遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
アルカナ ナイトジョーカー(融合・効果モンスター)
星9
光属性/戦士族
ATK 3800/DEF 2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):1ターンに1度、フィールドのこのカードを対象とする、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚捨てて発動できる。
その効果を無効にする。
フィオ「天位の称号を持つ究極融合剣士だ! 手札1枚と引き換えに耐性を発揮できる!」
都「ただし捨てるカードの制限に加えて1ターンに1度だけ、しかも破壊しないから、耐性が無いよりマシ程度だと思っておこう」
フィオ「サポートカードも増えて攻撃力も高い、召喚したら一気に攻め切ろう!」
SIDE:無し
それは交流試合のあった日の、月夜の晩。とある洞窟に、複数の男女が集結していた。
人数は6~7人くらいか。それぞれが何やら怪しい気配を放っている。何かのグループの様にも見えるが、連携している感じは無い。
同一の目的の下、集った同志という所か。
月が雲に隠れ、洞窟に指す月光が遮られた時、どこからともなく老人の声が響いた。
『時、ここに満ちた……。お前達の力が我に約束し、運命のカードを運ぶ……。先陣を切る者は誰か……』
どこか愉快そうなその言葉に、1人の男が立ち上がった。
「私が行こう」
『ダークネス……』
ダークネスと呼ばれた男は、静かにデュエルディスクを腕に装着した。鼻から上を覆う形で黒いマスクを装着しており、漆黒のコートを身に着けている。
表情を読み取り切る事はできないが、冷徹な雰囲気に無表情な気配。まるで冷血な暗殺者を思わせた。
面を上げたダークネスは、虚空に向けて問いかけた。
「しかし、どうする。鍵は7つ、我らは6人。お前は戦力に入れないのだろう?」
『……………………』
その奥で、虎を従えた大柄で日に焼けた女性が続ける。
「戦力は最低限同等にするのが戦いの鉄則。向こうも選りすぐりの戦力を用意してくるだろう。最悪、我々よりも格が上の可能性も有り得る。そんな戦いに赴いた所で、負け戦にしかならんぞ」
そんな彼女の懸念を、向かいの岩壁にもたれていた別の女性が嘲笑する。ルージュを濃く引いた口元から、牙とも形容できる八重歯が覗く。
「あーら、今からそんな弱腰? 下らない、何人来ようとも、この私が一匹残らず葬ってやるわ。小心者はそこでガタガタ震えてなさい?」
「何だと!? 貴様それは私が誇り高きアマゾネスの戦士だと知っての愚弄か! 良かろう、そんなに言うのであるならば、貴様だけで戦地へ赴き、鍵の1つも取れずに無残に負けて散るが良い!」
「何ですってぇ? それは私が誇り高きヴァンパイア一族の生き残りと知っての事かしら? 今ここで貴女をミイラみたいにカサカサにしてあげても良いのよ?」
「やれるものならやってみろ。その前に貴様の五体を引き裂いて焼いて灰にし、川に流してくれる!」
「何ですって!」
「何だ!」
ガルルルルルル!と唸り声を上げそうな勢いで睨み合う二人。それを眼帯をつけた大柄で筋肉質な男と、ツタンカーメンのような金の装飾を身に着けた色黒な青年が苦々しい表情で見守っていた。
「先が思いやられるな、この光景は」
「うむ」
そんな寸劇(女性2人にとってはマジのケンカ)を繰り広げども、人数不足の問題は解決しない。
老人の声は依然として沈黙を守り、ダークネスも未だ虚空を睨み続けていた。
『戦力で困っているようだな?』
「「「「「「「!?」」」」」」」
そんな時、何も無い空間から別の男の声が響いた。武人を思わせるような中年ぐらいの男性の声だ。
『何者だ?』
『人に名を聞く時は、まずは自分から名乗るのが礼儀だと聞いた事があるが?』
『……故あって名乗れん』
『ならば我も名乗らぬ』
『…………』
『…………』
暫く沈黙が続き、やがて折れたのは老人の方だった。
『戦力に心当たりがあるようだな』
『そうだ。今すぐには無理だが、もう数日すれば、貴様の求める闇のデュエリストを1人用意できそうだ』
『……何故、闇のデュエリストを求めていると分かった』
『そこにいるのは全員“そう”だからだ。貴様の目的も分かっている。ならば、推測できても不思議ではあるまい?』
再び沈黙。だが、そこにいる全員は、この男の得体の知れなさに寒気を通り越して恐怖すら覚えていた。
こいつは何者だ。ここに全員が集まってからまだ時間は経ってない。なのに何故こうも易々と自分達の居場所を知り、正体を見抜き、剰え手を貸そうとしている。
『そう構えるな。我は貴様らを利用しようとしている、貴様らは我の用意した戦力を使う。ギブ・アンド・テイクだ。安心しろ、悪いようにはせぬ』
戦力を楽しみに待っていろ、それだけ言って、それっきり男の声は聞こえなくなった。
後には、不気味な沈黙だけが残っていた。
――翌日の放課後 校長室前
SIDE:黎
ポーラとのデュエルに勝利し、全ての授業が終わった後、俺を含めた数名は大徳寺先生によって校長室へと呼び出されていた。
メンツは俺、十代、サンダー、大地、フィオ、明日香、カイザー、大徳寺先生、クロノス先生の9人。それとカードの中で待機している精霊の桜とフレイを入れると11人、室内にいるはずの鮫島校長も含めれば12人だが……、まあ余談だろう。
「何で呼ばれたのさ~?」
「さあ? 実は私も呼ばれているのですニャ」
不満を漏らす十代だが、呼び出した大徳寺先生には柳に風のようだ。
「しかし、
「確かにですニャ」
「……ティラミス風~味、これは間違い探しです~ノ? 一人だけ仲間外れがいるの~ネ」
クロノス先生が大徳寺先生の後ろにいた十代を見ながら、嫌味ったらしい笑みを浮かべる。
……仲間外れ、か。
「それなら俺って事でしょうね、クロノス先生」
「ナパ?」
「ここにいるのは人間。俺は化物、怪物。ほら、幼児でも分かる仲間外れでしょう?」
「え、いや、そういう意味で~ハ……」
「誤魔化さなくても結構です。どうせもう何年も言われ続けた事、今更傷付きはしない。まあ、不愉快だとは思いますが、一応自分も校長に呼ばれている身なんで、同席させて頂きますよ。不愉快だとは思いますが、どうか御寛恕下さい。まぁ帰れと仰るなら帰りますが」
そこまで言うと、クロノス先生は完全に黙ってしまった。
別に俺は嫌味で言ったわけじゃない。俺の心の中には本当に巣食っているのだ、化物が。
皆の事は仲間だと思いたい。だが、どう頑張っても俺は人間になれない。これは気持ちだけの問題じゃない、人間の最もデリケートな器官、脳の問題だ。これが今のままである限り、俺のこの異能の能力は消えない。
超再生を持つ都とて、脳を破壊されれば治癒に時間がかかる。桜がいなければ、今頃俺は死んでいただろうな。
心に巣食った化物は俺が人ならざる存在である限り、そこに居座り続ける。俺が今のままの心でいる限り、この考えは俺の根幹から消えないだろう。
「ま、つーワケです。それにデュエルでいっちゃん弱いのは俺でしょう」
「「「ちょっと待った、黎!」」」
「フィオ、大地、十代?」
「わたしは君に負けたんだ、過去何度も! 君がこの中で最弱だってんなら、わたしは最弱以下って事かい!?」
「俺もお前の戦術を完全に計算し、それでも負けた! 少なくともお前が最弱って事は俺が認めん!」
「そうだぜ、黎! 第一、俺だってお前に負けかけた事があるんだ! それってほぼ互角って事じゃないか!」
「「「それに、君(お前)は仲間だ! 人間であろうと無かろうと関係無い!」」」
お前ら……。
ったく、本当に分かんねぇな。何時どこで俺がお前らをこの異常な力で殺しに行くかも知れないってのに、それでも俺を仲間と思うってのか?
「君はそんな事しないでしょ。君は命の重さを知っている。だから安易に命を投げ出し、敵には怒りをむき出しにし、誰かを助けようとする。それは死が恐ろしいものであるとも知っているから、皆に死が向かわないようにしてるから。違うかい? わたしは君のそういうトコ、人間らしいと思うけど」
「……チッ」
そこまで言われたら引けねえじゃねぇか。
ガシガシと後頭部を掻く俺の顔は、きっと真っ赤だったに違いない。
――校長室
「三幻魔のカード?」
「そうです。この島に封印されている、古より伝わる3枚のカード……」
神妙な顔で語る鮫島校長。そうか、もうそんな時期か……。
三幻魔、それは精霊の力を根こそぎ吸い取る、文字通り『魔』のカード。アカデミアはそれらを封じるために、地下深くに埋められ眠っているカードの真上に建っている。
「島の伝説によると、そのカードが地上に現れた時、世界は魔に包まれ、混沌が全てを覆い、人々に眠る闇が解放される。やがて世界は破滅し、無へと帰する。……それ程の力を秘めたカードだと、伝えられています」
「……!」
「破滅……!」
「良く分かんねえけど、なんか凄そうだな!」
「またロクでもないカードの上にこの学校はあったんだな……」
「幻魔……、あまり良い思い出はありませんね」
「黙って聞いているの~ネッ!」
息を呑む明日香と大地、状況を理解していない十代、いつの間にか出ていた苦い顔をする桜とフレイ、注意するクロノス先生。
「そのカードの封印を解こうと、挑戦して来た者達がいるのです」
「……七星門、通称セブンスターズ、か」
「! 知っているのですか、遊馬崎君」
「せまい島だ、網を張ってりゃ自然と情報は入ってくるモンです」
実際、この島のあちこちで情報を集めていると、自然、奴らが浮かび上がる。
コソコソと隠れて行動しているから普通は見つけにくいし、実際情報戦をやった事の無いヤツならば気付く事もできないだろう。
かなり見事な隠密の技術だと言える。
「謎に包まれた7人ですが、その内の2人が既にこの島、しかも片方はこの学園の中に紛れ込んでいるとされています」
「何……!?」
既に2人、だと!?
おかしい、原作ではここでは1人、明日香の兄貴の吹雪ことダークネスだけのはず。
まさか俺がタイタンを救ったせいで、歴史が変わったのか……?
「三幻魔は七つの石柱によって封じられ、その石柱は七つの鍵によって開かれる。これが、その七つの鍵です。鍵の持ち主がデュエルで敗北する事で封印は開錠される」
鮫島校長がデスクの上に革の箱を置く。
開けた中からは一枚の金の板を出来の悪いジグソーパズルのように分け、奇妙な模様を彫ったような物が現れた。
さて、この時点で鍵のシステムをバラすのは簡単だが問題がある。
七人目が誰なのか不明だと言う事だ。セブンスターズの連中は何かしらの理由があってここに来る。破壊、強き者との戦い、一族の復活、復讐、依頼などなど……。
半数は事の顛末を話せば勝手に帰ってくれるし、残りだってデュエルで勝てば良い。
しかし問題はその不明な1人。その不確定要素が俺の判断を迷わせる。
一体、誰だ?
いつ、この島に侵入した?
何処に、いる?
どうやって、倒せばいい?
チッ、イレギュラーってのも良い事ばっかじゃねぇな、畜生……。
原作に沿って出て来るのを待ちつつ、戦うっきゃねぇ。
「彼らはデュエルでこの鍵を奪い、封印の石柱を開けて来るでしょう。恐らく戦いは危険を極めます。……貴方達の中にこの戦いに臨むだけの覚悟があるのなら、この鍵を取って下さい」
「待たれよ、鮫島校長」「待って下さい、鮫島校長先生」
「何でしょう、桜さん、フレイさん」
桜とフレイが実体化し、鮫島校長に詰め寄った。
「主殿はこれまでの戦いで大きなダメージが蓄積している。私としては、主殿をこの鍵を任せた戦いに参加させたくは無いのだが」
「わたくしのマスターを危険な目に合わせるわけにはいきません。鍵の守護が必要と言うのなら、わたくし達が故郷へ持ち帰り、更にバラバラの場所に隠します。それではダメですか?」
成程、2人の考えはよく分かる。戦ってあっちが勝たないと鍵は手に入らないのだから、そもそも鍵を隠せば良い、という事か。
だが鮫島校長は首を横に振った。
「残念ながら、それはできません。鍵の封印が有効なのはこの島の中が精々、外に持ち出してしまえば、その鍵の効力は永久に失われてしまいます。それはつまり封印が自動的に解けるという事です」
「なら、私の能力で森の木の中に埋め込む!」
「鍵の気配はわたくしの魔法で消します、これなら……」
「……それも一理あるのですが、それでも連中の手に渡り仲間内で勝負されてしまえば、結局は負けて奪われたも同じ事。物理的にデュエリストの方々に守って頂くしか無いのです。幸いデュエリストが誰なのかは問わないため、誰か代理を立てる事は可能ですが……」
「だが!」「ですが!」
「もうよせ、二人とも。お前らの気持ちは嬉しいけど、それ以上は場を混ぜ返すだけだ」
尚も詰め寄ろうとした2人を押しのけ、俺は鍵を1つ手に取る。
「まさかお前ら、俺が負けるとでも?」
「そういう訳では無くてだな、主殿……」
「黎さん、貴方ご自分の体の事、本当に分かってらっしゃるのですか!?」
「それに……」
手にした鍵を、俺は大きく開けた口の中に入るようにそのまま上に放り投げ、パクリと
ベッ、と舌を出せばその上に鍵。紐を取ってそれを皆に見せびらかす。
「こうして腹の中にしまっちまえば、大丈夫だろ。そんじゃ」
「あ、ちょ、待ってよ、黎!」
そう言って俺は再び鍵を呑み込み、校長室を後にした。
――アカデミア屋上・夕方
「来たぞ、ポーラ」
「……グッドタイミング。……丁度今さっき、ゲートが安定した」
あれから部屋に戻った時、突然全身を激痛が襲った。その強さたるや、悲鳴も呻きも出せないレベルだ。
幸いじっくりと安静にしたからか、痛みは全て無くなった。
だがあれで終わりとは思えない。いよいよ体が限界を迎え始めている、という事だろうか。恐らく時間的猶予はもうほぼ無い。
さて、精霊界に行くという事で、今回鍵はイエローの神楽坂に預けてある。あいつなら易々とやられる事も無いだろうしな。
「……ゲートを開くと言ったし、私も同行するつもりだった。……桜の辺りがついて来る事も予想してた。……でも」
「「「「でも?」」」」
「……4人も、なんて聞いてない」
ムスッとした表情を作るポーラ。俺の後ろには桜に加え、フィオとフレイもいたのだ。
今回、桜とフレイは護衛、フィオは興味本位でついて来る事となった。
一応フィオには何度か思い止まらせるように言ったのだが、『1回も2回も同じでしょ』と聞く耳を持たなかったのだ。
「……一応、何故ついて来るのか、説明して」
「私は主殿の護衛だ。また何かあった時、そこで死なれては敵わんからな」
「わたしは興味があるから。それと黎が何か無茶しないか不安なんで」
「わたくしはマイスターの精霊ですので、同行するのは当然です。それと黎さんが以下略です」
「……サー」
「俺か!? 俺のせいか!?」
弁解したいところだが、俺の体の事を突っ込まれるのがオチなので止めておいた。
――精霊界・光の里
見慣れて来た光のゲートを潜る。強いフラッシュが納まると、そこは何やら大きな広場のような場所だった。
「ここは?」
「……光の里、第3広場。……警備の都合上、外から転移するとここに着くようになっている」
「ふーん……」
グルリと周囲を見渡すと、住宅街では無く、どちらかと言えば市場のようだ。空は夕焼けなのに辺り一面の店が全て閉まっていて商品も無い所を見ると、恐らく朝市の類だろう。
しかしそれにしても人通りが全く無い。通りの向こう側から人の声らしき音が聞こえなかったなら、ゴーストタウンと見紛うくらいだ。
「ここは300年前から変わりませんね」
「フレイ、ここ知ってるの?」
「ええ、何と言ってもここはわたくしの第2の故郷ですから。当時まだ名も無い町、後の『天空の聖域』でわたくしは生まれ、この町で300年前まで暮らし、そして『天空の聖域』へと再び帰ったのです」
「そーなのかー」
「主殿、そのネタは分かり辛い」
「ですから、知り合いも多いのです。例えば……」
スッと振り向く。視線の先には一人の女性がいた。
い、いつの間に!?
「相変わらずのステルススキルですね、『ルイン』さん」
「本来なら。接触するまで気付かないのに気付く。あなたも相変わらず」
そこにいたのは黒の法衣を身に纏った長い銀髪の女性。『破滅の女神ルイン』だ。
破滅の女神ルイン(儀式・効果モンスター)
星8
光属性/天使族
ATK 2300/DEF 2000
「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。
フィールドか手札から、レベルの合計が8になるようカードを生け贄に捧げなければならない。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃を行う事ができる。
「『ルイン』さん、さっき連絡した通り、宝玉の件ですが……」
「大丈夫。既に手配してある」
「ありがとうございます」
どうやら昼間の内にフレイが何やら手配してくれたらしい。彼女には薬の件と言い、感謝の言葉も無い。
「こちらへ」
無表情な『ルイン』が、俺達をどこかへと案内してくれるらしい。
これで7つ目の宝玉も手に入る。邪神達に明かしていないのは風の奴だけだったから、これで対抗手段が増えるわけだ。
石畳の道なりに案内される事十数分、俺達は大きな宮殿、或いは城のような所へと出た。
「でっけぇ……」
高さこそどこぞのタワーには全く及ばないが、体積で言えば、モン・サン・ミシェルにだって張り合えるかも知れない。
「ここは。『神の居城-ヴァルハラ』の分家みたいな所」
「分家?」
「暖簾分けみたいなものです。『ヴァルハラ』は当時こそ神の住まう城だったのですが、今では有名な観光名所になってしまいまして。『ヴァルハラ』は確かに神聖な力が有り且つ大きいのですが、流石に年季の入った城に人が大量に押し入るのは問題が……。そこで苦肉の策として、外面と内面だけ似せた建物を別の場所に建てたのです」
勿論効果はありましたよ? とフレイは笑う。
成程、中身を似せれば、自然、疑似的な物ではあるが中に籠る神聖な気もそこに宿る。偽物ではあれ、ここでも『ヴァルハラ』の役目をある程度果たす事は可能、というわけだ。
分かり辛ければキリスト教の教会の十字架を思い浮かべれば良い。キリスト教が殺された時の十字架では無いが、それでも掲げているのは、そこに僅かながらの神聖な力が宿るからだ。神の力が膨大だと考えれば、ほんの数%でも宿れば、それこそ大きな力となる。
平たく言えば縁起担ぎ、というワケだ。
と、開けっ放しの城の入り口から、誰かがやって来た。左手に小さな盾、右手に大きな槍。地面にまで流れそうなブロンドの髪に、顔をすっぽり隠す程の被り物。そして白い法衣。『アテナ』だ。
アテナ(効果モンスター)
星7
光属性/天使族
ATK 2600/DEF 800
1ターンに1度、「アテナ」以外の自分フィールド上に表側表示で存在する天使族モンスター1体を墓地へ送る事で、「アテナ」以外の自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を選択して特殊召喚する。
フィールド上に天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、相手ライフに600ポイントダメージを与える。
「ようこそ、いらっしゃいました、“騎士”の魂」
「初めまして、遊馬崎黎です。……『アテナ』さん、貴女がここの宝玉を守っているので?」
「いいえ、番人はこの奥です。さあ、どうぞこちらへ」
言われるがまま、俺達は城の中へと進む。
だが敷居から一歩目を踏み込んだ時、俺の全身に変化が起きた。
ズキィッ!
「ガ、ァ……、ギ……ィッ!?」
何だこれは……! この痛みは、何だ!? これまで火傷に銃創、刀傷に打撲と色々な怪我を経験した俺だが、こんな痛みは経験した事が無い。一体何なんだ、これは!
そもそも今、どこが痛いんだ!? 胸か!? 頭か!? 腹か!? 目か!?
クッソ、こんなん、長くは耐えられないぞ……!
痛みを耐えて歩いていたが、とうとう耐えきれず、入り口から20メートル程の地点で思わず蹲ってしまう。
脂汗を全身から流してしゃがむ俺に、皆が駆け寄った。
「ちょ、黎、大丈夫かい!?」
「主殿、しっかりしろ!」
「黎さん、どこが痛いんですか!?」
「……サー黎、しっかり!」
背中をさすってくれたり、治癒術をかけてくれたりと、皆が献身的に介護してくれるが、何の効果もあがらない。痛覚も遮断したのに、痛みはまるで引かない。
一体どうなってるんだ!?
『始まりましたね』
『彼が。この試練を乗り越えない限り。光の宝玉は渡せない』
遠くで『アテナ』と『ルイン』が何かヒソヒソ喋ってるが、そんなのに割くだけの余裕は無い。
結局俺は、一番背の高いポーラの肩を借りて、無理矢理進む事にした。
「……サー、無茶しちゃダメ。……ここで無茶したら、本末転倒」
「大丈夫だ……。体そのものにはどうやら異常が無い……。さっさとここでの用事を済ませちまおうぜ……」
実際、肉体には何も無い。痛覚神経からの信号は無いし、筋肉の裂傷や骨のダメージなんかも無い。
となるとこれの正体は心因的な物。催眠術なんかで無いはずの痛みや味覚を感じるアレだ。
痛覚に限らず、普通人間の伝達信号は、その神経からの電気信号を受けて脳が反応し、そう感じる。だが、時には脳がそう錯覚してしまったから痛みなどを感じるケースがある。
例えば、ストーブで手を火傷してしまった人が、火の点いてない冷たいストーブに触ったのに、大火傷を負ったのと同じ症状が出る場合がある。この場合も恐らくそれだ。
痛みを感じるから痛いのでは無く、頭が痛いはずだ、と錯覚したから痛いのだ。
問題は何故俺が痛みを感じるか、だ。頭がそう錯覚してしまう要因が、残念ながら全く無い。変化と言えば、この城に踏み入れた事ぐらいか。
……まさか、神域に化物が踏み込んだ事に、この城が拒絶反応を起こしているのか?
だったら、長居は本気でできねぇ……。
歯を食い縛って痛みを耐えるなんて、一体何時以来だろうな……。
案内されて着いたのは1階部分の奥、大きな部屋だ。玉座がある所を見ると謁見の間と言った所か。
美しいステンドグラスで天井と奥の壁が彩られているが、日が沈みかけなので光をあまり取り込めておらず薄暗い。昼間に来たらもっと綺麗な部屋だっただろう。
玉座には男が腰かけている。その人物は立ち上がると、こちらへ向けてゆっくり歩み寄って来た。
「お前が“騎士”の魂、遊馬崎黎だな?」
「如何にも……」
近くで見ると、その男は思ったより人間的なサイズだった。漆黒の髪に意志を感じさせる強く鋭い瞳。黒と金の鎧を身に着けており、腰には剣と盾が納められている。
絵札の三銃士の融合体、天位の騎士『アルカナ ナイトジョーカー』だ。
アルカナ ナイトジョーカー(融合・効果モンスター)
星9
光属性/戦士族
ATK 3800/DEF 2500
「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):1ターンに1度、フィールドのこのカードを対象とする、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚捨てて発動できる。
その効果を無効にする。
「噂は聞いているが、随分と消耗しているな」
「何故かは知らないが、さっきから体中痛くってね……。今はマシになっているがな」
「ハッ、ここに来るまででそれでは、先が思いやられるぞ」
「痛み入るね」
「……サー、大丈夫?」
「ああ、ちょっと楽になった」
この部屋に来てから、体に走る激痛が大分和らいだ。とは言え、まだ痛いモンは痛いが。
にしてもコイツ、思ったよりフランクだな。
「どうやら強い痛みがあるようだな」
「…………」
「その痛みの原因を、オレは知っている。何故そんな激痛が走るのか、どうして他の奴らは平気なのかも」
「だが簡単に吐くつもりは、無さそうだな……」
「当然だ。そもそも何故、お前がここに来なくてはいけないと思う? 何故オレが手渡ししないと思う?」
「さあ?」
「光の宝玉は、闇の宝玉同様に他の宝玉とは違い、より大きな力が宿るからだ。故にこの城に隠して悪漢から守り、手にせんとする奴には試練を与える。試練をクリアできない雑魚には宝玉は渡せないってワケだ」
「試練……、それがこの痛みだってのか?」
「ハハハ、さあ、どうだろうな? そもそも試練がいくつあるかも言ってねぇぞ?」
チッ、喰えん奴だ。こいつ、表情こそ笑ってやがるが、目の奥は俺の事を値踏みしてやがる。こういう奴は絶対に腹の中で何か企んでいるか俺を本当は疑っている。
ハナから信じる奴は確かに嫌だが、こういう信じるフリして疑う奴も俺は嫌いだな。いつ裏切るか分かったモンじゃ無い。
「さて、デュエルディスクを構えろ、遊馬崎」
「デュエルしろよ、ってヤツか」
「そうだ。弱い奴には宝玉は渡せねぇ。お前の力、試させてもらう!」
「受けて立つ!」
面白い。デュエルすりゃあこの痛みもちっとは紛れるかもな。
悪いが潰させてもらう!
「黎、頑張れ……!」
「気を抜くなよ、主殿」
「ファイトですよー!」
「……見守っている」
「行くぞ、遊馬崎ぃ!」
「来い、『ジョーカー』ァ!」
「「デュエル!」」
黎VSジョーカー
LP 4000 VS LP 4000
「先攻はオレが貰う、ドロー! オレは魔法カード『強欲で謙虚な壺』を発動。デッキからカードを3枚めくる」
初手を取ったのは『ジョーカー』。まずはサーチカードで来たか……。
強欲で謙虚な壺
【通常魔法】
自分のデッキの上からカードを3枚めくり、その中から1枚を選んで手札に加え、その後残りのカードをデッキに戻す。
「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン自分はモンスターを特殊召喚できない。
【めくられたカード】
『沼地の魔神王』
『戦士の生還』
『パラドックス・フュージョン』
「オレは『沼地の魔神王』を手札に加え、残りの2枚をデッキに戻す。この効果を発動したターン、オレは特殊召喚を行えない。
続いて手札の『沼地の魔神王』の効果発動。手札のこのカードを捨てて、デッキから『融合』を手札に加える。
更に『増援』を発動。これでデッキからレベル4以下の戦士族、『キングス・ナイト』を手札に加える」
早速デッキを圧縮してきたか。これで3枚の圧縮ができたわけだ。しかも今加わったカードとめくられたカードの事を考えると、こいつのデッキは恐らくこいつ自身を召喚するためのデッキ。攻撃力3800の耐性持ちは強い。
増援
【通常魔法】
デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。
沼地の魔神王(効果モンスター)
星3
水属性/水族
ATK 500/DEF 1100
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
また、このカードを手札から墓地へ捨てる事で、デッキから「融合」魔法カード1枚を手札に加える。
「そしてオレは『クィーンズ・ナイト』を守備表示で召喚!」
『ハァッ!』
クィーンズ・ナイト:DEF 1600
『ジョーカー』の一番手は赤い鎧を身に纏った、左利きの女性剣士。守備表示か……。ダメージを警戒したか、1500ラインの相撃ちを避けたか。それとも何か別の意図があるのか?
クィーンズ・ナイト(通常モンスター)
星4
光属性/戦士族
ATK 1500/DEF 1600
しなやかな動きで敵を翻弄し、相手のスキを突いて素早い攻撃を繰り出す。
「永続魔法『強欲なカケラ』を発動。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
強欲なカケラ
【永続魔法】
自分のドローフェイズ時に通常のドローをする度に、このカードに強欲カウンターを1つ置く。
強欲カウンターが2つ以上乗っているこのカードを墓地へ送る事で、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
ジョーカー:LP 4000
手札:3枚(内2枚は『キングス・ナイト』と『融合』)
フィールド
:クィーンズ・ナイト(DEF 1600)
:伏せカード1枚、強欲なカケラ(永続魔法)
「俺のターン!」
クソ、頭が痛みで回らない。あれをどう対処すりゃ正解なんだか全くピンと来ない。
何にせよ、あのモンスターを場に残しておくのは危険だ。このターンで破壊しなくてはいけない。
例え蘇生されるのだとしても、それはつまり手札を1枚切らせるという事だ。『ジョーカー』の効果は手札コストを要求する。なら、1枚でもカードを減らせばそれだけ倒せる機会が増えるという事だ。
「俺は『ヴェルズ・マンドラゴ』を特殊召喚!」
コオン、と地面が白く光り、中から植物の苗が生える。更に周囲の地面に亀裂が走って砕けると、球根を人型にデフォルメしたモンスターが現れた。
ヴェルズ・マンドラゴ:ATK 1550
「このカードは、自分の場のモンスターの数が、相手モンスターの数より劣る場合、手札から特殊召喚できる!」
この条件、意外と楽に満たせる。
後攻1ターン目で出せるのは言わずもがな、シンクロやエクシーズなどを行う事で能動的に数を減らして特殊召喚する事も可能。
惜しむらくはその攻撃力のせいでリクルート等にギリギリ対応できない点か。まあ闇属性でレベル4だ、そこまでの贅沢も言えないだろう。
「更に、チューナーモンスター『ゾンビキャリア』を召喚!」
『ヴァァァァ……』
ゾンビキャリア:ATK 400
行くぜ。【シンクロダーク】、起動開始だ!
ヴェルズ・マンドラゴ(効果モンスター)
星4
闇属性/植物族
ATK 1550/DEF 1450
相手フィールド上のモンスターの数が自分フィールド上のモンスターの数より多い場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
ゾンビキャリア(チューナー・効果モンスター)
星2
闇属性/アンデット族
ATK 400/DEF 200
手札を1枚デッキの一番上に戻して発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
「レベル4『ヴェルズ・マンドラゴ』に、レベル2『ゾンビキャリア』をチューニング! 天を焼くシリウス、孤狼の蒼き瞳よ、地に縛られた牙無き犬共を噛み砕け!」
☆2+☆4=☆6
「シンクロ召喚! 夜空に響く咆哮、『天狼王 ブルー・セイリオス』!」
『ガァァァァァァァッ!』
天狼王 ブルー・セイリオス:ATK 2400
光の柱から現れる、蒼い二足歩行の狼。腕も狼の頭となっており、背中には鋭く大きい棘が無数に生えている。
天狼王 ブルー・セイリオス(シンクロ・効果モンスター)
星6
闇属性/獣戦士族
ATK 2400/DEF 1500
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力は2400ポイントダウンする。
「このままバトルだ! 『ブルー・セイリオス』、『クィーンズ・ナイト』を攻撃! “ウルフ・ファング”!」
『グガッ!』
巨大な狼が赤いトランプの女騎士に牙を剥く。
だが、宣言して気付いた。これは悪手だ、と。『ジョーカー』の表情が変わったわけじゃ無い。普段ならすぐに気付いたはずなのに、今日は気付くのがこんなにも遅れた。
「アマいな。リバースカード・オープン! 速攻魔法『収縮』! これで『ブルー・セイリオス』の攻撃力を半分にする!」
天狼王 ブルー・セイリオス:ATK 2400→1200
ガギン! と盾に牙が突き立てられる。が、貫通するどころか逆に先端が欠けてしまった。
「迎え撃て! “エレガント・ハート”!」
『ハァッ!』
『ギャンッ!?』
狼のパワーがガクンと落ち、騎士の盾に弾かれる。更にそのまま回転しつつ上昇して斬り上げた装飾剣によって追撃を受けてしまう。辛うじて急所は回避したが、その衝撃が俺へと伝わって来た。
「ぐぅぅぅ!」
黎:LP 4000→3600
クッソ、俺らしくもねぇミスだ。ここは『ブルー・セイリオス』を守備で出して攻撃に備えるなり、素材のまま残しておくなり、他にも色々あっただろうに。ってか『ノートゥング』より何でこっちを出したんだ、俺! 何でよりによってこんな事をしちまうかな!
「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2へ。魔法カード『封印の黄金櫃』を発動。デッキから『ダーク・アームド・ドラゴン』をゲームから除外し、2ターン後のスタンバイフェイズに手札に加える」
封印の黄金櫃
【通常魔法】
自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。
ダーク・アームド・ドラゴン(効果モンスター)
星7
闇属性/ドラゴン族
ATK 2800/DEF 1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。
自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド! 『ブルー・セイリオス』の攻撃力は元に戻る!」
天狼王 ブルー・セイリオス:ATK 1200→2400
黎:LP 3600
手札:2枚
フィールド
:天狼王 ブルー・セイリオス(ATK 2400)
:伏せカード1枚
俺が伏せたカードは『次元幽閉』。対象を取るカードだが、デッキにそう沢山の罠カードは入れないのが普通だ。だったら、このカードを『ジョーカー』が防げる可能性はそこまで高くは無いはず。
「オレのターン、ドロー! この瞬間、『強欲なカケラ』に強欲カウンターが1つ乗る!」
強欲なカケラ:強欲カウンター 0→1
「オレは前のターンに手札に加えた『キングス・ナイト』を通常召喚!」
『トォッ!』
キングス・ナイト:ATK 1600
光のゲートを潜って現れる、黄色の老騎士。暗い黄色のヒゲを生やし、緑の瞳を光らせながらの登場だ。
「チッ、召喚を許したか……!」
「この瞬間、『キングス・ナイト』のモンスター効果発動! このカードが通常召喚に成功し、その時オレの場に『クィーンズ・ナイト』が表側表示で存在する場合、デッキから『ジャックス・ナイト』を特殊召喚できる! 現れろ、『ジャックス・ナイト』!」
『テヤァッ!』
ガキン、と赤と黄色の騎士が剣を打ち合わせて甲高い音が鳴る。その音に導かれ、青い鎧を身に纏った、浅黒い肌の精悍な青年騎士が出現した。
ジャックス・ナイト:ATK 1900
キングス・ナイト(効果モンスター)
星4
光属性/戦士族
ATK 1600/DEF 1400
自分フィールド上に「クィーンズ・ナイト」が存在する場合にこのカードが召喚に成功した時、デッキから「ジャックス・ナイト」1体を特殊召喚する事ができる。
ジャックス・ナイト(通常モンスター)
星5
光属性/戦士族
ATK 1900/DEF 1000
あらゆる剣術に精通した戦士。
とても正義感が強く、弱き者を守るために闘っている。
「そして魔法カード『融合』を発動! オレはその効果で、絵札の三銃士を融合させる!」
『ハァァァァッ!』
『トォォォォッ!』
『オォォォォッ!』
「天位を授かりし騎士の長! オレ自身、『アルカナ ナイトジョーカー』を融合召喚っ!」
アルカナ ナイトジョーカー:ATK 3800
次元の渦に呑み込まれる三銃士。赤、黄、青の色の三原色が一つとなり、紫の背の高い騎士、奴自身を召喚した。なお、『ジョーカー』自身は場に出ていない。
融合
【通常魔法】
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
「おいでなさったか……!」
「バトル! オレ自身で『ブルー・セイリオス』を攻撃!」
「この瞬間、罠発動! 『次元幽閉』! 攻撃宣言が行われた時、そのモンスターをゲームから除外する!」
「無駄だ! オレはオレ自身の効果を発動! 効果の対象にオレが選ばれた場合、それと同じ種類のカードを手札から捨てて、その発動を無効にできる! 手札の罠カード『スキル・サクセサー』を捨てて、罠カード『次元幽閉』を無効にする!」
何!?
次元幽閉
【通常罠】
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。
スキル・サクセサー
【通常罠】
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。
また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、自分フィールド上のモンスター1体を選択し、その攻撃力をエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。
『トォォォ、ハァッ!』
『グギャァァァァッ!』
斬!
鋭い剣閃が次元の歪みごと青い狼を正中線で両断。野性の断末魔を上げて爆発した。
黎:LP 3600→2200
「ぐ、ぅぅぅうううっ! だが戦闘で破壊されたこの瞬間、『ブルー・セイリオス』のモンスター効果発動! 相手モンスターの攻撃力を2400ポイント、ダウンさせる! これは対象に取る効果だが、お前の効果は1ターンに1度しか発動できない。お前はさっき『次元幽閉』に対して効果を使ったため、この効果を潰す事はできない!」
「む……!」
アルカナ ナイトジョーカー:ATK 3800→1400
良し、これで攻撃力が大幅にダウンした。これなら次のターンに手札から『ネクロ・ガードナー』を召喚、更に墓地から『ゾンビキャリア』を復活させてチューニングし、『TG ハイパー・ライブラリアン』をシンクロ召喚すれば、戦闘破壊する事は十分に可能だ!
「成程、二段構えってワケか。だが、そのくらい対処できるぞ。オレは速攻魔法『道化の宝札』を発動! このカードはフィールド上に表側表示で存在する、元々の攻撃力より低い攻撃力を持ったモンスター1体を選択して発動する。オレはオレ自身を選択!」
「何!?」
「攻撃力を元々の数値に戻し、そのモンスターのコントローラーは変化した数値1000ポイントにつき1枚、カードをドローする!」
アルカナ ナイトジョーカー:ATK 1400→3800
しまった!? 攻撃力が元に戻された!?
「ただしこの効果の対象となったモンスターは、次のオレのスタンバイフェイズまで効果が無効となり、発動できない」
道化の宝札(オリジナル)
【速攻魔法】
このカードはバトルフェイズには発動できない。
フィールド上に表側表示で存在する、元々の攻撃力より低い攻撃力を持ったモンスター1体を選択して発動する。
そのモンスターの攻撃力を元々の数値に戻し、この効果で変化した数値1000ポイントにつき1枚、そのモンスターの元々のコントローラーはカードをドローする。
この効果の対象となったモンスターの効果は次の自分のスタンバイフェイズまで無効となり、発動できない。
「く……っ!」
「ナメるなよ? これでもオレは光の宝玉を守る者、そんな粗雑な戦術が通じるワケが無いだろ。カードを2枚セットして、ターンエンドだ」
ジョーカー:LP 4000
手札:0枚
フィールド
:アルカナ ナイトジョーカー(ATK 3800)
:伏せカード2枚、強欲なカケラ(永続魔法・強欲カウンター:1)
「俺のターン、ドロー! 『封印の黄金櫃』のカウントが進む!」
封印の黄金櫃:残り1ターン
クッソ、ダムドが来るまで後1ターンある。あいつが来れば『ジョーカー』を倒す事ぐらいワケ無いってのに……!
それに何なんだ、この違和感は。自分ではちゃんとした戦術を行っているつもりなのに、あいつにはまるで通じない。後で出来の悪いタクティクスだと気付くのに、何故その場で気付けない!?
『おかしい、黎の戦法にしては雑すぎる。フレイ、どうしてだろう?』
『残念ながら分かりません。ただ、何かあるのは確かです』
『これも試練の一環なのか? だとしたら物言いをつけるわけにいかんが……』
『……何にせよ、良い兆候では無い』
「俺は手札から魔法カード『強欲な壺』を発動。これで2枚デッキからドローする。更に『ネクロ・ガードナー』を通常召喚!」
ネクロ・ガードナー(効果モンスター)
星3
闇属性/戦士族
ATK 600/DEF 1300
相手ターン中に、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。
今は、集中しろ……! 目の前の敵に、この試練に……!
自分のやるべき事を思い出せ!
ネクロ・ガードナー:DEF 1300
攻撃力3800は極めて驚異だ。まず戦闘での破壊は補助無しでは難しいと言っても過言じゃ無い。しかも対象に取る効果での対処はやや難しい。
だが戦闘破壊や対象を取る効果での除去ができないのならば、対象を取らない効果で退場してもらうだけだ。
「更に手札1枚をデッキトップに戻し、墓地から『ゾンビキャリア』を特殊召喚!」
ゾンビキャリア:ATK 400
「レベル合計は5か、あいつを呼ぶ気だな?」
「御名答! 俺はレベル3の『ネクロ・ガードナー』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!
我は未来を渇望せし者! 巨蟲の進行阻みし戦士、闇の正義の威を示さん! 希望が溢れる明日となれ!」
☆2+☆3=☆5
「シンクロ召喚! 破滅の浄化、『
『キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!』
A・O・J カタストル:ATK 2200
白いボディ、カマキリ染みた節足動物のような足に頭の奇妙な金色のモニュメント。このカードなら安全に『ジョーカー』を倒す事が可能だ!
「バトル! 『カタストル』で『ジョーカー』を攻撃!」
「そのモンスターの効果は……!」
「『カタストル』は闇属性以外のモンスターとバトルする時、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊できる! この効果は対象を取らないから、お前の能力でも防げない! ……もっとも、今お前に手札は無い上に効果も使えないけどな!」
A・O・J カタストル(シンクロ・効果モンスター)
星5
闇属性/機械族
ATK 2200/DEF 1200
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが闇属性以外のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。
「“ダーク・ポイント・レーザー”!」
漆黒のレーザー光線が放たれ、『ジョーカー』へ一直線に向かう。モンスターを闇の粒子に分解するこの攻撃、お前では防げまい!
「成程、悪くない戦術だ。が、読みがアマいんだよ! 罠カード『ブレイクスルー・スキル』を攻撃宣言に合わせて発動!」
「何!?」
「ターン終了時まで相手モンスター1体の効果を無効にする! これでそいつはただの闇属性モンスターだ!」
ブレイクスルー・スキル
【通常罠】
相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。
選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
また、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択し、その効果をターン終了時まで無効にする。
この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。
ジジジ、と白い巨体が色を失っていく。白はそのままだが、金や赤といった部分が見る間にくすみ、あっと言う間に白黒のモンスターになってしまった。
当然、そんなモンスターのレーザーで攻撃力3800を倒せるわけも無く。
「お返しだ、“スラッシュ・スペード”!」
「ぐぁああぁぁあぁぁぁっ!」
黎:LP 2200→600
瞬時に間合いを詰められて真っ二つにされてしまった。
そこから発生したお約束の爆風が俺を襲う。
「どうした? まさかこの程度とか言わないよな?」
「クッソ……! 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだっ!」
黎:LP 600
手札:1枚
フィールド
:モンスター無し
:伏せカード1枚
「オレのターン、ドロー! 強欲カウンターが更に乗る!」
強欲なカケラ:強欲カウンター 1→2
「そして『強欲なカケラ』を墓地に送り、カードを2枚ドローする!」
チッ、手札が増えたか……!
落ち着け、落ち着くんだ。
『ジョーカー』の場には攻撃力3800の大型モンスターが1体。このターン『強欲なカケラ』の効果で2枚手札が増えて3枚。最悪、3回分の効果発動のためのコストを確保されたって事だ。
俺の場にモンスターは0、伏せカードは1枚。だが、このターンはまだ凌げる。
まず俺が伏せたカードは『聖なるバリア-ミラーフォース-』。これは対象を取らない罠カードだ。少なくとも『ジョーカー』の効果では対処できない。
次に墓地には『ネクロ・ガードナー』がいる。一発だけならこれで攻撃を防げる。腕のあるデュエリストはオーバーキルを狙う必要性が無い場合、それをする事はまず無い。あいつはハデ好きってワケでも無いだろうから、まずモンスターを追加せずに、あいつ自身でのダイレクトアタックで決めに来るはず。『融合解除』でも無い限り、追撃は警戒しなくても大丈夫のはずだ。
そして手札には『バトルフェーダー』。ダイレクトアタック宣言時に特殊召喚し、バトルフェイズを強制的に終わらせるモンスター。
この鉄壁の布陣ならば1ターンくらいは防げるだろう。そして次のターンに『封印の黄金櫃』の効果で『ダーク・アームド・ドラゴン』が手札に来る。今、俺の墓地の闇属性モンスターは『カタストル』、『マンドラゴ』、『セイリオス』、『ネクロ・ガードナー』の4体。相手ターンで『ネクロ・ガードナー』を除外すれば特殊召喚する条件は整う。
ダムドの効果は対象を取るが、『ジョーカー』は発動を無効にするだけで、破壊はしない。つまり1ターンに何度も使える効果は奴にとって天敵。そしてダムドは、出せる時点で3回除去を行える。あの手札の中にモンスターカードがあっても防ぎきる事は不可能だ。
更に『ゾンビキャリア』の効果でデッキの1番上に戻したカードは速攻魔法『異次元からの埋葬』。これでダムドの弾を合計6発分確保した事になる。次のターンに『ダーク・アームド・ドラゴン』で場を一掃し、ダイレクトアタックが決まれば『ジョーカー』のライフは残り1200ポイント。次のターン奴が陣形を整えられるかどうかは賭けになるが、もし失敗すればダムドでカードを吹き飛ばして2発目をお見舞いすれば俺の勝ちだ。
『異次元からの埋葬』では念のため『ネクロ・ガードナー』を戻しておこう。そうすればもう1度攻撃を防げる。
気になるのは残りの伏せカードだが、仮にカウンター罠だったとしても『ミラーフォース』と『バトルフェーダー』の両方はカウンターできない。防御手段を全部注ぎ込む覚悟をしていれば十分に防御できる。
これでこのターンでの俺の負けはまず有り得ない。勝負はこれからだ、『ジョーカー』!
だが、『ジョーカー』はフッと不敵で憐れむような笑みを浮かべた。
「悪いが、このデュエル、オレの勝ちだ」
「何!?」
「罠発動、『サンダー・ブレイク』! 手札を1枚捨てて、場のカードを1枚破壊する! 対象はその伏せカードだ!」
「み、『ミラーフォース』が!?」
相変わらず仕事しねぇ!
「更に今捨てられた『おジャマジック』の効果発動。このカードが手札または場から墓地に送られた時、デッキからおジャマ3兄弟を手札に加える。捨てる行為もまた墓地に送る事に含まれるため、発動は有効だ!」
「何!?」
サンダー・ブレイク
【通常罠】
手札を1枚捨て、フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードを破壊する。
おジャマジック
【通常魔法】
このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。
ズガッシャァァァン! と雷が落ち、俺の伏せカードを木端微塵に砕く。
守りが1つ砕かれた……。だがこいつはまだ囮、今の手の中では最弱の防御手段だ。手札の『バトルフェーダー』こそが本命。対象を取らないこのカード、伏せカードも無い今、お前にこいつを突破する事は不可能だ。
「更に魔法カード『
「な、『融合』を戻したって事は……!」
「そうだ! オレは『融合』を発動! 手札の『おジャマ・イエロー』、『おジャマ・グリーン』、『おジャマ・ブラック』を融合し、現れろ! 『おジャマ・キング』!」
次元の渦が生まれ、そこに黄色、緑、黒のビキニパンツを履いた奇妙なモンスターが吸い込まれる。そして真っ白な(ビキニパンツはそのままの)丸い巨体が現れた。
原作みてぇな演出は無しかい。
おジャマ・キング:ATK 0
!? 攻撃力0を攻撃表示だと!?
「このカードが表側表示で存在する限り、相手モンスターカードゾーンは3ヶ所封印される。真ん中とその両隣を選択させてもらうぞ」
「くっ!」
おジャマ・キング(融合・効果モンスター)
星6
光属性/獣族
ATK 0/DEF 3000
「おジャマ・グリーン」+「おジャマ・イエロー」+「おジャマ・ブラック」
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手のモンスターカードゾーンを3ヵ所まで使用不可能にする。
バヂバジィッ、とショートする俺のモンスターカードゾーン。ディスクの方にも禁止の字が浮き出る。だが3ヶ所だろうが4ヵ所だろうが問題無い。1ヵ所でも空いていれば、そこに『バトルフェーダー』を特殊召喚できる。
次のターンさえ来れば、俺にもまだ勝機はある。
(次のターンにダムドが来れば、問題無い。3ヶ所封じられるって事は――)
「3ヶ所封じられるという事は2ヵ所空いているという事。そこにダムドを呼び出せばこの布陣を突破しつつ勝てる、か?」
「っ!」
「アマい。蜂蜜漬けのチョコレートのようにアマいぞ」
それはもう甘ったるくて不味いと言うべきではないだろうか。
「オレは永続魔法『地盤沈下』を発動! このカードが存在する限り、相手のモンスターカードゾーン2ヵ所は使用不能となる!」
「何だと!?」
ガラガラと崩れる地面。残る2ヵ所ですら封じられただと……!?
「モンスターを出せなくされた……。でも、『おジャマ・キング』の攻撃力は0だし、『ジョーカー』の手札はこれで0! 黎の墓地にある『ネクロ・ガードナー』での防御は可能……」
「お前もアマいな、少女。オレは墓地の『スキル・サクセサー』の効果発動」
「墓地から罠だって!?」
「このカードを除外し、オレのモンスター1体の攻撃力を800ポイントアップさせる。『おジャマ・キング』の攻撃力はこれで800に上がる」
おジャマ・キング:ATK 0→800
く……。これで俺のライフを上回ったモンスターが2体に……っ! しかもダメステで発動しない……、余裕を見せつけているつもりか……!
黎:LP 600
次のターンのドローは『異次元からの埋葬』に確定していて、手札に加わるダムドですら出せない。くっ、これでは逆転なんて……!?
「バトル! 『おジャマ・キング』でダイレクトアタック! “フライング・ボディプレス”!」
それでも……、最後まで足掻く!
「墓地の『ネクロ・ガードナー』のモンスター効果発動! このカードを除外し、その攻撃を無効にする!」
ガシッ! とのしかかって来る白いエイリアンを、漆黒の鎧武者が受け止める。
交差した腕をそのままバネのように弾いて巨体を押し返すが……。
「まだオレの攻撃は残っているぞ!」
「ぐ……!」
「そしてもうお前に防御の術は残ってないだろ! これで止めだ!」
天頂を貫くように真上へと『ジョーカー』の切っ先が掲げられる。その柄から赤、青、黄の3色の光が剣を覆い込み、それが振り下ろされた。
ギャッ! と鋭い閃光。そしてこちらに迫る、光の、斬撃の壁。
俺はただ、それを見ている事しかできなくて……。
「“アルカナ・ジャックポット ロイヤル・ストレートフラッシュ”ッ!」
「ぐ、うぁあああああああああああああああああああっ!」
黎:LP 600→0
無残にも、惨めにも、無意味に守った残り少ないライフを、大技で削り取られた。
ジョーカー:WIN
黎:LOSE
「主殿が、ライフを1も削れなかっただと……!?」
「あの黎が、手も足も出なかったなんて……!?」
「……強い」
「……………………」
「俺も、落ちたものだな……っ」
「お前が何故負けたのか、その理由が分かるか?」
負けた理由……。今の一戦だけじゃあ単純な力の差、運、デッキの相性、色々考えられる。あれだけじゃあ残念ながら何も分からない。
「違うな」
「何?」
「実力の差は恐らくほぼ無い。事故も無かっただろう。相性だって特に悪いわけでも無いはずだ。お前が負けた理由はもっと別にある」
「『ジョーカー』、その理由ってのは一体……」
ドックン!
「ギ、ィ……ッ!?」
大きな自分の鼓動を感じると共に、全身を走る、身を引き裂き焼かれ砕き押し潰すような、拷問すら生温く感じる感覚。まるで釣り針を体中に刺して、四方八方から引っ張られるような、耐え難い痛み。
クソ、またこの激痛かよ……!
何なんだよこれは……っ!
「主殿、大丈夫か!? 今回復術を……」
「それは無意味だ、“騎士”の護衛」
「何!? それはどういう事だ!?」
驚愕するように問う桜。
『ジョーカー』はそれに対し、ゆっくりと返す。
「ここは『ヴァルハラ』のコピー、当然ながらその力の一部が使える。元よりヴァルハラというのは高潔な戦士の魂が死後に辿り着く場所だ」
「それが……、何だって言うんだ……」
「“騎士”の魂、お前は本当に自分が高潔だと思うか?」
「それは……」
正直、自分でもそんな事は思えない。
何せ俺は人殺し、そして化物……。高潔な戦士とは、最も縁遠い存在だ。
そういう意味では、やはりこのヴァルハラが異物として俺を排除しようとしている、のだろうか。
「それは違う。高潔と一口に言った所でその姿は時代や倫理によって移り変わる。過去にとっての野蛮が今の正義となる事もあれば、今の悪行が過去の正義になる事だって十分ある」
言われてみれば確かに。今と昔では価値観はまるで違う。古代においては師匠は殺して乗り越えるものだったし、自らの子供を役人の料理の食材にしたなんて事もあった。魔女裁判のように体裁だけ取り繕った公開処刑なんかはその中でも最たる例だ。
そしてそんな昔の考え方が固定されていれば、現世において善人とされる人が弾かれる事もあるだろう。それはヴァルハラにとっても本意では無いはずだ。
「ならば……、何故……っ!」
「お前は、何のために戦っているんだ?」
「は……?」
「その力はどこから湧いて来る? 力の源は何だ? お前の信念は? 譲れない思いは? そういったものは何だ? ここで答えられるか?」
「それは……」
目を閉じ、思い出を反芻する。
アカデミアに来た時。フィオと十代に会った。
女子寮前の湖。フィオとデュエルした。
プライドに都を目の前でまた浚われ、精霊の世界に行ってフレイと出会い、帰って来たら今度は桜が現れた。海馬さんやペガサスさんと面識を持ち、輝やライといった仲間もできた。
そして、そんな全てを、邪神のクソッタレは壊そうとしている。そんな事、絶対に許せない。
俺の、俺の譲れない思いは……。
「俺は、邪神を屠って都を取り戻すために戦っている。その力は、皆を守りたいという願いから生まれる。邪神如きに喰わせはしない。それが絶対に譲れないモノだ」
それが、俺の心だ。荒んだ前世からは想像もできないような、光や希望に満ち溢れた心。そして輝く未来、それを受け止めたい。だから俺はここまで進んで来たんだ。この言葉に嘘は無い。
だが……。
「ふぅ……。やっぱりか」
「え?」
「何か勘違いをしているな。それだからオレに負けたんだよ、お前は」
「え……?」
「教えてやる」
「お前の心には、光や希望は満ち溢れていない」
なん、だと……?
「『ジョーカー』さん、それはやはり……」
「そうだ『フレイヤ』。お前の予想通りの事だ」
「…………」
光も、希望も、俺の心に無い……?
「“騎士”、お前が負けたのは、己の心の内側に原因がある。光とはあらゆる闇を淘汰する希望の象徴。だから心の内側に闇の決意や信念があると、この城はそいつの心へと力を捻じ込み、その淀みを破壊しようとする。そして同時にそいつから幸運を奪い取る。痛みが強ければ強い程、その不純物の度合いは大きい。
お前が感じていた痛みの正体は、そしてオレに負けた最大の原因の種は、それだ。……歩けない程に強力となると、どうやら随分と大きな闇を光の中へしまい込んでいるみたいだな」
「俺の心の光は、闇に劣っているってのか……!?」
「それはオレにも分からねぇ。だが、お前の過去を、オレは知っている」
て、てめぇ、一体いつの間に!
「ここは宝玉を授けるに相応しいかどうか、番人、つまりオレがそいつの過去を見る事ができる。
……怒り、憎しみ、殺意、怨念、悲しみ、敵意。そして血と殺戮と悲鳴に満ち溢れているお前の記憶は、久々に嘗ての、9000年前の戦争の事を思い出させてくれたよ」
「……シリアルキラーに、光の力は渡せないってのか」
「違う。さっきも言っただろう、時代によって倫理観など移り変わる、ってな。お前が百人殺してようが百万人殺してようが、それは関係無い」
「じゃあ、どういう……」
「テメェの心の中にある闇と向き合え。それができないなら、テメェには未来永劫、光の宝玉の力は渡せない」
「く……!」
闇とは何だ、その質問すら憚られるような雰囲気だった。
更に『ジョーカー』が手を一振りすると、俺の胸元から、赤、青、黄、緑、茶、紫の6色の光の玉が生まれ、『ジョーカー』の手の中に納まった。
「じょ、『ジョーカー』っ! お前、俺の精霊の力を……!」
「悪いが、他の精霊の力は一時的に没収させてもらう。邪神を倒すために他の力に頼ってちゃあこっちが困るんでな。
今日はもう帰れ。今のお前は、闇を見ないで強くなったつもりでいる、ただの雑魚だ。そんな程度の実力で光の力を渡すわけにはいかねぇんだよ」
「雑魚……!? 俺が……っ!」
「闇を見ろ。そこに光がある。……まずはその意味の理解から始めるんだな」
そう言うと、『ジョーカー』は城の奥へと、立ち去って行ってしまった。
俺の、闇……。
過去の光景がフラッシュバックする。
溢れ出る血、引き裂かれた自衛隊員の体、銃創だらけの研究者。雨のように血を浴び、それを無感動で眺め、殴られ、斬られ、潰され、殺されて……。
「……っ!」
分からない。あの時の事を思い出して、一体何が生まれるって言うんだよ。
ただただドス黒い闇と、血腥い時間があるだけじゃねぇか。そんな所から……、大切な仲間を守るための信念が、生まれるわけねぇだろうが……。
答えは何時まで経っても出ず、俺は痛みと共に地面にへたり込む事しかできなかった。
to be continued