね……」

 

 額の汗を拭いながら、女性が言う。年齢を感じさせない容姿であり、水色の髪をポニーテールにしている。色合いから考えて、少年達の母親だろう。

 

「ほらほら、どうしたのかしらぁ! もっと抵抗してみなさいよぉ! つまらないじゃない!」

 

 丸腰の5人を相手に、無限の弾丸が供給される拳銃を乱射する女。赤い唇がギラリと引き裂かれるように開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次から次へと破壊されていくトロッコ。その数は、元々あったであろう数の10分の1を下回っている。残りは10台。その内半数は半壊している。

 

「このままじゃ全員蜂の巣だぜ!」

「でももう盾にできるものなんて……!」

 

 黒髪の少年が焦る言葉に、水色のポニーテールの女性が答える。

 と、その時――

 

 

 バギッ! ブシッ!

 

 

「あがっ!?」

 

 ポニーテールの女性の隠れていたトロッコが、被弾によって文字通り蜂の巣のように穴あきとなってしまった。

 空いた穴からは次々と銃弾が到来し、素早く隣のトロッコの蔭へと移動したものの、その内何発かが彼女の身を掠めた。

 

「メリオル!」

「「母さん!」」

「メリオルさん!」

「う、大丈夫……、掠っただけ……っ!」

 

 ツ、と血が僅かに袖口から覗く腕から流れる。直接被弾したわけでも無いようで、そこ以外に傷は見当たらない。

 だが、それでも攻撃を受けたという事実は変わらない。女性――メリオルを呼び捨てにした男性は、誰が見ても分かるくらいに顔を真っ赤にして激怒した。今なら悪魔や魔王にも勝てるかも知れない。

 

「テ、メェエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ! よくも俺の女をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 キレた男性はそのままトロッコの縁を鷲掴みにして立ち上がる。重量のあるトロッコをがっしりした体躯とは言え、1人で持ち上げるとは大した膂力である。だが、壊れ始めた物を盾に飛び道具相手に突貫するのは、余りにも無謀だと言えた。

 

「覚悟しやがれぇえええええええっ!」

「フフフ、バカな男は嫌いなのよ! 死になさい!」

 

 女は手にした銃の標的を迷う事無く突進する男性へ向けて――

 

 

 ボン!

 

 

 周囲に煙幕が立ち込めた。

 

「くっ!」

「何だ!?」

 

 周囲が困惑する中、煙幕の中を1人の影が現れてメリオルと呼ばれた女性を担ぐ。

 

「この女性を治療する。こっちだ、ついて来い!」

「お、おい!」

「蜂の巣になりたいのか?」

 

 確かに、このままここにいても銃で撃たれて風穴だらけになるだけだろう。

 影の言葉が正論だと思った4人と担がれたメリオルは、何者かに従ってその場を後にした。

 

 

 

 やがて煙が消え、その場には壊れた無数のトロッコと、二丁拳銃の女のみが残っていた。

 

「チッ、逃がしたか」

 

 舌打ちが空しく、周囲に響いた。

 が、すぐに笑みを浮かべる。

 

「まあ良いわ。どうせ奴らの狙いはこのワタシ。待ってれば向こうから来るでしょ。何より、時間を稼げば稼ぐだけ、邪神様の復活を目的とするワタシ達には有利だからねぇ」

 

 

 

SIDE:黎

 

 

 

 銃撃を受けていた5人を、俺は移動中に見つけた係員の詰め所のような場所へと誘導していた。到着と同時に水流で汚れは拭ってある。

 しかし、俺の担いでいた女性は、移動中から次第に顔色が悪くなっていった。念のために言っておくが、今回は普通に走った。常人に耐えられないような速度は出していない。そこで現在、薬学医学に精通しているという桜に頼んで、女性の診断をしてもらっている。

 彼女と一緒にいた4人が心配そうに見守っている。

 

「桜、どうだ?」

 

 淡いマゼンタ色の魔法陣で、横になっている水色のポニーテールの女性を照らしている桜に尋ねる。

 魔法陣を消した桜は、渋い顔で言った。

 

「毒だ」

「え?」

「傷口から毒が侵入している。弾丸に塗ってあったのだろうな」

 

 何?

 見れば、確かに女性の右の手首が変色している。これは俺も受けた事があった、これは俺の記憶が正しければ……。

 

「これは掠ったら10分で死ぬ毒だぞ」

「やはりか……」

『『えぇっ!?』』

 

 驚きの声は後ろの4人。

 これは僅かな量で致命的となる、致死性の猛毒だ。

 驚く程ではない、オーストラリアの海には刺されると5分で死ぬ猛毒の海月が生息していると言うのだから。

 

「な、何とかならねぇのか!」

 

 声を荒げるのは4人の中で唯一の中年男性。左手の薬指に、女性と同じ指輪をしているから、恐らくは夫婦だろう。

 

「か、母さんは助からないのか!?」

「落ち着け。強い毒だが、ワクチンがあれば助かる」

「じゃあそのワクチンは!?」

「こんな鉱山に置いてあるとでも?」

「そ、そんなぁ!」

 

 順に黒髪の活発そうな少年、俺、水色の髪の中性的な少年、桜、金髪の少女。

 突き放すような桜の言葉に少女は涙目だ。

 

「だ、だったら魔法的なモンでどうにかならねぇのかよ!」

「この毒には解毒の魔術は効果が無い。ワクチンを打つしか無い」

「で、でも無いんでしょ!?」

「いや大丈夫、俺が持ってる」

 

 ただし、と俺は区切り、指を1本立てる。

 

「俺の今からやる行動に口出しするな。それが絶対唯一の条件だ」

『『やってくれ(下さい)』』

「即決か」

 

 俺の条件をコンマ1秒の間も無く呑んだ4人。それだけこの女性が大切だという事か。

 はは、了解っと。

 まずは傷口の近くを水で拭う。これでこれ以上余計な毒は入らない。同時に傷口付近に残留している毒を血と一緒に抜き取る効果もある。

 更に体内で必要な物質を掛け合わせて抗体を作り出す。過去に1度喰らった事のある毒だから、抗体はできている。

 

「自家製ワクチン・解毒版。注入」

 

 両手の爪を鋭く伸ばす。

 

「つ、爪が……」

「伸びた!?」

 

 そしてそれをそのままの皮膚に突き刺す。爪の中の細い管から、体内にワクチンを投入させてやる。

 

「くっ……」

「おい、何を」

「口出ししないのが条件だ」

「ぐ……」

 

 苦しげに呻く女性を見て、何か言いたそうにした黒髪の少年を黙らせ、爪を抜く。

 しかし抗体がすぐに毒に効力をハッキするかと聞かれれば、その答えはNOだ。だから今回は少し無理をさせてもらった。

 ワクチンを大量に投入し、全身の血液を循環するようにする。傷口の近くは勿論、全身十ヶ所の太い血管に打ち込んで、早く回るようにした。この毒は抗体には極めて弱いタイプだから、これなら効果があるはず……っ!

 

 

 

 

 ズキッ!

 

 

 

 

「ぅぐ……、チィ……ッ!」

「主殿?」

「……何でもない」

 

 クソ……。多めに抗体作るために少し体に無理させ過ぎたか……。

 知るか。化物とこの人間の命、どっちが重要か考えろ。バカでも分かる筈だ。死ぬべき化物より、死にそうな人間の方が大切だって事ぐらい!

 解毒はあっと言う間に終わりを迎えたらしく、女性の顔色は次第に良くなって来る。

 

「う……」

 

 ワクチン注射から1分足らず。横になった女性の顔色は、完全に回復した。

 

「これでもう大丈夫だ」

「「母さん!」」

 

 俺の宣言と同時に2人の少年が駆け寄った。

 母である女性はそんな2人を抱き止め、優しく慈愛に満ちた笑顔を向けた。

 ああ、これで好い。

 こういった笑顔を守るために、俺は戦うんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、母さんを救ってくれて」

「何度も言うようだが、この世界にお前ら5人を巻き込んだのは俺だ。罵られこそされても、感謝される筋合いは無い」

「それでもだ。俺達は危うく大切な人を失うところだった」

 

 俺達は取り敢えず毒を受けた女性を安静にするために詰め所からまだ動かないでいた。立ち続けるのも何なので、皆そこにあった椅子に座っている。

 別に俺がやった事は、責任の一部を取っただけだ。目の前で人死にがでても寝覚めが悪いというだけでもある。善意とかでは無い、義務だ。

 

「そう卑屈になるなよ、坊主。お前さんは立派に俺の妻を救ってくれたんだ。誇れよ」

「坊主じゃ無いです。……そう言えば、名前をまだ名乗っていなかったな。俺の名は遊馬崎黎」

「その従者、桜と申す」

 

 俺達の名乗りに合わせて、向こうも名乗って来る。

 

空時(そらとき)ライってんだ、よろしくな」

「その弟、アルフです」

 

 最初に名乗ったのは、母親に駆け寄った少年2人。

 ライの方は黒い短めのざっくばらんに切った髪に、恐らくは母親譲りの水色の目の持ち主。さばさばした性格というのが、今の一言で分かる。

 逆にアルフは水色の髪と瞳。中性的な顔つきをしており、言っちゃあ何だが『男の娘』を地で行くのが彼だろう。

 

「私は空時エルフィ。ライの彼女で、戸籍上はライの従姉妹になるよ」

 

 次に挨拶をして来たのは金髪碧眼のボーイッシュな少女。短い金髪が、ライとは違って綺麗に切り揃えられている。スレンダー系の美少女だ。

 

「俺は空時レオ。こいつらの親父だ。でこっちが俺の妻の……」

「空時メリオル。助けてくれてありがとう」

 

 そしてご夫婦。ライと同じく短い黒髪に、彼と違って黒い瞳のレオさん。好い感じに引き締まった体の持ち主だ。

 母親のメリオルさんはアルフと同じ水色の髪と瞳。長い髪の毛をポニーテールで括っている。モデル並みというわけでは無いが、良い体型であると言える。

 

「それにしても珍しいな。前に合った組み合わせは転生者同士のカップル2人組とその娘だったが、今回は全員転生者で、しかも親子と来たか」

「ぜ、前回?」

「待って、僕達が転生者だって、どうして分かったんだい?」

 

 俺のセリフにメリオルさんとアルフが突っかかって来た。

 ふむ、そうだな。その辺も話すとするか。

 

「だったら、その辺も話しましょう。精霊の皆も聞いておいて損は無いんじゃねぇの?」

『『っ!?』』

 

 俺のセリフに、周囲の空気が震えた。

 

「気配と姿を消しただけで隠れているつもりか? 普通の精霊の見える“人間”なら隠れられただろうが、俺は生憎人間じゃ無い。そこにいる事ぐらい、分かるぞ?」

 

 サーモグラフィが感覚として近いだろう。精霊の体を構築する独特のエネルギー、それを俺は肉眼で見える。だからその手の能力に余程長けてるヤツでも無い限り、人間に擬態しようが姿を消そうが、精霊がそこにいるという事実を俺の目は確実に捉えるのだ。

 何故こんな能力がついたのかは分からない。ただ、いつの間にか「ああ、ここに姿を消した『ハネクリボー』がいるな」とか、「桜はあっちの方にいるな」とかが感知できるようになっていた。

 

「こっちは精霊を紹介したし、今も姿を現している。そっちは、事が済むまで隠れ続ける気か? この俺がお前らのマスターに危害を加えるかも知れないのに?」

『チッ、分かッたよ。出て来りャ好いンだろうがよ』

『ピキー』

 

 その声と共に、次々と精霊が現れた。

 黒い装束の騎士、赤い小さな機械、チアリーダー風の少女etc……。

 

『よゥ。主の母親の件、ありがとよ』

『貴方が来て下さらなければ、我々はどうなっていた事か』

 

 最初に現れたのは『冥府の使者ゴーズ』と『冥府の使者カイエン』だ。ライの後ろから出て来たから、たぶんライの精霊なのだろう。

 ワンキル防止に役立つモンスターであり、トークンと生み親の種族・属性が違うという珍しいモンスターだ。

 

 

 

冥府の使者ゴーズ(効果モンスター)

星7

闇属性/悪魔族

ATK 2700/DEF 2500

自分フィールド上にカードが存在しない場合、相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。

●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。

このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。

●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 

 

 

冥府の使者カイエントークン(トークン)

星7

光属性/天使族

ATK ?/DEF ?

「冥府の使者ゴーズ」の効果で特殊召喚される。

このトークンの攻撃力・守備力は、「冥府の使者ゴーズ」の特殊召喚時にプレイヤーが受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。

 

 

 

『ピー、ピキー』

『あの窮地からマスター達を救ってくれてありがとう、と言っております』

 

 アルフの傍からは橙色の装甲を身に付けた人型機械『マシンナーズ・ギアフレーム』と、赤色の三輪車に頭を乗せたような小型機械『マシンナーズ・ピースキーパー』だ。

 機械族、ユニオン、“マシンナーズ”で活躍するユニオンモンスター。有栖のデッキにも『ギアフレーム』が入っていたな。

 

 

 

マシンナーズ・ギアフレーム(ユニオンモンスター)

星4

地属性/機械族

ATK 1800/DEF 0

このカードが召喚に成功した時、自分のデッキから「マシンナーズ・ギアフレーム」以外の「マシンナーズ」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして自分フィールド上の機械族モンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)

 

 

 

マシンナーズ・ピースキーパー(ユニオンモンスター)

星2

地属性/機械族

ATK 500/DEF 400

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからユニオンモンスター1体を手札に加える事ができる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして自分フィールド上の機械族モンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)

 

 

 

『勘が鋭いね、エルの命の恩人さんは』

『まさか、気配を完全に断った我々に気付くとは……』

 

 そしてエルフィの精霊であろう『勝利の導き手フレイヤ』と、紫の肌に漆黒の翼、青の鎧を身に纏った天使、『ダーク・ヴァルキリア』。

 エルフィのデッキが天使族である事を容易く想像させる組み合わせだ。

 

 

 

勝利の導き手フレイヤ(効果モンスター)

星1

光属性/天使族

ATK 100/DEF 100

自分フィールド上に「勝利の導き手フレイヤ」以外の天使族モンスターが表側表示で存在する場合、このカードを攻撃対象に選択する事はできない。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する天使族モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。

 

 

 

ダーク・ヴァルキリア(デュアルモンスター)

星4

闇属性/天使族

ATK 1800/DEF 1050

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードが表側表示で存在する限り1度だけ、このカードに魔力カウンターを1つ置く事ができる。

このカードの攻撃力は、このカードに乗っている魔力カウンターの数×300ポイントアップする。

また、このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事で、フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 

 

 

『ふふふ、初めまして、メイと申します。宣告の救出劇、お見事でした。それとメリオルさんを助けてくれてありがとうございます』

 

 最後に出て来たのは、青い衣装に身の丈程の大きさの鍵を持った妖精、『キーメイス』。レベル1の天使族であり、『コート・オブ・ジャスティス』や、【もけもけ】デッキで採用される。

 

 

 

キーメイス(通常モンスター)

星1

光属性/天使族

ATK 400/DEF 300

とても小さな天使。

かわいらしさに負け、誰でも心を開いてしまう。

 

 

 

 レオさんの上から出て来たから、多分レオさんの精霊。

 でもって、メリオルさんとも仲が良い。そんな感じだろうな。

 

『オラ、お前の要望通りに出て来てやッたぞ。話す事とッとと話せ』

『ゴーズ! 仮にも命の恩人相手に口が悪いですよ!』

「構わないよ、『カイエン』」

 

 先を促す『ゴーズ』を窘める『カイエン』。

 

『しかしですね、黎さん』

「口調を気にしてるヒマは無い。ぐずぐずしてると、あの拳銃女が弾丸乱発して来るぞ」

 

 それを聞くと、『カイエン』は不満そうに押し黙る。

 俺は手短に、されども重要な点は何一つ逃さず、事の顛末を話し始めた。勿論、最初に全員の頭にヴィジョンを送り込んでから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで、こっちの掴んでる情報は全てだ。質問があれば受け付けるが」

 

 映像を流して説明するのは楽で良い。口頭での説明がすぐに終わる。

 空時一家は暫く沈黙を保っていたが、やがてそれは破られた。最初に口を開いたのは、ライだった。

 

「アンタは、黎はどうして戦うんだ?」

「世界と義妹(いもうと)が危ないからだ。それに俺のアイデンティティでもある」

「そうじゃ無い。アンタのやって来た事は、常人なら確実に数えきれないくらい死んでいる。それに、アンタだって重傷を何度も負った」

 

 何で、投げ出さない? そうライは問うた。

 成程、戦う理由じゃ無く、戦い続ける事のできる理由が聞きたいのか。

 そんなの、簡単じゃねぇか。

 

「投げ出さないんじゃない。投げ出せないんだ」

「何?」

「俺が投げ出したら、誰がやるんだ? 悪いが、見ず知らずの他の誰かに任せられる程、この戦いにおける責任は軽くないんだ」

 

 物語ではよく、世界を救うためとか、未来を守るためとか、数えきれない程の大勢のために主人公は戦う。俺もそれと同じケースだ。

 だが、俺の場合は桁が文字通り違う。何せ全次元の今と未来の全てを食らおうとする存在が相手だ。1つの宇宙にいる命の何千、何万、何億倍もの命。数える事すら烏滸がましいだろう。

 

「邪神を葬るチャンスは今しか無い。グラトニー……、直前に戦った邪神の護衛からの情報じゃあ、邪神の復活は予定より大幅に遅れている。今の内に戦力を削ぎ取り、奴の所へ行って倒せれば、全て万々歳。世界は平和になりましたで終わるんだ」

「でも、君はその顔も知らない無数の人のために死にかけているんだよ?」

「構わない」

 

 アルフの問いに、俺はそう答える。

 ふと、脳裏に昔読んだ漫画のワンシーンを思い出した。

 

「昔読んだ漫画にな、こんな言葉があったんだ。『1人を殺して100人を生かすのでも無く、100人を殺して1人を助けるのでも無い。誰も死なせず、101人救う』ってな。良い言葉だと思わないか?」

「だが、それは理想論だ」

「いえ、実はある事実を加えてやるだけで、これは理想論では無くなるんですよ」

 

 レオさんの言葉は確かに当たっている。理想論じゃ限度があるし、それで世界を救えたら世話は無い。

 別のラノベにも似たような言葉があった。

 あっちは『100人助けるために1人を殺す。1人じゃ足りないんだったら2人殺す』だった。どっちも間違いじゃ無い。ただ、自分の信じている物や目指している物が違うだけだ。

 

「どう、するんだ?」

「簡単ですよ。何ら特別な事じゃ無い、ただ単に――」

 

 それを言った瞬間、俺はメリオルさんとエルフィに詰め寄られた。いや、2人だけじゃ無い。出遅れただけで、ライも、アルフも、レオさんもだ。

 

「君は正気なの!? そんな事をして誰が喜ぶというの!」

「俺ですよ。自己満足で自己欺瞞ですが、十分です」

「ふざけんな! 黎、君がやろうとしている事はヒーローの行いじゃない!」

「無問題だ。1度足りとて、ヒーローになろうと思った事は無い」

 

 メリオルさんとエルフィの言葉に、俺は冷静に返す。

 『スターにはなれても、ヒーローにはなれないね』。これもとあるラノベの言葉だ。きっと俺はヒーローなんて勿論、スターにだってなれないだろう。

 十分だ。

 スター? ガラじゃ無い。

 ヒーロー? 俺の、化物の対極の存在だ。

 

「黎、お前は大切な人を泣かそうとしているんだぞ!」

「残念ながら、俺はそれを知る事はできんだろうな」

「最低のやり方だ! そのせい色んな人がで何年悲しむと思うんだ!」

「だが時間はそれを解決する。時が経てば、涙の一粒も流れなくなる」

「お前はそれで良いのか!? 助かって喜ぶ顔を見ないで、後悔と苦痛だけの人生で!」

「前世は実際そうでしたよ。もう1度繰り返した所で、1回が2回になるだけです」

 

 ライ、アルフ、レオさんの激昂にも俺は冷静だ。

 『何も失わずに何かを得ようだなんて、心が豊かだから思えるのよ』。これはゲーム内の言葉だったな。何かを手に入れようとすれば、何かを失う。それは世界の理として、当然の事だ。リターンには必ずリスクが伴う。

 

 そう、天秤に乗った命を両方とも助けたいのなら、捨てられる物は1つしか無い。

 

 パンパン、と服についた埃を払い、俺は立ち上がった。

 

「さて、俺は話すべき事は全て話した。これからあの女を仕留めに行く。そっちは、どうする?」

 

 逡巡は一瞬。

 すぐに皆はついて来た。

 

「俺も行くぜ、自殺志願者」

「放っておいたら、絶対自爆特攻とかしそうだしね」

「ま、ライが信じるなら大丈夫でしょ」

「あの女には借りもあるしな」

「恩返しもしてないし、私達の世界の危機でもあるしね」

 

 理由は千差万別。

 戦う心は、問わないさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いて例のトロッコ置き場まで行く途中、こっちもライ達から、向こうの事情を聞いた。

 

「酔っ払いを助けるために代わりに電車に轢かれた? またテンプレな、って人の事あんまり言えねぇけどな」

「あ、あはは……」

 

 電車のホームから落ちた酔っ払い2人組を助けるために飛び降り、助けたは良いが代わりに5人共電車にドーン!

 で、神様現れて転生。その際、血縁関係の唯一無かったエルフィは4人の親戚となったらしい。

 

「悪いな、壮絶なドラマとか無くてよ」

「別にそんな物を求めた覚えは無いですけどね」

 

 レオさんはそう謝るが、からかっているらしく、顔は笑っている。

 特にでかい敵も無く、およそ原作通りに進んでいるらしい。まあ、アルフが闇に乗っ取られたり、盗賊王がライの体に同居してるなんてのには驚いたが。

 ……と。

 

「着いた。まだあそこに居る」

 

 最初にライ達が護衛とぶつかり合っていたトロッコ置き場に到着した。距離にして100メートル少々。まだあっちはこっちに気付いていない。

 

「でもどうするんだい? 弾切れの無い銃相手なんて勝てっこ無いよ」

 

 まあ、アルフの言う事もご尤もだ。飛び道具ってのは距離があって、しかも弾数があって初めて相手より優位に立てる。だからこそ懐に潜り込んだり、弾切れを狙うのが、飛び道具相手の定石。

 だが、接近戦云々は兎も角、弾切れが無いのは厳しい。

 

『ふむ、肉眼で弾道を見切れるか?』

「見切って動き出す頃には当たってるぞ」

 

 桜も意外と抜けている。

 さて、弾切れは無い。だったら。

 

「他にもやりようはあるさ」

「どうやるの?」

「こうやる」

 

 体の中でスイッチを入れる。瞬時に髪の毛と瞳の色が紫に変色、更に皮膚に同じ色の唐草模様が走る。

 『双頭の雷龍(サンダー・ドラゴン)』、その真の姿たる『雷神龍-サンダー・ドラゴン』から貰った雷の力だ。

 

「うわ! 髪の色が変わった!」

「はっ!」

 

 地面に掌を押し付け、そこから強い電流を流してやる。これで、トロッコ置き場付近に強い電磁場が生まれる。

 視界の先でラストは軽くバランスを崩した。

 これで、準備完了。

 

「さあ、これで大丈夫だ。欲しい武器はあるか?」

「刀二本で」

「籠手と脛当てとか無い?」

「エアガンとレイピア。できれば蛇腹剣」

「刀が一本欲しい」

「金属製の扇子ってある?」

 

 順にライ、アルフ、エルフィ、レオさん、メリオルさん。

 注文通りに鉄とチタンを錬成して分け与える。

 

 

 

 ズキッ!

 

 

 

 ……っ!

 このくらい……!

 

「……、精霊はカードに入ったか?」

「ああ」

「うん」

「大丈夫」

「こっちもオッケーだ」

「はい」

「OK、出来るだけ大きく散開して、ついて来い!」

「え、あ、おい!」

 

 ダッ! と俺は痛みを誤魔化すために走り出し、すぐ後ろで皆が走り出す音を聞く。

 

「大丈夫なんだろうな!」

「任せろ!」

 

 すぐ後ろを走るライにそう返す。

 一方で向こうもこっちに気付いたようだ。最初は信じられないといった風に瞬きを何度かしたが、すぐに手にした銃を構える。

 100メートル進むのに、一般的な足の速さで15秒弱。それだけの時間があれば、俺達全員を撃ち殺すくらいはできるだろう。

 そう、当たればな?

 

「フフフ、この世界で最も美しい女、色欲のラストの凶弾にわざわざ撃たれに来るとは、とんだ酔狂ね。良いわ、蜂の巣におなりなさい!」

 

 女、ラストの拳銃が火を噴く。左右の拳銃から無数の弾丸がマシンガンの如く撃ち出された。ラストの持っている拳銃はオートマチックの連射型。粗悪な品は弾詰まり(ジャム)を起こしやすい反面、種類とカスタマイズによっては33発もの弾丸を1度に内蔵できる。

 見たところあいつの銃はグロック18C、その33発装填を可能にする一品であり、1分間に1200発もの乱射が理論上可能だ。最少装填数17発のそれが撃たれるという事は、例えリロードに時間がかかったとしても、1クールにそれだけの弾丸が飛んで来るという事だし、事実目で捉えられない数の弾が飛んで来た。

 だが、一発たりとて、俺達には掠りもしない。

 

「ええっ!?」

 

 慌てて更に撃つが、無駄だ。お前は真っ直ぐ撃っているつもりだろうが、弾道は俺達から大きく外れている。当たるワケが無い。

 結局一発も当たらず、俺達はラストに接近できた。

 

「さっきはよくも母さんを! 風雷流剣術、二の太刀! “登竜閃”!」

「な!? うっ!」

 

 斬斬! ライの右順手の横薙ぎ、左逆手の斬り上げがラストを捉える。ジジジ、と傷が回復するのは想定済みだ。

 風雷流、それは戦国時代を生き延びるために生み出された傭兵の武術。どれだけ汚くても生き延びる事を主眼においてある、その場にある全ての物を武器に戦う流派、らしい。俺は初めて見る物だから知らんが。

 

「こ、このガキ!」

 

 ラストが銃口をライに向ける。

 いかん、あの距離は当たる!

 

「させない! 風雷流、投げの型! “雷落とし”!」

 

 こっちの反応よりも速く動いたのはアルフだ。銃を向けた方の腕を掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばす。少しでも武術その他に心得があるならば、背負う前に間接を固め、叩き付けた後にその腕を圧し折った事が分かるだろう。実際、ベキリ、という音がした。

 

「あがぁっ!?」

「へぇ、やるじゃんか」

「風雷流を、ナメるなよ?」

「そら失礼!」

 

 腕の治ったラストが二丁拳銃をこっちに向けて来る。が、遅い。

 今度は俺の番だ!

 

「おらよ! “渇殺(かっさい)”――」

 

 右の蹴り上げで左手の銃を蹴り飛ばし、そのまま回し蹴りをぶち込む。

 

「“磐雷(ばんらい)”!」

「グギッ!?」

 

 俺の足は雷の力で強化しつつ、地の力で硬化させてある。下手な鈍器よりか威力はあるぞ?

 ベキベキ、と肋骨を圧し折る感覚が脛に残っているのを感じる。やはり、こいつらの体の仕組みは人間に近い。

 さて、俺がどこにお前を飛ばしたと思う? 出鱈目な方向に蹴り飛ばしたと思うなよ? そっちには――

 

「エルフィ、メリオルさん、行ったぞ!」

「OK!」

「サンキュー!」

 

 鋼の扇子と、蛇腹剣&エアガン(空き缶壊せます)で武装した2人がいるんだからな!

 

「“幻走連斬舞”!」

 

 バシィッ! レイピアの状態から鞭の状態へ。姿が瞬時に消え、鞭を振り回すエルフィ。俺でもその速度を捉えるのは難しい。次から次へと立ち位置を変え、全身余す箇所無く斬りつける。

 

「ハァッ!」

「が……っ!」

 

 止めの一撃が炸裂。ズタズタになったラストを、今度はメリオルさんが狙う。

 

「“風月”」

 

 静かな宣告、同時に両手に持った扇子が円を描く。

 

「う、ギャァアアアアアアアアアアッ!?」

「それだけボロボロになってるのを狙うのは気が引けるけど、これでお相子よ」

 

 一瞬の交差で、メリオルさんの扇子がラストを撃った。ズバン! という小気味良い音と、バギィ! という肋骨の砕ける音が響いてラストが吹っ飛び――

 

「っ!」

「母さん!」

 

 メリオルさんが片膝をついた。

 

「ああ、もう。毒はまだ抜けないのかなぁ!」

「んな簡単に抜けたら世話無いですよ」

 

 命に別条が無くなったとは言え、まだ毒は抜け切っていない。飽くまでもあれは毒性を抗体で中和しただけ。毒で受けたダメージは残ってるし、中和しきれてない毒だって残っている。運動して血液の循環を早めればこうなる事ぐらい自明の理だ。

 ゲームみたいにすぐ毒消滅、なんて風にはならないのだ。

 心配して駆け寄った俺とエルフィ。そこにジャキリ! という音が聞こえた。

 

「隙有りよぉ!」

 

 マズい! ラストの攻撃が来る!

 盾は間に合うか!?

 

「俺を忘れてもらっちゃ困るな! “爪竜連牙斬”!」

 

 斬!

 盾の展開よりも先に、レオさんの斬撃が入った。くるくると円を描くように蹴りを時折混ぜる剣激が、ラストの銃撃を妨害したのだ。

 

「ふ、ぎぃいいいいいいいっ!」

 

 あらら、ご自慢の美貌もザックザクだな。

 

「よ、よくもこのワタシの美しい顔をぉ!」

「私は造形の美醜には疎いが、貴様の美しさが真の美では無い事くらい分かるぞ?」

 

 ザシュッ! と桜の剣が更にラストを斬り付ける。

 こうなると最早リンチの類だが、それを気にしちゃダメだ。リアルファイトでボコらないと、デュエルには移行しない。デュエルでないと殺せない事を思い知らせ、初めて同じ土俵に乗れるのだから。

 

 ラストの弾丸が当たらなかった理由の種明かし。それはこの土地の磁場の操作だ。

 連中が人間の姿を取っているのは、多分ただの見せかけ。中身を抉った事があるから分かる。人間の見た目は、ただの入れ物、或いは真似をしたパチモノだ。だがそれだと瞬きをしたり、喋る際に口が動く事に説明がつかない。

 

 だから俺はそこで発想を逆にした。

 こいつらの人間の見た目は、見せかけだけでは無いんじゃないか、と。

 だからこの土地の磁場を弄って、ラストの平衡感覚を狂わせた。地球が巨大な磁石である以上、人間もその磁力に適用した形で生活しているはずだ。燕などの渡り鳥の帰巣本能はこの磁力を利用している。となれば、人間にだって使えないだけで、僅かばかりのその能力があるハズ。

 無論、人ならざる者だ、きっと突然変わった磁場にも対応できるだろう。だから俺は最初の磁場の変動にわざとヤツを慣れさせ、コンマ1秒に1回の単位で磁場を更に書き換える。それも、気付かれないように僅かずつ。勿論、こっちサイドには被害を出さないように各自に狂った磁場の影響が出ないよう特殊な電磁シールドも施した。

 結果、ラストは狂った平衡感覚で狙いを定めた上で撃ったため、弾丸は的外れな場所へ飛んで行った。しかし本人はまっすぐに狙っていると思い込んでいるため、修正しように修正の仕方が分からず、結果、俺達の接近を許したのであった。

 

 カラカラン、と乾いた音を立てて、ラストの銃が手から滑り落ちる。

 やった、か?

 

「ふ、ふふ」

「?」

「ふふふふ、ふふふふふふ!」

「何だ、何がおかしい」

「ふふふふふふふふ、あっはははあはははあはははははははははは! アンタら、絶対に許さないわよぉ!」

 

 ジャキン! と再びラストは拳銃を装備……。

 

(ピストルカービンか!)

 

 その銃は、拳銃では無かった。ライフルの銃床を拳銃のグリップに取り付けた、と言えばその見た目の全てが語れるだろう。騎兵(カービン)銃の一種であり、その通称はPCC。発砲炎と反動が抑制され、高初速&高エネルギーによって威力がアップしている。

 本来ならば、あれは普通の狙撃銃のように這って撃つ物だが……っ!

 

「全員、俺の後ろに!」

「ぐっちゃぐっちゃにしてやるぅうううううううううっ! “暴弾血世衝(ぼうだんちよつき)”!」

 

 バラバラバラバラバラバラバラバラバラララララ!

 撃ち出される、無数の弾丸。拳銃より威力も連射力も上がっている! やはり、拳銃と同じスタイルで使って来るか!

 髪の毛で掴んで、離れた場所にいたライ、アルフ、レオさんを俺の後ろに。桜はカードに戻ってもらう。伸ばした髪はそのまま分厚い壁にして、俺達の前に。金属でコーティングし、盾にする!

 

「“ヘアー・ディフェンサー”!」

 

 ガッガガガガガガガッガガガガッガガッガッガガガガガッ!

 弾丸の雨霰が髪の壁に直撃する。

 しかし神経を繋いでいないとはいえ自分の肉体の一部だ、壁がどんどん削れているのが伝わって来た。

 

「あまり長くは、保たないかもな……」

「ちょ、おい!」

 

 俺の分析にレオさんが顔を青くする。

 実際、防壁がガリガリ抉られているのが、髪の持ち主である俺自身よく分かる。放っておけば数分後には確実に貫いてくるだろう。

 だが、どうする? 精霊に実体化して殴って来てもらうか?

 ダメだ。ラストとの距離があり過ぎる。俺でも今の距離を詰めるのには3秒はかかる。奴が気絶でもしない限り、接近するのは不可能。第一、ラストの弾丸に当たれば、いかに精霊と雖もどうなるか分からない。なまじ人間と違う体をしているから、俺のワクチンが効く保障も無い。

 かと言って、皆を守るために張っている盾も限界が近付き始めている。リミットまで恐らく30秒弱か。

 

「こ、このままじゃジリ貧だよ!」

「おいおいおい、蜂の巣なんて勘弁だぜ!?」

 

 あー、クソ、どうすれば……!

 

 

 

 

 

『いたぞ! あっちだ!』

 

 っ!

 

『発砲許可! 撃ち殺せ!』

 

 この記憶は……!

 

『市民に当たろうが構わん! 奴を殺す事を最優先しろ!』

 

 あの時の……!

 

『あの化物は害悪! 生きている事が間違っているのだ!』

 

 何でこんな時に……!

 

『存在そのものが罪悪の怪物め! 人間様のテリトリーに入るからこうなるんだ!』

 

 そうだ、俺はあの時……。

 

『このガキはどうします?』

 

 市街を逃げていて、そこにいた小さな子を庇って……。

 

『そいつも殺せ。どうせガキだ。いくらでも替えが効く国民(ゴミクズ)共の内のたった1人』

 

 機関銃で撃たれて……。

 

『クソ以下の存在一匹消して、誰が困る?』

 

 それで……!

 

 

 

 

 

 俺は髪を一時的に切り離した。切断部と合わせれば、また元の長さの俺の髪に戻る。

 

「黎?」

「ここにいろ」

 

 金属は全部髪に回した。俺の体重は今70キロ程度。身長と比較して、ちょっと多めだ。まあ、300キロオーバーの金属の存在を考えれば、体はかなり軽くなったように感じる。

 さて、と。

 

「ねえ、何するつもり?」

「まだ防壁は保つ。外に飛び出したりするなよ?」

「お、おいちょっと待て。お前まさか!」

 

 ライの制止も聞かず、俺は、跳ぶ(・・)

 防壁の、上へ。

 

「な!?」

「ちょ!?」

「あらぁ?」

 

 スタッ、と着地。そのまま弾雨の中を突っ切る。

 当然ラストは、俺を狙って撃って来る。

 

「あらあら! わざわざ当たりに来るなんて、大したマゾ根性ね!」

『あ、主殿!』

「カードから出るな桜!」

 

 ブシッ! バジュグジュギジッ! ビシニジュッ!

 一瞬で頭に、顔に、肩に、胸に、心臓に、腹に、足に、何十発と被弾する。

 く、やっぱ弾丸は痛ぇ……! だが痛覚遮断に割ける余裕は無い。どうせ蜂の巣になっても死なない体だ。今更銃創の1つや2つ、何て事は無い!

 一歩! 後、5メートル!

 

「しぶといわねぇ!」

 

 ビジッ! ビシャッ!

 血が、足りている間に辿り着けるか!?

 

「く、何故死なない! この、化物がぁあああああああっ!」

 

 弾速が上がり、弾数も増える。まだだ、まだ走れる!

 もう、ラストは目の前だ!

 

「死ね! 死ね死ね死ねぇ! 死んでしまえぇ!」

「だが――」

 

 腕が、額が、頬が、目が、足が、膝が、胸が、ラストの凶弾で抉られ、貫かれる。

 だがラスト、例えどれだけ風穴を穿たれようが!

 

「断る!」

 

 俺は倒れん!

 右ストレートがキレイにラストの顔面に決まった。

 

 ゴバギィッ!

 ブシブシブシッ、ベギシィッ!

 グシャッ! ガラガラガラ!

 

 ラストの顔面が、俺の拳打で砕ける音。

 俺の穴だらけになった腕から、大量の血が噴き出る音と、弾丸で穿たれて脆くなった骨が圧し折れる音。

 そしてラストが吹っ飛んで岩肌が崩れ、瓦礫の下敷きになった音が、銃撃戦終了のゴングとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……、ハァ……、ハァ……、クソ、余計なダメージ食らったか……」

「ダメージで済むか! 致命傷だろ、確実に!」

 

 パタタ、ポタポタ、と全身から血が滴り落ちる。体中穴だらけだ。だがまあ、問題無いだろう。傷がまた増えただけ(・・・・・・・・・)だ。今更10や20増えた所で、何の問題があるだろうか。

 

 だが、まあ、闇のデュエルが始まる前に、これだけのダメージを負ったのは問題、か?

 

「もう少し自分の体を労われ、主殿。フレイからも言われたハズだ。これ以上のダメージは命に係わると」

「……だが、突破する方法は、ハァ……、あれ以外に、あったか……?」

「それは……」

 

 言いよどむ桜に、俺は更に言葉を重ねる。

 

「ハァ……、ハァ……、俺のやるべき事なんだよ、体を張るっているのは。ハァ……、無駄に頑丈な、俺以外、誰もやれねぇだろ……」

「だからと言って、ここまで無茶をする必要があるの!?」

「……ある」

 

 エルフィの怒声にも、俺は冷静に答える。

 呼吸が少しずつ、戻って来た。

 

「あれがあの場のでの最前の策だった。それとも、お前は蜂の巣になって犬死にしたかったのか?」

「そ、そういうワケじゃ……」

「だったら、俺が出るしか無いだろう? 適材適所、人には役割がある。俺は、ああやって体張って、皆を守る盾になり、敵の注意を引き付ける囮だ」

「……だが」

 

 レオさんは反論する言葉が見つからないのか、そこでセリフを区切った。

 

「死ぬ? 上等ですよ。1度は死んだ命、終わった人生。それが何の偶然か、こうして蘇っただけ。そして、不幸な目に逢っているのは、今は都だけ。だったら、あいつを助けるために体張る事ぐらい、普通でしょう」

「その張り方が普通じゃ無いっていうのよ。途中で死んだらどうするの」

「死なないですよ」

 

 メリオルさんの言葉に、俺はバッサリ切り返す。

 

「俺は死なない。化物(モンスター)が死ぬのは、正義の味方によって殺される時だけ。悪同士の戦いでは、殺されやしません」

「それは物語の話だ!」

「例えそうでも、例え致命傷を負ったとしても、俺には――」

 

 

 

 

 

『これで終わりね、モンスター? 流石のアンタも、全身が引き千切れたら死ぬでしょう?』

 

 蘇える、あの時の、俺と都の断末魔。

 

『ウフフフフフ、これで、人間様の正義の力ってヤツが良く分かったかしら?』

 

 そして不愉快な笑顔。

 

『詰らないわねぇ。傷口を邪魔するだけで、不死鳥も死ぬんだから』

 

 俺の、本当の化物の様な、怒号。

 

『な、んですってぇ!?』

 

 そして、飛び散る、俺と、あの女の鮮血。

 

 

 

 

 

「黎?」

「いや、何でもない」

 

 ……どうも今日は、昔を思い出すな。

 あの日の夜に使った、最初で最期のあの力。あれを出すような事態にならなければ、良いんだがな。

 

「ま、切り札の1枚くらい、取って置いてあるって事です」

「……それは、安全なのか?」

「さあ? まだ実戦では1回しか投入してないからなぁ? ま、ライ達が安全だって事くらいは保障するさ」

 

 それを桜を含めた6人は聞いて渋い顔をする。

 だがこっちとしても、そんな顔をされても困るんだが。

 

「ダラッシャァアアアアアアアッ!」

 

 と、積み上がって墓石のようになった瓦礫の塊から、ラストが飛び出して来た。

 

「ほう、生きていたか。そのまま消滅してくれれば楽だったっつーのに」

「ゼェ……、ゼェ……、ゼェ……、ワタシ達がこんな者じゃ死なないって事くらい知ってるでしょうに……っ」

「ま、ごもっとも」

 

 じゃ、まあいつも通りに。

 

「ラスト、俺達とデュエルと行こうじゃないか」

「ハン、お断りよ。この場で射殺した方が確実じゃないの」

「そうかな? お前の銃じゃ俺達を殺せない。毒なら俺がワクチンを持っている。それとも、このままジワジワと消耗したいか? 一晩あれば、流石に行けるだろう」

 

 それで良いなら、相手してやるぜ?

 そう言って俺は再び構える。今度は周囲にはっきりと火花が見えるくらいに強い電気を纏って。

 自分の不利を知ったラストは、近くの洞窟の傍に止めてあったトロッコ列車に飛び乗った。そのまま腰のホルスターから銃を引き抜き、こっちの足元に威嚇射撃。

 

「っと!」

 

 その踏み込めない一瞬を狙って、ラストは列車を発進させた。

 ラストが操縦席から高笑いをしながら、こちら側に宣告する。

 

「待て!」

「この鉱山を抜けた先の操車場で待ってるわ! ワタシと戦いたいのなら、トロッコに乗って追って来なさい! アッハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!」

 

 ラストの乗った列車が、坑道の奥へと消えて行った。

 エコーの影響で、あいつの癇に障る高笑いが、長く長く響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、逃がした」

 

 憎々しげに舌打ちする俺の横で、ライが首を傾げる。

 

「追いかけないのか? この先で待ってるって言葉が嘘でも、行き先は分かってるだろ?」

 

 そう言ってライが、ラストの消えて行った坑道の入り口を指差す。

 ライ、お前なぁ……。

 

「はぁ……、兄さん、罠って可能性は考えないの?」

「あ……」

 

 アルフが頭を痛そうに溜息を吐いた。ライ、今気付いたのか?

 レオさんとメリオルさんが、アルフの隣で冷静に分析する。

 

「態々誘って来ている以上、何かあると見るべきだ。それにトロッコで追って来いと奴は言っていた」

「つまり、トロッコかレールのどっちか、或いは両方に罠がある、って事ね」

「そういう事です。無論、操車場に行っていないケースもあります」

 

 だが。

 

「それでも行かなきゃ駄目だろうな。ここで立ち往生する訳にもいかない」

「だが」

「俺は行きますよ、誰が止めても」

 

 今、この場にある乗れそうなトロッコは4~5台。ニコイチをすればもう何台かいけるかも知れないが、生憎、俺にはトロッコ修理に関する知識は無い。

 

「なら、俺も行く」

「兄さん!」

「借りの作りっ放しってのは性に合わないんでな。それに、あいつは母さんを撃った。父さんとアルフ、もちろんエルフィも。一泡吹かせてやらねぇと、気が済まねぇ」

 

 ライが怒りの炎を燃やしながら、前に出る。

 

「ほう、良いのか? 俺は化物、人間じゃねぇ。暗がりに誘い込んで頭から噛み砕くかも知れねぇぞ?」

「お前はそんな事する奴じゃねぇだろ?」

 

 ふ、知った口を聞く。そうおどけて言うと、ライはケースに入っていたデッキをディスクに差し込み、顔を笑って歪ませる。

 

「だったら、私も行く。ライだけ放っておいたら、何するか分かったモンじゃないし」

「なら僕も参加だよ。兄さんが信じるなら、黎は味方だ」

 

 続いてエルフィとアルフが名乗り出る。

 

「レオさんとメリオルさんはどうします?」

「ゴメン、私は行けないかな。まだ気分が悪い……」

「だったら俺も居残りだな。メリオルを1人にするワケにも行かねぇ」

 

 対し、空時夫婦はパス。まだ毒が残っているせいで少し顔色の悪いメリオルさんに、その護衛という形でレオさんが付き添うのだろう。

 

「精霊さん達はどうする?」

『あ? 行くに決まってンだろ』

『同行します』

『行かない理由もありませんしね』

『ピピー』

『マイレディを危険から守るのが仕事なので』

『ボクも行くよ』

 

 順に『ゴーズ』、『カイエン』、『ギアフレーム』、『ピースキーパー』、『ダーク・ヴァルキリア』、『フレイヤ』。

 

『私は2人から離れる訳にも行きませんからね。ここに残ります』

 

 一方で『キーメイス』のメイは居残り。まあ、マスターを放っておく訳にもいかんだろうし。

 

「決まりだな。それじゃ、これを見てくれ」

「これは?」

「この鉱山の路線地図だ。さっきの詰め所から1枚拝借した」

 

 懐から俺が取り出したのは、鉱山に縦横無尽に張り巡らせてあるトロッコの線路図。

 

「現在地はここ、そしてラストの入って行った坑道の入り口はココ」

「ふむふむ」

「この路線は1周してここに戻って来るタイプだ。トロッコや、ラストの乗っていた列車にはエンジンがついている。所要時間は1周につき最低半時間」

 

 この廃れた鉱山は、設備が中々整っている。

 金属の錆具合からして、放置されてからざっと20~25年。地図や、詰め所で目を通した資料を考えれば、かなり高い技術力を持った文明だったのだろう。燃料だってまだ残っているし。だが、廃れた後の始末がされていない。

 しかも石油系の燃料が放置されている。これじゃ誰かに使ってくれと言っているような物だ。

 それはさて置き。

 

「トロッコ列車に乗ったっつー事は、多分……」

「行き先に何かがあるのか?」

「恐らくはな。地図には操車場以外何も無いから、行き先に何かを隠していると見るべきだろう」

 

 そう、誰が見ても罠だ。

 でも行かなければ決着はつかない。

 

 行くか、行かないか。

 選択肢は2つに1つ、二者択一。

 

「黎は、どうするんだ?」

「行く。それ以外の答えは出さない」

 

 近くにあったトロッコを1つ、線路に乗せる。サビてはいるが、油を差せばまだ動くだろう。

 

「そう言うと思ったよ。俺も参戦だ」

「私も」

「僕も」

「オーケー」

 

 更に3つ、トロッコを追加。放置してあった燃料を入れて、整備用の油を差す。

 ギシギシと鳴っていた煩い音が収まる。オッケー、行けるぜ!

 と、その前に。

 

「プロテクター、展開」

 

 掌に小さな光の玉を生み出す。

 優しい白い輝きを持つそれは、ライ達の体に溶け込んで行った。

 

「これは?」

「プロテクター。隕石が衝突しても死なないバリアだ。連中の使うカードは、まあ俺の記憶を見たから分かると思うが、かなりえげつない上に物理的なダメージを伴う。それをしていないと、大型ダメージ1発で死ぬ」

 

 これは誇張じゃない、事実だ。

 何度も連中の攻撃を受けた事があるから分かるが、あの衝撃は比べ物にならないレベルの物だってある。生身で食らえば、確実に致命傷だ。

 

「死ぬって……」

「どうした、怖気付いたか? 今ならまだ引き返せるが?」

「だ、誰が!」

 

 ライが怒鳴り返す。なまじ闇のゲームを経験した事があるから、死の感覚を知っているんだろう。

 

「なら、行くんだな?」

「当然だろ!」

「強がりなら止めておけ。本気で死ぬぞ。お前がこれまで経験した事のある闇のゲームとは文字通り桁が違う。一撃一撃が瀕死クラスだ。下手な負けず嫌い根性で行くと、後悔しながら死ぬぞ?」

「っ、だがお前は、それに行くんだろ!?」

「当然。俺の義務だ」

「だったら俺の意見は変わらねぇ。お前1人行かせるワケにはいかねぇよ!」

 

 どうやら、ライは本気のようだな。

 目線をアルフとエルフィに向ければ、2人も頷く。レオさんとメリオルさんもだ。

 ったく、自殺志願者共が。

 なら、俺がフォロー入れるっきゃねぇか。いざとなれば俺が守るし、ライ達だってそうホイホイやられるわけでも無いだろう。

 

 ……彼らには家族がいる。

 ライには恋人と弟と親が。

 アルフには兄と親が。

 エルフィには恋人と親代わりの人が。

 レオさんには妻と子が

 メリオルさんには夫と子が。

 

 この家族を壊しちゃならない。もう彼らは、1つの幸せの形を成しているんだから。

 何としても、守るんだ。

 

 例えこの命に、替えてでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行って来るよ」

「行ってきます!」

「行ってきまーす」

「気をつけてな」

「ちゃんと帰って来てね」

 

 トロッコのエンジンを調整し、乗り込んだ俺達4人。

 両親に軽い挨拶をして、ライ達はトロッコを動かし始める。

 俺もトロッコのレバーを倒して、ブレーキを解除しようとして……。

 

「黎の坊主」

 

 レオさんに呼び止められた。

 レバーにかけた手をそのままに、俺はレオさんの方へと振り向く。

 

「何でしょう?」

「お前の事だから、きっと死んでもライ達を守るとか言うんだろう。だが、それは止めろ」

「……」

「あいつらはそんなヤワじゃねぇよ。それに、仮にお前が死ぬ事であいつらが生きても、あいつらは良い顔しねぇと思うぜ?」

「そうね。どうせなら、貴方も一緒に帰って来なさい」

 

 レオさんに続くメリオルさん。

 …………。

 

「貴方達は、恨まないんですか?」

「恨まない? 何をだ?」

「俺の事を、ですよ」

「何故?」

「俺が、貴方達家族を、死ぬかも知れない戦場に巻き込んだ。特に、メリオルさんはもう少しで死ぬかも知れなかったし、ライ、アルフ、エルフィはこれから過酷な戦いに赴く。仮にも家族であり、貴方達の子だ。普通なら、俺を恨むモノだと思うのですが?」

 

 それが正常だろう。娘同然のエルフィに、実際にメリオルさんがお腹を痛めて生んだライとアルフ。

 俺が同行するとは言え、あの3人は、或いはこれから死ぬかも知れないんだ。心穏やかでなんていられないだろう。

 レオさんはそれに対して首を横に振った。

 

「お前の言いたい事はよく分かる。でもよ、このまま放って置いても、遠くない内に俺らの世界も危ないんだろ? だったら、ここで止めるべきだろうよ。

 ……本当は俺も行きたかったんだが、メリオルを1人にするワケにもいかねぇしな」

 

 ……………………………………………………………………………。

 

「だから、ライ達をお願いね、黎くん。4人揃って、ちゃんと帰って来るのよ?」

「……分かりました」

 

 そこまで言われちゃ、死ぬ訳にもいかないな。

 ま、努力はしましょうか。

 

 俺は居残り組の2人に頭を下げて会釈すると、レバーを倒して、トロッコを出発させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:無し

 

 

 

――操車場

 

 坑道に入る事2分、薄暗い洞窟の先にあった開けた場所に、黎は到着した。

 先に到着していたラストを始め、ライ、アルフ、エルフィの視線が彼に向く。

 

「遅いぞ、何してたんだよ」

「悪いな、ちょいとした野暮用だ」

 

 それより、と黎はラストを睨みつけた。

 

「おっ始めようぜ、ラスト。世間話をしに来たワケでも無いんでな」

 

 相も変わらず、邪神の護衛からは吐きそうなくらい不愉快な存在感が流れ出しているが、好い加減黎もそれに慣れて来ていた。

 ディスクが起動し、レーンに沿ってエッジが動く。デッキを差し込みライフカウンターをONに。

 

「あらあら、せっかちねぇ? 嫌われるわよぉ?」

「元より人からは嫌われている。今更気にするモンでも無いさ」

「あっそう」

 

 じゃ、独り寂しく死になさい? ラストの言葉と共に、彼女の腕に漆黒のデュエルディスクが生み出された。ジュクジュクとした気味の悪い闇が原材料なのも毎度の事である。

 

「安心なさい、すぐに沢山の人を送ってあげるから寂しくないわよ? ああ、でもアナタは化物なんだから、どの道敵が増えるだけよねぇ?」

「不愉快な奴だ」

「全くだね」

 

 こめかみを引き攣らせてライとアルフがディスクを展開する。

 ライの後ろにはあの世から来た2人の剣士が。

 アルフの後ろには赤と橙の意思あるマシンが半透明で浮かぶ。

 

「第一、死なせやしねぇよ。俺達がいるんだからな!」

 

 その横でエルフィもディスクを展開した左腕をラストに突き付ける。

 

「それに、私達、メリオルさんを撃った事、まだ恨んでるって事をお忘れなく!」

 

 こちらもラストを睨んでいる。

 背後には、2人の天使。

 その全ての視線を全身に受けながら、ラストは不気味に笑い――

 

「ふふふ、そう。そんなにワタシが恨めしいなら、ワタシに勝つ事ね!」

 

 彼女の乗った列車が唐突に走り出した。

 

『『な!?』』

 

 慌てて4人もそれを追いかける。時速は30キロも無いだろうが、それでもそこそこの速度はあるだろう。

 幸いにもすぐに追いついたが、ラストは操縦席にはおらず、何故か屋根の上に立っていた。

 

「フフフ、よく聞きなさい人間! このままワタシとデュエルしてもらうわよ!」

「何だと!?」

「大して速く無いとは言え、この走行中のトロッコに乗ったままでか!?」

「嫌なら構わないわよ? どこかでレーンを変えて適当なトコに逃げるだけだから!」

「ッ、やってやろうじゃねぇの!」

 

 このまま逃がす? 冗談にも程があった。黎にとっては、ここで受けない、取り逃がすという選択肢は無かった。ここで逃がしたら遅れている邪神復活のアドバンテージが削られてしまうからだ。

 

「俺はこの誘いに乗ろうと思う。お前らは?」

「俺も乗った! 面白そうだ!」

「僕も! このまま逃がすのも何だしね!」

「なら私も同意しておく。あのトリガーハッピー、ぶっ飛ばしてやる!」

 

 決まりだった。

 

「受けて立つぜ、ラスト!」

「フフ、ならここがお前らの死に場所よ! 良い女に殺されるんだから、感謝なさい!」

「ほざけ! 逆にテメェの墓場にしてやる!」

「僕達の未来を、壊させはしない!」

「良い女が何なのか、お前に教えてやる!」

 

 

『デュエル!』

 

 

 

SIDE:黎

 

 

 

 デッキから全員、カードを5枚引く。

 これで5回目の護衛との戦い。奴らが無茶苦茶なカードを使って来る事ぐらい、好い加減理解している。そして、それの対抗策も、頭の中でできている。

 だが、それを続けるには、この体はそろそろ限界だ。

 

 でも、構わない。都を助けて、世界を救う。1人の命と引き換えで、沢山の命が助かる。なら、1を切り捨てるのは間違いだろうか? 否。切り捨てない方が、寧ろ間違いだと言えるだろう。

 

 だが、もしも天秤の皿に乗った両方の命を助けたいと思うなら?

 何かを捨てなければ、何も手に入らないのがこの世の理ならば、捨てられる物は1つしか無い。

 

 右の皿には、都の命。

 左の皿には、世界の未来。

 

 両方、助けたい。

 

 だったら、捨てられる物は、ただ1つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺の、命(下らないゴミ)だ。

 

 

to be continued

 

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