遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
SIDE:無し
義妹。
その言葉は会場の全員に聞こえた。
『義妹!? 義理の妹!?』
『なんだそのギャルゲーもどきの設定!?』
『というか、あの爆発、何やったのあの子!?』
当然、リングの上から降りていた黎のそばにいた皆、十代、翔、隼人、大地、フィオ、明日香にも聞こえている。
「れ、黎! 確かお前妹はいないって!」
「義妹はいないとは言っていない」
「いやそうだけどさ!」
屁理屈だ。妹と義妹の差は、精々血縁関係程度。妹とおおよそ変わりは無い。
なのに黎は言わなかった。その理由は彼が『妹』と『義妹』を同一視していない点に尽きる。
「ひさしぶり、とでも言うべきか、我が愛すべき
「くふふふ……」
皮肉も込めた黎の挨拶を聞き、都はただただ不気味な笑いを浮かべているだけだった。
「変わったな、お前は。前は礼儀正しい良い子で、そんな変な笑い方はしていないかった」
「くふふふ……。お
「変わりすぎだ」
傍から見れば微笑ましい義兄妹の遣り取りに……、見えない。原因は都から上がる黒い何かだ。
霧や靄の様に見えるし、オーラの様にも見える。
「……、敵の手に堕ちたと聞いたが、その辺どうなんだ?」
「ははははっ! 堕ちたぁ? あっはははははははははははははっ!」
黎の質問に突如大声を上げて都は笑う。嗤う。嘲笑う。
「確かにぃ、そっちから見れば“堕ちた”なんだろうけど。あたしからすれば“昇った”とでも言えるんだよ、お義兄ちゃん?」
「…………………………………………………………」
“昇った”?
“堕ちた”と対をなす言葉のつもりなのだろうか?
ゆらあ、と都が黎の方へと歩く。黎も静かに都に歩み寄る。
二人は対面する形で向かい合い、立ち会う。
ニィ、と都が笑う。
ムッ、と黎が表情を消す。
向かい合い、沈黙し、そしてその静寂を破ったのは黎だった。
「俺に用か、都?」
「うん、えっとねぇ」
「死んで?」
次の瞬間、真っ黒な剣が黎の心臓を貫通し、黎の鮮血が飛び散った。
SIDE:フィオ
「え…………?」
わたしは最初、それを認識できなかった。
黎の胸部を黒い剣が貫通している事とか、パタパタと血が滴り落ちている事とか。
つまり黎が死んだ事を頭が認めなかった。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああっ!」
でも、時間と共に黎の死は脳の隅々まで染み渡った。つい1分前まで生きていた友人はもういない。
命を落としてしまった。
死んでしまった。
「れ、黎! れぇええええええええええええい!」
「黎!」
『うわあああああああああああああ、殺人だぁあああああ!』
騒ぎ始めた周りの声も耳に入らない。ただただ、仲の良かった男子が死んだ。それが頭の中を支配し、リアクションが取れない。
「あ、か、は……………………っ!」
「フィオ!? しっかりして!」
苦しい。呼吸が上手くできない。混乱は呼吸器官にまで影響を及ぼしているらしい。
「フィオ!? どうした!?」
「神山くん!」
「フィオが、フィオが呼吸が上手くいかない所為で窒息しそうなの‼」
遊城くんや三沢くんが何かを言ってる。明日香が何かを叫んでいる。
でも聞こえない。何を言っているのか理解できない。
ひょっとしたらわたしは黎の事が好きだったのかも知れない。自分でも分からない程の淡い恋心を持っていたのかも知れない。
でも、確かめられない。彼はもう死んでしまったのだから。
「酷い事をするな、都」
え?
我が耳を、きっとわたしを含む誰もが疑ったハズだ。
死んだ人が、元気な時と変わらない声で喋っているんだから。
SIDE:無し
「俺じゃなかったら死んでいたぜ?」
「お義兄ちゃんだからヤッたんだけど?」
胸部を剣で串刺しにされた黎は、しかし、ピンピンしていた。
ダークシグナーの様な黒い眼からは本意が読み取れない。
「……、義兄ちゃん前に言ったよな。無意味に人を傷つけるような娘(コ)になるな、って」
「くふふ……。だから『死んで』って言ったんだけど? ほら理由がある」
これも屁理屈だ。
少なくとも出会い頭に『死んで』の一言で胸に刃をぶっ刺す理由にはならない。
「……
「あはは! 当ったり~!
邪神『様』。都がそう言ったのを黎は聞き逃さなかった。
「なるほど」
だから“昇った”か。
邪神に対する信仰でも植えつけられたのだろう。機会は幾らでもあった。黎が転生してから既に一ヶ月少々。十分な時間だ。
(そしてコイツは、それだけの長い間、俺がいない空間で敵の手中にいたってワケか)
ギジュリ……。黎は
ピチャッ、と
もっと早く動けば良かった。或いはまだ転生し切っていないタイミングで邪神の所へあの神様に送ってもらえば…………。
ギリリ、と歯を軋ませる。だが、手遅れだ。
「シナリオは最善と最悪を考える。それがお義兄ちゃんの考え方だったよね」
で、これはどう?
解ってる癖に、都は尋ねた。これが最善なハズが無いのに。
黎の目に血が集まる。怒りの証拠だ。
「最悪だよ……!」
黎はそう言いながら半歩右に動いた。一刹那後に心臓があった場所を黒い槍が通過した。
そのまま左腕を振り降ろし、
「そっか、にひひ……。じゃ、改めて死んで、お義兄ちゃん?」
「組み手で1度でもお前が勝った事あったか、義妹?」
嘲る様子も無く、淡々と黎は聞く。
その問いに都はチッチッチッ、と指を振る。
「組み手じゃなくて殺し合いだよ」
「上等。バトルスタートだ」
今は戦うしかない。今のこの少女は自分の知っている遊馬崎 都ではない。別の何者かだ。
殴ってでも目を覚まさせてやるしかない。どの道、
「行くよ、お義兄ちゃん?」
「今のお前に
都の振った剣を、黎は左手で受け止めた。
ガギン! 金属音が鳴り響き、黎の振り降ろした右手を都は黒い盾で受け止める。
一旦距離を跳んで取り、二人は走って離した距離を詰め合った。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「はああああああああああああああっ!」
黎の蹴りと右の拳が、都の黒い双剣の刃と交差し、ぶつかり合った。
ガッギィィィィィイイイイイイイイイイインッ!
SIDE:十代
俺達は今信じられないモノを見ている。
突然爆発が起きたと思ったら女の子が出て来て、しかもその子は黎の義理の妹さんだったんだ。
更にその義妹さんに心臓を貫かれたハズの黎がピンピンしていて、いきなり喧嘩が始まっちまったんだ。
まだまだ信じられない事は続いてるぜ? 黎の体がいきなり真っ黒くなったり、火を吹いたり、義妹さんの剣を素手で受け止めたりしてるんだ。
なんだか、黎が人間じゃ無く見えてきた……。
こういうのは多分、三沢や明日香、フィオに聞けば詳しい事が分かると思うんで聞いてみる事にした。
あ、そうそう。フィオは黎が生きてるって分かったら息が元に戻ったぜ?
「み、三沢、明日香、フィオ?」
「悪いが十代。俺にもこの状態は説明できない……」
「というかアノ2人は何者なの? 明らかに人間じゃ無い動きをしてるわよ……?」
「わ、わたし夢でも見てるの……?」
確かに。主にその動きは黎がやってるんだけど……。空中で方向転換したり、踵でリングにヒビ入れたりとか、人間技じゃ無いよな……?
「黎くん、キミは一体何者なんスか……?」
「オレ、自分の常識が疑わしくなってきたんだな」
『クリクリ~!』
そんな中、俺の相棒、『ハネクリボー』だけは義妹さんを見て唸っていた。まるであの義妹さんが危険だって言ってるみてぇだ。
「相棒……?」
『クリクリーッ!』
何を言ってるのかは分からねぇ。でも、威嚇してる。
相棒、あの子はそんなに危ないなのか……?
今この時は相棒の言葉が人間の言葉じゃ無い事を残念に思った。
SIDE:黎
「“スキャッター・ダーク”!」
「かぁっ!」
都の掌から吹き出した闇を、俺は炎を吐いて相殺する。
「“ナイトメア・パンチ”!」
「おっと!」
炎の壁を突っ切って撃ち出された拳型の闇は全身をタングステンで覆ってガード。
「“ブラック・シザー”!」
「遅い!」
続いて生み出された巨大な黒いハサミを跳躍で躱す。
「はっ!」
「がっ!?」
そして懐に潜り込み、肘打ちで肋骨を圧し折る。
バキバキ、と折れる感触はあるが、その中にシュワシュワ、という炭酸のような音が聞こえた。
随分と早くなってるな。
「どうした。こんなんで俺を殺せるとでも思ったか?」
はっ、と嘲る。
実際さっきから都の攻撃は初撃の不意打ち以外ダメージになっていない。
「うーん、やっぱり
「当然だ。戦車装甲にも使われる超合金だぞ?」
重金属タングステンは、重量や硬度という点に於いて鉄やチタンよりも勝る。放射線を防ぐ為の防護服にもこの金属が使われているぐらい原子密度が高いのだ。
さて、あの黒いヤツの正体が何なのかは分からないが、分かった事が幾つかある。
まず、あれは壊れる上に鉛程度の硬さしかない。しかも展性も延性も無いから拳で簡単に叩き壊せる。
次に、一定時間が経つと自壊する。長い事この世界に存在はできないらしい。
それから形は不定形。変形に時間は少々必要だが、形に囚われてしまうと足元を掬われる。
最後に、アレは都の手を離れると壊れる。
ここまでは俺が有利に進めて来た。
だが、これで終わる程、あいつは甘くない。絶対に何か策を持っているハズだ。
そして、それは的中した。
「うーん、それじゃ次の手を使うよ」
やっぱりまだ何かあったか!
ばっ! と都が掌を俺に向け、そして観客席に向けた。
まさか!?
「はぁっ!」
「テメェッ!」
思った通り、濃い黒い霧が観客席に向けて吹き出された。
席にはまだ人が残っている。怖いもの見たさなのだろうけど、それがあいつにとって有利に働いたか……!
『うわあああっ!』
『キャアアアッ!』
「させねぇ!」
急いで跳躍して霧の前に立ち塞がり、髪を伸ばして四方八方に広げる。巨大な円盤状にすると、髪を金属に置き換えて硬化したワイヤーに。安定も伸ばしたワイヤーで確保。
っ!? タングステンが足らない! だったら俺の体はチタンでガードを……。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァンッ!
「ぐ、ぁああ……っ!」
「あひゃっ、一撃入ったぁ!」
幸い、攻撃の後逸は防げた。ただ、今の一撃で左手が吹き飛ばされた。
……、あそこか。
「れ、黎……! 腕が……!」
フィオか。大丈夫、心配いらない。
キレイに跳んだ自分の腕を傷口に押し当てて言う。
「直ぐに付く」
ジジジ、と血管、骨、筋肉の繊維を元々くっついていた組織同士で繋いでやる。
我ながら人間じゃないと思いつつも、同時に仕方がないとも思う。生きる為にこの身体が手に入れた防衛手段だ。否定してもしょうがない。
最後に皮膚を蛋白質の糸で縫合してやり、修復完了。この間、2秒。
「黎、キミは一体、何者なんだ……!?」
「それ以前に人間なの……!?」
大地に明日香が尋ねる。
それに関しちゃ、もう答えはこの身体を手に入れた5歳の時から用意してある。
「一応人間だよ。ただ、かなりヒトの範疇から外れているがな」
ゾゾゾ、と掌からチタン合金の刀を取り出す。
「はははっ!」
都が放った弓矢を叩き落とす。アイツから黒いアレが離れてから自壊するまでにはタイムラグがある。その隙を狙って放ったか。
「“ダークネス・ブロウ”!」
「火力最大!」
さっきとは比べ物にならない程の闇は最大まで威力を上げた炎を吐いて受ける。
業火が闇を照らし、消し去った。
『に、人間なのか……?』
『バケモンだ……』
『あいつと同じ教室だったのか……』
陰口を叩かれるのも慣れたモンだ。俺はな。
でも都は慣れてない。陰口を叩かれた時、よく俺を頼って来た。心の優しいアイツは人一倍親切で、人一倍傷付き易かった。
そしてそのアイツは、いつしか陰口に敏感になっていた。
「バケモン……? あはははははははっ! そうだよぉ?
どう? どう!? この能力! あたしもお義兄ちゃんも、人間だけど人間じゃない! それを証明するこの疎ましい能力はどうだって聞いてるんだけどぉ、観客さんっ‼‼‼」
『ひっ!』
力を手にしたアイツは陰口を叩き、自分を化物扱いする奴を徹底的に憎んだ。アイツは博愛主義者じゃ無いから、自分を疎むヤツにまで向ける優しさは無い。
ギラリとダークシグナーの様な黒い眼で観客席を睨みつける。
怯えて何人かが逃げ出そうとしている。それを俺は声を拡散・増幅して止めた。
「逃げるな!」
『!?』
驚いて皆が止まる。危険から逃げるなとか言われても困るだろうが、こっちにとってはそっちの方が好都合だ。
「逃げたら守りきれない! 傷一つつけさせないから逃げるな!」
ざわ、皆が騒めき止まる。
良し、足が止まればそれで解決だ。
「ここまでされると、俺も本気で行かざるを得ない。ガチで行くぞ都」
あれで本気じゃなかったのか。そんな声が聞こえた。
「ははぁっ! じゃあ守ってみ「前口上を言う暇があるのか」なぼ、あっ!?」
いい加減、アイツの高笑いに虫唾が走っていたトコロだ。そろそろ口を塞いでやっても良いだろう。
高く蹴り上げ、顎を蹴り砕く。そのまま返す刀ならぬ踵で頭蓋骨を陥没させる。
「ぜぇいやぁっ!」
「はぁっ!」
観客席に向けられた黒い霧は、手を下に向けさせてアイツ自身を反動で吹き飛ばさせる。ロケットの要領だ。
そのまま髪を鎖に変え、先端に刺付き鉄球を拵える。
完成したモーニングスターを投げ、空中で身動きの取れないアイツを撃墜した。
「次からは翼も用意するんだな」
鎖を鉄球を髪に戻しながら吐き捨てる。ま、無傷じゃないし、頭に直撃したから多少は動けないだろう。
「黎」
タイミングを見計らっていたのか、リングの陰から十代達がやって来た。そんな近くに隠れていたのか。危ないじゃん。
能力の説明を強いられると思うので、こっちから説明してやる。
「これはバイオ・フィードバック現象。身体の隅々まで俺の意思で操る力だ」
「な、なんでそんな事出来るんスか……?」
「ま、ちょっと生まれがダークでね。詳しくは聞かないでくれると助かる」
彼らが息を呑む音が聞こえる。ヘビーだったか?
俺の能力はONE PIECEのCP9のクマドリの生命帰還をイメージすると近いだろう。というかあれのパワーアップ版だ。
髪の毛、骨、血管、神経、生体電流と俺の体内で操れないものは無い。金属を口にすればそれですら自身の身体の一部として扱える。刀の精製、組織を金属に置き換える、体内の不要な可燃物質の燃焼は金属粉を混ぜるとやり易い。
少ない栄養の温存や、凶悪な野生動物から身を守る為に必要だった技術。体温を保つのにも、出血を瞬時に止めるのにも役に立ってくれた。
「では、お前の義妹も……?」
「いや、アイツは自動再生。病気にも殆どならないし傷の治りが異常に早いんだ。これも聞かないでくれよ」
再び息を呑む音が聞こえた。やっぱりヘビーだったか?
あっちは化物語の暦くんや忍ちゃんを連想すると良い。
あいつは幾度も幾度も殴られ、蹴られ、斬られた。火傷を負い、凍傷を負い、裂傷を負った。されど、死にかけても医者には連れて行かれなかった。その必要が無かったから。
「とにかく、俺達義兄妹は、一般人の範疇からかなり外れた体を持っていると考えてくれれば良いよ」
「はは……、信じきれねぇ……」
十代、気持ちは分かるよ。
「“オクテット・オブ・ダークランス”!」
「!?」
背後から黒い槍が8本飛んで来た。咄嗟に髪を延長させて掴み、更に金属化させて槍を握り潰す。
髪の延長は炭素を二酸化炭素から取って補充すれば良いし、金属だったら経口摂取で体内に大量に保存してある(だから俺の体重は400キロを超える)。
ゆらり、と立ち上がった都に大きなダメージは見られない。
「くひひ……」
「ノーダメか。流石に焦るぞ?」
軽く言ってるように聞こえるだろうけど、内心は本当に焦ってる。
今まで何度か都との組み手はやって来たが、その治癒の速度は遅い。骨折を治すのに一晩かかる、と言えば分かるだろうか(それでも充分に早いが)。
だが、今は確実に骨を折った感触があっても、次の瞬間には既に完治している。あの炭酸みたいなシュワシュワ音は、傷や骨折を治療する時の音だ。
再生がいつまで続くのか分からない以上、長期戦になれば体力(なんて言うけど、これが尽きるのは筋肉の損傷がこれ以上は危険だという信号が発されるだけ。メーターみたいなモノじゃ無い)までも回復するアイツに分がある。
お互い、怪我を治すにも、新たに武器を作るのにも(能力を使用するのに)栄養、というかカロリー(エネルギー)が要る。
しかしアイツは邪神の力を得ている。それがエネルギー源になっていると考えれば、底を尽きるのは俺の方が遥かに早いハズだ。
短期決戦に持ち込むしかない。だが出来るのか? アイツを傷つける事を未だ俺は心のどこかで躊躇している。だから連続で攻撃を浴びせられないし、心臓や脳を斬る事もできない。
チッ。守るとかカッコイイ事言っちまったが、避難してもらうべきか?
せめてアイツみたいに何か精霊の力が使えればな……。
その時、精霊界で出会い、力を貸してくれた『ヴォルカニック・デビル』の言っていた事を思い出した。
『炎の力の結晶じゃ。お主の戦い、デュエルに役立つじゃろう』
ハッ、と気付いた。腰のベルトのデッキホルダーからデッキを取り出す。
『ダンナ。気付いたか』
デッキを携えた俺の傍に『鬼火のウィスプ』が半透明になって現れた。その後から続々と『F・S』達が現れる。
『ヴォルカニック・デビル殿からの言伝である。「力の扱いには気をつけよ」』
『マグマドラゴン』が唸り声を上げて威嚇しながら忠告を入れる。
『ひゃっはあ! ま、マスターが命ずるなら何でもやるけどね!』
『それがワタシ達の役目です!』
ハイテンションな『レゲエ』と『チアガール』が構える。
『邪神とか言ったか? 奴を潰す為におれ等はいるんだ、力ァ貸すぜ?』
肩のバズーカの照準を合わせつつ『バーナーズ・キャノン』が言う。
『精霊の底力、思い知らせてやりましょう』
『叩っ斬ってやる……!』
臨戦態勢に入った『ヴォルカニック・ギア・ガイ』と『ブレイジング・ナイト』が不敵に笑う。
『……。いざ参る』
寡黙ながらも『バーンクロス』が決意を示す。
続々と続く精霊達がコクリと頷く。
「皆の炎よ、今俺に力を……!」
デッキは再びあの宝玉へと戻り、俺の中へと潜り込んで行った。不快感は無く、力が体の底から湧き上がって来る。
俺の周りを紅蓮の焔が渦巻く。それに合わせて炎を具象化した模様が俺の素肌に浮かんだ。
はは、厨二病臭さも、ここまで来るとなんか逆に格好良いな。
「さあここからが本番だ!」
ダッ、と駆ける。足の裏で小爆発を起こして推進力を生み出し、2歩で間合いを詰め切る。
都はすぐに反応するが、それでももう手遅れだ。
「うっ!」
「遅い!」
ガッ、と燃える右ストレートを打ち込み、続いて炎の左ローキックを放つ。間髪入れずに炎を零距離で吐いて追撃を入れる。
「く、かぁ……!」
都は全身を炎で包まれ、片膝をついた。
火傷の治りが想像以上に遅い。恐らくは精霊の力だからなのだろう。
「はっ!」
チリッ、と火の粉を放つ。それは都に触れると、爆発を起こした。
「うわ、アァアアアアアアアアアアアッ!」
炎の力を最大限に圧縮した攻撃。とあるマンガに出て来た小さいが大爆発する炎の玉をイメージしてみたが、成功したみたいだな。
「止めだ!」
業火を纏った拳で殴って止めを刺す。邪神の心は、まあ、精霊になんとかしてもらおう。策が無いなら誰かを精霊界へ送って調べてもらうのも良いかも知れない。
そう思った時だった。
「痛い、痛いよぉ…………、お義兄ちゃぁん…………」
後数センチの所でパンチを止めてしまった。
心の隅にあった『義妹を攻撃している』という後ろめたさが、俺に一瞬の隙を作ってしまった。
「くひひ……、甘いなぁ! “カオス・ビッグバン”!」
甘い。確かに甘い。
心を鬼にして都を殴っていたのに、結局は躊躇って止まってしまった。
黒い竜巻。それが俺の印象だった。俺を取り囲んだ闇は俺を中心に回転し、その間俺は目に見えない闇のエネルギーのダメージを受け続けた。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああっ‼‼」
竜巻が終わると、俺は地に倒れ伏した。
『うああああっ、遊馬崎ィ!』
『おい、ヤベェぞ!』
『アタシ達を守ってくれるヒトいなくなっちゃったよ!』
『レェイ! 起きろ! 起きるんだぁ!』
『黎(くん)!』
呼びかけてくれている声も聞こえたが、身体がもう動かない。ぐっ、ダメージをあの一発で限界まで一気に蓄積したというのか……!?
「あは、はははははははっ! 非情になりきれなかったねぇ!」
【 】
その時俺は都の高笑いの奥で何かが聞こえた気がした。
違う、聞こえている! これは……!
「それじゃ、会場ごと吹っ飛ばして終わりにしよっか」
【 】
アイツのセリフに重なって聞こえて来るこれは……!
「じゃ~ね~? “ヘルズ・ライトニング”!」
【 】
なるほど。そういう事か!
俺の納得の一瞬後、黒い雷が会場を蹂躙せんと四方八方に撃ち出された。
SIDE:フィオ
「黎! レェエエエエエエイッ!」
「フィオ、危険よ! ここにいたら危ないわ!」
でも黎が! 黎がぁ!
明日香の忠告を聞かず、わたしは叫び続けた。
そんな中、わたしの心境に1つの変化があったのを自覚した。
憎い。例え彼の義妹でもアイツが憎い。
わたしの心に憎悪の炎がメラメラと燃えていた。
義兄妹じゃ無いの!? お義兄さんは君を探す為にあっちこっちに探しに行っていたんだよ!? 人に聞き、休む暇無く島中を歩き回り、何一つ手掛かりが無いって落ち込んでいたんだよ!? それなのにどうして君は平気な顔してそれを踏み躙る事ができるの!?
「レェイ! 起きろ! 起きるんだぁ!」
『黎(くん)!』
必死に離れた所から呼びかけてもピクリとも動かない。くっ!
そして、歯噛みするわたし達を嘲笑うかのように義妹さんの手から黒い雷が放たれた。
「来い! わたしは逃げない!」
「フィオ、危ねぇ!」
「逃げてぇ!」
嫌だ!
黎が死ぬんだったら、わたしも死ぬ!
黒い雷を受けて、黎と一緒に死ぬんだぁ!
突如現れた赤い炎の壁が、雷を全て防ぎ切った。
「え?」
「早死にはするモンじゃ無いぜ、フィオ?」
なんと、黎が炎を発して壁を作っていた。
黎!? 死んでなかったのか!?
「勝手に殺すな。ま、悪かったよ。身体の修復は畑違いなんでね、時間喰った」
そして、キッ、と義妹さんの方に向き直り、静かにこう言った。
「キーワードは『イグニッション』」
次の瞬間、義妹さんは大きく爆発した。
ド、ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「あ、があぁああああああああっ!?」
え、え?
見てみると、黎の掌から何かコードの様な物が伸びていた。あれも自力、というかバイオ何とかで作ったんだろうか?
「俺の制御下にあるワイヤーを地下を経由してお前の足元に配置した。起爆するぜ、それ?」
なるほど、確かに義妹さんがいた所から細いワイヤーが顔を覗かせている。爆発したのはアレか。
ともあれ、義妹さんは立ち上がるのに苦労している。傷の治りが何故か遅くなっているみたいだ。
「決着はついたな」
スタスタと黎が歩み寄る。
「この勝負は俺の勝ちだ。色々とさせてもらうぞ?」
色々の中身が気になるけれど、取り敢えずまあ、一件落着かな。
ス、と黎が都さんを連れて行こうと手を伸ばした。
「申し訳無いが、それはこちらが許可できない」
伸ばした手は蹴り飛ばされ、黎は地面に叩き付けられた。
SIDE:無し
「が、あ……!?」
突如の乱入者に、黎は地を舐めた。
乱入者は黒い服を着用し、黒いマントを羽織り……、要するに黒尽くめの男だった。
テンガロンハットの所為で表情は読めないが、不気味な感覚だけは伝わって来た。
「姫、今の内に帰還なさって下さい」
「く、分かった」
【 】
黎としてはそれは避けたい事だった。
次いつ会えるのか分からず、或いは二度と会えないというのに、袂を分かってしまうのは永遠のさよならに等しいとも言える。
ダン! と起き上がる。右腕に爆炎を宿し、自爆覚悟の突進を仕掛ける。
自分の体は耐火性の緊急のコーティングを施す。都はどんな致命傷でも簡単に治してしまうので考える必要は無い。つまりこの一撃が決まれば大ダメージを受けるのは黒い男だけだ。
「おおぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「はっ!」
だが、その一撃は、脆くも崩れ去った。
黒い男の右手が正面から黎の正拳突きを受け止めた。本来なら起こる筈の大爆発も起きず、メラメラと灯っていた赤い焔がどんどん勢いを失っていく。
「炎では私には勝てない。消えなさい、不適合なる義兄よ」
右手を乱暴に放ると、男は黒い刀を2本携え、X字状に黎を斬りつけた。
ザシュッ! ズシャッ!
血飛沫が派手に飛び散り、黎は膝をついた。
「さ、お早めに」
「うん」
【 】
血を流しながらも顔を向ける。その時瞳が映し出した光景は、黒い穴に都が入って行く所だった。
他の皆はあの超人決戦に巻き込まれたくないのか、全く動かない。
【 ! 、 ! ! 、 !】
「ぐぼ、がぁ……。チッキ、ショウ……!」
口からもダクダクと血を流し、あの
(み、やこ……。こんなダメな義兄ちゃんで、ゴメンな……。お前を、助けてやれなかった……!)
ヒューヒューとおかしな呼吸をしながら、人から外れた義兄は、ただただ義妹の消えた方向を見つめていた。
to be continued